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顔面強強お兄さん
「食べたい物があったら好きに頼んでいいからね」
目の前にいるとんでもないイケメンさんは、そう言ってオレにメニューを渡すと何とも爽やかな笑みを浮かべた。
遡る事およそ20分前。
斗真のドタキャンによりコラボカフェに入店する事を諦めたオレは、せめて思い出だけでも残そうと対象店舗へと行き遠巻きに眺めていた。
白壁に水色の屋根が乗った西洋風の可愛らしい外観のカフェの前には、魔女騎士のロゴやキャラクターの幟旗が立ってて、外に立てられた黒板には可愛らしい字でコラボメニューが書かれてる。
グッズ販売もしてるみたいで、チラリと見えた店内にはキャラクターのぬいぐるみや雑貨などの商品が置かれた棚が設置されてた。
(グッズってあんま公式から出てないから、これを機に新しいのが発売されたんならちょっと欲しいかも)
非公式の物は二次創作含めたくさんあるのに、一部でしか人気ないからって手を抜くのはどうかと思う。
でもここ、びっくりするぐらい女の子ばっかりなんだけど⋯もしかしてそういう感じ? 女の子向けっていうかなんていうか。
「斗真と一緒でも割とキツかったかも⋯」
いや、でも斗真ってそういうの気にしないとこあるし、案外あっさり入ってけろっとした顔で注文してたかもしれないな。
そう考えると腹立たしくなってきたし、空腹も感じ始めた。
(一緒に楽しみたかっただけなのになぁ⋯)
「⋯⋯泣きそう⋯」
「大丈夫?」
「え?」
角にある建物の外壁に寄り掛かって座り項垂れていたら低めの声が聞こえ、思わず顔を上げたオレはその人と目が合った瞬間固まってしまった。
(な、な、何だこのイケメン⋯っ)
万年モテ街道を歩いている斗真が霞むくらい顔の整ったスーツ姿の男の人がいて、腰を屈めてオレを見下ろしていたのだ。
イケメンというか美形というか、モデルか芸能人かってくらい見目麗しい。
「あれ、君⋯」
目が合った瞬間どうしてかその人は驚いた顔をしていたけど、すぐに笑顔になるとさっきまでオレが見ていたコラボカフェの方に視線をやったあと手を差し出してきた。
「?」
「もしかしなくても、あそこのカフェに入るつもりだった? 俺もちょうどお腹が空いてたんだ。良かったら一緒にどうかな」
「へ?」
入りたい気持ちはあったし1人ならやめとこうかなとは思ってたけど、初対面の、しかも名前も知らない人と一緒にっていうのはさすがに気が引ける。
眉を顰めて首を振ったら、その人は一転して残念そうな顔になった。
「そうか⋯実は今回のコラボカフェ、気になってたんだけど時間がなくて来れたのが今日だけでね。来てみたら女性がたくさんいて気が引けてしまって⋯うーん、仕方ない。諦めるか」
う、何か同じような境遇で気の毒になってきた。
実際オレも入りたかったし、お腹空いてるし、この人もそうならまぁ⋯一緒に食べてくれるならむしろ有り難いか。
肩を竦めて屈めていた腰を伸ばしたその人が腕時計を確認してるのを見て立ち上がったオレは、思ったよりも彼の背が高い事に驚きつつも見上げて首を傾げた。
「まぁ、お兄さんがオレでいいならいいですよ」
「もちろん君がいいんだけど⋯本当に?」
「はい。どうせ予約枠1人分空いてるし」
「⋯予約が必要だったのか⋯それもうっかりしていたな」
え、この人、予約なしで入ろうとしてたのか?
いや、別に必須って訳じゃないけど予約した人が優先だから入るまでにかなり時間が掛かるのに⋯もしかして天然さん?
オレがいなくて、且つ斗真が来てたらどうするつもりだったんだろう。
こんな、見るからに仕事が出来そうなビシッとした大人が困惑してる姿がじわじわきて、オレは思わず吹き出してしまった。
「⋯ぷっ、あはは、はは⋯ッ」
「⋯⋯⋯」
「ご、ごめんなさ⋯っ⋯でもお兄さん面白⋯っ」
失礼とは思いつつも笑いが止まらなくて、目尻に浮いた涙を乱暴に手の平で拭いたら、不意にお兄さんの手が頬へと触れてきた。
びっくりしてピタッと止まったオレに優しい笑みを浮かべる。
「可愛いね、君」
「⋯え⋯?」
「ああ、やっぱり思った通りだ。俺の目は間違ってなかったな」
「?」
か、可愛い? お兄さんいろいろ大丈夫か?
