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第一章
09 ガチヤバハロウィン屋敷
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まずはお部屋の確保をすべく、紹介してもらった宿を探しながら大通りをまた港側へと歩く。
ほどなくして「灯火亭」と書かれた看板を提げた、三階建ての大きな建物を見つけた。
一階には受付と食堂、二階と三階が客室になっているらしく、冒険者よりは旅客や商人を相手にするような、少し小洒落たお宿。だけどお値段はリーズナブルという、さすがの千草さんセレクトだわ。
「いらっしゃいませ。お泊まりですか、お食事ですか」
「泊まりで、二泊ほどお願いしたいんだけど、お部屋はあるかしら?」
「え、えぇございます。お連れ様はいらっしゃいますか」
「あたしひとりよ」
「……っ、かしこまりました。ではタグをよろしいでしょうか」
「タグ? はいどうぞ」
「ありがとうございます。……はい、確認いたしました。では少々お待ちくださいませ」
……まぁ、やっぱり物珍しいのかしらねあたしみたいなのは。
それでもきちんと受け答えをしてくれたのはさすが商売人といったところかしらね。頬の引きつりは見逃してあげるわ。
「お待たせいたしました。お部屋の料金のみ先に頂くようになっておりますがよろしいでしょうか」
「おいくらかしら?」
「二泊で九万ジルでございます」
なるほど、一泊が四万五千ジルで割とリーズナブルと。
こういうの逐一メモでもしておこうかしら。多分日本円に換算してもあんまり意味ないもの。物の価値がそもそも違うから全然参考にならないし。
それこそギルドで大まかな物価とか聞いておくんだったわねぇ。ここは大丈夫だとしても、町じゃどこでボラれるかわからないし、こっちの金銭感覚に早めに慣れておきたいわ。
神様情報もあまりあてにならなかったし、初代勇者の頃になんとなく決まった指数がそのまま伝わっているような感じがするわねぇ。
「では、お部屋までご案内いたします」
「お願いします」
受付で後ろに控えていた少し恰幅のいい男性に案内されたのは、三階の一番奥の部屋。そこは正面と右手にある大きな窓を開くと町と海がよく見える、とても見晴らしのいいお部屋だった。
ひとりって言ったのにベッドはふたつ、ドレッサーにテーブルセットも完備。天井にはなんとシャンデリアまであるわ。
こんな素敵なお部屋借りちゃっていいのかしら?
「申し遅れました。私はこの宿の支配人、バロムと申します。先程ギルドから連絡がございまして、レイ様のお世話を任されております」
「そうだったのね。お気遣いありがとうございます。でもそんなに畏まらないでくださいな。あたしはただのなりたて冒険者ですから」
「恐縮でございます。しかしながらギルドからは大切なお客様と伺っております。お任せいただきましたからには、私共からも精一杯のおもてなしをご提供できればと存じます」
まったく、誰が何を吹き込んでくれたのかしら。やっぱりこの部屋、お値段よりグレードアップしてくれてるっぽいわね。
静かに頬笑む支配人を見るに、きっと改めてはくれないでしょうねぇ。こういう商売人はたいがい頑ななのよ。
「わかったわ。ならこのお部屋はありがたく使わせていただくわね」
「ありがとうございます。何かございましたら、受付まで何なりとお申し付けくださいませ」
「えぇ。お世話になります」
ふう。お部屋ひとつで気疲れするとは思わなかったわ。
それにしても広いわね。ベッドルームとリビング、パウダールームも完璧よ。お風呂も広々しているし、もしかしてここの宿で一番いいお部屋なんじゃないかしら?
……まぁ、いいって言うから泊まりますけどね! せっかくだから満喫させてもらっちゃいましょう!
「とは言え夕食にもまだ早いし、とりあえずまた町を少し歩いてみようかしらね」
神様達からの依頼品は自称勇者の件が片付いてから手を出すつもりでいるけれど、下見も兼ねて町にどんな物があるのか見て回ってみるのも面白そうだわ。物価を知る目安にもなりそうだし。
そう思ったらなんだかわくわくしてきちゃった。町には獣人族以外の種族もいるって聞いたし、美味しいものがあればそれも食べてみたい。
鍛冶神様じゃないけれど、地球にないような細工のものがあればお土産にもしたい。
「お店のお土産はここでは買えないしね、自分へのお土産にするしかないものね。うふふ~」
さぁて、町歩き装備に着替えも済んだし、早速お出掛けしましょう!
