HERO【完結】

Lucas

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第4話

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 僕達は慌てて会社を出た。
 そしてそのまま走って人気のない路地裏に身を隠した。
 補導されちゃうからね。
「お父さん達、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。スペースにゃんこマンは倒したしな」
 つくねがそう言って僕の頭から飛び下りたので、僕はつくねの隣に座った。
「つくね……そ、その、さっきの話なんだけど」
「ああ。俺は……と、その前に変身を解除するか。解除する時は『ありがとうございました』と叫ぶんだ」
 やっぱり叫ぶのか。
 何かを諦めたように、僕はすぐさま叫んだ。
 通行人が一瞬ビクッとしてこっちを見たけどすぐに隠れたから見つかってないみたい。
 僕が叫ぶと、マントとマスクが光と共に消えた。
「俺は、140エン星から来たスペースヒーローだ。宇宙で悪と戦いながら暮らしていた」
 ワンフォーゼロエン星……140エン。つくね、140円。
「しかしある時、スペースにゃんこマンに攻めこまれ、140エン星は滅んでしまった」
 つくねは真剣な表情で話を続ける。
「俺はその時の戦いでヒーローの力の大半を失ってしまい、何とかこの地球へとやって来た。そこで、お前に出会った」
 何たる不運。僕かわいそう。
「この星……地球をあいつらの好きにはさせない。俺達で守ろうぜ!」
「返事は?」
 痛い! つつかれた。
「…………」
 それでも沈黙を守る僕。
「返事は?」
「はい」
 守りきれませんでした。
 僕はそのまま家に帰った。
 遅刻したうえに、つくねを頭に乗せたまま登校する勇気がなかったから。
「そういえば、お父さんの夢って結局何だったのかな?」
 何のお店が出したかったんだろう?
「さあな。本人に聞いたらどうだ?」
 お父さん、夢を諦めて今の会社で働いてるんだよね……本当は今の仕事、嫌なんじゃないかな?


「ごちそうさま」
「あら、もういいの? まだお腹痛いの?」
 夕飯を半分以上残した僕を心配そうに見てくるお母さん。
 お腹が痛くなったから途中で帰って来たって事になってるんだよね。
「ううん、大丈夫だよ」
 お腹が痛いとか関係なく、つくねの目の前でこれ以上唐揚げを食べる気になれない。
「そう。今日はあったかくして早めに寝なさいね」
「う、うん」
 お母さんはそう言ってつくねのエサにうどんをくれた。
「うどん、うどん!」
 つくねがめっちゃ嬉しそう。僕はうどんを受け取ると部屋に戻った。
「つくね、本当に明日から学校について来るの?」
「うどん、うどん!」
 うどんに夢中で聞いてない。
 つくねが周りの人に見えていると分かった以上全力で阻止しないと。
「安心しろよ。学校の中ではカバンの中に隠れておいてやるからさ。お前に迷惑はかけねえよ」
 うどんを食べてご機嫌になったつくねがそう言った。
「ヒロ、ちょっといいか?」
 その時ノックの音がしてお父さんが部屋に入って来た。
「お父さん、な、何?」
「いや、父さんの勘違いかもしれんが、今日公園で会わなかったか?」
 え? せっとくちばしで忘れてって言ったはずなのにどうして。
「あー、お前『ここで僕を見た事は忘れて』って言ったからな。会社でお前を見た事は忘れてるけど、公園でお前を見た事は覚えてんじゃね?」
 つくねがのんきにそんな事を言った。
 せっとくちばしめんどくせぇ。
「何を話したかあんまり覚えてないんだが、父さん何か変な事言ってなかったか?」
 言ってたよ、お互いに。
 なんて事は言えないよね。
 そうだ。夢の話聞いてみようかな。
「が、学校行く途中にちょっとだけ会ったかも。ねえお父さん、自分のお店を持つのが夢だったの?」
 お父さんは少し驚いた顔で僕を見た。
「父さんはそんな事を話していたのか?」
「え? いや、まあチラッと……」
「そうか。確かにそんな時期もあったなあ」
 そう言ってお父さんは僕の隣に座った。ちなみに僕はベッドの上に座っていて、その隣でうどん食べてたつくねはギリギリの所でお父さんのお尻を避けた。
「お父さん、今のお仕事楽しい?」
「どうした? 突然。ああ、楽しいよ」
 つくねがお父さんをつついているけど、そんな事はお父さんも僕も気にしない。
「でも、お店持つことが夢だったんでしょ? 良かったの? 諦めて……」
 すると、お父さんは優しい表情で僕の頭を撫でながら言った。
「ヒロ、父さんの夢はもう叶っているんだよ。店を持ちたいと思った事もあるが、幸せな家庭を作るのも夢だったんだ。だから、今その夢は叶っている。だから、その家族の為に頑張っている今の仕事はとても楽しいよ」
「そうなんだ」
 お父さんは部屋を出ようと立ち上がると、扉の前で振り返った。
「ヒロ、お前の夢は何だ?」
「えっ? えっと、ま、まだ決まってないよ」
 とりあえずヒーローは辞職したい所存ですが。
「そうか。もし決まったら父さんにも教えてくれよな。おやすみ」
「おやすみ、お父さん」
 夢か。
 そういえば今の僕にも、今までの僕にも夢なんてなかったな。
 お父さんの言っていた自分のお店を持つっていうのもなんだか楽しそうだ。
 とりあえず、候補は焼き鳥屋さんかな。
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