41 / 54
想定外の贈り物
しおりを挟む
あれから4人で他愛ない話を1時間くらいして、父さんと母さんは「そろそろお暇するか」と言って立ち上がった。
てっきり夕飯まで食べて帰ると思ってたから、僕は目を瞬きながら腰を上げ玄関へ向かう2人を追いかける。
「もう帰るの?」
「陽依の顔を見に来ただけだもの」
「ついでに、観光でもして帰るつもりだ」
「案内とかいらない?」
「何言ってるの。自分で見つけるのが楽しいんだから」
どこかウキウキしてる母さんの言葉にそれもそっかと納得した僕は、せめて下まで見送ろうとサンダルを引っ掛け先に扉から出る。斗希くんも2人の後ろからついて来てくれてて、全員出たあと扉を押さえていた僕の代わりに閉めてくれた。
手、繋ぎたいけど今はやめとこうかな。
このマンション4階建てだからエレベーターはなくて、僕と斗希くんが先をいく形で階段を下りマンション入り口で向かい合ったら母さんがおもむろに僕を抱き締めてきた。
「次は風峯くんと一緒に、うちに帰ってらっしゃい」
「うん」
「陽依の事、よろしくね」
「はい、任せて下さい」
「陽依」
僕よりも小さな母さんが、いつものように柔らかく微笑みながらそう言ってくれる。
それに頷きで返してたら、父さんに呼ばれて手招きされた。首を傾げつつ近付くと、耳元に唇が寄せられコソコソと話し始める。
「風峯くんは、お前の、穏やかで優しいのに、芯があってきちんと自分を持っているところが好きなんだそうだ」
「え?」
「あの子はいい男だな。しっかり捕まえておけ」
「う、うん。⋯?」
どうして父さんがそんな事を知ってるのかとか、斗希くんがいい男なのは分かりきってるしとか、こんがらがって戸惑ったような返事しか出来なかったけど、2人が手を振り去って行ったあとじわじわと理解した僕はニヤけそうになるのを堪えながら斗希くんを見上げる。
たぶん父さんに聞かれて答えてくれたんだろうな。言葉にするの苦手なのに。
「⋯何だよ」
「僕は、僕が呼んだらすぐに反応してくれるところとか、僕だけに見せてくれる表情とか、ちょっと意地悪なところとか⋯斗希くんの全部が大好きだよ」
「⋯⋯⋯⋯聞いたのか」
「うん。嬉しかった」
眉根を寄せた斗希くんは僕から視線を逸らして舌打ちしたけど、それが照れ臭さからくる行動だってもう分かってるからクスリと笑って斗希くんの顔を覗き込む。
目を合わせたくてじっと見てたら少し乱暴に頭が撫でられ腕が引かれた。
無言のまま階段を上がり、玄関の内側に連れ込まれ扉が閉まった瞬間唇が塞がれ鼻から吐息が漏れる。
「⋯朝の続き、するか?」
「お腹空いてない?」
「空いててもお前優先」
もうすぐお昼になるからそう聞いたんだけど逆に嬉しい言葉が返ってきて、僕は目を瞬いたあと斗希くんの首に腕を回して頷いた。
それにしても、こういう事は言ってくれるの、何の違いなんだろう。
見上げると視界がピンクで埋め尽くされ、風で揺れるたび陽の光が隙間から差し込む。
今日は卒業式で、今はもう式も終わりみんなで最後の挨拶をしてた。写真を撮ったり卒業アルバムの余白にメッセージを書き込んだり⋯あ、大胆にもみんなの前で告白してる人もいる。
斗希くんと出会ってからは、あっという間の学生生活だったなぁ。
「陽依」
「夏生くん」
「卒業しちゃったね。陽依とも会う回数減るの、寂しいよ」
「夏生くんは大学で僕は社会人だから、タイミングもなかなか合わなさそうだもんね」
「オレが合わせるから、絶対また遊ぼうね!」
「うん、約束」
斗希くんがうちに泊まるようになってから遊ぶ機会も減ってたし、連絡さえも減りそうだなって落ち込んでたら、夏生くんの方からそう言ってくれてホッとする。
これからも遊んでくれるの嬉しいな。
「た、小鳥遊⋯っ」
「?」
夏生くんとこの先の事を話してたら不意に名前が呼ばれ、振り向くと妙にそわそわしている男子がいて僕は首を傾げた。
確か、2年の時に同じクラスだったかな。
「どうしたの?」
「あの、さ⋯その⋯良かったら、SNSとか交換しない?」
「SNS?」
「うん、時間あったら遊びたいなって⋯」
同じクラスの時だってたまにしか話してなかったのに、僕と遊びたいって思ってくれてたなんて意外だ。
時間が合うかは分からないけど、連絡先を交換するくらいならいっか。
ポケットからスマホを出し、SNSを開いてQRコードを表示させる。
「じゃあこのコードを⋯⋯」
「陽依」
