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文化祭当日
今日の学校は朝から大賑わいだ。
グラウンドには露店が並び、各クラスの教室はそれぞれの催し物で派手に飾り付けられている。体育館では演劇部の『喜劇版白雪姫』が午前と午後で開催されるらしい。何喜劇版って、面白そうなんだけど。
「真尋、こっちこっち」
俺は女装のために真っ直ぐ別の教室に向かってて、気付いた倖人が入口から手招きしてる。頷いて入ると扉と目隠し用のカーテンが閉められた。
「綾瀬のは、これとこれとこれね。ブーツの紐は後で調整するからそのまま出て来て」
「はいよー」
「真尋、手伝うよ」
「サンキュー」
峰山はテキパキと指示をしていて、俺は自分のを受け取ると倖人と一緒に更衣室という名のパーテーション奥に行き着替え始めた。制服を脱ぎ長襦袢に袖を通す。倖人に整えて貰い二人であーでもないこーでもないと言いながらどうにか着替え終えると、それだけで疲れた気がして息を吐いた。
靴下とブーツも身に付け戻れば、お笑い要員がバッチリメイクでメイドさんになってて思わず吹き出す。
「あはは! ヤバ、ゴツいメイドさんがいる!」
「どうよ綾瀬、似合ってるだろ?」
「ご主人様~」
「す、すげぇいい女になってるぞ…っ。ぷ、くく…っ」
その身体と顔でくねくねするな、面白過ぎるだろ。
紛う事なきお笑い要員っぷりにみんな笑ってるし、これはほんとナイス人選だ。
「綾瀬も仕上げるか。ここ座って」
「…あー…笑った笑った」
涙が出るくらい爆笑したのは久しぶりだ。
俺はメイク担当の足木に促され、鏡が置かれた机の前に座る。足木はブーツの紐を結んでから俺の髪を濡らして纏め、ネットみたいな物を被せた。
机の上にはたくさんのメイク道具が並んでて、どれをどう使うのか分からない俺は興味津々だ。
「ちょっと目瞑ってて」
「ん」
顔が保湿されて、何やらクリームが塗られる。
「綾瀬の肌、綺麗だからあんま弄んなくても良さそう。元が美人だし、アイメイクとリップで大分変わりそうだね」
「そうか? 俺には良く分からん」
やりたいようにしてくれと丸投げすると、足木は「任せといて」と言って笑った。
所要時間は恐らく15分くらい。今は被せられたウィッグのセットをされてる。倖人の要望通りハーフアップにするんだと。器用に纏め上げて大きなリボンを着けた足木は満足そうに微笑んだ。
「出来た! いやー、どこからどう見てもハイカラ美少女だよ、綾瀬」
「うわー……俺じゃないみてぇ…」
鏡の中の俺はいつも以上に睫毛が伸びて上向いて目が大きく見える。唇もプルンプルンで、ちょっと気持ち悪い。
「どこか変な感じとか、ちょっと落ち着かないとかはない?」
「ん、大丈夫っちゃ大丈夫。ブーツもヒール低いから安定してるし」
「よし、じゃあお店の方は頼んだ」
「おっしゃ、任せとけ」
立ち上がり少しだけ歩いて自分なりに確認して頷く。足木の言葉に握り拳を上げて答えれば苦笑された。
「勇ましいハイカラさんだな」
「客入れまくるぜ~」
今の俺に怖いものはない。クラスのために全力で接客してやるぜ!
終わるのを待ってくれていた倖人と一緒に、そう気合いを入れながら教室に戻って行った俺は、廉が覗きに行くからって言ってた事をすっかり忘れてた。
ちなみに倖人はめちゃくちゃ可愛くなってた。変な奴に目を付けられないよう、俺が見張ってないとな。
一般客が入り出してから意外にも客足が途絶えなくて、ホールは満員御礼でてんやわんやしてた。午前中は俺と倖人と藤間と神崎で回してるんだけど、中にはやっぱり下心のある客もいて声をかけられたりして。でもそのたびに細マッチョメイド神崎が場を乱さない程度にどうにかしてて、クラスの売上は順調に伸びてる。
「あ、いらっしゃいま…せ……」
ガラリと扉が開いた事に気付いた俺は、ここまでやって来て身に付いた笑顔を反射的に浮かべて振り向き、固まった。
そこには、今まで見た事がないくらいに驚いた顔をした廉が立ってたから。
「れ、廉さん…来たんですね……」
しまった! 俺は廉に、裏方になったって話しかしてなかった!
