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18.四人目
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セシリアとの約束の日、イアンとレイは演習場に来ていた。
二人がのんびりと雑談していると、セシリアも演習場に現れる。
「お待たせしましたわ」
「いや、僕らも今来たところだから気にしないでいいよ」
実際は10分前には着いていたのだが、レイはにこやかにセシリアに返答する。
元々の顔立ちの良さに加え、こういうさりげない気遣いができる部分もレイがよくモテる理由になっているのだろう。
「ありがとうございます。では早速、紹介しますわ。オルガさん、こちらに」
セシリアから声をかけられ、背後から女子生徒が姿を見せた。
身長はイアンより頭一つ小さいくらいだ。
そして、それ以上に目を惹かれたのは、雪のように白い肌とナイフのように尖った耳だった。
「彼女はオルガ・エレドナさん。私と同じ1-A組ですわ」
セシリアに紹介されたオルガは小さくお辞儀をする。
「オルガ嬢はエルフ族だよね?それにエレドナってことは…」
「ご推察の通りですわ。彼女はエレドナ自治区長のご息女です」
「なるほど。道理でエルフ族の彼女が学園にいるわけだ」
「なあ、エルフって何だ?俺らと何が違うんだ?」
イアンが口を挟み、問いかける。
だが、その質問にレイとセシリアは呆れた目をイアンに向けた。
「…貴方、無知が過ぎるのではなくて?」
「うん、悪いけど僕もセシリアに同意するよ」
「何だよ、お前ら。仕方ないだろ。エッジタウンなんて、魔法を使える人間が辛うじて一人いるくらいのド田舎だぞ。お前らにとっての常識なんて分かるわけがないだろ」
イアンの言い訳を聞いて、セシリアはため息を吐いた。
それを見かねたレイが説明を始める。
「じゃあ、この機会に知っておくといいよ。まず、エルフ族は僕らヒト族とは異なる種族だ。耳の形などの身体的な相違があるし、寿命は人間よりはるかに長い。文化も価値観もまったく違うから、基本的にヒトとエルフが関わることはほぼないんだ」
「じゃあ、なんで学園にそのエルフがいるんだよ?」
「それはオルガ嬢の出身のエレドナ自治区に関係するんだ。ちなみに、エレドナ自治区というのは王国内にあるエルフ族の治める土地だよ」
「王国の一部をエルフ族が治めているのか?どういうことだ?」
「え~と、自治区については政治や歴史の難しい話になるけど…聞くかい?」
「いや、聞かなくていい。要点だけ教えてくれ」
「簡潔に言うと、自治権を持つエルフ族が反乱を起こさないために、エレドナ自治区長の娘であるオルガ嬢を学園に入学させているんだよ」
「…つまり、こいつは人質ってことか?」
「君は言い辛いことをはっきりと口にしてくれるね」
レイは皮肉めいた口調でイアンに返答した。
さすがにイアンも空気を読み、話題を変えようとオルガに目をやる。
「ところで、そいつは戦力になるのか?」
「ええ、わたくしが保証しますわ。オルガさん、あの的を射ることはできるかしら?」
セシリアは200m程先にある三つの的を指差した。
オルガは小さく頷くと、背にしていた弓を構える。
その弓はロングボウではなくショートボウ。
オルガの華奢な体格を考慮すると、的に届かないのではないかと思われた。
しかし、オルガは迷いなく矢を三連続で放つ。
そして、風切り音を立てて飛んだ矢は、すべての的の中心に刺さった。
「おぉ…!」
レイは感心したように声を上げ、イアンも驚きのあまり声が出なかった。
「彼女の実力は分かってもらえたかしら?」
「ああ、十分すぎるくらいだ。だが、どうしてショートボウでそこまで飛距離が出る?筋力がありそうな感じじゃないが…」
イアンはオルガの細腕を一瞥した。
「…おそらくだけど、彼女は精霊の力を使っているんだと思う」
「精霊?」
「たぶん風の精霊かな?その力で矢の飛距離を伸ばしているんだろうね」
レイが予想を口にするが、正直イアンはあまりピンときていなかった。
「…イアン、精霊の存在はさすがに知っていますわよね?」
「いや、知らん」
セシリアは額に手を当てて、先程よりも大きくため息を吐いた。
「よく覚えておきなさい。精霊とは自然を司る存在。精霊の力は強大であり、精霊によって世界の秩序が保たれているのですわ」
