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第八章 迷宮行進曲
分解と再生
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「コッ、コホーッ!!」
さっ、流石に取り込まれるとかは無しだようッ!!
健太郎にとって竜に食われた事は耐え難い記憶として残っていた。
アルティメスの言う取り込むがどんな状態かは分からないが、きっと不愉快な感じになるだろう。
そう考え、必死で逃げた健太郎だったが、アルティメスは自らを魔王と僭称するだけあってギャガン達の攻撃を跳ね除け彼に飛びかかって来た。
『溶けて交われ、融合ッ!!』
「コッ、コホーッ!!」
クッ、こんな所で終わって堪るかッ!! こいつは力の源は取り込んだ魔物達だと言った。だったら全部分解すればいいッ!!
かなりヤケクソ気味な健太郎の思考を彼の身体は即座に反映させた。
カシャカシャと音を立て、その身はSF映画で研究施設においてあるような機械へと変貌する。
『何ッ!?』
その機械の一部、巨大なパイプ状の部品がその先の食虫植物ような口を広げ、飛びかかって来たアルティメスを一口で飲み込んだ。
アルティメスはパイプを膨らませながら本体へと送られる。
『グオオッ!? なっ、何だコレはッ!? 体が、俺の体が溶けるッ!?』
カタ、カタカタカタ、カタカタ。アルティメスの絶叫を他所に、そんな音を立ててよく分からない計器類がよく分からないデータを表示し始める。
「ミシマ!! あんなの食べて大丈夫なのかいッ!?」
いち早く駆け寄って来たミラルダが健太郎の身を案じ、不安そうな声で問い掛けた。
「ピピーッ」
今の所、特にお腹が痛いとかは……あっ、なッ、なんか催して来たんですけど!?
「えっ、催すって……まさか……」
ミラルダは顔を引きつらせて健太郎から距離を取った。
「ミラルダッ!! ミシマは一体何と言っている!?」
ミラルダに一足遅れて駆け寄ったグリゼルダが、珍しく慌てた様子で尋ねる。
「催したって……」
「催す? 何だ、まさかあの怪物を消化して……」
グリゼルダもミラルダと同様に顔を引きつらせる。
その後、集まってきたギャガン達、それにパムが助けたディラン一行はミラルダ達から話を聞いて、変形した健太郎を遠巻きに見守った。
「ねぇ、消化ってグリゼルダは言ったけど、中途半端な感じで出て来たらどうしよう……わたし、暫くご飯が食べられなくなっちゃうかも……」
「ピピーッ」
嫌な事言わないでよパムッ!! 俺だってそんな事になったらトラウマ物だよッ!! クッ、ビックウェーブが……。
「うっ……」
それを聞いたミラルダは思わずローブの袖で口元を覆った。
パシュ―ッ!! トラックのエアブレーキの様な音が響き、健太郎が変化した機械の左側面、シンクの排水溝の蓋様な所から何かが生み出される。
「ひぇぇ……なんかネチョネチョしてるぅぅ……」
当初、そんなパムの声で全員がうぇぇと顔を引きつらせていたが、生み出された物が全裸の人だと気付くと一行は慌てて駆け寄った。
「こいつはアキラッ!?」
「こっちは俺達の仲間のルシアだぜッ!!」
「おいルシア、大丈夫かッ!?」
ディランはネチョネチョも気にせずルシアの肩を掴み、彼女を揺さぶる。
「うぅ……ディラン? 私……確か、化け物に……」
「痛む所は無いかッ!?」
「痛む所……えッ、なんで私、裸なのッ!? ちょっとこっち見ないでよッ!!」
「グハッ!?」
ルシアの容赦ない一撃がディランの頬に突き刺さる。
「ググッ……これ程の攻撃が……放てるなら……体は……大丈夫な様だな?」
ルシアの一発で口の中を負傷したディランはフガフガ言いつつ、うんうんと頷いた。
「はぁ……ルシア、お前、いつも裸みたいな恰好してんだから、別に素っ裸でもいいだろうが……」
ディランのパーティーの魔法使いバダックはそう言って苦笑を浮かべつつ、彼女に自分の羽織っていたマントを差し出す。
「裸みたいであって、裸じゃないわよッ!!」
憤慨した様子でルシアはバダックの差し出したマントをひったくった。
「ルシアはね、いつもビキニアーマーって水着みたいな鎧を着てるの」
裸? と首をかしげていたミラルダ達にパムがそっと説明する。
その横ではネチョとしたアキラをロープで縛るギャガンの横にしゃがみ込み、グリゼルダが顎に手を当てていた。
「ふむ……こいつがアキラと言う事は……風丸、こいつは合成獣を作っていたんだったな?」
「ああ、その材料が簡単に集まるからこの迷宮に来たって言ってたぜ。ここは世界各地から魔物を召喚してるから都合が良かったんだろうよ」
「……ミシマ、お前は合成獣を分解、再生しているのか?」
「ピピー……? ……ピピッ、ピピピピッ!!」
分かんないよ……? ……うっ、また波が強くなってきたッ!!
