騎士団隊長が生き返ったら、険悪だった部下に愛される?

イケのタコ

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十話 全てが終わって

あれから数ヶ月が過ぎた。
やっと、起きた様々な事件がまとまり徐々に鎮静した頃だった。
帝国を揺るがす衝撃的な事件は、最初は情報が交差して色々な事が帝都内で囁かれたが、最終的にはベアリンを主犯とし、騎士団副団長ヤイトや、サエグサが起こした一連の事件となった。
そして魔術師の死体は見つからず、スーフェン第一王子はあの雨の日に足を滑らせて洪水で流された事となっている。
事件の顛末が違うと反論したくなるが、どれだけ訴えようが帝都内で信じる者は一人もいないだろ。
いまさらスーフェン第一王子の中身が別人でしたというのは到底信じられないし、相変わらず一切証拠が出てこないのと、魔術師と戦ったあの地下には何もなかった。
そもそも、そんな白百合が咲く地下が存在せず、入り口となった書庫にも扉は綺麗さっぱりとなくなっていた。
夢見たいな話だが、現実を歪めてしまうほど魔術だったということだ。
滝に囲まれた百合の花が咲く神秘的な島は、イーナの思い出の場所だったのかもしれない。
そこで長い間、あの場所で一人、悩みつづけていたのだろうか。それでもほんの少しだけ、安らぎあったと思えたのは俺があの人だからなのか。
もう、答えてくれる人はいないーーー

そして、城に不法侵入したリリィの罪はどうなったか。
率直に言うと無罪放免となった。リリィと似た誰かが城を倒壊したという、若干無理があるが騎士団長のアルバンによって書き換えられた。
だから、今はお咎めもなく普通に生活している。


事件が終わって、帝都内は混乱していたが、騎士団も忙しなく。
副団長であるヤイトが急にいなくなった事で、円滑に回っていた業務が崩れて、統率が取れなくなった。
外部からは騎士団は一度解散するべきだとか、責任をとって騎士団長をやめるべきなど相当咎められていたようで、騎士団から帰ってくるレオンハルトの顔はいつも死んでいた。
『イナミさん、隊長やりませんか』と意味がわからない事を言い出す始末で大変だったのだろう。
そんな事もありながら、どうにか数ヶ月で騎士団を立て直した。
まだ、甘い部分はあるが順調に業務は回っている。
まとめて言うと、魔術師がいなくなった後、帝都はどうにかなっているということだ。

それでも今回の件に関わった人達といえば、落ち着いている者もいれば、落ち着いてない者もいた。

騎士団長のアルバンは「今日さ、可愛い女の子がいてよ」と呑気に話しかけきたくらいで大丈夫そうであり。落ち込んでいるものと思っていたから拍子抜けしたが。
相変わらず、変わっていないようで何よりである。
 
ロードリックは、三番隊長とし順調に仕事をこなしているが、丁度帝都の城に用があり廊下で話しかけられては「認めませんから」と言われた。
何故敬語なのか色々と様子がおかしいが、何がだと訊くと口をモゴモゴとさせてから。

「……イナミ隊長だという事です」
「あー、そう言う事か。別に認めなくてもいい。どちらであろうとロードリックの人生に何も支障はないし、こちらも干渉する気は無い」

そう伝えると安堵したのか、渋い顔が解けては普段の真面目な顔に戻る。
前と同じように黒髪になったとはいえ、中身と見た目の違いに混乱するのも無理もない。ロードリックは頭の整理がつくまで時間をくれと言いたいのだろう。

「そうさてもらいます。隊長は10年前に死にましたから」
「ああ、そうしてくれ」
「ですが……暇な時で、いいので話しかけてもいいですか」

もちろんと言おうとしたところを隣から「二度と話しかけてくるな」と頼んでも無い事を言い投げた。

「貴様に言ってはいない、レオンハルト」
「散々、イナミさんの事を否定しておいて、よく話しかけられるな」
「リリィとして話しかけるんだ。その件と一切関係ないだろ」
「はぁ? 屁理屈も大概にしろよ」

油と水なのは変わらず、人を挟んで口喧嘩を始めた。二人の身長が高い分余計に圧迫感を感じて、久しぶりに腹がキリキリと痛くなり頭を抱える。

「いい加減黙らないと、剣で切るがいいか」

「いや、こいつが」「責任は貴様の方だろ」と口が収まらないので腰に差していた剣の柄を握る。

「お前達に一度も嘘はついた事はないが」
『なんでもないです』

神妙な顔で二人とも大人しくになってくれたので、柄から手を離す。
声を合わせられるくらいにはお互いに相性は良いのだから仲良くしろと言いたいが、それがまた火種になりそうなので黙っておいた。
とりあえずロードリックとの関係は騎士と罪人ではなく、騎士と市民と少しだけ改善された。