受付に鍵を渡し上機嫌で町へ踏み出したあたしは、気の向くままにお店や屋台を巡って歩いた。
中には追い払われちゃうお店もあったけど気にせずどんどん行っちゃうわよ! こんなんでいちいち立ち止まってるるようじゃオネェなんてやってらんないんだから!
そんな勢いでぐいぐい話しかけて色々買い込んでいたら、そのうち周りの人達も慣れてきたのか、普通に話してくれるようになっていったわ。
「お、あんた洒落た魔法袋持ってんな」
「えぇ。でも特に珍しくはないんでしょ?」
「そりゃ商人や冒険者の必須アイテムだがなぁ、そんな凝った細工のもんは珍しいし、あんたは見たとこどっちでもねぇだろ」
「あたしは冒険者よ? なりたてだけど」
「そのナリでか!? っかぁ~、冒険者ってなぁ舞踏会に行くわけじゃねぇんだぞ?」
「失礼ねぇ、ちゃんとギルドでタグも貰ったわよ」
「どれ見せてみな、ってあんた落ち人か」
「そうよ」
「魔法は使えんのかい」
「うーん、なんとなく?」
「なんだそりゃ」
「だってあたしこっちに来たばかりで、まだよくわからないのよ」
魔法の使い方はなんとなくわかるけれど、どんな魔法があるのか、どんなことができるのか、それがいまいちよくわからなくて、実はさっきからずっと書店を探しているのよね。入門書的な物があれば欲しいんだけど。
だってあたしも魔法が使えるはずだもの、使ってみたいじゃない!
「ねぇ、この辺りで魔法について書かれた本とか売ってるお店ってないかしら」
「魔法の本ン? そんなもんここらじゃ……あー、あるな」
「あるの!?」
「だが……本売りじゃねぇぞ?」
「何屋だって本があるなら構わないわよ。ね、教えてくださる?」
「後で文句言うなよ?」
「何に対しての文句よ。なぁに? やけに渋るわねぇ」
「行きゃあわかる。ここから三本目の通りを右に入って、赤い屋根の家んとこを左、んで突き当たりだ」
「ありがとう! 行ってみるわね」
絶対文句言うなよ! という屋台オヤジの声にはいはいと手を振りながら、あたしは早速そのお店に向かって歩き出す。
それにしてもどうしてあんなに渋っていたのかしらね? 何か変わったお店なのかしら。
「三本目を右に入って、赤い屋根の家を左、で突き当たり……と」
言われた通りに赤い屋根の家がある角を左に曲がってみると、その先はひっそりと暗く、細長い路地になっていた。
突き当たりにはぼんやりと、蝋燭の火のような弱々しい明かりがちらちらと見え隠れしている。
「なにこれこっわ!!」
なによここ!? 一言で言うなら不気味。野良猫かおばけかチンピラのどれかが高確率で出てきそうな雰囲気だわ。大穴でゾンビね。
やだもうやめてよあたしホラーとか大っ嫌いなんだからぁ!
そろそろと、辺りを窺いながらそーっとそーっと進んでいくと、突き当たりの建物が少しずつはっきりと見えてきた。
やっぱり揺らめいていたのは蝋燭で、路地の幅より狭い門柱に埋め込まれた燭台に、毒々しい赤紫色の蝋燭が立てられていた。
門の向こうの建物は扉と尖った屋根しか見えず、前庭に生い茂る木々に鬱蒼と覆われていて、全体的にどんよりしている。
「これは……確かに文句も言いたくなるわねぇ」
ヤバい。めっちゃこわいんですけど。
呼び鈴なんてないけれど、あってもこれはなかなか入りたいとは思えないわね……。
「どうしようかしら。でも魔法の本があるなら欲しいのよねぇ」
『魔法に興味がおありかい?』
「ヒィヤァァァァッ!?」
え、ちょっと待ってなになになになに!?
『喧しいねぇ、用がないなら帰りな』
「ま、待って! 用はあるの!」
あるけど、あるんだけどこわぁい!!
なにこれ!? 誰がどこから喋ってるの!?