同じようにスマホを出したその子に読み込んで貰おうと足を踏み出す直前、不意に低い声が聞こえほぼ反射的に顔を向けたら私服姿の斗希くんが立ってた。しかも肩に乗せるように大きな花束を持ってるんだけど、それが凄く様になっててかっこいい。
斗希くんはチラリと僕の向かいに立つ子を見たあと、ポカンとしてる僕にそれを差し出してきた。
「え⋯」
「卒業、おめでとう」
斗希くんが花束を持ってるだけでも珍しいのに、まさかそれが僕への贈り物なんて思わなくて、戸惑いつつも受け取れば斗希くんはふっと笑って僕の頬へと口付けてきた。
周りがザワついた気がしなくもないけど、僕は嬉し過ぎてそれどころじゃない。
「⋯⋯こんなのズルい⋯」
「泣き虫」
「誰のせいで⋯っ」
卒業式では泣かないように頑張ってたのに、こんな事をされたら耐えられる訳もなくて、僕の目から溢れた涙がポタポタと花束に落ちる。
どうしてこんなに、僕を嬉しい気持ちにさせてくれるんだろう。
潰れない程度に花束を抱き締めた僕は、斗希くんを見上げて濡れた頬を緩め微笑んだ。
「ありがとう、斗希くん」
何があっても、この日の事は一生忘れない。
卒業式っていう特別な出来事が、もっと特別になった日だから。
一方その頃。
「⋯だ、誰だよ⋯」
「陽依の彼氏」
「え」
「あんなイケメン、誰も勝てないから諦めた方がいいよ」
「⋯くそ⋯もっと早く行動しておけば良かった⋯」
「どんまい」
すっかり斗希くんに意識が向いていた僕は、そうやって夏生くんがその子を慰めていた事には少しも気付けなかった。
結局SNSは交換出来なかったけど⋯良かったのかな。
てっきり夕飯まで食べて帰ると思ってたから、僕は目を瞬きながら腰を上げ玄関へ向かう2人を追いかける。
「もう帰るの?」
「陽依の顔を見に来ただけだもの」
「ついでに、観光でもして帰るつもりだ」
「案内とかいらない?」
「何言ってるの。自分で見つけるのが楽しいんだから」
どこかウキウキしてる母さんの言葉にそれもそっかと納得した僕は、せめて下まで見送ろうとサンダルを引っ掛け先に扉から出る。斗希くんも2人の後ろからついて来てくれてて、全員出たあと扉を押さえていた僕の代わりに閉めてくれた。
手、繋ぎたいけど今はやめとこうかな。
このマンション4階建てだからエレベーターはなくて、僕と斗希くんが先をいく形で階段を下りマンション入り口で向かい合ったら母さんがおもむろに僕を抱き締めてきた。
「次は風峯くんと一緒に、うちに帰ってらっしゃい」
「うん」
「陽依の事、よろしくね」
「はい、任せて下さい」
「陽依」
僕よりも小さな母さんが、いつものように柔らかく微笑みながらそう言ってくれる。
それに頷きで返してたら、父さんに呼ばれて手招きされた。首を傾げつつ近付くと、耳元に唇が寄せられコソコソと話し始める。
「風峯くんは、お前の、穏やかで優しいのに、芯があってきちんと自分を持っているところが好きなんだそうだ」
「え?」
「あの子はいい男だな。しっかり捕まえておけ」
「う、うん。⋯?」
どうして父さんがそんな事を知ってるのかとか、斗希くんがいい男なのは分かりきってるしとか、こんがらがって戸惑ったような返事しか出来なかったけど、2人が手を振り去って行ったあとじわじわと理解した僕はニヤけそうになるのを堪えながら斗希くんを見上げる。
たぶん父さんに聞かれて答えてくれたんだろうな。言葉にするの苦手なのに。
「⋯何だよ」
「僕は、僕が呼んだらすぐに反応してくれるところとか、僕だけに見せてくれる表情とか、ちょっと意地悪なところとか⋯斗希くんの全部が大好きだよ」
「⋯⋯⋯⋯聞いたのか」
「うん。嬉しかった」
眉根を寄せた斗希くんは僕から視線を逸らして舌打ちしたけど、それが照れ臭さからくる行動だってもう分かってるからクスリと笑って斗希くんの顔を覗き込む。
目を合わせたくてじっと見てたら少し乱暴に頭が撫でられ腕が引かれた。
無言のまま階段を上がり、玄関の内側に連れ込まれ扉が閉まった瞬間唇が塞がれ鼻から吐息が漏れる。
「⋯朝の続き、するか?」
「お腹空いてない?」
「空いててもお前優先」
もうすぐお昼になるからそう聞いたんだけど逆に嬉しい言葉が返ってきて、僕は目を瞬いたあと斗希くんの首に腕を回して頷いた。
それにしても、こういう事は言ってくれるの、何の違いなんだろう。
見上げると視界がピンクで埋め尽くされ、風で揺れるたび陽の光が隙間から差し込む。
