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大人な彼
とある日の平日。
今日はもう終わりだから日用品の買い物をして帰ろうと講堂を出たオレは、同じタイミングで門に向かってる斗真と伊月くんを見つけて小さく声を上げた。
2人も気付いて斗真は軽く挨拶してきたけど、伊月くんは何度かもごもごしたあと気まずそうに俯いたからオレは思わず苦笑する。
あの様子は、オレが告白した事を聞いたかな。
いつもならオレに挨拶をしてくれる伊月くんが自分の影に隠れているからか斗真も申し訳なさそうな顔をする。それでも無理やり前に出すような事はなく、何かを思い出したかのようにカバンから小さな紙袋を取り出しオレに差し出してきた。
「何?」
「姉貴から。旅行土産だと」
斗真には5つ上のお姉さんがいて小さい頃は良く遊んで貰ってたんだけど、今でも可愛がってくれてて時折こうしてお土産だのお菓子だのをくれる。結婚して家を出てるから会う機会はあんまりないんだけど。
ついでに言うなら、お姉さんもオレを弟だと認識してたりする。
袋を受け取るとどうやら中身はキーホルダーのようで、封を開けて手の平に出せば有名なマスコットキャラのご当地バージョンが転がり出てきた。
相変わらず可愛らしい物をくれる人だ。
「ありがとうって伝えておいて」
「ん。⋯⋯なぁ、天音」
「うん?」
どっちかというと小さい女の子がつけてそうなキーホルダーだなって揺らしてたら斗真に呼ばれ、とりあえずポケットにしまいつつ見上げれば真剣な目とかち合った。
「俺がこんな事言えた義理じゃないのは分かってるんだけど⋯もし好きな人が出来たら教えろよ。ちゃんとしたヤツじゃないと、安心してお前を任せられないから」
何だろ、年頃の娘を持つお父さんみたいなセリフだな。
相変わらずの斗真に笑ったオレは、斗真の腕を軽く叩いて頷いた。
「分かった。ちゃんとお兄ちゃんが安心出来る相手を連れてきますよ」
「茶化すな」
「茶化してないって。ありがとな、斗真」
斗真に兄貴面されるの今までは複雑だったけど、もう素直に聞いて受け入れられるのは斗真が変わらないでいてくれるからだろう。
オレはリュックを背負い直すと、目が合わない伊月くんに寂しさを感じつつ笑顔を浮かべた。
「じゃ、オレは買い物があるから行くな」
「気を付けろよ」
「あいよー。伊月くんも、またな」
「⋯⋯⋯」
返事はなかったけど、こっちを見て頷いてくれたからホッとして歩き出す。
伊月くんの不安はそう簡単には拭えないと思うから、ああして反応してくれただけでも充分だ。
元に戻れなくても仕方ないんだから。
「⋯⋯⋯⋯」
気持ち的には元気なんだけど⋯何でかな、今すぐ玲さんに会いたいって思ってる自分がいる。
トイレットペーパー、洗濯洗剤、柔軟剤、ボディソープその他もろもろ。
いっぺんに買わなくても良かったんじゃないかって今更ながらに思うけど、あと少しでマンションに着くから頑張れなんて自分を鼓舞しつつ足を動かしてたオレは、路肩に停まってる車とそれに寄りかかってる人を見つけて目を瞬いた。
あれ⋯オレ、メッセージ送ったっけ。
「おかえり、天音くん。凄い荷物だね。連絡くれれば迎えに行ったのに」
「ただいま、です⋯⋯え、どうして」
「天音くんの顔が見たくて」
まさか会いたいって思ったあとにいるとは予想もしてなくて、呆けるオレの頭に柔らかく微笑んだ玲さんの手が乗せられた。梳くように撫でられ、じんわりと胸が温かくなる。
スーツ姿だし、仕事帰りかな。
顔が見たいからって来てくれるとか⋯なんかむず痒い。
「本当は毎日でも会いたいんだけどね」
「毎日だと飽きちゃいますよ」
「俺が天音くんに飽きる? 有り得ないな」
こんな面白みもない平々凡々な顔なんて見ても楽しくないのに、玲さんは心外だなって顔をしてオレの頬を指先でつついてきた。
目尻まできたから思わず目を閉じたらふって笑い声が聞こえて、手から重みがなくなったから慌てて玲さんを見ると、それを車の後部座席に乗せてるところでオレは困惑する。
「冷凍とか食品は入ってないよね。あとで一緒に運ぶから、先にご飯でもどうかな」
「食品はないですけど⋯ご飯ですか?」
「うん。食べたいものある?」
「⋯ハンバーグ」
「可愛い。いいよ。美味しいところ知ってるから、そこに行こうか」
ただ今日の夕飯がチルドのハンバーグ予定だったからそう答えただけなんだけど、玲さんは目を細めて微笑むと助手席の扉を開けオレに乗るよう促した。
この人、本当に紳士だよなぁ。
でも相手がオレだからエスコートのしがいもないのは申し訳ない。
すっかり定位置みたいになった助手席に乗り込み、シートベルトを引いたところでドアが閉められて運転席に回った玲さんが乗る。
「あ、今日こそは自分のは払うんで」
「気にしなくていいのに」
「ダメです」
玲さん、スマート過ぎて気が付いたらいつも支払いが終わってるから、今のところ払えた事が一度もないんだよな。
だけど今回は絶対払う。何なら今までのお返しとして玲さんの分だって払う気概だ。
「今から行くところはデザートも美味しいから、良かったら食べてみて」
「はい」
前から思ってたけど、玲さんって色んなお店知ってて凄いよな。しかも連れてってくれるところ全部美味しいっていう。
大人で、イケメンで、優しくて、穏やかで、話しやすくて⋯ほんと、オレなんかにはもったいなさ過ぎる人だ。
ちらりと横目で見るとパチっと合って、玲さんの手が伸びてきてまた頭が撫でられた。斗真もたまに撫でてくるけど、玲さんの手はなんかホッとする。
オレの気持ちの問題なのかもしれないけど。
玲さんの言う通り、連れて行って貰ったお店のハンバーグもデザートもおかわりがしたいくらい美味しかった。
でもオレがトイレに行ってる間に支払いが済まされて、今日も自分の分さえ払えなかった事には遺憾の意を示したい。
今日はもう終わりだから日用品の買い物をして帰ろうと講堂を出たオレは、同じタイミングで門に向かってる斗真と伊月くんを見つけて小さく声を上げた。
2人も気付いて斗真は軽く挨拶してきたけど、伊月くんは何度かもごもごしたあと気まずそうに俯いたからオレは思わず苦笑する。
あの様子は、オレが告白した事を聞いたかな。
いつもならオレに挨拶をしてくれる伊月くんが自分の影に隠れているからか斗真も申し訳なさそうな顔をする。それでも無理やり前に出すような事はなく、何かを思い出したかのようにカバンから小さな紙袋を取り出しオレに差し出してきた。
「何?」
「姉貴から。旅行土産だと」
斗真には5つ上のお姉さんがいて小さい頃は良く遊んで貰ってたんだけど、今でも可愛がってくれてて時折こうしてお土産だのお菓子だのをくれる。結婚して家を出てるから会う機会はあんまりないんだけど。
ついでに言うなら、お姉さんもオレを弟だと認識してたりする。
袋を受け取るとどうやら中身はキーホルダーのようで、封を開けて手の平に出せば有名なマスコットキャラのご当地バージョンが転がり出てきた。
相変わらず可愛らしい物をくれる人だ。
「ありがとうって伝えておいて」
「ん。⋯⋯なぁ、天音」
「うん?」
どっちかというと小さい女の子がつけてそうなキーホルダーだなって揺らしてたら斗真に呼ばれ、とりあえずポケットにしまいつつ見上げれば真剣な目とかち合った。
「俺がこんな事言えた義理じゃないのは分かってるんだけど⋯もし好きな人が出来たら教えろよ。ちゃんとしたヤツじゃないと、安心してお前を任せられないから」
何だろ、年頃の娘を持つお父さんみたいなセリフだな。
相変わらずの斗真に笑ったオレは、斗真の腕を軽く叩いて頷いた。
「分かった。ちゃんとお兄ちゃんが安心出来る相手を連れてきますよ」
「茶化すな」
