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第一章
36 帰還者第一号
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また騒がれても面倒だからと、河野はセヘルシアでの記憶と能力を消して、眠らせたまま強制送還することになった。
本人の意向を聞いて、なんていう措置は今回は無し。それでも水の女神様だけは、あたし達とは違う意味で彼の帰還を喜んでいたけれど。
「このような若い身空で、ご家族や縁の者と生き別れにさせてしまったんですもの。わたくしが至らないばかりに」
慈しむように微笑みながら、眠る河野の頭を撫でて水の女神様はそう小さく呟いた。
そんな理由で胸を痛めていたの……貴女のせいなんかじゃないっていうのに。
「水のよ、気に病むな。これでこやつも救われるのだ」
「そうよ。むしろこんなに気にかけてもらえるなんて、この子は幸せな方じゃない」
セヘルシアにも、もうひとつのアトミスという星にも、まだまだたくさん落ち人はいる。
その中でたまたま神域で出会ってしまっただけの話であって、どの神様にも出会えず、為す術なく落ちてしまった人だってたくさんいるんだもの。
……そんな彼らを救う手立てを握っているのが何の因果かあたしだっていうことは、改めて胸に刻まなくちゃいけないわね。
「レイ様こそ、そのように気負われましては後々きっとお辛くなってしまわれます。どうぞご自身こそを大切になさってくださいませね」
「わかってるわ、大丈夫よ女神様」
伊達に珍獣使いなんてやっちゃいないわよ。頼られたなら応えたいって思っちゃうのも、もう性分だしね。
差し伸べられた手の温かさや嬉しさ、ありがたさをもう知っているから、あたしにも差し出せる手があるのなら伸ばしてあげたいって思うじゃない。
そうやってうちの店に来たコは多いのよ。他のお店で切られちゃったコとか、家出少年とかね。
あのコ達の受け皿になれているっていう自負は、今後きっと、力になってくれると思うの。
「……さて、そろそろ送るよ、レイ」
「えぇ、サクッと帰してくるわ」
「こちらでは下の様子を見ておくよ」
「……それなんだけど、神域に連れて来ちゃってるんだし、もう変化って出てないのかしらね?」
「なら先に聞いておくかい?」
そう言ってショタ神様はスッと目を閉じ、声を飛ばした。
相手は言わずもがな、メルネ婆さんだ。
「メルネ、今いいかい?」
向こうの声はあたし達には聞こえないけれど、会話の端々で少しだけ伝わってくるものがあった。
きっと向こうではもう、河野がいた形跡は何ひとつ残っていない様子。
そうなるとやっぱり歴史が変わってしまうから、長年こっちにいる落ち人達を帰らせてあげる為にはまだ色々と……
「いやいいんだ、変なことを聞いてすまなかったね……レイ? ここにいるが……わかった、少し待ってくれるかい」
「あたし?」
「レイ、メルネから受け取った話具はあるかい?」
「え、えぇまだ着けてるわよ」
考えを遮り声をかけられて、慌てて「ほら」と腕輪を見せるとショタ神様がそれに手を添え、するとすぐに婆さんからの声が届いた。
こんな使い方もできちゃうの!? 凄いわねあの婆さん!!
