徒花無双 ~オネェだって冒険したいっ~

月岡雨音

文字の大きさ
5 / 47
序章

05 魔法袋とトラウマ

しおりを挟む
 おねぇはたいりょうのきんざいくをてにいれた!
 つかう
 そうび
→しまう



「どーやって持って帰るのよこれ……」

 現実離れした光景と、それが自分に与えられたという状況にめちゃくちゃどうでもいいこと考えちゃった。
 途方にくれるなんてもんじゃないわよ。だってこんな大量の金細工、一生かけたってどうにかできる気がしないもの。

「そうだな、持ち運びはこれを使うといい」
「なぁにこれ? ちょっとゴツいけど素敵ね」

 鍛冶神様が心なしかうきうきした表情でどこからか取り出したのは、がっちりした飴色の革に細やかなカービングと金属装飾の施された、少し大きめのポーチのような入れ物だった。
 バイク乗りが好きそうな感じって言ったらわかるかしらね。武骨なんだけど味わいがあって、とっても素敵。
 キラキラした物も大好きだけど、こういうのも結構好きなのよねぇあたし。

「これは魔法袋だ。生物以外であれば際限なく物が入る」
「……もう驚かないわ……えぇ驚きませんとも」
「これに入れておけば劣化も破損もせず、重量も感じない。中で物が干渉することもない故、例え毒と食物を同時に入れても問題ない」

 はぁ~神様って凄いわね!? なにこの超便利な代物!!
 子供の頃からずっとずっと、某未来の青い機械猫がいたらいいなぁって思ってたけど、これってそれよね!? 正にあれよね!?

「四次元ポケットじゃない!?」
「よじげん? とやらは分からんが、これは亜空間へと物を収納できる鞄で、俺の作ったものだ。好きに使ってくれ」
「え、これくださるの? いただいちゃっていいの!?」
「あぁ」
「きゃー!! 鍛冶神様ありがとう!!」

 嬉しい……!! 夢がひとつ叶ったわ!!

 あまり思い出したくはないけれど、学生時代、まだ男の子の格好をしていた頃、こっそり集めて大事にしていた女の子向けの小物やアクセサリーを母親に全部捨てられちゃったことがあったのよね。
 それで色々親にバレて散々揉めたりとかして、高校卒業してすぐ家を出たからもう隠す必要はないけれど、それでもあの頃強く願った未来の道具はずっと夢だった。
 決して叶わない夢だと思ってた。

 ……最近は増えに増えて仕方ないドレスの収納の為に欲しかっただなんてそんな、こと、ないわよ? ないの。ないったら。

「金塊よりも嬉しそうだな?」
「ねぇ鍛冶神様、これってあたしの世界でも使えるのかしら?」
「無論。これは使用者の魔力に反応して初めて機能する。手を入れて目的のものを念じれば目に映る任意の場所に取り出せる。入れるときは片手をこれに触れ、もう片手を入れたいものに触れて念じるだけでいい」

 なにその謎技術!!
 ……てか待って。また何か妙なワードが出てきたわね?

「あの……あたし魔力とかないわよ?」
「そちらの世界に魔法はないのか?」

 あったらいいわねそんなもの。
 そうしたらもう少し平和な世の中に……ならないわね。クソみたいな未来しか思いつかないわ。

「ならば俺が所有登録を手伝おう。手を」
「……っはい」

 紳士が淑女をエスコートするかの如く、素敵にスマートに差し出された鍛冶神様の手。
 そのゴツくも美しい手に恥じらいながらそっと指を重ねると、柔らかく握りこまれた。
 ヤバいわ。素敵シチュエーションすぎて幸せで興奮してきちゃったのかしら。
 なんだか体が熱くなって……

「え、本当に熱、てか痛い!?」
「***********……」

 全身を巡るように熱とピリピリとした痛みが走り、聞き取れない言葉を紡ぐ鍛冶神様の手をぎゅっと強く握ると、鍛冶神様はあたしを安心させるかのようにふわりと笑ってくれた。
 今カメラを持っていないことに絶望するしかない~! 反則よぉその微笑み~っ!!

「迷い人よ、名を」
「え、あ、名前? レイよ」
「レイ、それで終いか?」
「……フルネームが必要なの、かしら」
「そうだ。名と魔力を登録することで、お主にしか使えぬようにするのだ」

 えぇぇマジですか……。
 あたし本名好きじゃないのよねぇ……。特に名字。だいっ嫌いなんだけど。
 だけど所有登録とやらに必要らしいし、夢の四次元ポケットのためなら仕方ない。仕方ないのよ。頑張れレイちゃん!

「……いじ」
「ん? すまぬもう一度頼む」

 頑張りきれなくて小声になったらリテイク貰いました。
 んもう何度も言わせないでよ!!

「だから! 岩壁怜士!」
「イワカベレイジ、*********……」

 はぁ……ほんっとこの名字嫌い。
 だって岩壁よ? 岩の壁!
 美しくありたいのに昔から肩も背中も足も全身くまなくやたらとゴツくて、名は体を表しまくってるって散々からかわれたのよ。
 今のあたしになってからは何かしらの契約の時以外ほとんど口にしたことはなかったのにまさかこんな所で言わされるなんて。
 やだやだやってらんないめっちゃタバコ吸いたい。
 岩壁よりぬりかべの方がまだ可愛いげがあるわよねぇ。

「できたぞ……ど、どうした?」
「いーえ別になんでもありませんわよぉ~」

 絶好調にやさぐれてたらその間に鍛冶神様に手を離されてしまった。
 ちょっと鍛冶神様! 人の顔見てドン引きしてんじゃないわよ!!
 せっかくの素敵シチュエーションがこんな終わり方なのしんどくなぁい?

「何もないのならいいが……では、イワカベレイジよ、これを」
「お願いだからその名前で呼ばないで! レイって呼んでちょうだい!!」
「お、おぉすまん、わかった。ではレイ、これをお主に授けよう」
「今度呼んだら契約は無しよ! 鞄ありがとうございます!!」

 はぁ。八つ当たりねこれじゃ。せっかく素敵なものいただいたのに。ごめんなさい鍛冶神様。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...