冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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触れる手

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 あんまりにも沈黙が苦しくて、重い空気にも耐えられなくなった僕は思い切って口火を切ってみる事にした。

「と、斗希くん」
「ん?」
「どうして、僕の家が分かったの?」

 最寄り駅は一緒だから分かるにしても、駅に着く時間だって帰る時間だって合わないから僕が駅を出てどっちに向かうかも知らないはずなのに。
 そう聞くと、斗希くんはバツが悪そうな顔をしたあと、ポツリと「つけた」と零した。
 ⋯⋯つけた? 何を?

「ちょっと前にお前を見かけて⋯何か、荷物多かったから声、かけるかどうか迷ってるうちに⋯」
「ここまで着いて来た⋯?」
「⋯⋯⋯」

 意外な話だったけど、それならまぁ納得はする。
 珍しく気まずそうに目を逸らす斗希くんだけど、別に家を知られるくらいは構わない。相手が斗希くんだし、昨日の事がなければそのうち教えようと思ってたし。
 そこで話が終わってしまい、気まずくなって斗希くんの顔が見れずに俯いてたら、立てていた片膝を寝かせて胡座に変えた斗希くんが長く息を吐いた。

「⋯っつか、、本気でそうなのか?」
「⋯⋯うん」
「なんで」
「な、なんでって⋯それは、斗希くんが1番分かってるでしょ⋯?」

 てっきり僕と別れる事になってホッとしてると思ってたのに、斗希くんの反応はどっちかというと嫌そうで僕の方が戸惑う。
 今までの斗希くんを見てたら、僕に気がないのは確かなんだけど⋯。
 当事者であるからこそそう答えたのに、斗希くんは眉を顰めると僕の方へと少しだけ近付いてきた。

「分かんねぇからここに来たんだろ」
「⋯⋯⋯」
「別れる理由、何」

 本当に分からないの? どうして?
 もしかしたら誤魔化してるのかもって斗希くんを見たけどそんな様子はなくて、本気で合点がいかないって顔してる。
 何となく上手く噛み合ってない気がしながら、僕はハッキリと言う事にした。

「斗希くん、好きな人、いるよね⋯?」
「⋯は?」
「髪の長い、綺麗な女の人」
「⋯⋯髪の長い綺麗な女⋯?」

 ますます眉間に皺が寄り、思い出そうとしてるのか斗希くんが視線を上に向ける。でも全然ピンと来てないようで、首を傾げてしばらく考えたあと諦めたのか頭を振った。
 昨日の今日なのに、忘れるってある?

「マジで誰?」
「き、昨日、一緒にいたでしょ?」
「昨日⋯⋯⋯あ? アイツの事言ってんの?」
「た、たぶん⋯?」
「やめろよ、アイツが綺麗とか。ただのバケモンだから」
「ばけ⋯」

 心底嫌そうな顔をしてそんな事を言う斗希くんに僕の頭はハテナでいっぱいだ。
 でも一緒にいた事は認めてるし、そうまで言える関係なんだって内心落ち込んでたら、何かに気付いた斗希くんがじろりと僕を見てきた。

「じゃあお前、アイツを俺の好きな奴と勘違いしたって事か? ざけんな、気持ち悪い」
「き、気持ち悪い⋯」

 どんどん言葉がひどくなっていく。
 ぽかんとする僕に呆れたような溜め息をついた斗希くんは、さらに僕に近付くとおもむろに頬に触れてきた。
 初めて斗希くんから触られて驚いて息が止まる。

「そんな妄想して、こんな泣き腫らした顔してんの?」
「⋯これ、は⋯」
「馬鹿だろ」
「バカ⋯って⋯」

 まるで見たままを信じた僕が悪いって言われてるみたいでムッとする。
 どれだけ嘘だって、そんな事ないって否定されても、今までの事があるから信じてしまうのも仕方ないじゃないか。
 それに、現に僕に連絡くれないでその人と一緒にいたんだから。

「だって斗希くん、僕といてもちっとも楽しそうじゃなかった。僕が何かするといつも眉を顰めたり顔を逸らしたり⋯デートだってあんまりしたくなさそうだったもん⋯」
「⋯⋯⋯」
「僕の事好きじゃないのは分かってたよ。今だって面倒だって思ってるでしょ?    ⋯だから、もうこれ以上斗希くんを縛るのはやめようって⋯⋯斗希くんには幸せになって欲しいから⋯」

 あのメッセージで終わるはずだった。あの時と違ってメッセージを送ってるし、会わないようにすれば、少なくとも斗希くんは僕を気にかけなくて済むって。
 なのに、どうしてうちに来たの? なんで別れる理由を聞くの?
 今になって、一度も伸ばして来なかった手で触れて、思わせ振りな事しないで欲しい。
 せっかく引っ込んだ涙がまた溢れてきて、僕は斗希くんから顔を背けて離れようとした。でもその前に腕が掴まれ、振り向いた瞬間斗希くんの顔がアップになり唇に何かが触れる。
 それが斗希くんの唇だって分かって、僕は頭の中が真っ白になった。

「お前は、俺が好きでもない奴と1年以上も付き合うって、本気で思ってんの?」
「⋯ぇ⋯」
「正直、最初は虫除けになればいいって思ってた。同じ男ならまぁ間違いは起こんねぇだろうしって。俺が自分本位な行動取っても何も言わねぇ、怒んねぇ。何かをねだる訳でもねぇからすげぇ楽だった。俺は、自分の都合のいいようにお前を扱ってたんだよ。⋯⋯なのにお前、俺に会うといつも嬉しそうに笑うし、何言われても好きだって気持ちを隠しもしねぇから⋯⋯いつの間にか絆されてた」

 こんなに饒舌な斗希くんは初めて見る。
 しかも僕にとって都合のいい言葉しか聞こえてこなくて、斗希くんとの顔の近さも相俟って若干パニックになってた。

「いちいち可愛いんだよ、お前」
「へ⋯」
「お前が笑うたび、見上げてくるたび、お前に手ぇ出そうとすんのを俺がどんだけ我慢してたか知ってるか? 確かに不機嫌な態度は取ってたかもしんねぇけど、お前を無理やり組み敷くような真似はしたくなかったんだよ。⋯なのに、何も言わねぇで勝手に別れる事決めやがって」
「と、斗希くん⋯」
「お前が勝手に決めんなら俺も勝手にする。もう我慢なんかしねぇ」

 顔だけじゃなく、全体的にどんどん距離が縮まっていくから後ろに下がってたら、手が滑って背中から床に倒れ込んだ。その上に斗希くんが覆い被さってきて、真っ直ぐに見下ろされる。
 この状況は一体何? というか、我慢しないって何を?

「俺は言葉にすんのは得意じゃねぇ。1度しか言わねぇから、ちゃんと聞いとけよ」
「何を⋯」
「好きだ、陽依」
「⋯⋯斗希く⋯」
「思い知らせてやるよ。もう2度と、別れる気なんざ起きねぇくらい」

 そう言ってニヤリと笑った斗希くんは僕の頬を撫でると、再び顔を寄せて口付けてきた。ふわりとムスクが香り僕を包み込む。
 あまりにも急展開過ぎて思考が追い付いていない僕だけど、確かに感じる温もりにまた涙が溢れ、滲んだ視界を隠すようにそっと目を閉じた。
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