そう言った健太郎が次に生み出したのは、変化した機械の大きさを遥かに超えた黒竜だった。
黒竜はアキラたちと同じくネチョっとした粘液に包まれ意識を失っている様だ。
「どうやら予想は正しいようだな」
「どうすんだよグリゼルダ、こいつ全ての魔とか言ってたぜ。このままミシマが魔物を吐き出し続けるなら、この部屋は魔物で埋まっちまうぞ」
ギャガンがロープで拘束し、猿轡を噛ませたアキラを片手で持ち上げながら尋ねる。
「分かっている。ミラルダ、それに新田、それから……」
グリゼルダがディランの側にいるバダックに視線を送る。
「バダックだ」
「ではバダック、ミシマが出す魔物を故郷に送り返す。転送陣を描くから魔力を融通してくれ」
「分かったよ……魔力が持てばいいが……」
「あっ、魔力回復薬も持って来てるから、回復しながらやれるよ」
苦笑を浮かべたバダックにミラルダが鞄から取り出した小瓶を翳してみせる。
「そうか、まぁ、そいつが無くなる前に終わる事を祈ろう」
肩を竦めたバダックを見て、ミラルダも苦笑を浮かべた。
その後、健太郎が生み出した魔物を全て送り返す頃にはグリゼルダ達はヘトヘトになっていた。
「ううぅーッ!!」
意識を取り戻しその様子を見ていたアキラは猿轡を噛まされた口で唸り声を上げていた。
「いい加減あきらめろよ」
ギャガンがうんざりした様子で言うと、アキラは彼を睨みつける。
「ううーッ!! うううううううううううッ!!」
物凄い剣幕で苦情を言うアキラに、ギャガンが顔を顰めていると健太郎が電子音を響かせた。
「ピピー……ピーッ!!」
ふぅ……スッキリしたぜッ!!
「ふぅ……ミシマ、これで終わりだね?」
「ピピーッ」
ああ、全部出たみたいだッ。
健太郎が生み出した魔物は総勢542体。悪魔の様な強力な魔物からスライムの様な弱い魔物まで、よくまぁこれだけ集めた物だと感心してしまう量だった。
「うう……」
最後の魔物、ゴブリンが転送陣によって迷宮から消えた時、アキラはガックリと肩を落とした。
「はぁ……やっと終わったか……」
「さすがに疲れたのう」
「みんなご苦労だった」
「ホントだねぇ、お疲れ様だよぉ」
「コホー……」
ふぅ……俺もなんだか疲れたような気がするぜ。
分解再生機モードから人型へ戻った健太郎が一息吐いていると、視界の左端、先程、アルティメスがいた部屋の奥ににボンヤリとした影が映った。
何だろうか? そう思った健太郎がそちらに顔を向けると、影はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「コホー……」
アレは……。
健太郎が目を凝らすと影は徐々に焦点を結ぶようにその輪郭をハッキリさせ始めた。
「コホッ!?」
ヒッ!?
思わず声を上げた健太郎の目には笑みを浮かべる骸骨(表情筋……というか肉の無い骸骨が笑うのはおかしいがその時の健太郎にはそう見えた)が映っていた。
さっ、流石に取り込まれるとかは無しだようッ!!