「そう言われても、そんなこと感じたこともないけどな」
「当たり前ですわ。精霊を人間が知覚することなどできませんもの」
「へえ、そんなもんか。そういえば風の精霊って言ってたが、他にもいるのか?」
「あとは火・水・土の精霊がいるね。ちなみに王族にとって火の精霊は信仰の対象になっているんだ。王都の名前も火の精霊から取ったものだよ」
「イフリートって火の精霊のことなんだな。で、どうしてオルガは精霊の力が使えるんだ?」
「エルフ族は精霊と対話できる唯一の種族なんだ。その能力で、彼らは精霊を使役しているそうだよ」
「なるほどな。精霊に命令して、風の力で矢を飛ばしているわけか」
イアンが納得したところで、オルガに視線を送ると、不機嫌な表情を見せていた。
すると、オルガはセシリアに何やら耳打ちをする。
それを聞いたセシリアはイアンとレイに向かって口を開く。
「…エルフ族は精霊様に力を借りているだけで決して使役などしていない、とオルガさんは言っていますわ」
セシリアの隣でオルガはイアンとレイを睨みつけていた。
「イアン、これは謝った方がよさそうだ」
「そうだな。すまん」
「申し訳ない。僕たちの精霊への造詣が浅かったようだ」
イアンとレイはオルガに向かって、頭を下げた。
二人の謝罪に対して、オルガはフンと鼻を鳴らす。
分かればいいといった感じだろう。
「それで、オルガさんを班に迎えて構いませんね?」
「ああ、遠距離攻撃ができる要員はほしかったところだ。問題ない」
「僕もいいと思うよ」
「では、わたくしが申請書を提出しておきますわ」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「頼んだ。それじゃあ、オルガ。よろしくな」
イアンはオルガに手を差し出す。
だが、その手を見て、突然オルガはセシリアの陰に隠れた。
握手を拒まれたイアンを余所に、オルガはまたセシリアに耳打ちする。
「…精霊がイアンの周りにいない?どういうことかしら…?え?精霊がイアンを怖がっているですって?」
セシリアはオルガが伝えられた事実に困惑しているようだ。
「…イアン、君は何者なんだい?」
「知るか」
訝しむような視線を向けるレイに、イアンは短く吐き捨てた。
二人がのんびりと雑談していると、セシリアも演習場に現れる。
「お待たせしましたわ」
「いや、僕らも今来たところだから気にしないでいいよ」
実際は10分前には着いていたのだが、レイはにこやかにセシリアに返答する。
元々の顔立ちの良さに加え、こういうさりげない気遣いができる部分もレイがよくモテる理由になっているのだろう。
「ありがとうございます。では早速、紹介しますわ。オルガさん、こちらに」
セシリアから声をかけられ、背後から女子生徒が姿を見せた。
身長はイアンより頭一つ小さいくらいだ。
そして、それ以上に目を惹かれたのは、雪のように白い肌とナイフのように尖った耳だった。
「彼女はオルガ・エレドナさん。私と同じ1-A組ですわ」
セシリアに紹介されたオルガは小さくお辞儀をする。
「オルガ嬢はエルフ族だよね?それにエレドナってことは…」
「ご推察の通りですわ。彼女はエレドナ自治区長のご息女です」
「なるほど。道理でエルフ族の彼女が学園にいるわけだ」
「なあ、エルフって何だ?俺らと何が違うんだ?」
イアンが口を挟み、問いかける。
だが、その質問にレイとセシリアは呆れた目をイアンに向けた。
「…貴方、無知が過ぎるのではなくて?」
「うん、悪いけど僕もセシリアに同意するよ」
「何だよ、お前ら。仕方ないだろ。エッジタウンなんて、魔法を使える人間が辛うじて一人いるくらいのド田舎だぞ。お前らにとっての常識なんて分かるわけがないだろ」
イアンの言い訳を聞いて、セシリアはため息を吐いた。
それを見かねたレイが説明を始める。
「じゃあ、この機会に知っておくといいよ。まず、エルフ族は僕らヒト族とは異なる種族だ。耳の形などの身体的な相違があるし、寿命は人間よりはるかに長い。文化も価値観もまったく違うから、基本的にヒトとエルフが関わることはほぼないんだ」
「じゃあ、なんで学園にそのエルフがいるんだよ?」
「それはオルガ嬢の出身のエレドナ自治区に関係するんだ。ちなみに、エレドナ自治区というのは王国内にあるエルフ族の治める土地だよ」
