徒花無双 ~オネェだって冒険したいっ~

月岡雨音

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序章

07 神様のお仕事

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「やぁ、お待たせ」

 見計らったかのようなタイミングで戻ってきたわねこのショタ神。
 『初期投資』ってことは今後ずっといいように使われる可能性が高いってことでしょう?
 色々貰っちゃったしやるって言ったのもあたしだから頑張るけどさぁ、あんまり無茶は言わないでくれるとありがたいのよねぇ。
 まぁ無理かしらね。まずそもそもの一発目からしてこれだもの。

「ではこれを。きみの世界の神へ宛てた手紙だ。あちらに戻ってから、眠るときに枕元にこれを置いて眠ってくれるかい」
「……わかったわ」
「そんなに不安そうな顔をしないでよ。手渡してくれればそれでいいんだ。要件は中にちゃんと書いたからね」

 そうしてあたしは、ショタ神様から手紙を託された。
 見たことも触れたこともないような素材のその封筒は薄い乳白色で、軽くて手触りがとっても良くて、星みたいにキラキラしていて少し透けている。
 透けているのに中身が一切見えない不思議な封筒には、羽根の紋様のガラスみたいな封がされていて、これだけでひとつの芸術作品みたい。
 とっても素敵……。

 うっとり眺めていると、横でそっと二人がにじり寄り、こそこそ話しているのが見えた。

「異界渡りの承諾はもらえたかい?」
「はい。恙無く」
「ふふふふ、それは良かった」
「ちょっと聞こえてるわよ!? なにその不穏な笑いかた!!」
「まぁまぁ。そうだ、帰る前に少しお茶でも飲んでいくかい? こちらの世界について色々聞いておきたいこともあるだろうしね」

 それは確かにそうなんだけど……絶対なんか碌でもないこと企んでるでしょあんた。

 訝しみつつも承諾すると、ショタ神様が指をひとつ鳴らした。
 するとさっきの金塊の時のように音もなく、今度は緑溢れる庭園と、その中に佇む白い石造りのガゼボが現れた。

「え、わ、わっ」

 するすると足元まで侵食してきた草花はそのまま広がり続け、今は視界いっぱい、地平の彼方まで360度麗らかな春の草原になっている。
 思わず鍛冶神様の腕に抱きついちゃったら、そのままエスコートするようにガゼボまで導いてくれた。
 流石紳士ねぇ~。惚れ惚れしちゃう。
 入り口前では、ショタ神様がニコニコと待ち構えていた。

「さ、中へどうぞ」
「じゃあ、お邪魔します」

 全員で中へ入ると、そこは思ったより広々とした造りになっていた。
 中は円形で、入り口以外は全てゆったりとしたソファでぐるりと囲われていて、テーブルの上にはティーセットとお茶菓子まで用意されている。
 等間隔で並ぶ柱に絡む蔦には小さな真珠色の花がほろほろと咲きこぼれていて、なんだか天国か楽園にいるみたい。
 さっきの封筒もそうだったけど、これってショタ神様の趣味なのかしらね? 悔しいけど素敵だわぁ。

 淹れてもらったお茶を優雅に一口。
 ふわりと鼻を抜ける豊かで華やかな香り。紅茶に近いけど渋味は一切なく、澄んだ甘さのある不思議なお茶。

「はぁ……美味しい」
「気に入ってもらえたようでなによりだよ」

 ショタ神様も鍛冶神様も、満足そうに笑っている。
 背景って大事なのねぇ。楽園効果で二柱ともさっきより三割増しで神々しく見えるわ。
 ずっと真っ白な中にいたから、柔らかい緑色が目にも優しく癒しを与えてくれるみたい。

「さて、何から聞きたい?」
「そうねぇ、聞きたいことは色々あるけれど、とりあえずはそっちの世界についてかしら」

 行くことはもう決定事項のようだから、そこへあたしが行って本当に身の危険はないのか。あと何をすればいいのか、何を手に入れてくればいいのか。
 まずはそんなところかしら。

「じゃあまずはこちらの世界について話そうか。今現在、私が管理する世界で生命体のいる星は三つ。そのうち二つは、知的生命体のいる星だ」
「知的生命体?」
「そう。君たちと同じく、言葉を操り住居を構え、町を作り国を作る。そうした文明のもと暮らしている人型の生命体のこと」
「星、っていうのは?」
「大前提としてね、私のように『主神』と呼ばれる者は、それぞれひとつの銀河を管理しているんだ」
「ぎんっ……」

 銀河!? って宇宙に浮かんでるあれ?
 うっそでしょ。このショタ神様もあのどれかひとつの管理をしているってこと?