『レイ』
「な、なぁに?」
『お前さん戻ってきたらあたしの所へおいでな』
「はい? なんでよ」
『ヒヒッそれは来てからのお楽しみさね』
「まぁた碌でもないこと企んでるんでしょ……嫌ぁよ、そもそもどこに居るのよ」
『さっきお前さんらと別れた所からそう離れちゃいないよ』
「何してんのよそんな所で……」
『野暮用と言ったろう? なぁに、少しばかり手を借りたいだけさ』
「なによそれ。あたしじゃなきゃダメなの?」
『あぁ勿論そうさ。じゃ、待っとるよ』
止める間もなく、言いたいことだけ言ってあっさりと切られてしまった。
ほんっとにあの婆さんはもう!! あんな所で一体何をしてるんだか、何をさせられるんだかもわかったもんじゃないわね。
あたしがぷんぷんしていると、ショタ神様は少し神妙な顔つきで、改めて婆さんとの会話を口にした。
「メルネは彼のことを覚えていなかった。時を遡っての回収では、その後の影響は全てなかったことになるみたいだね」
「そのようねぇ。まぁギルドでも色々調べてもらってるから、回収は慎重にいきましょうよ。なるべく大きな変化が起きないようにしていけばいいんじゃなぁい?」
「しかし、それでは人の世の在りようをこちらの好きにできてしまう。……統御のような真似を、私はしたくはないんだ」
あぁ、そういえば前にもそんなようなことを言っていたわね……。
人の営みに関与しすぎない方針で、けれど落ち人はそもそも居ないはずのものだから、どうにかしたいとは思っていたもののそこまで積極的じゃなかったのよ。
神様だって万能じゃないのね、なんてそのときは言ってしまったけれど。
「今回、彼については水のを解放する為に強制排除にしたが……ふむ。どうしたものかな」
人の世ばかりにかまけてもいられない。かといって一切の関与を無くすことも出来ずこうして思い悩む姿に、あたしはひとつも掛けられる言葉を持っていない。
別の世界の、神様なんかには遠く及ばない、ただの人間だもの。当然だけど、少し歯痒い気持ちもあるわね。
「まぁその辺は追々考えるよ。とりあえず、彼を送ってきてあげてくれるかい」
「……わかったわ。じゃあまたあとでね」
そして先日も訪れた、あたし達の住む世界の神域へとふたり揃って飛ばされてきた。
あちらの神域と同じく真っ白で果ての見えない場所だけれど、それでも「本来の居場所」らしく、空気が身に馴染むような気がなんとなくするのよね。
「や、お帰り」
出迎えてくださったのは、いつものスウェット姿の兄主神様。
あ、今日は靴下履いてるわ……。ピンク色の。
その謎センスに釘付けになっていると、兄主神様は側でしゃがみこみ、河野の髪をツイツイと、指先で引っ張っていた。
「で、こいつが帰還者第一号?」
「えぇそうなの。向こうでの記憶と、身に付いた能力は消してもらったから、こっちから飛んだ日に還してあげてくださるかしら」
「ふぅん……もう魔法使えないの?」
「……たぶん?」
「なぁんだ」
相変わらず魔法がお好きなようねぇ。
ていうかこいつに魔法持たせたままこっちに戻したりなんかしたら大変なことになっちゃうわよ!?
ちょっと炎を扱えるだけで魔王のとこに単身乗り込んじゃうような大バカ野郎なのよ!?
「それじゃ困るね。まあいいや、あんたがいるし」
「あたし!?」
「うん。使えるでしょ、こっちでも」
「どうかしら……魔法の鞄は使えたけれど、魔素がないから無理なんじゃなぁい?」
「昔こっちにいた落ち人魔女は使えてたよ」
「そうは言ってもねぇ。もし使えたとしても、こっちじゃ向こうのようにはしないわよ」
嫌よ。もし大っぴらに使ってバレちゃったら、「オネェ奇術師」とかいって面白おかしくメディアの玩具にされるのが目に見えてるもの!
見世物にされて持ち上げられて、散々騒ぎ立てて飽きたらポイよ。そんなのまっぴら御免だわ。
「えぇー」
「えぇーじゃないわよ! ったくもう!」
まったく! どいつもこいつも!!
まぁ、誰もいない自分の部屋で、こっそりライター代わりに指で火をつけちゃったりする位は、しちゃうかもしれないけどね。
だってあれめっちゃ便利なんだもの。
「……まぁいいや。とりあえずこいつ落とそうか」
「落とすの!?」
「ニュアンスを汲んで」
「あぁそう……びっくりさせないでよ」
あっちの神域でショタ神様が聞き出してくれた、河野がこちらにいた最後の日付と場所を伝えると、兄主神様はその風体からは想像もつかないほど高らかに、魔法言語を謳いあげた。
神の言霊とも呼ぶ。そう婆さんが言っていたけれど、もしかしたらこれは神様達の元々の言葉なのかもしれないわね。
神々しいその姿には、思わず平伏しそうになってしまった。
だけどやっぱり、薄いグレーのスウェットとピンクの靴下が全てを台無しにしちゃってるのよねぇ……どうにかならないのかしらこれ。
そうして気が付けば、あたしの隣で転がっていたはずの河野の姿はもう見えなくなっていた。
礼儀知らずの憎たらしい小僧だったけれど、元気でやんなさいよ。
「兄しゅ、あーっと……ごめんなさい主神様」
「なに? 別に好きに呼んでいいよ」
「いや、そういう訳にはいかないでしょうよ……」
自分とこの一番の神様にそんな、呼び名を勝手にしていいとか出来るわけないじゃない!
