魂の抗戦

様出 久鮎

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8.戦闘訓練

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「やぁー!」
声を張り上げて、レイは木剣を振り下ろした。
イアンは軽々とそれをかわし、足をかけてレイに膝を付かせる。
そのままレイの首筋に木剣を当て、降参させた。
「また負けちゃったよ。イアンは強いね」
度々剣を交えているが、レイは一度もイアンに勝てていない。
もちろんレイが弱いというわけではない。
むしろ、一年生では上位に入る実力はある。
ただ、長年モーリスと手合わせしてきたイアンの相手をするには力不足であった。
さらに言えば、同学年にイアンの相手をまともにできる者はほとんどいないだろう。
「ギルバート先生に比べればたいしたことないだろ」
「それは比較する相手が悪いんじゃないかな?少なくとも僕よりずっと強いよ」
そう言いつつ、レイは訓練服についた土を払いながら立ち上がった。
するとそこに、見回りをしていたギルバートが現れる。
「どうした、お前ら?まだ休憩時間じゃないぞ」
「すみません。模擬戦をやっていたのですが、僕ではイアンの相手が務まらなくて」
「おい、レイ…」
口を挟もうとしたイアンをレイは手で制した。
「イアンと僕の実力差は大きいようです。もしよければ、先生がイアンの相手をしてくれませんか?」
レイの言葉にイアンは驚きを隠せなかった。
まさかレイがギルバートとの模擬戦を提案するとは思わなかったのだ。
「悪いがそれはできん。今はまだ講義中だ。一人の生徒だけを相手するわけにはいかない。だが…」
言葉の途中でギルバートはイアンを一瞥する。
「放課後なら問題ないだろう。相手をしてほしければ、いつでも俺の所に来い」
「ありがとうございます!」
何故かイアンより先にレイが頭を下げた。
イアンは礼を言おうと開いた口をそのままに固まってしまう。
ギルバートはそんな二人の様子を見て豪快に笑う。
「なに、これも教師の役目だ。しかし、お前らはいいコンビだな」
ギルバートの言葉にイアンとレイは目を見合わせる。
確かに気の置けない仲となってはいるが、そんなことを言われたのは初めてだった。
ただ、イアンは悪い気はしなかった。
「ギルバート先生。早速今日からお願いしていいですか?」
「いいぞ。17時にこの演習場に来てくれ。レイもどうだ?」
「いいんですか?」
「ああ、お前も鍛え甲斐がありそうだからな」
「では、ぜひご指南の程よろしくお願いします」
レイの返事に、ギルバートは満足そうに笑みを浮かべた。



放課後、イアンたちが演習場に向かうと、すでにギルバートが素振りを始めていた。
その剣筋は速く、鋭く、それでいて見惚れるような美しさがある。
一振り一振りが洗練され、そこには元王室騎士団たる強さが滲み出していた。
二人はそろってギルバートの素振りを見入ってしまう。
そのまま数分経ったとき、突然ギルバートは素振りを止めた。
「お前ら、いつまでそこに突っ立っているつもりだ?早く来い」
どうやらギルバートはイアンたちにすでに気付いていたらしい。
二人は急いでギルバートのもとに駆け寄る。
「ようやく来たか。さっそく始めるぞ。まず、レイからだ」
「はいっ!お願いします!」
威勢よく返事をして、レイは木剣を構えた。
「始めに一つ質問だ。レイ、お前は何故イアンに勝てない?」
「それは実力差が…」
「具体的に言え」
ギルバートに促されて、レイはしばらく考え込む。
「…攻撃が当たらないからでしょうか?」
「どうして当たらない?」
「イアンが速い…いや、僕の攻撃が遅いから?」
「正解だ。お前の剣は宮廷剣術を基本にしているな?」
「その通りです。ご存じでしたか」
「ああ、俺はその使い手と何度か戦ったことがある。宮廷剣術は王族を守ることを目的として編み出された剣術だ。その成り立ちゆえに、守備に特化している反面、攻撃はそれ程重視されていない」
「なるほど。この剣術は自ら攻めることに向いていないんですね」
レイは納得したように頷いた。
「しかし、それだと宮廷剣術では勝つことができないのではないですか?」
「いや、そんなことはないぞ。ただ攻撃を迎え撃つだけが守りじゃない。相手のやりたい攻撃をさせず、己の盤上に引き込むことこそが宮廷剣術の本質。達人ともなれば、相手を意のままに操り、それを悟らせぬまま敗北させる」
「宮廷剣術とはそれ程のものなのですか…僕にこの剣術を習得することができるでしょうか?」
「それはお前次第だ」
ギルバートの返答に、レイは手元の剣に視線を落とした。
そして、覚悟を決めたのか、勢いよく顔を上げる。
「…僕はイアンに追いつきたい!そのためなら何だってやります!」
「いいだろう。やるからには厳しくやるぞ」
「はい!」
特訓を始めると、ギルバートの指導によりレイの動きが良くなっていくのが、傍で見ていたイアンには分かった。
(俺も負けていられないな)
そう考えると剣を振らずにはいられず、イアンも素振りを始める。
小一時間ほどして、レイの体力が尽きたところでギルバートはイアンを呼んだ。
「イアン、お前の番だ。さて、お前は誰に剣を習った?」
「父です。エッジタウンの守備隊長をしています」
「辺境の戦士か。流派は?強いか?」
「流派は分からないですが、強いです」
「そうか。一度手合わせしてみたいもんだ」
ギルバートはまだ見ぬ強者を想像して舌なめずりをする。
今頃モーリスは悪寒が走ったに違いない。
「では、お前の特訓において、しばらく剣の使用を禁止する」
「…どういうことですか?」
ギルバートの発言にイアンも耳を疑わずにはいられなかった。
「そのままの意味だ。剣を使わず、素手での格闘を行う」
「理由を聞いてもいいですか?」
「お前は今のままでも強くなれるだろう。だが、せいぜい中堅程度で終わるのは目に見えている」
「…どうしてですか?」
「我流の剣ゆえか、お前は腕だけで剣を振る癖がある。その癖がある限り、成長は見込めん」
癖と言われて、イアンはモーリスとの手合わせを思い出す。
その時もモーリスに似たようなことを指摘された記憶があった。
「それが格闘とどう関係が?」
「格闘では頭から足の先まで全身が武器だ。戦いの最中、常に全身の動きに意識を向けねばならない。身体の使い方を覚えるにはうってつけだ」
「それで癖も改善されると?」
「そうだ。己の体を掌握するんだ」
「分かりました。強くなれるならばやります」
イアンは剣を置き、格闘の構えをする。
「いい姿勢だ。受け身はちゃんと取れよ」
ギルバートは笑みを浮かべ、戦闘態勢を取った。
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