前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ

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2 友人のY

30 台無し

海北に話してから、梅子の後を追っては邪魔をしていた。

梅子が先で待ち構えているなら雪久に連絡して道を変えさせ、友人を使って呼び止めようものならわざとぶつかって歩みを止めさせた。

じゃあ、外が駄目なら学校の方できっかけを作れるのではと思うが、俺は学校にいなくとも知っている。雪久の周りは海北とそうだが、人の層が分厚く、触れることすらできない事を。
蜂の巣のように固められた周り、下手に触れれば集中砲火を浴びる事が分かっているのだろう。
学校の中で海北がいる限り一人になることは無い、ならば外しか出会いはないと考えているはずだ。

だから、今日も梅子は雪久を狙って学校の外で待ち構えていたのだが、いつもとは違う。

「緊張する~。春名ちゃん、陽菜ちゃん、今日はありがとう」

顔の近くに手を合わせては礼を言う梅子の周りには、陽菜と春名がいた。
この手があったかと感心してしまった。雪久の関係で一番近い陽菜と仲良くなれば、いずれ、近づける事を見落としていた。学校の内での関係には、他校生である俺は介入できないし海北も入る事ができない、いずれはこうなっていただろう。
陽菜を使ってくるとは、流石妹と汚い。手が出しにくいだろ。

「もしかして、告白するの~」

春名が小鼻を膨らませては揶揄うように梅子に尋ね、梅子は頬に手を当てて赤らめた。

「しっ、しないよ。お礼が言いたいだけだから」
「本当に?」
「もうぉ、分かってるくせに」

作った笑顔と作った声で恥ずかしそうに梅子は春名の背を軽く押す。
気になった。二人が楽しそうに笑い合う中、陽菜だけが口を閉じて難しい顔をしていたことに。

「私……、やっぱり言っておかないといけないから」

溜め込んだ息を吐くように、意を決して何を話すのか。

「お兄ちゃんは、赤橋君の事が好きだから。もっと慎重になるべきだと思う……メイちゃんには酷なことを言っているけど、茶化すのは良くないと思って」
 
お前は何を言っている。手が震える。一瞬呼吸が止まるくらいには動揺した。
だから、春名と梅子は目を見合わせては、陽菜の言葉に笑い合う。

「陽菜、だから冗談はいいって」
「冗談じゃなくて、お兄ちゃんは赤橋君の事本気なの。こう、今まで見たことない凄いんだから、熱がすごいんだから」
「ひーなー」

春名はこれ以上はやめなさいと咎めるように名前を呼ぶ。
俺もやめてほしい。色々恥ずかしいし、あと名前を連呼するな、妹に目をつけられたらどうする。

「分かってる。その子、男の子だよ。付き合うとかの話じゃないの」
「それでもっ、お兄ちゃん」

そう、俺は男だ。もう女じゃない。この会話は不毛なんだよ、陽菜。だから、止めに入らなくていい。

「分かったよ。陽菜ちゃんが言いたいのは、雪久先輩には大事なお友達さんがいるって事だよね。大丈夫、陽菜ちゃんが思うような事ないし、先輩と少しだけお話したいだけだから」

「大丈夫」もう一度安心させるように梅子はにっこりと微笑み、宥めるように陽菜の顔を覗く。やっと、その言葉に納得がいったのか、陽菜は頷いた。

「ほら、話している間に雪久来たよ」

春名が指すと同じ道沿いの奥の方から雪久が歩いてくると同時にその隣に、海北がいない事に気がついた。
梅子はこれを狙っていたのだと、想定していなかった出来事に一気に脳内が慌ただしく動く。

どっ、どうしよう。このままだと、梅子との接点が出来てしまう。
駄目だ。絶対、駄目。話すな、くっつくな。
じゃなくて、ここで一度会ったところで何かが起こる訳ではないーーー、ない。

「あれ、海北は?」
「今日は部活に引っ張られた」

嫌な音を立てて心臓が鳴る。背中はゾワゾワと虫が這いずるようで、落ち着かない。
どんよりとした気分は沈み喪失感でいっぱいになって、止めないといけない足が震えてくる。
駄目だ。

「そうそう、この前も紹介したけどこの子、メイって言って」
「メイ? ああ、この前躓いた」
「そうそう。雪久にしてはよく覚えてるね」
「それは似て……」

駄目だ、と気持ちを抑えているのに歩み出した足は止まらず。
だからーーー、いつの間にか雪久の腕を掴み取っていた。
まるで子供のように縋り付いて、両腕で雪久のことを引き留める。

そして、見開いた真っ黒な瞳と視線が合って、やっと自分がしている事がどれだけ愚かな行為かを。

「えっと、あの、転けそうに……」

集まる視線が気になる。この場違いな男は何をしにきたのだろうと思われているに違いない。
下に向けた顔が上げる事ができない。雪久も、突然こんなことされて困惑するだけだし、椿だとバレたら終わりだと言われたのに、何をやっている。

