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第八章 迷宮行進曲

アンデッドと輪廻転生

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 ロミナがニーナに料理の手ほどきを受けていた頃、迷宮都市アーデンの地下、大魔導士の地下迷宮では元迷宮の主であり、現在は亡霊をやっているメルディスと共に健太郎けんたろう達が地下二階の探索を始めていた。

「えっと、地下二階は主にアンデッドがメインだね」



「コホー……」

 アンデッドか……やだなぁ、怖いなぁ……。
 パムの説明に健太郎がビクついていると、ミラルダが苦笑を浮かべながら口を開く。

「ミシマ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ゾンビやスケルトンなんかは物理攻撃でどうにかなるし、半実体化したゴーストなんかも魔法で攻撃すれば倒せるからね」
「ふむ……こうなってくると僧侶の奇跡が欲しい所だな。あれがあればレベッカとも話せそうだし」

「コホーッ!?」

 ひえぇぇ、何なのアレッ!? お肌が紫色なんですけどッ!? うぅ、ロッ、ロックオンだッ!!

 パパパパッ。
「「「「シギャアアアア!!」」」」

「コホー……コホーッ?」

 ふぅ、気持ち悪かった……話の続きだけど、そもそもメルディスさんも半実体化すれば話せるんじゃないの?

「ミシマが半実体化すればメルディスさんと話せるんじゃないかって? 万能なる魔の力よ、天を切り裂く一撃を我が敵に、雷撃ライトニングッ」

「「ゴボボボボッ!!」」

「確かに話せはするだろう、だが実体化は精神体にとって両刃の剣だ。ゴーストとは魂だけの存在、つまりは精神力だけでその身を構成している、その精神力を使って実体化すれば早晩消滅する事は必至だ」

「ん? メルディスの奴は成仏してぇんだろ? んじゃ、実体化すれば望みは叶うんじゃねぇのか? オラよッ!」

「ブシューッ!!」
「コホー……」

 うぇぇ、なんか凄いおつゆが一杯出たぁ……。

「確かに叶うだろうが、その場合はこの世界の輪廻に組み込まれると言われている、魔力よ、敵を討つ力となれ、魔矢ッマジックミサイル

「グゴゴゴゴッ!!」

"そうなんだよねぇ、だから俺も終わりたくはあったけど、実体化による消滅には踏み切れなかったんだよね。てか君達、戦闘しながらよくそんな話が出来るね?"

「コホー……コホー……」

 九階の探索でこの迷宮での戦闘自体には大分慣れたからね……それより輪廻転生か……。

 健太郎は自分の右手に視線を落しながら、夢じゃ無く本当に転生しているなら誰が俺をこの体に入れたのだろうと考えた。

「コホーッ」

 俺をこの身体に転生させたのは、やっぱり、神様なんだろうか……。

「神様ねぇ……ミシマは異界人だから異界の神様に送られたのかもねぇ……」
「異界の神か……フフッ、話は戻るが先程の僧侶の奇跡の話だが、そもそも神の存在を疑問視している私には無理そうだな」

 グリゼルダはそう言うと笑みを浮かべ首を振った。

「疑問視って、でもグラースとか奇跡を使ってるんだから、力の大元の神様はいるんじゃないの? えいっ!!」

 カラカラカラッ。

 スケルトンの頭をダガーで胴体から切り離しつつ、パムは首を捻る。

「確かに奇跡は存在する。だがアレも発動には体内の魔力を使っているのさ。私は神とは精霊の様な存在ではないかと考えている」

 パパパッ。

「「「ギギッ!!」」」

「精霊って、エルフ達が呼び出してた奴だろ?」
「そうだ。精霊界と同様、天界、神界という物が存在し、そこで暮らしている我々よりも力の大きな者達の事を神と呼んでいるのではないかとな」

"うん、それには俺も賛成だな"

「コホーッ」

 メルディスさんも賛成だってさ。

「オラッ」
「ガアアアアアァァ!?」


「メルディスさんもグリゼルダの説に賛成だそうだよ」
「そうか。まぁ、ともかくとして、私はそんな風に大きな力を持っているだけで、自らを崇めよ等と言って来る輩は好きにはなれん」
「フフッ、それじゃあ確かに僧侶にはなれないねぇ」
「だろう? 万能なる魔の力よ、竜の息吹を彼の者に、火球ファイアーボールッ」

「「「「オオォォォォォン!!」」」」

 健太郎は襲い来るアンデッドたちを蹴散らしながら地下二階を探索しつつ、グリゼルダが迷宮に施された術式を読み解いていく。

「コホー……コホーッ」

 ふぅ……確かに対処出来るなら何とか怖さに耐えられるな。

「ふむ、一階、二階と調べたがこの迷宮の術式は出力が大きくて無駄が多いな」
"あっ、本人の前でそれ言っちゃう?"
「各階層に施されている陣を修正し、術式を簡素化した上で扉の大きさを縮小すれば……少し揺れるぞ」

 瞳を閉じたグリゼルダの角が淡く輝き、迷宮が鳴動する。

「コホーッ!!」

 ひえぇぇ、地震は苦手だようッ!!

「ワワッ、大丈夫ッ!? 崩れたりしない!?」
「グリゼルダ、どうなんだい!?」

 揺れは暫く続き、グリゼルダの角の光が失われると同時にピタリと止んだ。

「ふぅ……大丈夫だ問題無い、この迷宮はそもそも微調整が効く様に作られているからな」
「んで、全部のフロアでその調整ってのをやってくんだな?」
「ああ、ただ、今日はこのぐらいで引き上げるとしようか? 流石に巨大な迷宮を動かし、魔力回路を書き換えるのは消耗が大きい」

"はぁ……消耗が大きいって……俺が何十年もかかった事をこんなに簡単にやってしまうとは……これが才能の差ってやつかなぁ"
「コホー……」

 グリゼルダは魔法のエキスパートの魔人の中でも才媛らしいから……。

 メルディスに健太郎は伝わらないジェスチャーを行いながら、心の中で苦笑を浮かべた。
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