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木下家 ―父親―
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コンコン、とノック音が部屋に響く。
「ミノリ、お父さん帰ってきたからご飯食べましょう」
母親のくぐもった声が鼓膜に響き、学習机の椅子からミノリは立ち上がる。机の上には課題が置いてあった。今の今までやっていた代物だ。
ゆっくりとドアを開け廊下に出れば、母親が待っていてくれたらしく、微かに目が合えば彼女はにこっと笑う。
晩御飯のいい香りが二階までしてくるのに気付き、ぐーっ、とお腹が鳴った。
「ふふ。今日はミノリの好きな麻婆豆腐よ。辛さは控えめにしてあるわ」
「あ、ありがとう……ございます」
ミノリは言い放ち、階段を下りる。やはり、顔がまともに見られない。
「ミノリ、焦らなくていいのよ。大丈夫だから」
その言葉に振り返ると、友紀は微笑んでいた。
「友紀さん……それは」
――それは『お母さん』と呼ぶことに焦らなくていいってことですか? いや、多分そうだ。なんとなくだけど、そう思う。
「なに?」
「なんでもないです……」
この人は『優しくて好い人』。そう頭では理解していても、躯が反応しない。けど――頑張るから。だから――。
「もう少し……待っていて下さい」
彼はポソリと呟く。頑張るから。受け入れられるように。明日も、明後日も、明明後日も、少しずつ頑張るから。
「え? なにか言った?」
「いえ……なにも」
彼女から顔を逸らして、残りの階段を下りる。
一階まで来ると父親――木下孝斗――がリビングから出てきていた。彼は笑顔で二人を出迎える。
「ミノリ、ただいま」
「お帰りなさい」
父親とは普通に話が出来る。ただし、目は合わせられなかったが。
彼は父親の横をすり抜け、リビングに足を踏み入れる。
脚が高いテーブルの上には、麻婆豆腐が入った大皿が乗っていた。ゆっくりと湯気が昇っていく。
イスに腰を下ろしたミノリを見て、両親はテーブルに近付いた。
「じゃ、いただきましょうか」
二人はほぼ同時にイスに腰を下ろした。
「ミノリ、お父さん帰ってきたからご飯食べましょう」
母親のくぐもった声が鼓膜に響き、学習机の椅子からミノリは立ち上がる。机の上には課題が置いてあった。今の今までやっていた代物だ。
ゆっくりとドアを開け廊下に出れば、母親が待っていてくれたらしく、微かに目が合えば彼女はにこっと笑う。
晩御飯のいい香りが二階までしてくるのに気付き、ぐーっ、とお腹が鳴った。
「ふふ。今日はミノリの好きな麻婆豆腐よ。辛さは控えめにしてあるわ」
「あ、ありがとう……ございます」
ミノリは言い放ち、階段を下りる。やはり、顔がまともに見られない。
「ミノリ、焦らなくていいのよ。大丈夫だから」
その言葉に振り返ると、友紀は微笑んでいた。
「友紀さん……それは」
――それは『お母さん』と呼ぶことに焦らなくていいってことですか? いや、多分そうだ。なんとなくだけど、そう思う。
「なに?」
「なんでもないです……」
この人は『優しくて好い人』。そう頭では理解していても、躯が反応しない。けど――頑張るから。だから――。
「もう少し……待っていて下さい」
彼はポソリと呟く。頑張るから。受け入れられるように。明日も、明後日も、明明後日も、少しずつ頑張るから。
「え? なにか言った?」
「いえ……なにも」
彼女から顔を逸らして、残りの階段を下りる。
一階まで来ると父親――木下孝斗――がリビングから出てきていた。彼は笑顔で二人を出迎える。
「ミノリ、ただいま」
「お帰りなさい」
父親とは普通に話が出来る。ただし、目は合わせられなかったが。
彼は父親の横をすり抜け、リビングに足を踏み入れる。
脚が高いテーブルの上には、麻婆豆腐が入った大皿が乗っていた。ゆっくりと湯気が昇っていく。
イスに腰を下ろしたミノリを見て、両親はテーブルに近付いた。
「じゃ、いただきましょうか」
二人はほぼ同時にイスに腰を下ろした。
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