でもこの格好も昨日急に決まった事だし、色々あって言うのを忘れてた俺も悪いけどこればかりは仕方ないんだって!
「……どういう事だ、これは…」
「え、えーっと……」
「お前、裏方だっつってたよな?」
「裏方は裏方だったんです。お休みした子の代わりなんです」
眉を釣り上げて近付いて来る廉に、持っていたお盆を盾代わりにしながら答えていると、気付いたクラスメイトが驚いた後苦笑してた。
女性のお客さんは廉のイケメンっぷりに顔を赤くしてるし、他の人は何事かと俺たちを見てる。
「にしたって可愛くされ過ぎだろ、何で化粧してんだよ」
「必須事項なんで! 俺の意思じゃないんで!」
こ、怖ぇ~! ここまで俺にキレてる廉は初めてだ。
「………ちょっと来い」
「うぇ!? ちょ、ちょっと…!」
長い長い溜め息をついた廉は、徐に俺の腕を引っ張って教室から出ると歩幅も気にせず進み、人気のない空き教室に引きずり込んだ。
そのまま両手を取られて壁に押し付けられ乱暴に口付けられる。
「んん…っ…ちょ、ん、やめ……!」
プルプルが落ちる! 髪がぐちゃぐちゃになるから!
俺は抵抗の意思を示すため侵入して来た廉の舌に噛み付いた。
「……っ…」
「…っ馬鹿野郎! まだ店番やってんのに何すんだ!」
唇が離れた瞬間に文句を口にする。そんな強く噛んだつもりはないけど、廉が口を押さえて眉間に皺を寄せてたから途端に心配になる。
「…あ、あの…廉? 悪い、痛かったか…?」
口の中の傷って、下手したら口内炎になるんだよな。もし傷が出来たんだったら申し訳なくて謝ったんだけど、廉は寄せていた眉尻を下げて俺の頬を撫でた。
「……いや、大丈夫だ。……悪かった」
「化粧はまたして貰えばいいけどさ…どうしたんだよ、急に」
「自分の恋人がいつも以上に可愛くなって他の奴に愛想振り撒いてたら誰だってこうなるだろ」
「は、早口…」
それに必死さが伺えて思わず笑えばじとっと見下ろされる。いつもとは違う分け目の前髪をくいっと軽く引かれ首を傾げた。
「お前、俺の恋人って自覚あんの?」
「あるに決まってんだろ」
「じゃあ…」
廉の手が俺の首筋を影から出すように、肩から前に垂れていた髪を後ろに流す。親指が襟より少し上に触れた。
「ここに、痕付けさせろ」
「……は?」
「虫除け」
「虫……?」
虫なんかいないけど…と思ってハッとする。読んだことあるぞ、こういう表現で周りを牽制してる漫画。ってか、どこの虫が俺にたかるんだよ。物好きか。
俺は女装の事を伝えていなかった後ろめたさから、本当に渋々、仕方なく頷いた。
「……分かった。いいよ、付けろよ」
反対の手で首の後ろから髪を避けてやりやすいように反らすと、廉がふっと笑ってから唇を寄せてきた。
薄い唇が触れ強めに吸う。俺は微かな痛みに声が出ないよう唇を噛んだ。
リップ音がして離れたから見上げると、満足そうに微笑む廉に抱き締められる。
「あんま笑った顔見せんなよ」
「……努力します」
怒られるのはもう勘弁だ。
俺は広い背中をポンポンと叩いて離してもらい、これから生徒会の仕事があるという廉と教室の前で別れた。
腕を引かれて歩いていたのを目撃されていたからか、他クラスの生徒にジロジロと見られながら教室には戻ったんだけど、見るからに化粧のよれた俺に気付いた倖人が奥を指さした。
隣の教室は調理場兼準備室みたいになってて、峰山と足木が常にスタンバってくれてる。ちなみに着替えた場所は荷物を置くために違う空き教室を使ったから、制服に戻る時もそっちを使う事になってた。
今しがた戻ってきたばかりなのにまた教室を出る俺に客が不思議そうな顔をしてたけど、それには愛想笑いで返し化粧を直してもらうために移動したのだった。
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