ほんっと主神様ってのはどっちもなぁんかズレてるっていうか……そこはやっぱり神様だからなのかもしれないけど。
「とにかく、ありがとうございました」
「別に、いいよ。そもそも僕のせいみたいだし」
「えぇっと……それは、そうなのかもしれない、けど全部が全部そうじゃないでしょう?」
「わかんないけど、多分」
相変わらずねぇ、この神様は。
でも最近は遊ばず真面目にお仕事なさってるんでしょう?
「うん、してる」
「ならそのまま頑張ってくださいな。あ、そうそう弟さんから預かってきたものがあるわよ」
「……なに?」
はいこれ、と手渡した雫形の宝石を両手のひらで受けとると、兄主神様は小刻みに震えだし、キラキラと輝き始めた。
え、なにこれ後光!? めっちゃ眩しいんですけど!?
「はじめて……」
「は?」
「あいつから何かくれるの、初めてだ……」
「そう……よかったわねぇ」
ぎゅううと胸に掻き抱き、一生懸命に何かを話しかけているんだけど……
それってやっぱり、もしかして。
「……あれ?」
はた、と何かに気付いたように震えが止まると、みるみるうちに後光がしゅるるるる、と萎んでしまった。
えぇと、うん。
「繋がんない……」
「あー、それねぇ、向こうからだけ通じるって、仰ってたわよ、弟さん」
「マジかぁぁぁぁ…………」
兄主神様はぐずりと、その場に泣き崩れてしまった。
……やっぱりこうなっちゃうわよねぇ。
ていうかどうやって収拾つけんのよこれぇ!!
あたしまだあっちに行かなくちゃいけないんですけど!?
本人の意向を聞いて、なんていう措置は今回は無し。それでも水の女神様だけは、あたし達とは違う意味で彼の帰還を喜んでいたけれど。
「このような若い身空で、ご家族や縁の者と生き別れにさせてしまったんですもの。わたくしが至らないばかりに」
慈しむように微笑みながら、眠る河野の頭を撫でて水の女神様はそう小さく呟いた。
そんな理由で胸を痛めていたの……貴女のせいなんかじゃないっていうのに。
「水のよ、気に病むな。これでこやつも救われるのだ」
「そうよ。むしろこんなに気にかけてもらえるなんて、この子は幸せな方じゃない」
セヘルシアにも、もうひとつのアトミスという星にも、まだまだたくさん落ち人はいる。
その中でたまたま神域で出会ってしまっただけの話であって、どの神様にも出会えず、為す術なく落ちてしまった人だってたくさんいるんだもの。
……そんな彼らを救う手立てを握っているのが何の因果かあたしだっていうことは、改めて胸に刻まなくちゃいけないわね。
「レイ様こそ、そのように気負われましては後々きっとお辛くなってしまわれます。どうぞご自身こそを大切になさってくださいませね」
「わかってるわ、大丈夫よ女神様」
伊達に珍獣使いなんてやっちゃいないわよ。頼られたなら応えたいって思っちゃうのも、もう性分だしね。
差し伸べられた手の温かさや嬉しさ、ありがたさをもう知っているから、あたしにも差し出せる手があるのなら伸ばしてあげたいって思うじゃない。
そうやってうちの店に来たコは多いのよ。他のお店で切られちゃったコとか、家出少年とかね。
あのコ達の受け皿になれているっていう自負は、今後きっと、力になってくれると思うの。
「……さて、そろそろ送るよ、レイ」
「えぇ、サクッと帰してくるわ」
「こちらでは下の様子を見ておくよ」
「……それなんだけど、神域に連れて来ちゃってるんだし、もう変化って出てないのかしらね?」
「なら先に聞いておくかい?」
そう言ってショタ神様はスッと目を閉じ、声を飛ばした。
相手は言わずもがな、メルネ婆さんだ。
「メルネ、今いいかい?」
向こうの声はあたし達には聞こえないけれど、会話の端々で少しだけ伝わってくるものがあった。
きっと向こうではもう、河野がいた形跡は何ひとつ残っていない様子。
そうなるとやっぱり歴史が変わってしまうから、長年こっちにいる落ち人達を帰らせてあげる為にはまだ色々と……
「いやいいんだ、変なことを聞いてすまなかったね……レイ? ここにいるが……わかった、少し待ってくれるかい」
「あたし?」
「レイ、メルネから受け取った話具はあるかい?」
「え、えぇまだ着けてるわよ」
考えを遮り声をかけられて、慌てて「ほら」と腕輪を見せるとショタ神様がそれに手を添え、するとすぐに婆さんからの声が届いた。
こんな使い方もできちゃうの!? 凄いわねあの婆さん!!