「王国の一部をエルフ族が治めているのか?どういうことだ?」
「え~と、自治区については政治や歴史の難しい話になるけど…聞くかい?」
「いや、聞かなくていい。要点だけ教えてくれ」
「簡潔に言うと、自治権を持つエルフ族が反乱を起こさないために、エレドナ自治区長の娘であるオルガ嬢を学園に入学させているんだよ」
「…つまり、こいつは人質ってことか?」
「君は言い辛いことをはっきりと口にしてくれるね」
レイは皮肉めいた口調でイアンに返答した。
さすがにイアンも空気を読み、話題を変えようとオルガに目をやる。
「ところで、そいつは戦力になるのか?」
「ええ、わたくしが保証しますわ。オルガさん、あの的を射ることはできるかしら?」
セシリアは200m程先にある三つの的を指差した。
オルガは小さく頷くと、背にしていた弓を構える。
その弓はロングボウではなくショートボウ。
オルガの華奢な体格を考慮すると、的に届かないのではないかと思われた。
しかし、オルガは迷いなく矢を三連続で放つ。
そして、風切り音を立てて飛んだ矢は、すべての的の中心に刺さった。
「おぉ…!」
レイは感心したように声を上げ、イアンも驚きのあまり声が出なかった。
「彼女の実力は分かってもらえたかしら?」
「ああ、十分すぎるくらいだ。だが、どうしてショートボウでそこまで飛距離が出る?筋力がありそうな感じじゃないが…」
イアンはオルガの細腕を一瞥した。
「…おそらくだけど、彼女は精霊の力を使っているんだと思う」
「精霊?」
「たぶん風の精霊かな?その力で矢の飛距離を伸ばしているんだろうね」
レイが予想を口にするが、正直イアンはあまりピンときていなかった。
「…イアン、精霊の存在はさすがに知っていますわよね?」
「いや、知らん」
セシリアは額に手を当てて、先程よりも大きくため息を吐いた。
「よく覚えておきなさい。精霊とは自然を司る存在。精霊の力は強大であり、精霊によって世界の秩序が保たれているのですわ」
「そう言われても、そんなこと感じたこともないけどな」
「当たり前ですわ。精霊を人間が知覚することなどできませんもの」
「へえ、そんなもんか。そういえば風の精霊って言ってたが、他にもいるのか?」
「あとは火・水・土の精霊がいるね。ちなみに王族にとって火の精霊は信仰の対象になっているんだ。王都の名前も火の精霊から取ったものだよ」
「イフリートって火の精霊のことなんだな。で、どうしてオルガは精霊の力が使えるんだ?」
「エルフ族は精霊と対話できる唯一の種族なんだ。その能力で、彼らは精霊を使役しているそうだよ」
「なるほどな。精霊に命令して、風の力で矢を飛ばしているわけか」
イアンが納得したところで、オルガに視線を送ると、不機嫌な表情を見せていた。
すると、オルガはセシリアに何やら耳打ちをする。
それを聞いたセシリアはイアンとレイに向かって口を開く。
「…エルフ族は精霊様に力を借りているだけで決して使役などしていない、とオルガさんは言っていますわ」
セシリアの隣でオルガはイアンとレイを睨みつけていた。
「イアン、これは謝った方がよさそうだ」
「そうだな。すまん」
「申し訳ない。僕たちの精霊への造詣が浅かったようだ」
イアンとレイはオルガに向かって、頭を下げた。
二人の謝罪に対して、オルガはフンと鼻を鳴らす。
分かればいいといった感じだろう。
「それで、オルガさんを班に迎えて構いませんね?」
「ああ、遠距離攻撃ができる要員はほしかったところだ。問題ない」
「僕もいいと思うよ」
「では、わたくしが申請書を提出しておきますわ」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「頼んだ。それじゃあ、オルガ。よろしくな」
イアンはオルガに手を差し出す。
だが、その手を見て、突然オルガはセシリアの陰に隠れた。
握手を拒まれたイアンを余所に、オルガはまたセシリアに耳打ちする。
「…精霊がイアンの周りにいない?どういうことかしら…?え?精霊がイアンを怖がっているですって?」
セシリアはオルガが伝えられた事実に困惑しているようだ。
「…イアン、君は何者なんだい?」
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