『おや、お前さん珍しい物を待っているね? それと交換するなら話を聞いてやってもいいが』
「指輪はダメよ! あ、あとネックレスと御守りと鞄もダメだわ」
『ヒヒヒ、慾深なことだ。まぁいい、入りな』
ギィ、と軋んだ音を立てて、門が勝手に開く。震える足でそっとその中へと入ると、またしても勝手に門が閉まった。
「ヒィィィィィッ!!」
『鈍臭いねぇ、さっさと入りな』
声に急かされるまま低く前方を遮る木の枝を潜り抜け、門から建物の扉へと這々の体で辿り着いたあたしは、すうと一呼吸。覚悟を決めて恐る恐るノッカーを鳴らしてみた。
「ごめんくださーい……」
「面倒な子だね。入れってんだからさっさとお入りな」
あれ、さっきと違って肉声がするわ。
そっとノッカーから手を離すと中から扉が開かれて、いかにも『魔女でござい!』と言わんばかりの、背よりも高い杖をついた小柄な老婆が現れた。
「ちっさ!」
「でっか!」
「…………」
「…………」
「不躾な坊やだね」
「失礼な婆さんねぇ!」
なんなのかしらこのミニマム婆さんは。初対面からめちゃくちゃ感じ悪いわね。
もうこの空間から一刻も早く抜け出したい。怖いし魔女だしなんなのよこれ異世界ハロウィン?
ホラー嫌いだって言ってるでしょうよもうたまったもんじゃないわ。
「いやはやまぁまぁ、よく見りゃお前さん上から下までとんでもないねぇ。こりゃ面白い客が来たもんだ」
「なによ。なにか問題でも?」
「大有りだバカタレが。よくそんなナリで表を歩けたもんだね」
「これがあたしなのよ! そんな風に言われる筋合いはないわ」
「身形のことを言ってるんじゃないよ。とにかく中へ入りな」
ぐいと手首を引かれて、あたしは部屋の中へと連れていかれる。
え、やだちょっともういいわよいいってば帰りたい帰らせてなんなのよもぉ~!!
「お前さん、神の国へ行っただろう?」
「……!?」
「ヒヒヒッ、いい表情だ。素直な子は嫌いじゃないよ坊や」
まぁ座ってな、とソファに放り投げられて、あたしは呆然とする。
なにが起きてるの? なんで、どうして何も言ってないのに……!!
「【真眼】?」
「ヒヒッ、近いが惜しい。だがまだ種明かしはしないよ」
面白くないからね。カサつく声でヒヒヒと笑いながら、老婆は奥の部屋へと消えていった。
……これもしかして、結構ヤバい状況なんじゃないの!?
くっそあの屋台のオヤジ! やっぱり後で文句言いに行ってやるんだから!!
ほどなくして「灯火亭」と書かれた看板を提げた、三階建ての大きな建物を見つけた。
一階には受付と食堂、二階と三階が客室になっているらしく、冒険者よりは旅客や商人を相手にするような、少し小洒落たお宿。だけどお値段はリーズナブルという、さすがの千草さんセレクトだわ。
「いらっしゃいませ。お泊まりですか、お食事ですか」
「泊まりで、二泊ほどお願いしたいんだけど、お部屋はあるかしら?」
「え、えぇございます。お連れ様はいらっしゃいますか」
「あたしひとりよ」
「……っ、かしこまりました。ではタグをよろしいでしょうか」
「タグ? はいどうぞ」
「ありがとうございます。……はい、確認いたしました。では少々お待ちくださいませ」
……まぁ、やっぱり物珍しいのかしらねあたしみたいなのは。
それでもきちんと受け答えをしてくれたのはさすが商売人といったところかしらね。頬の引きつりは見逃してあげるわ。
「お待たせいたしました。お部屋の料金のみ先に頂くようになっておりますがよろしいでしょうか」
「おいくらかしら?」
「二泊で九万ジルでございます」
なるほど、一泊が四万五千ジルで割とリーズナブルと。
こういうの逐一メモでもしておこうかしら。多分日本円に換算してもあんまり意味ないもの。物の価値がそもそも違うから全然参考にならないし。
それこそギルドで大まかな物価とか聞いておくんだったわねぇ。ここは大丈夫だとしても、町じゃどこでボラれるかわからないし、こっちの金銭感覚に早めに慣れておきたいわ。
神様情報もあまりあてにならなかったし、初代勇者の頃になんとなく決まった指数がそのまま伝わっているような感じがするわねぇ。
「では、お部屋までご案内いたします」
「お願いします」
受付で後ろに控えていた少し恰幅のいい男性に案内されたのは、三階の一番奥の部屋。そこは正面と右手にある大きな窓を開くと町と海がよく見える、とても見晴らしのいいお部屋だった。
ひとりって言ったのにベッドはふたつ、ドレッサーにテーブルセットも完備。天井にはなんとシャンデリアまであるわ。
こんな素敵なお部屋借りちゃっていいのかしら?