何を言ってるのか分からなくて目を瞬いていたら手が取られ、そのまま引かれて店の前まで連れて行かれる。
受け付けの人に予約の有無を聞かれ、慌ててスマホを見せてからの冒頭になる訳だけど、奢るよと言われて素直にありがとうございますとは言えないよな。
「あの、オレ自分で払うんで」
「どうして? 君の予約枠があったおかげで俺も入れたんだから。そのお礼だよ?」
「もともと友人と行くつもりで、その人が来れなくなったから空いた枠ですから」
「それでも、君がいいよって言ってくれたからだと俺は思うんだけどね」
本当に偶然に偶然が重なっただけなのに。
物腰も言葉も柔らかくて、いい人なんだろうなって事は分かった。
渡されたメニューを開き、数あるコラボメニューの中から何を頼もうか考える。
というか、今更だけどお兄さんみたいな人もゲームとかやったりするんだな。しかもコラボカフェに来たいって思ってたくらいだから、それなりにハマってるっぽいし。
チラリとお兄さんを見るとそれに気付いて微笑む。
その気はなくても、これだけのイケメンに微笑まれれば誰でも赤くなってしまうだろう。現に周りの女の子たちが頬を染めてお兄さんを見てるし。
(同席してる相手がオレで申し訳ないな)
ま、彼女いるだろうし、オレは今この場を楽しめればいいから気にしないけど。
とりあえず気になったものは注文する事にして、オレは再びメニューへと視線を落とした。
オレの一番の目的は、オマケで付いてくるステッカーだからな。
お兄さんとの食事は正直凄く楽しくて、魔女騎士だけじゃなく他のゲームの事で盛り上がれるとは思わなかった。
「あの、本当に良かったんですか?」
「俺から言い出した事だからね」
「でも食事だけじゃなくグッズまで⋯」
「これも何かの縁だよ」
そう、お兄さんは本当に奢ってくれただけでなく、オレが買おうとしてたグッズまで「どうせだから」って支払ってくれて⋯これ、むしろこっちがお礼しなきゃいけないんじゃないだろうか。
「もうこんな時間か。楽しいとあっという間だね」
「本当にありがとうございました」
「どういたしまして。街で見かけたら声かけてくれると嬉しいな」
「あはは。はい、その時はこれのお礼させて下さい」
「気にしなくていいのに」
そういう訳にはいかないくらい支払わせてるのに、大人だなぁ。
腕時計を確認したお兄さんは手を伸ばしてオレの頭を撫でると、ふっと表情を柔らかくして一歩下がった。
「それじゃあまたね、天音くん」
「あ、はい。また」
軽く手を上げて踵を返し、歩いて行く後ろ姿を見送ってたんだけど⋯ある事に気付いて「あれ?」と声が出た。
オレあの人に名前教えたっけ?
目の前にいるとんでもないイケメンさんは、そう言ってオレにメニューを渡すと何とも爽やかな笑みを浮かべた。
遡る事およそ20分前。
斗真のドタキャンによりコラボカフェに入店する事を諦めたオレは、せめて思い出だけでも残そうと対象店舗へと行き遠巻きに眺めていた。
白壁に水色の屋根が乗った西洋風の可愛らしい外観のカフェの前には、魔女騎士のロゴやキャラクターの幟旗が立ってて、外に立てられた黒板には可愛らしい字でコラボメニューが書かれてる。
グッズ販売もしてるみたいで、チラリと見えた店内にはキャラクターのぬいぐるみや雑貨などの商品が置かれた棚が設置されてた。
(グッズってあんま公式から出てないから、これを機に新しいのが発売されたんならちょっと欲しいかも)
非公式の物は二次創作含めたくさんあるのに、一部でしか人気ないからって手を抜くのはどうかと思う。
でもここ、びっくりするぐらい女の子ばっかりなんだけど⋯もしかしてそういう感じ? 女の子向けっていうかなんていうか。
「斗真と一緒でも割とキツかったかも⋯」
いや、でも斗真ってそういうの気にしないとこあるし、案外あっさり入ってけろっとした顔で注文してたかもしれないな。
そう考えると腹立たしくなってきたし、空腹も感じ始めた。
(一緒に楽しみたかっただけなのになぁ⋯)
「⋯⋯泣きそう⋯」
「大丈夫?」
「え?」
角にある建物の外壁に寄り掛かって座り項垂れていたら低めの声が聞こえ、思わず顔を上げたオレはその人と目が合った瞬間固まってしまった。
(な、な、何だこのイケメン⋯っ)
万年モテ街道を歩いている斗真が霞むくらい顔の整ったスーツ姿の男の人がいて、腰を屈めてオレを見下ろしていたのだ。
イケメンというか美形というか、モデルか芸能人かってくらい見目麗しい。
「あれ、君⋯」
目が合った瞬間どうしてかその人は驚いた顔をしていたけど、すぐに笑顔になるとさっきまでオレが見ていたコラボカフェの方に視線をやったあと手を差し出してきた。
「?」
「もしかしなくても、あそこのカフェに入るつもりだった? 俺もちょうどお腹が空いてたんだ。良かったら一緒にどうかな」
「へ?」
入りたい気持ちはあったし1人ならやめとこうかなとは思ってたけど、初対面の、しかも名前も知らない人と一緒にっていうのはさすがに気が引ける。
眉を顰めて首を振ったら、その人は一転して残念そうな顔になった。
「そうか⋯実は今回のコラボカフェ、気になってたんだけど時間がなくて来れたのが今日だけでね。来てみたら女性がたくさんいて気が引けてしまって⋯うーん、仕方ない。諦めるか」
う、何か同じような境遇で気の毒になってきた。
実際オレも入りたかったし、お腹空いてるし、この人もそうならまぁ⋯一緒に食べてくれるならむしろ有り難いか。
肩を竦めて屈めていた腰を伸ばしたその人が腕時計を確認してるのを見て立ち上がったオレは、思ったよりも彼の背が高い事に驚きつつも見上げて首を傾げた。
「まぁ、お兄さんがオレでいいならいいですよ」
「もちろん君がいいんだけど⋯本当に?」
「はい。どうせ予約枠1人分空いてるし」
「⋯予約が必要だったのか⋯それもうっかりしていたな」
え、この人、予約なしで入ろうとしてたのか?
