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第83話 JUJU
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「アンジュ、ちゃんと髪乾かさないと風邪引くぞ」
風呂上がりのディーを捕まえて、あたしはくしゃくしゃと髪を拭いてやった。
「……いたっ。何?」
頭をペシンと叩いてやるとディーはタオルの隙間からあたしを睨んだ。
「髪拭いて貰ったんだから『ありがとう』だろ?」
「…………ありがと」
「よくできました!」
ガシガシと頭を撫でる。
「…………」
そして、無反応。本当会話続かねー。風呂から出てきても、あんまりモタモタするもんだから痺れきらしてババーッと着替えさせてやるんだけど、その時もこいつ何も言わねーんだよなぁ。してもらって当たり前、みたいな。あたしは人の世話焼くの好きだからいいんだけど態度が気にくわない。ベルのヤツ、こいつに何教えてたんだか。
「んじゃ、寝るか」
「……うん」
さて、ここで気持ち切り替えますか。お待ちかねの添い寝だ。どんなにクソガキでも見た目だけはマジ天使!
「はい、おいで!」
「…………」
無言で腕の中にもぐり込んでくるディー。かっわいいんだけど! リサなんかちょーっとベッドに入っただけで蹴り落としてきたからな。ディーはハグし放題だ。
「……苦しい」
「いいじゃん、ちょっとくらい。お前は本当に可愛いなー」
「…………可愛い?」
「うん! すっげー可愛い!」
「……ジュジュはおれのこと好き?」
腕の中のディーが視線だけ軽く上げた。
「すきー」
おでこにキスをしてやると、少し赤くなってその目を伏せる。リサみたいに頭突きしてこない! 可愛い!
「アンジュは? あたしの事好き?」
「ふつう」
「素直じゃないな。そーいうとこは昔から変わってないよなー」
「昔?」
きょとんとしているディーの目をじっと見つめる。
「お前、本当にあたしの事覚えてない?」
「……おれ達、会った事あるの?」
「まあな。ベルから聞いてね?」
「カモメ……?」
何かを察したような顔。
「うん、まあ……『リサさん』繋がりって、やつ?」
言っちゃった。まあ、それであたしの事恨んでも怒ってもそれは仕方ない。当然の報いだもんな。
ディーがバッと起き上がる。そして、ふーっとため息をついた。何だ? 何か思っていた反応と違う。
「……アンジュ?」
あたしもゆっくり体を起こす。ディーはやたら冷めた目であたしを見ている。
「ジュジュもあの時いた子どもの一人ってわけ?」
「は?」
「お母さんが構ってた子どもでしょ? ジュジュもおれをお母さんと重ねてるの?」
おいおい、舌っ足らずでのんびりした口調はどこ行った?
「おれはお母さんじゃない。ていうか、何が目的?」
「……べっつにー。ただ単にカミングアウトしてみただけ。随分な態度じゃねーか。やっぱ猫被ってたのか?」
「は? 意味分かんない」
「あたしも、つったな? ベルはお前をリサさんと重ねてたのか?」
半信半疑でそう聞いた。ベルは、そんな事するやつじゃない。
「……さあ? でも、おれを見て謝ってたよ? 『リサさん、ごめんなさい』って」
言葉に詰まる。ベルが謝ってた? リサさんに? 何で? だって。
「謝るのは、あたしの方なのに」
「……お母さんと何かあったの?」
ディーの顔を見る。鎌かけている様子もとぼけている様子もない。
「お前……覚えてねーの?」
膝を立てて頬杖ついて、あたしを横目で見てくるディー。
目が、何の事だって言っている。
「リサさんが亡くなった日……あたしもいたじゃん」
「……ジュジュが?」
「いたよ」
お前の母親が死んだのはあたしのせいじゃん。って、そこまでは言わないあたしはズルいかな。
「……分かんない。だって、よく分かんなかったもん。何が起きたのか……」
「…………」
あたしから逸らされた目。長い睫毛が涙に濡れる。
「そっか……。だよな。悪い、つらい事思い出させて」
あたしはそんなディーを抱きしめた。
「あたしは、あんたをリサさんと重ねたりなんかしない。何でベルがそんな事言ったのかは分かんねーけどさ、あたしは重ねたりしてないよ」
「……うん、ありがと」
何だ。言えんじゃんか、お礼。
『リサさん、ごめんなさい』
ベル……何でお前が謝ったりすんだよ。あたしのせいなのに。