「申し遅れました。私はこの宿の支配人、バロムと申します。先程ギルドから連絡がございまして、レイ様のお世話を任されております」
「そうだったのね。お気遣いありがとうございます。でもそんなに畏まらないでくださいな。あたしはただのなりたて冒険者ですから」
「恐縮でございます。しかしながらギルドからは大切なお客様と伺っております。お任せいただきましたからには、私共からも精一杯のおもてなしをご提供できればと存じます」
まったく、誰が何を吹き込んでくれたのかしら。やっぱりこの部屋、お値段よりグレードアップしてくれてるっぽいわね。
静かに頬笑む支配人を見るに、きっと改めてはくれないでしょうねぇ。こういう商売人はたいがい頑ななのよ。
「わかったわ。ならこのお部屋はありがたく使わせていただくわね」
「ありがとうございます。何かございましたら、受付まで何なりとお申し付けくださいませ」
「えぇ。お世話になります」
ふう。お部屋ひとつで気疲れするとは思わなかったわ。
それにしても広いわね。ベッドルームとリビング、パウダールームも完璧よ。お風呂も広々しているし、もしかしてここの宿で一番いいお部屋なんじゃないかしら?
……まぁ、いいって言うから泊まりますけどね! せっかくだから満喫させてもらっちゃいましょう!
「とは言え夕食にもまだ早いし、とりあえずまた町を少し歩いてみようかしらね」
神様達からの依頼品は自称勇者の件が片付いてから手を出すつもりでいるけれど、下見も兼ねて町にどんな物があるのか見て回ってみるのも面白そうだわ。物価を知る目安にもなりそうだし。
そう思ったらなんだかわくわくしてきちゃった。町には獣人族以外の種族もいるって聞いたし、美味しいものがあればそれも食べてみたい。
鍛冶神様じゃないけれど、地球にないような細工のものがあればお土産にもしたい。
「お店のお土産はここでは買えないしね、自分へのお土産にするしかないものね。うふふ~」
さぁて、町歩き装備に着替えも済んだし、早速お出掛けしましょう!
受付に鍵を渡し上機嫌で町へ踏み出したあたしは、気の向くままにお店や屋台を巡って歩いた。
中には追い払われちゃうお店もあったけど気にせずどんどん行っちゃうわよ! こんなんでいちいち立ち止まってるるようじゃオネェなんてやってらんないんだから!
そんな勢いでぐいぐい話しかけて色々買い込んでいたら、そのうち周りの人達も慣れてきたのか、普通に話してくれるようになっていったわ。
「お、あんた洒落た魔法袋持ってんな」
「えぇ。でも特に珍しくはないんでしょ?」
「そりゃ商人や冒険者の必須アイテムだがなぁ、そんな凝った細工のもんは珍しいし、あんたは見たとこどっちでもねぇだろ」
「あたしは冒険者よ? なりたてだけど」
「そのナリでか!? っかぁ~、冒険者ってなぁ舞踏会に行くわけじゃねぇんだぞ?」
「失礼ねぇ、ちゃんとギルドでタグも貰ったわよ」
「どれ見せてみな、ってあんた落ち人か」
「そうよ」
「魔法は使えんのかい」
「うーん、なんとなく?」
「なんだそりゃ」
「だってあたしこっちに来たばかりで、まだよくわからないのよ」
魔法の使い方はなんとなくわかるけれど、どんな魔法があるのか、どんなことができるのか、それがいまいちよくわからなくて、実はさっきからずっと書店を探しているのよね。入門書的な物があれば欲しいんだけど。
だってあたしも魔法が使えるはずだもの、使ってみたいじゃない!
「ねぇ、この辺りで魔法について書かれた本とか売ってるお店ってないかしら」
「魔法の本ン? そんなもんここらじゃ……あー、あるな」
「あるの!?」
「だが……本売りじゃねぇぞ?」
「何屋だって本があるなら構わないわよ。ね、教えてくださる?」
「後で文句言うなよ?」
「何に対しての文句よ。なぁに? やけに渋るわねぇ」
「行きゃあわかる。ここから三本目の通りを右に入って、赤い屋根の家んとこを左、んで突き当たりだ」
「ありがとう! 行ってみるわね」
絶対文句言うなよ! という屋台オヤジの声にはいはいと手を振りながら、あたしは早速そのお店に向かって歩き出す。
それにしてもどうしてあんなに渋っていたのかしらね? 何か変わったお店なのかしら。
「三本目を右に入って、赤い屋根の家を左、で突き当たり……と」
言われた通りに赤い屋根の家がある角を左に曲がってみると、その先はひっそりと暗く、細長い路地になっていた。
突き当たりにはぼんやりと、蝋燭の火のような弱々しい明かりがちらちらと見え隠れしている。
「なにこれこっわ!!」
なによここ!? 一言で言うなら不気味。野良猫かおばけかチンピラのどれかが高確率で出てきそうな雰囲気だわ。大穴でゾンビね。
やだもうやめてよあたしホラーとか大っ嫌いなんだからぁ!