そこでロードリックとは別れて、用事のために帝都の城の中を歩いていた。
もちろん、城の者と騎士団からはレオンハルトをつける事で許可をもらい歩いている。
 
「久しぶりですね……ジェイド殿下と会うのは」
「そうだな」

建国記念日から会っていない。
スーフェンの死、騎士団内の裏切り、色々と気持ちの整理が出来た頃合いに、ジェイドの方から会いたいと言われて今日は城に来ていた。
目的地である扉を開けて部屋に入れば窓の側にジェイドが立っていて、外を見て呆けていたのか、少々遅れてからこちらに反応した。

「二人とも元気そうだね……レオンハルト、大丈夫? ものすごく気分が悪そうな顔しているけど」

「大丈夫なので、あまり気にしないでください」とレオンハルトが何かを言う前にイナミが遮る。

「そう? 気分が悪いなら言ってくれていいから」
「少し悪い物を食べた程度ですので、すぐ良くなるのでジェイド殿下はお気になさらず」

そんな会話をイナミと交わしつつジェイドの目線は自然と上へと向く。

「髪色、黒になったんだね」

あの戦いを終えてからというもの、イナミの髪色は薄茶色から黒に戻らなくなった。
何故、黒髪になってしまったのかを説明してくれる杖もいないので、リリィの体では無く、完全にイナミの体となったとそう解釈している。

「なんだか、その髪色の方が似合っているね」
「そう……ですか」

ニコニコといつも通り優しいが、どこか疲れたよう目をしているジェイド。

「あの、スーフェン殿下の事ですが」

レオンハルトが気まずそうに切り出したが、ジェイドは話を聞く前に頭を横に振る。

「もういいよ、レオンハルト。もう、いろんな人に謝られたからね」
「ですが」
「兄さんが行方分からなくなったのは、君たちのせいじゃない。あの時について行かなった私の責任でもある。それに、あの日は兄さんの様子がおかしかったし……父上も何も言わない。とにかく、もういいんだ」

頭を下げるのは、やめてくれとジェイドはこの会話を拒絶した。

「それより、一緒にお茶をしてくれないか。友人として色々話したいんだ」
「はい、そうですね。ジェイド殿下」

イナミは表情変えずに頷く。
心の中では、スーフェン第一王子の本当の事実を言った方がいいのか取り留めなく迷っていた。ジェイドにとって普通の兄である方がいいのか、ずっと長い間帝国を生きていた魔術師である真実を伝え方がいいのか、分からなかった。
 
どちらを選んでも残酷だ。

「今日は何の茶葉にしようかな……そうだ、今日は晴れているし、中庭に行こうか」
「そうですね」

隣にいるレオンハルトも同じように苦悩していると分かっているのに、腰あたりの服を力強く掴んでしまった。
シワになっていく服、もちろんジェイドからは見えない。見えないからと言って、掴むのは良くないと分かっている。胸の辺りが重く震えて、何かを掴んでいないと恐かった。
どんどん自分の心が弱くなるのを感じる。もっとしっかりと正しくしないといけないのに、勝手に手が震える。

「大丈夫ですから、俺がいますから」
隣にいる俺しか聞こえないような囁き声。後ろ回したレオンハルトの手が重なり、ぎゅっと握り返された。
レオンハルトの方を見てみると、目線はこちらに向いておらずジェイドの方を真っ直ぐと見ていた。

「ジェイド殿下、街に茶葉に合うお菓子がありますので、いっそう城を出てみませんか」
「それはいいね! じゃあ、三人で行こう。私もおすすめしたい物が沢山あるんだ」

ジェイドはより晴れた空のように明るく笑うのだった。




城の廊下を歩いているとどこからか軽やかなピアノ音が聞こえてきた。
弾いている者は、相当手慣れていて、聞いたことがある曲のアレンジまでしていた。
ずっと聴いていられるほど、透き通るような綺麗な音色。何度も聞いた馴染みのある音に近づいていくと、楽しそうな鼻歌も聞こえてくる。

「ルヴィは相変わらずピアノが上手いね」

何気ない会話としてジェイドはそう言いながら歩く。イナミは頭の上には疑問が浮かび、前に聞いた話ではルヴィはピアノが苦手で、笑われるくらい下手だと言っていた。

「ルヴィ姫が弾いているのですか」
「そうだよ。上手いでしょ。幼い時から弾いているからね」
「……そうですか」

口に手を当てて押し黙るイナミに、ジェイドは心配になり尋ねる。

「ルヴィに何かあるのかい?」
「いえ、何でもないです。ただ、思わず黙ってしまうほどピアノの演奏が綺麗だと思いまして」
「それだといいんだけど……そうだ、ルヴィとまた話してあげて、ルヴィも喜ぶよ」
「はい、またいつか」

会話を交わし思い出すのは杖の最後の言葉。『クソ女によろしく』とは誰の事だったのか。
今なら誰か分かる。
ミオン、君が残していったものはまだあった。
だが、自身がイナミだと証明できないように、彼女も証明する事はできない。

その名前はリリィ……か

まるで全てが夢のようだった。
でも、確かにここには自分はいたし意思もある。ずっと生き続けた魔術師だっている。リリィというあの杖にも形はあった。
でも誰かに話しても、これはお伽話として語られるだろう。

まるでお伽話のような出来事は、誰も真実を知らない闇の中に収束したのだ。
 


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