「ジュジュ、苦しいよ」
「うん。ごめん」
「ジュジュ……」
「もう少し、このままでいさせて」
もう少しこのままで。いつか真実を話すから。
あたしの罪をすべて話すから。許して貰えなくてもいいから。
「……ジュジュ、お城のメイドしてたんだよね? 救世主に会った?」
「……何だよいきなり。たかがメイドが救世主様に会えるわけねーじゃん」
「そう」
……探り入れてんじゃねーよ、クソガキ。
「悪い、もう大丈夫だ。寝よっか」
「うん。おやすみ、ジュジュ」
やる事、考える事が多い。いくら時間があるとはいえ、頭がもう一つ欲しいくらい。
「あーあ、今日も出てきてくんねーか」
あたしはリサの家の前に腰を下ろす。会ってどうするわけでもないけど……気になってしまう。
ディーはあたしの前では本性丸出しで喋るようになった。ものすごい変わり身だ。
ユズは相変わらずややご機嫌斜め。
ジオはまったく変化なし。タキはやたらと張り切ってるし……。
で、最近新たに気になる人物が。『フロル』だ。
「あの子な、タキに夢中やから。何言ってもタキ、タキって。何か、医者に診せなってゆってて」
ユズはこう言った。タキに夢中。でも、フロルの視線を辿ればいつもそこには『ユズ』がいた。
「医者?」
「タキな、たまーに倒れたりするから。城下町の医者に診せるって言ってこっそりお金貯めたりしとったよ」
帰りが遅いと言ってあたしを迎えに来てくれたユズと並んで歩く。
しかし、まあ泣かせる話だねー。じゃあ、あのリュックにへそくり貯めこんでるのかな。
「てゆーか、あんたあの家の前で何しとったん?」
「んー? ちょっと休憩ー」
「帰って来てからすればいいやん。アンジュ、心配してたで?」
「ふーん。あ、なあなあ。寄りたいとこあんだけど」
「えー、明日でいいやん」
「いいからいいから」
あたしはユズの手を引いて大通りから外れた。
この道は、海岸への近道だ。
風呂上がりのディーを捕まえて、あたしはくしゃくしゃと髪を拭いてやった。
「……いたっ。何?」
頭をペシンと叩いてやるとディーはタオルの隙間からあたしを睨んだ。
「髪拭いて貰ったんだから『ありがとう』だろ?」
「…………ありがと」
「よくできました!」
ガシガシと頭を撫でる。
「…………」
そして、無反応。本当会話続かねー。風呂から出てきても、あんまりモタモタするもんだから痺れきらしてババーッと着替えさせてやるんだけど、その時もこいつ何も言わねーんだよなぁ。してもらって当たり前、みたいな。あたしは人の世話焼くの好きだからいいんだけど態度が気にくわない。ベルのヤツ、こいつに何教えてたんだか。
「んじゃ、寝るか」
「……うん」
さて、ここで気持ち切り替えますか。お待ちかねの添い寝だ。どんなにクソガキでも見た目だけはマジ天使!
「はい、おいで!」
「…………」
無言で腕の中にもぐり込んでくるディー。かっわいいんだけど! リサなんかちょーっとベッドに入っただけで蹴り落としてきたからな。ディーはハグし放題だ。
「……苦しい」
「いいじゃん、ちょっとくらい。お前は本当に可愛いなー」
「…………可愛い?」
「うん! すっげー可愛い!」
「……ジュジュはおれのこと好き?」
腕の中のディーが視線だけ軽く上げた。
「すきー」
おでこにキスをしてやると、少し赤くなってその目を伏せる。リサみたいに頭突きしてこない! 可愛い!
「アンジュは? あたしの事好き?」
「ふつう」
「素直じゃないな。そーいうとこは昔から変わってないよなー」
「昔?」
きょとんとしているディーの目をじっと見つめる。
「お前、本当にあたしの事覚えてない?」
「……おれ達、会った事あるの?」
「まあな。ベルから聞いてね?」
「カモメ……?」
何かを察したような顔。
「うん、まあ……『リサさん』繋がりって、やつ?」
言っちゃった。まあ、それであたしの事恨んでも怒ってもそれは仕方ない。当然の報いだもんな。
ディーがバッと起き上がる。そして、ふーっとため息をついた。何だ? 何か思っていた反応と違う。
「……アンジュ?」
あたしもゆっくり体を起こす。ディーはやたら冷めた目であたしを見ている。
「ジュジュもあの時いた子どもの一人ってわけ?」
「は?」
「お母さんが構ってた子どもでしょ? ジュジュもおれをお母さんと重ねてるの?」
おいおい、舌っ足らずでのんびりした口調はどこ行った?