いや、別に必須って訳じゃないけど予約した人が優先だから入るまでにかなり時間が掛かるのに⋯もしかして天然さん?
オレがいなくて、且つ斗真が来てたらどうするつもりだったんだろう。
こんな、見るからに仕事が出来そうなビシッとした大人が困惑してる姿がじわじわきて、オレは思わず吹き出してしまった。
「⋯ぷっ、あはは、はは⋯ッ」
「⋯⋯⋯」
「ご、ごめんなさ⋯っ⋯でもお兄さん面白⋯っ」
失礼とは思いつつも笑いが止まらなくて、目尻に浮いた涙を乱暴に手の平で拭いたら、不意にお兄さんの手が頬へと触れてきた。
びっくりしてピタッと止まったオレに優しい笑みを浮かべる。
「可愛いね、君」
「⋯え⋯?」
「ああ、やっぱり思った通りだ。俺の目は間違ってなかったな」
「?」
か、可愛い? お兄さんいろいろ大丈夫か?
何を言ってるのか分からなくて目を瞬いていたら手が取られ、そのまま引かれて店の前まで連れて行かれる。
受け付けの人に予約の有無を聞かれ、慌ててスマホを見せてからの冒頭になる訳だけど、奢るよと言われて素直にありがとうございますとは言えないよな。
「あの、オレ自分で払うんで」
「どうして? 君の予約枠があったおかげで俺も入れたんだから。そのお礼だよ?」
「もともと友人と行くつもりで、その人が来れなくなったから空いた枠ですから」
「それでも、君がいいよって言ってくれたからだと俺は思うんだけどね」
本当に偶然に偶然が重なっただけなのに。
物腰も言葉も柔らかくて、いい人なんだろうなって事は分かった。
渡されたメニューを開き、数あるコラボメニューの中から何を頼もうか考える。
というか、今更だけどお兄さんみたいな人もゲームとかやったりするんだな。しかもコラボカフェに来たいって思ってたくらいだから、それなりにハマってるっぽいし。
チラリとお兄さんを見るとそれに気付いて微笑む。
その気はなくても、これだけのイケメンに微笑まれれば誰でも赤くなってしまうだろう。現に周りの女の子たちが頬を染めてお兄さんを見てるし。
(同席してる相手がオレで申し訳ないな)
ま、彼女いるだろうし、オレは今この場を楽しめればいいから気にしないけど。
とりあえず気になったものは注文する事にして、オレは再びメニューへと視線を落とした。
オレの一番の目的は、オマケで付いてくるステッカーだからな。
お兄さんとの食事は正直凄く楽しくて、魔女騎士だけじゃなく他のゲームの事で盛り上がれるとは思わなかった。
「あの、本当に良かったんですか?」
「俺から言い出した事だからね」
「でも食事だけじゃなくグッズまで⋯」
「これも何かの縁だよ」
そう、お兄さんは本当に奢ってくれただけでなく、オレが買おうとしてたグッズまで「どうせだから」って支払ってくれて⋯これ、むしろこっちがお礼しなきゃいけないんじゃないだろうか。
「もうこんな時間か。楽しいとあっという間だね」
「本当にありがとうございました」
「どういたしまして。街で見かけたら声かけてくれると嬉しいな」
「あはは。はい、その時はこれのお礼させて下さい」
「気にしなくていいのに」
そういう訳にはいかないくらい支払わせてるのに、大人だなぁ。
腕時計を確認したお兄さんは手を伸ばしてオレの頭を撫でると、ふっと表情を柔らかくして一歩下がった。
「それじゃあまたね、天音くん」
「あ、はい。また」
軽く手を上げて踵を返し、歩いて行く後ろ姿を見送ってたんだけど⋯ある事に気付いて「あれ?」と声が出た。
オレあの人に名前教えたっけ?
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