HERO【完結】

Lucas

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第16話

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「ほら、お前がモタモタしてるから!」
「だ、だって」
 校舎を突き破って出てきた巨人に校庭から悲鳴があがる。ていうか勝ち目ないよ。でかすぎるよ。
「ヒロ、飛べ!」
「あの、急に飛べと言われましても」
「早くしろ! 何の為のマントだと思ってるんだ!」
「このマント飛べるの? そういう事はもっと前に言ってよ! これ初期からついてるのに!」
 とりあえず僕は飛んだ。
 あの、こう腕を上に突き出してね、何か心の中で「ヒロGO!」って念じたら飛んだ。
 うん、ガチで怖い。
「あらあら、おチビさん。そのままで私と戦えるのかしら?」
 いや、無理だという事は重々承知しております。
 でもね、このひよこが飛べっていうの。
「あなたなんて一息で吹き飛ばせちゃう。ふぅー!」
 タマクイーンは僕に息を吹きかけた。案の定吹っ飛んで行く僕。滞空時間わずか二十秒。
「うわぁぁぁああああ!」
「羽ばたけ俺ーー!」
 つくねが叫んで落下していく僕から離脱する。ひどすぎない?
「ヒローーーー!」
「お父さん!」
 僕は見事サラリーマンヒデオにキャッチされた。
「大丈夫か? ヒロ!」
「う、うん。ありがとう。僕は大丈夫だけど……お父さんは?」
「はっはっはっ! これくらい余裕さ!」
 いや、でも校庭に体半分埋まってるよ? お父さん、漫画みたいになってるよ?
「おいコラァ! かかってこいや!」
「お母さんやめて挑発しないで戦うのは僕なんだから!」
 タマクイーンは冷たい笑みを浮かべながらこちらを見下ろしている。
「ヒロくん。ヒロくんは何が一番悲しい? ヒロくんの『悲しみ』が欲しいな」
 な、何? 何を企んでるの? 
「ヒロ、奴らは『悲しみ』をエネルギーにするって言っただろ! 絶対悲しむなよ! ほら、さっさともう一度飛べや!」
 つくねがまた僕の頭に飛び乗る。その言葉がとても悲しいんですが。
「お父さん、お母さん! 逃げて! ここは僕に任せて!」
「ヒロ、それは出来ない。なぜなら抜けないから」
 僕は飛んだ。
 ヒロGO! 
「タマちゃん先生! 僕の声聞こえる?」
 タマちゃん先生の意識を呼び覚ます為僕は大声で呼びかけた。
「せいやぁ!」
 タマクイーンは突然拳を校庭に突き立てた。校庭にでっかい穴が開く。何で? 脈絡なさすぎだろ。
「そいやぁ!」
 タマクイーンが校舎を破壊し始めた。
 どこの怪獣映画だ。ていうかマジでやめてよ! 校舎の中にはまだモカちゃんとタカノ君がいるのに!
「タマちゃん先生、やめてよ!」
 僕はタマクイーンの目の前まで飛んで行った。
「ふふふ、もっと悲しみなさい! それが私のエネルギーになるわ!」
 いやいや、悲しみより驚きの方がでかいわ。
「ヒロ、こうなったらお前も巨大化しろ!」
 出たよつくねの無茶ぶり。二人して巨大化って町が崩壊するよね。
「つくね、あのね、他に方法を……」
「はぁぁぁああああ!」
 プルプルしだした。当然僕の話は無視です。 
「ヒーローコンボ! 巨大化!」
 でっかくなっちゃったー。
「よし、行け! ヒロ! 殴りかかれ!」
 通常サイズのつくねが僕の肩にとまった。コンボって言っても巨大化するのも戦うのも僕だけじゃん。
「あら、それでどうする気?」
 タマクイーンがクスクスと笑う。
 本当どうしよう。
 その時壊れかけた校舎からモカちゃんとタカノ君が出てきた。
「あー! タマちゃん先生だー!」
「すげえ! なんででっかくなってるんだ?」
「はぁ!」
 タマクイーンみんなの事お構いなしだよ。また校舎壊し始めた。
「タマちゃん先生、やめてってば!」
 僕は思わずタマクイーンの腕にしがみついた。
「離しなさい!」
 でもタマクイーンはそれを振りほどく。
「うわ! た、倒れる!」
 みんなを踏み潰しちゃう!
「なんのー!」
 僕は両手をつきブリッジの体勢で何とか持ちこたえた。すかさずつくねが僕の顔の上に乗る。何故に?
「うっ……!」
 お、重い! タマクイーンが僕の上に座ってる!
「どこまで持ちこたえられるかしら?」
 無理無理無理! ああ、でも僕の真下にはヒデオがめりこんでる!
「ヒロ、こうなったらみんなの力を借りるしかない」
 僕の鼻の頭に乗ってつくねがこっちを睨みつける。
「せせり、モカフラペチーノ、タカノクリニック、裏拳のマサコ、めりこみヒデオの力をな!」
「ち、力を借りるって、どうやって?」
「はぁぁぁああああい! 吸収! 吸収! はい! はい!」
 何? つくねがごきげんモードで踊りだした。
 ちっちゃい羽をパタパタ動かし鼻の上でピョンピョンと飛び回る。今だかつてないくらい苛立った。
「う、何? 力が抜ける……」
「こ、これは、『スペースヒーロー吸収ダンス』や!」
 みんなが次々と倒れていく。
 力借りるってそういう事? やっぱお前ヒーローじゃないだろ。
 つくねが急に踊りを止めたかと思うと次は光り輝き始めた。身動きが取れない僕にただただ様子を見ているタマクイーン。
 しかし次の瞬間、つくねが巨大化した。
「スペースヒーローつくね! 復活!」
 お前がパワーアップするんかい。
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