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14.ローウェル領①
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「ねえ、イアン君。今度の長期休みって何か予定ある?」
講義が終わり、昼休みに入ったところでクレアに声をかけられた。
「いや、特に計画はしていない。エッジタウンに帰ろうにも時間も金もないからな」
「じゃあ、もしよければうちの領地に来ない?」
「クレアの実家ということか?どうしてだ?」
「簡単に説明すれば、うちの仕事の手伝いをお願いしたいんだよね。あ、もちろんタダでとはいわないよ。ちゃんとお給金は出すからね」
クレアは指で円を作って、ニヤリと笑う。
「給金を出してもらえるのはありがたい。だが、冬場に人が増えてもいいのか?備蓄が足りなくなるんじゃないか?」
冬は農作物がほとんど採れなくなる。
そのため、冬を越せるだけの備蓄を準備しておくのが常識だ。
エッジタウンでも冬の前は食料の買い込みに忙しかった記憶がイアンにはあった。
「その点は心配しないで。ローウェル領は農業や畜産で成り立っている領地だから、備蓄はたくさんあるんだよ」
「そうか。それなら行こう」
「本当に?ありがとう!」
クレアはイアンの手を取り、素直に喜びを示す。
以前は、クレアは暗い表情をしていることが多かった。
それに比べれば、かなり表情が豊かになったとイアンは感じた。
「その話、僕もご一緒してもいいかな?」
隣で聞いていたレイが手を挙げた。
「え?レイ君も?でも、うちのような男爵家には侯爵家の人を迎えられる用意なんてできないんだけど…」
クレアはうろたえ、悩む素振りを見せる。
貴族として客人を自領に迎えるならば、それなりのもてなしをしなくてはならない。
まして、それが爵位の上の者だったならば、もてなす側はかなり気を遣うことになるだろう。
「お前、侯爵だったのか?」
「僕の父が、だけどね。というか、言ってなかったかな?」
「初耳だな」
「でも、イアンはそれを知ったところで何かを変えるわけじゃないだろ?」
「まあな。レイはレイだ」
イアンの言葉に満足そうに頷き、レイはクレアに向き直る。
「まあ、今回僕は侯爵家としてじゃなくて、働き手として行くつもりだよ。それに他領での領地運営を学んでみたいんだよね」
レイはにこやかにクレアに話す。
クレアは頭を抱えて、しばらくうなっていた。
「…分かった。うちに来るからには、レイ君にも働いてもらうからね」
「うん、喜んで働くよ」
「レイ君に来てもらうのはいいとして、お父さんにどう伝えようかな…?」
「僕から一筆書こうか?」
「いや、そっちの方がマズいから!とにかく、日程が決まったら連絡するね」
クレアはああどうしようと独り言を呟きながら、教室を出て行った。
ローウェル男爵領は王都から馬車で2日ほどの距離にある。
道中は平和で、三人で何気ない会話を交えながら旅を過ごした。
「この辺りからうちの領地だよ。まあ、畑ばっかりだから何もないけどね」
クレアの言う通り、収穫が終わり、畝だけとなっている畑が延々と広がっている。
男爵領に入ってから一時間ほども走ると、建物がポツポツと増え始め、街に入った。
街の規模としてはエッジタウンよりも小さいくらいだ。
ただ、道行く人はそれなりに多く、露店もあちこちに出ていた。
「ここが中心街かな?」
「そうだよ。大きくはないけど、活気のあるいい街で私は大好きなんだ」
「確かに領民の表情は明るいね。皆幸せそうだ」
「そうでしょ?うちは貧乏だけど、領民のためのお金は惜しまないからね」
「ローウェル男爵はすばらしい領主なんだね」
「うん。自慢のお父さんだよ」
レイに褒められて、クレアは嬉しそうに胸を張る。
街の中心部くらいまで進み、馬車がそこで止まった。
「着いたよ。ここが私の家」
クレアの屋敷は、領民たちの家と比較してようやく一回りくらい大きい二階建てのものだった。
貴族なら学園の校舎くらいの大きな屋敷に住んでいるものだと想像していたイアンにとって、その屋敷は意外なものであった。
「これは想像を超えた屋敷だね」
レイがクレアに聞こえないようポツリと呟く。