健太郎にとって竜に食われた事は耐え難い記憶として残っていた。
アルティメスの言う取り込むがどんな状態かは分からないが、きっと不愉快な感じになるだろう。
そう考え、必死で逃げた健太郎だったが、アルティメスは自らを魔王と僭称するだけあってギャガン達の攻撃を跳ね除け彼に飛びかかって来た。
『溶けて交われ、融合ッ!!』
「コッ、コホーッ!!」
クッ、こんな所で終わって堪るかッ!! こいつは力の源は取り込んだ魔物達だと言った。だったら全部分解すればいいッ!!
かなりヤケクソ気味な健太郎の思考を彼の身体は即座に反映させた。
カシャカシャと音を立て、その身はSF映画で研究施設においてあるような機械へと変貌する。
『何ッ!?』
その機械の一部、巨大なパイプ状の部品がその先の食虫植物ような口を広げ、飛びかかって来たアルティメスを一口で飲み込んだ。
アルティメスはパイプを膨らませながら本体へと送られる。
『グオオッ!? なっ、何だコレはッ!? 体が、俺の体が溶けるッ!?』
カタ、カタカタカタ、カタカタ。アルティメスの絶叫を他所に、そんな音を立ててよく分からない計器類がよく分からないデータを表示し始める。
「ミシマ!! あんなの食べて大丈夫なのかいッ!?」
いち早く駆け寄って来たミラルダが健太郎の身を案じ、不安そうな声で問い掛けた。
「ピピーッ」
今の所、特にお腹が痛いとかは……あっ、なッ、なんか催して来たんですけど!?
「えっ、催すって……まさか……」
ミラルダは顔を引きつらせて健太郎から距離を取った。
「ミラルダッ!! ミシマは一体何と言っている!?」
ミラルダに一足遅れて駆け寄ったグリゼルダが、珍しく慌てた様子で尋ねる。
「催したって……」
「催す? 何だ、まさかあの怪物を消化して……」
グリゼルダもミラルダと同様に顔を引きつらせる。
その後、集まってきたギャガン達、それにパムが助けたディラン一行はミラルダ達から話を聞いて、変形した健太郎を遠巻きに見守った。
「ねぇ、消化ってグリゼルダは言ったけど、中途半端な感じで出て来たらどうしよう……わたし、暫くご飯が食べられなくなっちゃうかも……」
「ピピーッ」
嫌な事言わないでよパムッ!! 俺だってそんな事になったらトラウマ物だよッ!! クッ、ビックウェーブが……。
「うっ……」
それを聞いたミラルダは思わずローブの袖で口元を覆った。
パシュ―ッ!! トラックのエアブレーキの様な音が響き、健太郎が変化した機械の左側面、シンクの排水溝の蓋様な所から何かが生み出される。
「ひぇぇ……なんかネチョネチョしてるぅぅ……」
当初、そんなパムの声で全員がうぇぇと顔を引きつらせていたが、生み出された物が全裸の人だと気付くと一行は慌てて駆け寄った。
「こいつはアキラッ!?」
「こっちは俺達の仲間のルシアだぜッ!!」
「おいルシア、大丈夫かッ!?」
ディランはネチョネチョも気にせずルシアの肩を掴み、彼女を揺さぶる。
「うぅ……ディラン? 私……確か、化け物に……」
「痛む所は無いかッ!?」
「痛む所……えッ、なんで私、裸なのッ!? ちょっとこっち見ないでよッ!!」
「グハッ!?」
ルシアの容赦ない一撃がディランの頬に突き刺さる。
「ググッ……これ程の攻撃が……放てるなら……体は……大丈夫な様だな?」
ルシアの一発で口の中を負傷したディランはフガフガ言いつつ、うんうんと頷いた。
「はぁ……ルシア、お前、いつも裸みたいな恰好してんだから、別に素っ裸でもいいだろうが……」
ディランのパーティーの魔法使いバダックはそう言って苦笑を浮かべつつ、彼女に自分の羽織っていたマントを差し出す。
「裸みたいであって、裸じゃないわよッ!!」
憤慨した様子でルシアはバダックの差し出したマントをひったくった。
「ルシアはね、いつもビキニアーマーって水着みたいな鎧を着てるの」
裸? と首をかしげていたミラルダ達にパムがそっと説明する。
その横ではネチョとしたアキラをロープで縛るギャガンの横にしゃがみ込み、グリゼルダが顎に手を当てていた。
「ふむ……こいつがアキラと言う事は……風丸、こいつは合成獣を作っていたんだったな?」
「ああ、その材料が簡単に集まるからこの迷宮に来たって言ってたぜ。ここは世界各地から魔物を召喚してるから都合が良かったんだろうよ」
「……ミシマ、お前は合成獣を分解、再生しているのか?」
「ピピー……? ……ピピッ、ピピピピッ!!」
分かんないよ……? ……うっ、また波が強くなってきたッ!!