そろそろと、辺りを窺いながらそーっとそーっと進んでいくと、突き当たりの建物が少しずつはっきりと見えてきた。
やっぱり揺らめいていたのは蝋燭で、路地の幅より狭い門柱に埋め込まれた燭台に、毒々しい赤紫色の蝋燭が立てられていた。
門の向こうの建物は扉と尖った屋根しか見えず、前庭に生い茂る木々に鬱蒼と覆われていて、全体的にどんよりしている。
「これは……確かに文句も言いたくなるわねぇ」
ヤバい。めっちゃこわいんですけど。
呼び鈴なんてないけれど、あってもこれはなかなか入りたいとは思えないわね……。
「どうしようかしら。でも魔法の本があるなら欲しいのよねぇ」
『魔法に興味がおありかい?』
「ヒィヤァァァァッ!?」
え、ちょっと待ってなになになになに!?
『喧しいねぇ、用がないなら帰りな』
「ま、待って! 用はあるの!」
あるけど、あるんだけどこわぁい!!
なにこれ!? 誰がどこから喋ってるの!?
『おや、お前さん珍しい物を待っているね? それと交換するなら話を聞いてやってもいいが』
「指輪はダメよ! あ、あとネックレスと御守りと鞄もダメだわ」
『ヒヒヒ、慾深なことだ。まぁいい、入りな』
ギィ、と軋んだ音を立てて、門が勝手に開く。震える足でそっとその中へと入ると、またしても勝手に門が閉まった。
「ヒィィィィィッ!!」
『鈍臭いねぇ、さっさと入りな』
声に急かされるまま低く前方を遮る木の枝を潜り抜け、門から建物の扉へと這々の体で辿り着いたあたしは、すうと一呼吸。覚悟を決めて恐る恐るノッカーを鳴らしてみた。
「ごめんくださーい……」
「面倒な子だね。入れってんだからさっさとお入りな」
あれ、さっきと違って肉声がするわ。
そっとノッカーから手を離すと中から扉が開かれて、いかにも『魔女でござい!』と言わんばかりの、背よりも高い杖をついた小柄な老婆が現れた。
「ちっさ!」
「でっか!」
「…………」
「…………」
「不躾な坊やだね」
「失礼な婆さんねぇ!」
なんなのかしらこのミニマム婆さんは。初対面からめちゃくちゃ感じ悪いわね。
もうこの空間から一刻も早く抜け出したい。怖いし魔女だしなんなのよこれ異世界ハロウィン?
ホラー嫌いだって言ってるでしょうよもうたまったもんじゃないわ。
「いやはやまぁまぁ、よく見りゃお前さん上から下までとんでもないねぇ。こりゃ面白い客が来たもんだ」
「なによ。なにか問題でも?」
「大有りだバカタレが。よくそんなナリで表を歩けたもんだね」
「これがあたしなのよ! そんな風に言われる筋合いはないわ」
「身形のことを言ってるんじゃないよ。とにかく中へ入りな」
ぐいと手首を引かれて、あたしは部屋の中へと連れていかれる。
え、やだちょっともういいわよいいってば帰りたい帰らせてなんなのよもぉ~!!
「お前さん、神の国へ行っただろう?」
「……!?」
「ヒヒヒッ、いい表情だ。素直な子は嫌いじゃないよ坊や」
まぁ座ってな、とソファに放り投げられて、あたしは呆然とする。
なにが起きてるの? なんで、どうして何も言ってないのに……!!
「【真眼】?」
「ヒヒッ、近いが惜しい。だがまだ種明かしはしないよ」
面白くないからね。カサつく声でヒヒヒと笑いながら、老婆は奥の部屋へと消えていった。
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くっそあの屋台のオヤジ! やっぱり後で文句言いに行ってやるんだから!!
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