どうやらレイも驚きを隠せないようだ。
「クレアお嬢様、おかえりなさいませ。それにレイ様、イアン様。遠路はるばるお越しいただき感謝いたします」
50代くらいのメイドが深々と腰を折り、三人を出迎えた。
「アン、ただいま!二人とも紹介するね。うちのメイドのアン。私が生まれる前からローウェル家で働いてくれているんだ」
「へえ。それはまた長いね。忠誠心の高さがうかがえるよ」
「はい、ローウェル家の方々はすばらしいお人ばかりですから」
アンは一切の建前なく本心で言っているようだった。
現に、その言葉にクレアは少し照れている。
「そういえば、お父さんは?」
「ご主人様は近隣の村にご視察に向かわれています」
「そっか。二人への挨拶は帰って来てからだね」
「では、お待ちする間、奥様とお茶にしましょうか?」
「そうだね。じゃあ、お茶の準備をお願いしていい?私は二人を部屋に案内するよ」
「かしこまりました。すぐにご用意しましょう」
アンは軽く会釈すると、屋敷に入っていった。
「私たちも入ろうか。二人の部屋は二階に用意してあるよ。少し狭いかもだけど、ゆっくりしてもらえるといいな」
クレアは扉を開け、イアンとレイを屋敷に招き入れた。
二階への階段を上る途中でレイが口を開く。
「この屋敷に勤めているのはさっきの彼女だけかい?」
「そうだよ。他に雇う余裕もないし、屋敷も広くないからね」
「そうなんだ。彼女、かなり有能だよね?」
「やっぱり分かる?アンはすごいんだよ。掃除も洗濯、それに勉強まで何でもできるんだ」
クレアはアンについてしゃべり出す。
イアンにはアンがメイドとして優秀なのかどうかはよく分からない。
ただ、立ち振る舞いはギルバートやモーリスのような強者を彷彿とさせるものだった。
どうして一介のメイドがとイアンは思ったが、特に害があるわけではないので考えないことにする。
「こっちの部屋がレイ君で、そっちがイアン君ね」
イアンが案内されたのは清潔感のある素朴な部屋だった。
豪華すぎる部屋だと眠れないかもしれないと思っていたので安心した。
「とりあえず、荷物だけ置いて先にお茶にしよ」
「そうだね。飲み物が冷めてももったいないし、早く行こうか」
二人がそう話すので、イアンは自分の荷物を部屋に放り込み、クレアの後に付いて一階に下りた。
講義が終わり、昼休みに入ったところでクレアに声をかけられた。
「いや、特に計画はしていない。エッジタウンに帰ろうにも時間も金もないからな」
「じゃあ、もしよければうちの領地に来ない?」
「クレアの実家ということか?どうしてだ?」
「簡単に説明すれば、うちの仕事の手伝いをお願いしたいんだよね。あ、もちろんタダでとはいわないよ。ちゃんとお給金は出すからね」
クレアは指で円を作って、ニヤリと笑う。
「給金を出してもらえるのはありがたい。だが、冬場に人が増えてもいいのか?備蓄が足りなくなるんじゃないか?」
冬は農作物がほとんど採れなくなる。
そのため、冬を越せるだけの備蓄を準備しておくのが常識だ。
エッジタウンでも冬の前は食料の買い込みに忙しかった記憶がイアンにはあった。
「その点は心配しないで。ローウェル領は農業や畜産で成り立っている領地だから、備蓄はたくさんあるんだよ」
「そうか。それなら行こう」
「本当に?ありがとう!」
クレアはイアンの手を取り、素直に喜びを示す。
以前は、クレアは暗い表情をしていることが多かった。
それに比べれば、かなり表情が豊かになったとイアンは感じた。
「その話、僕もご一緒してもいいかな?」
隣で聞いていたレイが手を挙げた。
「え?レイ君も?でも、うちのような男爵家には侯爵家の人を迎えられる用意なんてできないんだけど…」
クレアはうろたえ、悩む素振りを見せる。
貴族として客人を自領に迎えるならば、それなりのもてなしをしなくてはならない。
まして、それが爵位の上の者だったならば、もてなす側はかなり気を遣うことになるだろう。
「お前、侯爵だったのか?」
「僕の父が、だけどね。というか、言ってなかったかな?」
「初耳だな」
「でも、イアンはそれを知ったところで何かを変えるわけじゃないだろ?」
「まあな。レイはレイだ」
イアンの言葉に満足そうに頷き、レイはクレアに向き直る。