今日は卒業式で、今はもう式も終わりみんなで最後の挨拶をしてた。写真を撮ったり卒業アルバムの余白にメッセージを書き込んだり⋯あ、大胆にもみんなの前で告白してる人もいる。
斗希くんと出会ってからは、あっという間の学生生活だったなぁ。
「陽依」
「夏生くん」
「卒業しちゃったね。陽依とも会う回数減るの、寂しいよ」
「夏生くんは大学で僕は社会人だから、タイミングもなかなか合わなさそうだもんね」
「オレが合わせるから、絶対また遊ぼうね!」
「うん、約束」
斗希くんがうちに泊まるようになってから遊ぶ機会も減ってたし、連絡さえも減りそうだなって落ち込んでたら、夏生くんの方からそう言ってくれてホッとする。
これからも遊んでくれるの嬉しいな。
「た、小鳥遊⋯っ」
「?」
夏生くんとこの先の事を話してたら不意に名前が呼ばれ、振り向くと妙にそわそわしている男子がいて僕は首を傾げた。
確か、2年の時に同じクラスだったかな。
「どうしたの?」
「あの、さ⋯その⋯良かったら、SNSとか交換しない?」
「SNS?」
「うん、時間あったら遊びたいなって⋯」
同じクラスの時だってたまにしか話してなかったのに、僕と遊びたいって思ってくれてたなんて意外だ。
時間が合うかは分からないけど、連絡先を交換するくらいならいっか。
ポケットからスマホを出し、SNSを開いてQRコードを表示させる。
「じゃあこのコードを⋯⋯」
「陽依」
同じようにスマホを出したその子に読み込んで貰おうと足を踏み出す直前、不意に低い声が聞こえほぼ反射的に顔を向けたら私服姿の斗希くんが立ってた。しかも肩に乗せるように大きな花束を持ってるんだけど、それが凄く様になっててかっこいい。
斗希くんはチラリと僕の向かいに立つ子を見たあと、ポカンとしてる僕にそれを差し出してきた。
「え⋯」
「卒業、おめでとう」
斗希くんが花束を持ってるだけでも珍しいのに、まさかそれが僕への贈り物なんて思わなくて、戸惑いつつも受け取れば斗希くんはふっと笑って僕の頬へと口付けてきた。
周りがザワついた気がしなくもないけど、僕は嬉し過ぎてそれどころじゃない。
「⋯⋯こんなのズルい⋯」
「泣き虫」
「誰のせいで⋯っ」
卒業式では泣かないように頑張ってたのに、こんな事をされたら耐えられる訳もなくて、僕の目から溢れた涙がポタポタと花束に落ちる。
どうしてこんなに、僕を嬉しい気持ちにさせてくれるんだろう。
潰れない程度に花束を抱き締めた僕は、斗希くんを見上げて濡れた頬を緩め微笑んだ。
「ありがとう、斗希くん」
何があっても、この日の事は一生忘れない。
卒業式っていう特別な出来事が、もっと特別になった日だから。
一方その頃。
「⋯だ、誰だよ⋯」
「陽依の彼氏」
「え」
「あんなイケメン、誰も勝てないから諦めた方がいいよ」
「⋯くそ⋯もっと早く行動しておけば良かった⋯」
「どんまい」
すっかり斗希くんに意識が向いていた僕は、そうやって夏生くんがその子を慰めていた事には少しも気付けなかった。
結局SNSは交換出来なかったけど⋯良かったのかな。
1,174
あなたにおすすめの小説
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
彼氏の優先順位[本編完結]
セイ
BL
一目惚れした彼に告白されて晴れて恋人になったというのに彼と彼の幼馴染との距離が気になりすぎる!恋人の僕より一緒にいるんじゃない?は…!!もしかして恋人になったのは夢だった?と悩みまくる受けのお話。
メインの青衣×青空の話、幼馴染の茜の話、友人倉橋の数話ずつの短編構成です。それぞれの恋愛をお楽しみください。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
冷遇された公爵子息に代わって自由に生きる
セイ
BL
良くは思い出せないけれど死んでしまった俺は真っ白な部屋で可愛らしい男の子と出会う。神様の計らいで生まれ変わる俺は同じ様に死んだその男の子の身体へと生まれ変わることになった。しかし、その男の子は家族に冷遇されていた公爵家の息子だったようだ。そんな家族と親しくなれないと思った俺は家を出て自由に生きる決意をする。運命の番と出会い、幸せに生きる男の話。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる