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見てきた背中
玲さんと年末の約束をした次の日、斗真から呼び出されたオレは昼過ぎでも賑わっているファミレスに来ていた。
まぁ呼ばれた理由は分かる。
向かい合わせに座り、とりあえずタブレットでドリンクバーとポテトを頼んで炭酸飲料を入れて戻ってきたオレに、斗真は呆れたように溜め息をついた。
「お前も大概マイペースだよな」
「話してたら喉渇くだろ」
「それはそうだけど⋯まぁいいか」
内容は分かっても斗真が何を言うかは分からないから、水分だけは取れるようにしておかないと。⋯⋯炭酸だけど。
1口飲んで頬杖をつき、何かを打ち込んでたスマホをテーブルに伏せて置いた斗真に「で?」と切り出す。
「何が聞きたいんだ?」
「まず、あの人は本当にお前の彼氏なのか?」
「本当に彼氏」
「騙されたりしてないか?」
「してないって。あの人、めちゃくちゃ優しいんだぞ」
もちろん斗真は玲さんを知らないし、オレに恋人が出来た事で多少なりとも心配になってるからそう聞いてくれてるんだろうけど、オレとしては騙すような人だと思って欲しくない。
ムッとして返せば斗真は眉尻を上げ、人差し指でテーブルを叩く。
「っつか、そもそもどこで会ったんだよ」
いつかは聞かれると思ってた質問にギクリと肩が跳ねる。
嘘つくの苦手だし、斗真には絶対バレるから正直に言うべきなんだろうけど⋯反応が怖いな。
しばらく「んー」だの「えー」だの言ってたら、斗真の眉間にグッと皺が酔った。
「まさか⋯ナンパか?」
「いやぁ? ナンパではない、かな」
マチアプはナンパとは違う気がするから否定すれば、「じゃあどこだよ」って言われてオレは覚悟を決める。
玲さんに出会えた場所なんだから、オレにとっては悪いものじゃないし。
「マッチングアプリ」
「は?」
「だから、マッチングアプリだって」
「お前⋯⋯何でそんなもの使ってるんだよ。危ないだろ」
「でも玲さんに会えた」
「⋯⋯⋯」
「お待たせしました。こちら、フライドポテトでございます」
「あ、どうも」
やっぱりそう言ってきたって思いつつ返せば斗真は黙ってしまい、タイミング良く店員さんがポテトをテーブルへと置く。それに会釈をして、揚げたてのポテトを1本食べたら、斗真は両肘をついて組んだ手の上に額を乗せて息を吐いた。
肺の中の酸素が全部出ていくんじゃないかってくらい長く。
それからその体勢のまましばらく黙り込み、おもむろにポテトを数本掴んだ。一気に口に入れて咀嚼した斗真はオレの炭酸まで飲み干すと、ナフキンで手を拭いて頬をつく。
「好きなんだな」
「うん。今はもう、あの人しか見てない」
斗真への未練は完全に消えたのかと言われれば少し微妙なところではあるけど、玲さんを好きな気持ちは確かだし斗真と伊月くんが目の前でどれだけイチャつこうと、生温かい目で見れる自信はある。
しっかりと頷いたオレにふっと笑った斗真は、注文用タブレットを手に取って操作すると「好きなの頼め」って渡してきた。
受け取り、今度はピザを注文する。
「お前が好きなのは分かったけど、俺は生半可な気持ちの奴にお前を任せるつもりはないからな」
「心配し過ぎだって」
「小学生の頃、お前が知らない兄ちゃんについて行こうとしたの、忘れてないからな」
「それは関係ないだろ」
そもそもそれは、その時一緒に遊んでた友達の兄ちゃんと間違えたただけだし、その兄ちゃんだってオレが間違えてるって分かって連れて行ってくれたんだからここで出すのはおかしいだろ。
眉根を寄せるオレをジト目で見て、斗真は自分で空にしたオレのグラスを手に立ち上がる。
「それくらい危なっかしいって事だ。だから、ちゃんとお前を大切にしてくれる奴じゃなきゃ安心出来ない」
「⋯⋯」
「これが俺の独りよがりだって言うのは分かってる。でも、小さい時から守ってきたんだ。お前が幸せになれるって確信出来るまで、心配させてくれ」
そこまで言ってドリンクバーの方へと歩いて行った斗真の背中が、鈍臭くて泣き虫だった自分をからかう子たちから守ってくれてた背中に重なる。
それを特別だと取ってしまったが故に斗真を好きになったんだけど、今思えば、斗真にとっては当たり前だったんだよな。家族と好きな人への接し方を見てれば、全然違うって分かるし。
最初から、望みなんて欠片もなかった。
(こうやって俯瞰で見られるようになったのも、玲さんのおかげだな)
玲さんがいなかったら斗真に告白する勇気も湧かなかったし、伊月くんとも気まずいどころか嫌われてたかもしれない。
あのアプリがなければ、智弘が登録してくれなければ、玲さんがオレを見つけてくれなければ、顔を上げて前を向くなんて出来なかった。
偶然に偶然が重なったっていうより、なるべくしてなったみたいな。
ただ、どれか1つでも欠けてたら〝今〟はなかったって考えると、人生って本当に不思議だなって思う。
そうしみじみしながらカバンからスマホを出し、ロックを解除した瞬間ポコンって音がして通知がポップアップされた。それをタップし確認したオレは小さく笑う。
『天音くん。30日は何食べたいか、決まったら教えてね』
どうして玲さんのメッセージって、文字だけなのに穏やかに感じるんだろう。
オレは『分かりました』と返してSNSを閉じると、時間を確認してまた注文用タブレットを手に取った。
せっかくだし、デザートも食べよう。
まぁ呼ばれた理由は分かる。
向かい合わせに座り、とりあえずタブレットでドリンクバーとポテトを頼んで炭酸飲料を入れて戻ってきたオレに、斗真は呆れたように溜め息をついた。
「お前も大概マイペースだよな」
「話してたら喉渇くだろ」
「それはそうだけど⋯まぁいいか」
内容は分かっても斗真が何を言うかは分からないから、水分だけは取れるようにしておかないと。⋯⋯炭酸だけど。
1口飲んで頬杖をつき、何かを打ち込んでたスマホをテーブルに伏せて置いた斗真に「で?」と切り出す。
「何が聞きたいんだ?」
「まず、あの人は本当にお前の彼氏なのか?」
「本当に彼氏」
「騙されたりしてないか?」
「してないって。あの人、めちゃくちゃ優しいんだぞ」
もちろん斗真は玲さんを知らないし、オレに恋人が出来た事で多少なりとも心配になってるからそう聞いてくれてるんだろうけど、オレとしては騙すような人だと思って欲しくない。
ムッとして返せば斗真は眉尻を上げ、人差し指でテーブルを叩く。
「っつか、そもそもどこで会ったんだよ」
いつかは聞かれると思ってた質問にギクリと肩が跳ねる。
嘘つくの苦手だし、斗真には絶対バレるから正直に言うべきなんだろうけど⋯反応が怖いな。
しばらく「んー」だの「えー」だの言ってたら、斗真の眉間にグッと皺が酔った。
「まさか⋯ナンパか?」
「いやぁ? ナンパではない、かな」
マチアプはナンパとは違う気がするから否定すれば、「じゃあどこだよ」って言われてオレは覚悟を決める。
玲さんに出会えた場所なんだから、オレにとっては悪いものじゃないし。
「マッチングアプリ」
「は?」
「だから、マッチングアプリだって」
「お前⋯⋯何でそんなもの使ってるんだよ。危ないだろ」
「でも玲さんに会えた」
「⋯⋯⋯」
「お待たせしました。こちら、フライドポテトでございます」
「あ、どうも」
やっぱりそう言ってきたって思いつつ返せば斗真は黙ってしまい、タイミング良く店員さんがポテトをテーブルへと置く。それに会釈をして、揚げたてのポテトを1本食べたら、斗真は両肘をついて組んだ手の上に額を乗せて息を吐いた。
肺の中の酸素が全部出ていくんじゃないかってくらい長く。
それからその体勢のまましばらく黙り込み、おもむろにポテトを数本掴んだ。一気に口に入れて咀嚼した斗真はオレの炭酸まで飲み干すと、ナフキンで手を拭いて頬をつく。
「好きなんだな」
「うん。今はもう、あの人しか見てない」
斗真への未練は完全に消えたのかと言われれば少し微妙なところではあるけど、玲さんを好きな気持ちは確かだし斗真と伊月くんが目の前でどれだけイチャつこうと、生温かい目で見れる自信はある。
しっかりと頷いたオレにふっと笑った斗真は、注文用タブレットを手に取って操作すると「好きなの頼め」って渡してきた。
受け取り、今度はピザを注文する。
「お前が好きなのは分かったけど、俺は生半可な気持ちの奴にお前を任せるつもりはないからな」
「心配し過ぎだって」
「小学生の頃、お前が知らない兄ちゃんについて行こうとしたの、忘れてないからな」
「それは関係ないだろ」
そもそもそれは、その時一緒に遊んでた友達の兄ちゃんと間違えたただけだし、その兄ちゃんだってオレが間違えてるって分かって連れて行ってくれたんだからここで出すのはおかしいだろ。
眉根を寄せるオレをジト目で見て、斗真は自分で空にしたオレのグラスを手に立ち上がる。
「それくらい危なっかしいって事だ。だから、ちゃんとお前を大切にしてくれる奴じゃなきゃ安心出来ない」
「⋯⋯」
「これが俺の独りよがりだって言うのは分かってる。でも、小さい時から守ってきたんだ。お前が幸せになれるって確信出来るまで、心配させてくれ」
そこまで言ってドリンクバーの方へと歩いて行った斗真の背中が、鈍臭くて泣き虫だった自分をからかう子たちから守ってくれてた背中に重なる。
それを特別だと取ってしまったが故に斗真を好きになったんだけど、今思えば、斗真にとっては当たり前だったんだよな。家族と好きな人への接し方を見てれば、全然違うって分かるし。
最初から、望みなんて欠片もなかった。
(こうやって俯瞰で見られるようになったのも、玲さんのおかげだな)
玲さんがいなかったら斗真に告白する勇気も湧かなかったし、伊月くんとも気まずいどころか嫌われてたかもしれない。
あのアプリがなければ、智弘が登録してくれなければ、玲さんがオレを見つけてくれなければ、顔を上げて前を向くなんて出来なかった。
偶然に偶然が重なったっていうより、なるべくしてなったみたいな。
ただ、どれか1つでも欠けてたら〝今〟はなかったって考えると、人生って本当に不思議だなって思う。
そうしみじみしながらカバンからスマホを出し、ロックを解除した瞬間ポコンって音がして通知がポップアップされた。それをタップし確認したオレは小さく笑う。
『天音くん。30日は何食べたいか、決まったら教えてね』
どうして玲さんのメッセージって、文字だけなのに穏やかに感じるんだろう。
オレは『分かりました』と返してSNSを閉じると、時間を確認してまた注文用タブレットを手に取った。
せっかくだし、デザートも食べよう。
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