騎士団隊長が生き返ったら、険悪だった部下に愛される?

イケのタコ

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二話 買い物

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『イナミの遺体がどこにあるか、目星はついているね』

声を上げる杖。
そう、目星はついている。それは、リリィの痕跡が消えた場所。

「信じたくないが、城だな」
『といっても、入る事が無理だけど。一応、僕ってもう犯罪者みたいなものだから』

騎士団に目をつけられている以上、リリィの体では城の門すら通れない。となると頼りは一人になってくる。

「レオンハルト……」

午後の昼頃。今日は様々生活品を買い足すために、城下町を下りて町に来ていた。そして、一人分くらい空けて前を歩くレオンハルト。
唯一、自分の正体を明かした元部下であり、信頼できるのは騎士団二番隊長のレオンハルトしかいない。
しかし、問題が一つある。会話のキャッチボールは出来るのだが、明かす前よりか物理的にも心の距離感が出来てしまった。
隣に立つ際は必ずといって1人分の距離を置かれる。その事をリリィも気づいていたようで話しかけてきた。

『何故、仲が悪くなってるの。元部下だよね、知り合いだよね。普通、明かしたら仲良くなるものじゃないの。生前いったい彼に何したわけ』
「してない……何もしてないはず。そもそも、こうなると予想出来ていたし、今までがおかしかっただけで、元に戻ったくらいだ」
『大丈夫? ここまで来て仲違いとかやめてよ。もう、あの人しか頼み綱がないんだから。脅してでも良いから絶対に離さないでよ』
「そこは大丈夫だ。感情は表に出やすいが、そんな一つの感情で動くやつじゃない」
『どうだが、急に騎士団に連れてかれて裏切られるかもよ。一つくらい弱みくらい持ってない訳』
「無いな。それに彼奴は戸惑っているだけで、時が経って落ち着いたら彼奴から話しかけくるから大丈夫だ」
『時間の問題じゃない気がするけど……』

すると、前を歩いていたレオンハルトが立ち止まって、こちらに向かって呼びかけるように手を振った。リリィとの会話で夢中で気づかなかったが、いつの間にか距離がだいぶ開いていた。
食材の市場もあって賑わう一本道。人通りも絶える事はなく見失ったら探し出すのは大変そうである。見失わないよう、焦って行こうとしたその時。

「ごっごめんなさい!」

目の前まで来ていた女性とぶつかり勢いが削がれた。女性も急いでいたようで軽く謝ると走って行ってしまう。
衝撃で視界が陽炎のように揺れ、レオンハルトを見失ったと思い急いで顔を上げると、まだ手を振っている。

「おーい」
「今、行く」

イナミは再び歩き出そうとしたが、突然後ろから肩を掴まれ動きを止められた。そして、ゆっくりと振り向いてみると、

「どこに行く気ですか」

レオンハルトがほんの少し息を切らして、俺の肩を掴んでいた。

「……さっき前にいたはず」
「何を言っているんですか。貴方が先に逸れたのですよ。もう少しで見失うところだった」

手を振っていたレオンハルトはどこに。
ーーー前を見てみるとそこには手を振る人間どころか誰もおらず、淡々と人々が行き交っていた。

「大丈夫ですか……もしかして幻影術ですか」
「それか、疲れていたのかもしれない」
 
幻影なのか、白昼なのか。目の間を摘んで、もう一度レオンハルトの顔を確認すると、額の真ん中に眉を寄せる表情を見せるから幻影では無さそうだ。

「言っておきますけど、俺は本物ですよ」
「分かっている、確認したかっただけだ」
「幻術なら、何かされていませんか。杖を盗まれていたりとか」
「いや、特に何もない。自分の目を疑ったくらいだ」

『ポケットに手を入れてみて』とリリィに言われたので、ズボンのポケットに手を入れてみると、カサッと入れたはずのない紙が指先に当たる。
指先で紙を挟み、ポケットから出してみると二つ折りにされた白い紙。

「なんですか、それは」
「いや、わからない。何かの警告文か?」

『正解』と言われつつ紙を開いてみると、二人は唖然とした。両面、何も書かれていない真っ白な紙だったからだ。

『サエグサのよくやる手口だね。これ以上、踏み込むと殺すぞって、ね。こちらの手口が全部バレてるね、心してかからないと』

さも、当たり前かのように語るリリィに違和感を持つ。何度もサエグサと対峙してきたイナミだからこそ感じた違和感は、言葉では正確に表せない。

敵に対しての扱いが、妙に丁寧な気がする。

「杖が言うにはやはり先程はサエグサの幻影術だったらしい。これは何も書かれていないが警告文のようだ」
「では、敵が近くにいるんですか」

レオンハルトは周りを警戒したが、通るのは様々な帝都の人々。魔力探知機もなく、この中でサエグサを見つけるのはほぼ不可能である。

『大丈夫だよ、警告に来ただけだから。あと、幻影術をかけたのはハリネズミみたいな男だから、こちら側が下手に動かなければ何もして来ないよ』
「警告だから、大丈夫らしい」

杖の言葉そのままレオンハルトに伝えると、警戒を解いてこちらに手を差し出した。

「なに?」
「手を繋ぎましょう」
「嫌だが」

イナミは一歩下がり距離を取る。

良い大人が、しかも知り合いで部下との手繋ぎなんて嫌だ。

「良いですか、今の貴方は背が小さいです。大勢の人に紛れられたら、先程みたいに見えないんですよ。ですから、手を繋ぐ事はある一種の戦略です」
「……嫌だ」

確かに、言われるように人に埋もれやすい身長ではあるが、手を繋がなくとも後ろをついて行ける。
 
中々心を開かないイナミに詰め寄り手を差し出しくるレオンハルトは、次は体を掴みかかろうとする勢いがあった。
どうにかして逃れようとするイナミは、本当の理由が言えなかった。
何故なら、夜であった事を思い出すからである。

「貴方はもう少し、狙われている自覚を持ってください。このままだと、知らない内に死んでいますよ」
「……手首を紐で結ぶとか」
「余計に怪しい人達になりますよ。命と手繋ぎ、天秤にかける程じゃない筈です」

そこまで言われて、やっとイナミは手ではなく腕を差し出した。レオンハルトは腕だろうと気にする事もなくイナミの片腕を引っ張り掴んでは前を歩き始めた。

「レオンハルト、昔より圧が強めになってないか」
「これくらいじゃないと、目の前からいなくなる人がいるので」
「それは、すまないな」
「……もう、二度目はごめんです」

繋ぎ合わせた腕が熱い。どんどん自分の中でよく分からない感情が育っていくのを感じる。それを理解したいと思う同時に知るのが恐い。
何故恐い? 分からない、理解不能。
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