そう言った健太郎が次に生み出したのは、変化した機械の大きさを遥かに超えた黒竜だった。
黒竜はアキラたちと同じくネチョっとした粘液に包まれ意識を失っている様だ。
「どうやら予想は正しいようだな」
「どうすんだよグリゼルダ、こいつ全ての魔とか言ってたぜ。このままミシマが魔物を吐き出し続けるなら、この部屋は魔物で埋まっちまうぞ」
ギャガンがロープで拘束し、猿轡を噛ませたアキラを片手で持ち上げながら尋ねる。
「分かっている。ミラルダ、それに新田、それから……」
グリゼルダがディランの側にいるバダックに視線を送る。
「バダックだ」
「ではバダック、ミシマが出す魔物を故郷に送り返す。転送陣を描くから魔力を融通してくれ」
「分かったよ……魔力が持てばいいが……」
「あっ、魔力回復薬も持って来てるから、回復しながらやれるよ」
苦笑を浮かべたバダックにミラルダが鞄から取り出した小瓶を翳してみせる。
「そうか、まぁ、そいつが無くなる前に終わる事を祈ろう」
肩を竦めたバダックを見て、ミラルダも苦笑を浮かべた。
その後、健太郎が生み出した魔物を全て送り返す頃にはグリゼルダ達はヘトヘトになっていた。
「ううぅーッ!!」
意識を取り戻しその様子を見ていたアキラは猿轡を噛まされた口で唸り声を上げていた。
「いい加減あきらめろよ」
ギャガンがうんざりした様子で言うと、アキラは彼を睨みつける。
「ううーッ!! うううううううううううッ!!」
物凄い剣幕で苦情を言うアキラに、ギャガンが顔を顰めていると健太郎が電子音を響かせた。
「ピピー……ピーッ!!」
ふぅ……スッキリしたぜッ!!
「ふぅ……ミシマ、これで終わりだね?」
「ピピーッ」
ああ、全部出たみたいだッ。
健太郎が生み出した魔物は総勢542体。悪魔の様な強力な魔物からスライムの様な弱い魔物まで、よくまぁこれだけ集めた物だと感心してしまう量だった。
「うう……」
最後の魔物、ゴブリンが転送陣によって迷宮から消えた時、アキラはガックリと肩を落とした。
「はぁ……やっと終わったか……」
「さすがに疲れたのう」
「みんなご苦労だった」
「ホントだねぇ、お疲れ様だよぉ」
「コホー……」
ふぅ……俺もなんだか疲れたような気がするぜ。
分解再生機モードから人型へ戻った健太郎が一息吐いていると、視界の左端、先程、アルティメスがいた部屋の奥ににボンヤリとした影が映った。
何だろうか? そう思った健太郎がそちらに顔を向けると、影はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「コホー……」
アレは……。
健太郎が目を凝らすと影は徐々に焦点を結ぶようにその輪郭をハッキリさせ始めた。
「コホッ!?」
ヒッ!?
思わず声を上げた健太郎の目には笑みを浮かべる骸骨(表情筋……というか肉の無い骸骨が笑うのはおかしいがその時の健太郎にはそう見えた)が映っていた。
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