「なんだかとんでもなく壮大な話になってきたわね……」
「ふふ。確かに君たちにはなかなか想像が及ばない話しかもしれないね。だけど本当なんだよ。この広大な宇宙に散らばる銀河ひとつひとつに一柱の主神が必ずいて、それぞれの世界を見守り、育んでいるのさ」
「本当に想像つかないわねぇ……」

 なんだかとんでもない世界の真理を知ってしまったんじゃないのかしら。
 あたしなんかにそんな話を聞かせちゃって本当にいいの?

「え、待ってじゃあ異世界人って宇宙人ってこと?」
「きみも宇宙人だよ?」
「……そう言われてみればそう、ね」
「納得できたかい?」
「ぐうの音も出ないわ」
「ふふふ。お茶のおかわりいる?」
「あら、どうもありがとう」

 こぽぽぽ、と温かいお茶でカップが満たされていく。
 あぁ本当いい香り。癒されるわぁ~。
 でもそうね。荒唐無稽なのはもう今に始まった話じゃないんだから。腰を据えてリラックスして、ちゃんと話を理解しなくちゃ。
 聞けることも聞いて、不安要素をなくしていかないとね!

「ねぇ、神様も人型なのはどうして?」
「知的生命体として最もスタンダードだからだよ。二足歩行で手先が器用で、様々なものを創造する。まぁ中には手足の数が違ったり羽とか角とか触手なんかが生えてたりする種族もいたりするけどね」
「そんなのもいるんだ……」
「ひとつの銀河にあれだけの恒星があって、それぞれに惑星があって衛星もあって彗星やはぐれ星なんかもある。でもね、それだけ膨大な数の星があっても、生命体、ましてや知的生命体が生きていける星なんて片手にも満たないんだよ。砂漠から砂金を拾い上げるようなものだ。君たちはそんな奇跡的な確率で生まれ、命を謳歌しているんだよ」

 そう言って、ショタ神様はふわりと微笑んだ。
 神々しくも厳かで、慈愛のある笑顔。
 疑ってたわけじゃないけど、見縊って侮っていたのを深く悔い改めさせられる、そんな神々しさがあって、思わず跪いてしまいそうになる。
 この方は神様。それも銀河ひとつをその手で管理する主神様なんだわ……。

 なんて、神様オーラに圧倒されていたんだけれども。

「そんな中でね、違う世界から違う文明や先行した知識、技術を持ち、更には特別な能力まで身につけたそちらの世界の人族が大挙押し寄せてきたらどうなるか、想像できるかい?」
「え」
「こっちの世界の発展に役立つものもあるし、ある程度ならこちらとしてもおもし……ありがたいからいいんだけど」
「あんた今おもしろいって言いかけたでしょ」

 なーんとなく雲行きが怪しくなってきたのよねぇ……。
 慈愛の微笑みからニッコリ笑顔にあっという間にモードチェンジしてしまったショタ神様の口は俄然止まらない。

「中にはやんちゃしちゃう落ち人もいるからね、困っているんだよ。特に魔王は脅威じゃないっていくら言っても聞かない暴走型自称勇者とかさ」
「うわぁ……てか魔王なんているの!?」
「いるよ。でも初代勇者と呼ばれているかつての落ち人のおかげで和解して今は平和なんだ。魔王と言ってもただの魔族が統治する国の王様ってだけなんだけど。いや魔王にはほんと苦労かけるよ」
「落ち人のこと把握してないの?」
「知らないうちに落ちてたりするからね。どのような人物が、いつどこに落ちたかを全て把握はできないよ。元々の住人ですら把握してはいないんだ。混ざって大人しく暮らしていたらそうそう見分けもつかないし」
「なるほどねぇ……」
「さすがに色々やらかしてればマークはするよ。あまり干渉はしない方針なんだけど、落ち人はこちらに言わせれば「異物」だからね。私や配下の神たちによって手を下すこともあるがそれは最終手段だ。その前に落ち着いてくれればいいんだけれどなかなかどうしてそううまくはいかないもので……いやはや本当に、落ち人は困ったものだよ」

 ね! ってにこやかに肩に手を置かれちゃったんだけど!!
 あぁほらもう!! 嫌な予感がぷんぷんしてきたわ!!
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