「茶化してないって。ありがとな、斗真」
斗真に兄貴面されるの今までは複雑だったけど、もう素直に聞いて受け入れられるのは斗真が変わらないでいてくれるからだろう。
オレはリュックを背負い直すと、目が合わない伊月くんに寂しさを感じつつ笑顔を浮かべた。
「じゃ、オレは買い物があるから行くな」
「気を付けろよ」
「あいよー。伊月くんも、またな」
「⋯⋯⋯」
返事はなかったけど、こっちを見て頷いてくれたからホッとして歩き出す。
伊月くんの不安はそう簡単には拭えないと思うから、ああして反応してくれただけでも充分だ。
元に戻れなくても仕方ないんだから。
「⋯⋯⋯⋯」
気持ち的には元気なんだけど⋯何でかな、今すぐ玲さんに会いたいって思ってる自分がいる。
トイレットペーパー、洗濯洗剤、柔軟剤、ボディソープその他もろもろ。
いっぺんに買わなくても良かったんじゃないかって今更ながらに思うけど、あと少しでマンションに着くから頑張れなんて自分を鼓舞しつつ足を動かしてたオレは、路肩に停まってる車とそれに寄りかかってる人を見つけて目を瞬いた。
あれ⋯オレ、メッセージ送ったっけ。
「おかえり、天音くん。凄い荷物だね。連絡くれれば迎えに行ったのに」
「ただいま、です⋯⋯え、どうして」
「天音くんの顔が見たくて」
まさか会いたいって思ったあとにいるとは予想もしてなくて、呆けるオレの頭に柔らかく微笑んだ玲さんの手が乗せられた。梳くように撫でられ、じんわりと胸が温かくなる。
スーツ姿だし、仕事帰りかな。
顔が見たいからって来てくれるとか⋯なんかむず痒い。
「本当は毎日でも会いたいんだけどね」
「毎日だと飽きちゃいますよ」
「俺が天音くんに飽きる? 有り得ないな」
こんな面白みもない平々凡々な顔なんて見ても楽しくないのに、玲さんは心外だなって顔をしてオレの頬を指先でつついてきた。
目尻まできたから思わず目を閉じたらふって笑い声が聞こえて、手から重みがなくなったから慌てて玲さんを見ると、それを車の後部座席に乗せてるところでオレは困惑する。
「冷凍とか食品は入ってないよね。あとで一緒に運ぶから、先にご飯でもどうかな」
「食品はないですけど⋯ご飯ですか?」
「うん。食べたいものある?」
「⋯ハンバーグ」
「可愛い。いいよ。美味しいところ知ってるから、そこに行こうか」
ただ今日の夕飯がチルドのハンバーグ予定だったからそう答えただけなんだけど、玲さんは目を細めて微笑むと助手席の扉を開けオレに乗るよう促した。
この人、本当に紳士だよなぁ。
でも相手がオレだからエスコートのしがいもないのは申し訳ない。
すっかり定位置みたいになった助手席に乗り込み、シートベルトを引いたところでドアが閉められて運転席に回った玲さんが乗る。
「あ、今日こそは自分のは払うんで」
「気にしなくていいのに」
「ダメです」
玲さん、スマート過ぎて気が付いたらいつも支払いが終わってるから、今のところ払えた事が一度もないんだよな。
だけど今回は絶対払う。何なら今までのお返しとして玲さんの分だって払う気概だ。
「今から行くところはデザートも美味しいから、良かったら食べてみて」
「はい」
前から思ってたけど、玲さんって色んなお店知ってて凄いよな。しかも連れてってくれるところ全部美味しいっていう。
大人で、イケメンで、優しくて、穏やかで、話しやすくて⋯ほんと、オレなんかにはもったいなさ過ぎる人だ。
ちらりと横目で見るとパチっと合って、玲さんの手が伸びてきてまた頭が撫でられた。斗真もたまに撫でてくるけど、玲さんの手はなんかホッとする。
オレの気持ちの問題なのかもしれないけど。
玲さんの言う通り、連れて行って貰ったお店のハンバーグもデザートもおかわりがしたいくらい美味しかった。
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