『レイ』
「な、なぁに?」
『お前さん戻ってきたらあたしの所へおいでな』
「はい? なんでよ」
『ヒヒッそれは来てからのお楽しみさね』
「まぁた碌でもないこと企んでるんでしょ……嫌ぁよ、そもそもどこに居るのよ」
『さっきお前さんらと別れた所からそう離れちゃいないよ』
「何してんのよそんな所で……」
『野暮用と言ったろう? なぁに、少しばかり手を借りたいだけさ』
「なによそれ。あたしじゃなきゃダメなの?」
『あぁ勿論そうさ。じゃ、待っとるよ』
止める間もなく、言いたいことだけ言ってあっさりと切られてしまった。
ほんっとにあの婆さんはもう!! あんな所で一体何をしてるんだか、何をさせられるんだかもわかったもんじゃないわね。
あたしがぷんぷんしていると、ショタ神様は少し神妙な顔つきで、改めて婆さんとの会話を口にした。
「メルネは彼のことを覚えていなかった。時を遡っての回収では、その後の影響は全てなかったことになるみたいだね」
「そのようねぇ。まぁギルドでも色々調べてもらってるから、回収は慎重にいきましょうよ。なるべく大きな変化が起きないようにしていけばいいんじゃなぁい?」
「しかし、それでは人の世の在りようをこちらの好きにできてしまう。……統御のような真似を、私はしたくはないんだ」
あぁ、そういえば前にもそんなようなことを言っていたわね……。
人の営みに関与しすぎない方針で、けれど落ち人はそもそも居ないはずのものだから、どうにかしたいとは思っていたもののそこまで積極的じゃなかったのよ。
神様だって万能じゃないのね、なんてそのときは言ってしまったけれど。
「今回、彼については水のを解放する為に強制排除にしたが……ふむ。どうしたものかな」
人の世ばかりにかまけてもいられない。かといって一切の関与を無くすことも出来ずこうして思い悩む姿に、あたしはひとつも掛けられる言葉を持っていない。
別の世界の、神様なんかには遠く及ばない、ただの人間だもの。当然だけど、少し歯痒い気持ちもあるわね。
「まぁその辺は追々考えるよ。とりあえず、彼を送ってきてあげてくれるかい」
「……わかったわ。じゃあまたあとでね」
そして先日も訪れた、あたし達の住む世界の神域へとふたり揃って飛ばされてきた。
あちらの神域と同じく真っ白で果ての見えない場所だけれど、それでも「本来の居場所」らしく、空気が身に馴染むような気がなんとなくするのよね。
「や、お帰り」
出迎えてくださったのは、いつものスウェット姿の兄主神様。
あ、今日は靴下履いてるわ……。ピンク色の。
その謎センスに釘付けになっていると、兄主神様は側でしゃがみこみ、河野の髪をツイツイと、指先で引っ張っていた。
「で、こいつが帰還者第一号?」
「えぇそうなの。向こうでの記憶と、身に付いた能力は消してもらったから、こっちから飛んだ日に還してあげてくださるかしら」
「ふぅん……もう魔法使えないの?」
「……たぶん?」
「なぁんだ」
相変わらず魔法がお好きなようねぇ。
ていうかこいつに魔法持たせたままこっちに戻したりなんかしたら大変なことになっちゃうわよ!?