「だから、違くて……」

戸惑って、言いたい事が言えない。そもそもこの状況を説明する前に腕を離さないといけないと、力を緩めた途端にポンポンと頭に手を乗せられた。
雪久に顔を向ければ、真っ直ぐ三人を見据えていた。


「すまない、今日は新と用事がある事を忘れていた」
「それ今なの!」
「そうだ。その彼女の連絡は後で回しておいてくれ」
「いや、そう言う事じゃなくて」

「行くぞ」頭に乗せられていた手は、手首に回されて強く握られる。後ろに引っ張られては三人から離れて行く。
三人に用事あったのではと後ろを見たが、春名は頬に手を当て苦渋の顔をしては「やっぱり、雪久には無理か」と呼び止める事は諦めていた。

「あの雪久、置いて行っていいんですか」
「明日があるから大丈夫だ」

そういう問題じゃなくないか。
助け船を出してくれた雪久には有り難いが、俺の突発的な行動はもう一つまずい事に繋がった。梅子の表情は困惑から、整えた爪を噛むほど怒りに変わっていくのが見てとれた。 
妹にこちらを認知されてしまえば、もう隠れてどうこうする手は使えない。
前からずっと思っていたけど、もっと、上手にしろよ俺
落ち込む暇もなく前を突き進む雪久は、俺の手首により一層力が込められた。




「ごめん。変に横入りして」
「別にいいけど、何かあったのか」

三人が見えなくなった所で雪久は立ち止まり、振り向いた。
改めて訊かれると耳の奥が痛くなり、頬まで血が上がっていくのを感じる。言えない、妹に取られると思って腕に引っ張りましたなんて、本人に言える訳ない。

「なっ、何もないというか。あの、ほんと迷惑かけてごめんっ」
「……何かよく分からないが」

再び頭に手を乗せられては、とかすように前髪を指で持ち上げる。目の前の景色が一気に開けて、雪久の透き通った白い肌と綺麗な顔がよく見える。
今日はよく目が合うなんて馬鹿みたいに現実逃避していたら、目を細められては前髪を軽く掴まれた。


「コソコソしている事を全部吐け」
「あっ、はい」

雪久には勝つ事が出来ない。
鷹に頭を掴まれた鼠のような気分になって、頷くしか出来なかった。
といってもほぼ身内の愚痴であって、俺の妄想と暴走、畏って話す事ではないから、下を向きながら人差し指を合わせてはポツポツと話した。飽きられても、笑われても仕方ない。

「なるほどな。じゃあ、新が言う妹さんは勝つ為なら人を殺すのか」
「それは比喩表現というか大袈裟に言っているだけなので……、安易に近づくと危険だと言いたかっただけです……はい」

言葉にすれば、するほど、自分がやってきた事が間抜けだ。

「言いたい事は理解できたし、気をつけるとして、遠回りのことをせず、全て話せば良かっただろ」
「はい、そうです。俺の杞憂です」

妹をストーカーせずに、雪久に言えば済む話なのは分かっていた。
雪久に対して何かをしたわけではないのに、だから本音は、妹と逢ってしまえば取られると思ったから。
実際、妹と雪久が会話しそうになった時は取られるという恐怖心から飛び込んでしまった。
妹は可愛いし、気が利くし、作法なんかは完璧で、自分と比較すれば切りがないほど。妹が良かったという言葉をどれだけ聞かされたか。兄も、妹の方が人の扱いが上手いと褒めていたし、雪久も最初が俺だけであって、妹の方に会っていたらと思うとーーー、またマイナス思考になってきた。

「心配しなくとも浮気はしない」
「っ」
「問題が起こるなら、二人で解決しような」

問答無用で頭を撫でられてしまった。
太陽を背に、煌々とした姿を何というか。深みにはまっていく音がする。

「頭がおかしくなるのでやめてもらっていいですか」
「何が? というか、俺の知らない事を勝手にするな」

頬を引っ張られた。
もうしませんからと謝っていると、雪久はふと何かに気がついたかのように目を瞑る。
俺の頬から手を離す。

「話を聞いていて一つ気になったんだが、妹さんは人一倍闘争心が強いってことだよな」
「そうですけど。それで何度か揉めていたのをよく見てます」
「頻繁にあったなら、大事にはなってないのか」
「それは……、妹は立ち回りが上手いというか」

あれ? 
雪久に言われて気がついた、妹は修羅場をどうやって切り抜けていたのだろうか。いつも、兄である柊悟が割って入ってはうやむやになって、時が経って無かった事になっていたのを思い出す。

「妹さんの状況は良くないんじゃないか」
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