「まあ、今回僕は侯爵家としてじゃなくて、働き手として行くつもりだよ。それに他領での領地運営を学んでみたいんだよね」
レイはにこやかにクレアに話す。
クレアは頭を抱えて、しばらくうなっていた。
「…分かった。うちに来るからには、レイ君にも働いてもらうからね」
「うん、喜んで働くよ」
「レイ君に来てもらうのはいいとして、お父さんにどう伝えようかな…?」
「僕から一筆書こうか?」
「いや、そっちの方がマズいから!とにかく、日程が決まったら連絡するね」
クレアはああどうしようと独り言を呟きながら、教室を出て行った。
ローウェル男爵領は王都から馬車で2日ほどの距離にある。
道中は平和で、三人で何気ない会話を交えながら旅を過ごした。
「この辺りからうちの領地だよ。まあ、畑ばっかりだから何もないけどね」
クレアの言う通り、収穫が終わり、畝だけとなっている畑が延々と広がっている。
男爵領に入ってから一時間ほども走ると、建物がポツポツと増え始め、街に入った。
街の規模としてはエッジタウンよりも小さいくらいだ。
ただ、道行く人はそれなりに多く、露店もあちこちに出ていた。
「ここが中心街かな?」
「そうだよ。大きくはないけど、活気のあるいい街で私は大好きなんだ」
「確かに領民の表情は明るいね。皆幸せそうだ」
「そうでしょ?うちは貧乏だけど、領民のためのお金は惜しまないからね」
「ローウェル男爵はすばらしい領主なんだね」
「うん。自慢のお父さんだよ」
レイに褒められて、クレアは嬉しそうに胸を張る。
街の中心部くらいまで進み、馬車がそこで止まった。
「着いたよ。ここが私の家」
クレアの屋敷は、領民たちの家と比較してようやく一回りくらい大きい二階建てのものだった。
貴族なら学園の校舎くらいの大きな屋敷に住んでいるものだと想像していたイアンにとって、その屋敷は意外なものであった。
「これは想像を超えた屋敷だね」
レイがクレアに聞こえないようポツリと呟く。
どうやらレイも驚きを隠せないようだ。
「クレアお嬢様、おかえりなさいませ。それにレイ様、イアン様。遠路はるばるお越しいただき感謝いたします」
50代くらいのメイドが深々と腰を折り、三人を出迎えた。
「アン、ただいま!二人とも紹介するね。うちのメイドのアン。私が生まれる前からローウェル家で働いてくれているんだ」
「へえ。それはまた長いね。忠誠心の高さがうかがえるよ」
「はい、ローウェル家の方々はすばらしいお人ばかりですから」
アンは一切の建前なく本心で言っているようだった。
現に、その言葉にクレアは少し照れている。
「そういえば、お父さんは?」
「ご主人様は近隣の村にご視察に向かわれています」
「そっか。二人への挨拶は帰って来てからだね」
「では、お待ちする間、奥様とお茶にしましょうか?」
「そうだね。じゃあ、お茶の準備をお願いしていい?私は二人を部屋に案内するよ」
「かしこまりました。すぐにご用意しましょう」
アンは軽く会釈すると、屋敷に入っていった。
「私たちも入ろうか。二人の部屋は二階に用意してあるよ。少し狭いかもだけど、ゆっくりしてもらえるといいな」
クレアは扉を開け、イアンとレイを屋敷に招き入れた。
二階への階段を上る途中でレイが口を開く。
「この屋敷に勤めているのはさっきの彼女だけかい?」
「そうだよ。他に雇う余裕もないし、屋敷も広くないからね」
「そうなんだ。彼女、かなり有能だよね?」
「やっぱり分かる?アンはすごいんだよ。掃除も洗濯、それに勉強まで何でもできるんだ」
クレアはアンについてしゃべり出す。
イアンにはアンがメイドとして優秀なのかどうかはよく分からない。
ただ、立ち振る舞いはギルバートやモーリスのような強者を彷彿とさせるものだった。
どうして一介のメイドがとイアンは思ったが、特に害があるわけではないので考えないことにする。
「こっちの部屋がレイ君で、そっちがイアン君ね」
イアンが案内されたのは清潔感のある素朴な部屋だった。
豪華すぎる部屋だと眠れないかもしれないと思っていたので安心した。
「とりあえず、荷物だけ置いて先にお茶にしよ」
「そうだね。飲み物が冷めてももったいないし、早く行こうか」
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