「おれはお母さんじゃない。ていうか、何が目的?」
「……べっつにー。ただ単にカミングアウトしてみただけ。随分な態度じゃねーか。やっぱ猫被ってたのか?」
「は? 意味分かんない」
「あたしも、つったな? ベルはお前をリサさんと重ねてたのか?」
半信半疑でそう聞いた。ベルは、そんな事するやつじゃない。
「……さあ? でも、おれを見て謝ってたよ? 『リサさん、ごめんなさい』って」
言葉に詰まる。ベルが謝ってた? リサさんに? 何で? だって。
「謝るのは、あたしの方なのに」
「……お母さんと何かあったの?」
ディーの顔を見る。鎌かけている様子もとぼけている様子もない。
「お前……覚えてねーの?」
膝を立てて頬杖ついて、あたしを横目で見てくるディー。
目が、何の事だって言っている。
「リサさんが亡くなった日……あたしもいたじゃん」
「……ジュジュが?」
「いたよ」
お前の母親が死んだのはあたしのせいじゃん。って、そこまでは言わないあたしはズルいかな。
「……分かんない。だって、よく分かんなかったもん。何が起きたのか……」
「…………」
あたしから逸らされた目。長い睫毛が涙に濡れる。
「そっか……。だよな。悪い、つらい事思い出させて」
あたしはそんなディーを抱きしめた。
「あたしは、あんたをリサさんと重ねたりなんかしない。何でベルがそんな事言ったのかは分かんねーけどさ、あたしは重ねたりしてないよ」
「……うん、ありがと」
何だ。言えんじゃんか、お礼。
『リサさん、ごめんなさい』
ベル……何でお前が謝ったりすんだよ。あたしのせいなのに。
「ジュジュ、苦しいよ」
「うん。ごめん」
「ジュジュ……」
「もう少し、このままでいさせて」
もう少しこのままで。いつか真実を話すから。
あたしの罪をすべて話すから。許して貰えなくてもいいから。
「……ジュジュ、お城のメイドしてたんだよね? 救世主に会った?」
「……何だよいきなり。たかがメイドが救世主様に会えるわけねーじゃん」
「そう」
……探り入れてんじゃねーよ、クソガキ。
「悪い、もう大丈夫だ。寝よっか」
「うん。おやすみ、ジュジュ」
やる事、考える事が多い。いくら時間があるとはいえ、頭がもう一つ欲しいくらい。
「あーあ、今日も出てきてくんねーか」
あたしはリサの家の前に腰を下ろす。会ってどうするわけでもないけど……気になってしまう。
ディーはあたしの前では本性丸出しで喋るようになった。ものすごい変わり身だ。
ユズは相変わらずややご機嫌斜め。
ジオはまったく変化なし。タキはやたらと張り切ってるし……。
で、最近新たに気になる人物が。『フロル』だ。
「あの子な、タキに夢中やから。何言ってもタキ、タキって。何か、医者に診せなってゆってて」
ユズはこう言った。タキに夢中。でも、フロルの視線を辿ればいつもそこには『ユズ』がいた。
「医者?」
「タキな、たまーに倒れたりするから。城下町の医者に診せるって言ってこっそりお金貯めたりしとったよ」
帰りが遅いと言ってあたしを迎えに来てくれたユズと並んで歩く。
しかし、まあ泣かせる話だねー。じゃあ、あのリュックにへそくり貯めこんでるのかな。
「てゆーか、あんたあの家の前で何しとったん?」
「んー? ちょっと休憩ー」
「帰って来てからすればいいやん。アンジュ、心配してたで?」
「ふーん。あ、なあなあ。寄りたいとこあんだけど」
「えー、明日でいいやん」
「いいからいいから」
あたしはユズの手を引いて大通りから外れた。
この道は、海岸への近道だ。
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