ちょっと炎を扱えるだけで魔王のとこに単身乗り込んじゃうような大バカ野郎なのよ!?
「それじゃ困るね。まあいいや、あんたがいるし」
「あたし!?」
「うん。使えるでしょ、こっちでも」
「どうかしら……魔法の鞄は使えたけれど、魔素がないから無理なんじゃなぁい?」
「昔こっちにいた落ち人魔女は使えてたよ」
「そうは言ってもねぇ。もし使えたとしても、こっちじゃ向こうのようにはしないわよ」
嫌よ。もし大っぴらに使ってバレちゃったら、「オネェ奇術師」とかいって面白おかしくメディアの玩具にされるのが目に見えてるもの!
見世物にされて持ち上げられて、散々騒ぎ立てて飽きたらポイよ。そんなのまっぴら御免だわ。
「えぇー」
「えぇーじゃないわよ! ったくもう!」
まったく! どいつもこいつも!!
まぁ、誰もいない自分の部屋で、こっそりライター代わりに指で火をつけちゃったりする位は、しちゃうかもしれないけどね。
だってあれめっちゃ便利なんだもの。
「……まぁいいや。とりあえずこいつ落とそうか」
「落とすの!?」
「ニュアンスを汲んで」
「あぁそう……びっくりさせないでよ」
あっちの神域でショタ神様が聞き出してくれた、河野がこちらにいた最後の日付と場所を伝えると、兄主神様はその風体からは想像もつかないほど高らかに、魔法言語を謳いあげた。
神の言霊とも呼ぶ。そう婆さんが言っていたけれど、もしかしたらこれは神様達の元々の言葉なのかもしれないわね。
神々しいその姿には、思わず平伏しそうになってしまった。
だけどやっぱり、薄いグレーのスウェットとピンクの靴下が全てを台無しにしちゃってるのよねぇ……どうにかならないのかしらこれ。
そうして気が付けば、あたしの隣で転がっていたはずの河野の姿はもう見えなくなっていた。
礼儀知らずの憎たらしい小僧だったけれど、元気でやんなさいよ。
「兄しゅ、あーっと……ごめんなさい主神様」
「なに? 別に好きに呼んでいいよ」
「いや、そういう訳にはいかないでしょうよ……」
自分とこの一番の神様にそんな、呼び名を勝手にしていいとか出来るわけないじゃない!
ほんっと主神様ってのはどっちもなぁんかズレてるっていうか……そこはやっぱり神様だからなのかもしれないけど。
「とにかく、ありがとうございました」
「別に、いいよ。そもそも僕のせいみたいだし」
「えぇっと……それは、そうなのかもしれない、けど全部が全部そうじゃないでしょう?」
「わかんないけど、多分」
相変わらずねぇ、この神様は。
でも最近は遊ばず真面目にお仕事なさってるんでしょう?
「うん、してる」
「ならそのまま頑張ってくださいな。あ、そうそう弟さんから預かってきたものがあるわよ」
「……なに?」
はいこれ、と手渡した雫形の宝石を両手のひらで受けとると、兄主神様は小刻みに震えだし、キラキラと輝き始めた。
え、なにこれ後光!? めっちゃ眩しいんですけど!?
「はじめて……」
「は?」
「あいつから何かくれるの、初めてだ……」
「そう……よかったわねぇ」
ぎゅううと胸に掻き抱き、一生懸命に何かを話しかけているんだけど……
それってやっぱり、もしかして。
「……あれ?」
はた、と何かに気付いたように震えが止まると、みるみるうちに後光がしゅるるるる、と萎んでしまった。
えぇと、うん。
「繋がんない……」
「あー、それねぇ、向こうからだけ通じるって、仰ってたわよ、弟さん」
「マジかぁぁぁぁ…………」
兄主神様はぐずりと、その場に泣き崩れてしまった。
……やっぱりこうなっちゃうわよねぇ。
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