佐久間兄弟の幸せな日常

ミヅハ

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一度だけでいいから

 明兄のおかげで、学期末テストは全部平均点以上だったし過去最高得点を叩き出した。
 二人に見せたらすごく褒めてくれて、その日の夜は頑張ったご褒美だってお寿司に連れて行って貰えて⋯美味しかったなぁ。
 あとは何事もなく三学期を終えるだけなんだけど、俺はいろいろ考えた結果三年に上がる前に赤瀬(今だ名前で呼べてない)にちゃんと言おうと思って、放課後屋上前の踊り場に呼び出した。
 俺の少しあとにやってきた赤瀬が、ふっと笑って片手を上げる。

「よう」
「呼び出してごめんね」
「いや、大丈夫」

 そこで沈黙が落ちて、俺は何から言おうかと考えを巡らせる。
 恋人が出来た事が先か、それとも応えられない事への謝罪か、悩んでいたら赤瀬が先に口を開いた。

「凪沙が何を言おうとしてるかは分かってる」
「え?」
「恋人、出来たんだろ?」

 分かってるって何がだろうって目を瞬く俺に、赤瀬から爆弾が投下される。
 まさか気付かれていたなんて思ってもなくて、驚く俺を見て赤瀬はキョトンとして首を傾げた。

「ん? 違う?」
「どうして⋯」
「んー……雰囲気? 凪沙、前より少しだけど表情が出るようになったから、もしかしてそうなんかなって」

 何て洞察力なんだろう。俺は今までと変わってないつもりだったんだけど、赤瀬には違って見えたんだ。
 でも、気付いてたのにどうして何も言わなかったのかな。
 不思議に思いつつ、俺は少しの間のあと小さく頷いた。

「それって、俺がきっかけだったりすんの?」
「⋯その人を好きだって気付いたのはそれより前だけど、付き合ったのは赤瀬に告白されたあと」
「そっか。じゃあ告った時点で無理だったのか」
「言うの遅くなってごめん」

 本当に何度も言おうとはした。でも兄弟だからって事が頭の中をぐるぐるして、どうしても口に出せずにいた。
 でも明兄がおかしくないよって言ってくれたから、少しだけ勇気がでたんだ。
 赤瀬に変な目で見られたら悲しいけど、言わないで望みを持たせておく方が申し訳なかった。
 だから謝ったんだけど、どうしてか赤瀬はクスリと笑い俺の頭を撫でてきた。

「謝んなって。お前の事だ、どうせいろいろ考えて言えなかったんだろ? 仕方ねぇよ」
「……」

 仕方ない。赤瀬の方がそう言い聞かせてる気がして、俺は胸が痛くなる。
 でもこれ以上謝るのも赤瀬の気持ちを蔑ろにしている気がして、俺はまた黙り込んでしまった。
 言葉を見つけられない自分がすごく嫌だ。
 これ以上俺から話せる事がなくて、でもそれじゃあとも言えなくてもごもごしてたら、赤瀬が俺の方へと近付いて来たのが分かった。

「なぁ、一つお願いがあんだけど」
「? お願い?」
「三年に上がる前に、一回でいいから二人で遊びに行きたい」
「遊びに?」
「そう。そしたら、凪沙の事は諦める」

 赤瀬と遊びに行く。一瞬迷ったけど、それで赤瀬も気持ちの整理が出来るなら俺は行くべきだ。
 赤瀬の顔を見上げた俺は、今度は大きく頷く。

「分かった」
「よっしゃ。じゃあ土曜日、十一時に凪沙んとこの駅前集合な」
「うん」

 途端に赤瀬は嬉しそうに笑い、さっそくと言わんばかりに日時と場所を指定してくれた。
 それを有り難く思いながら返事をして、用事があると言う赤瀬とは門で別れてから駅へと向かう。
 そういえば赤瀬は相手が誰かを聞かなかった。
 知ってる感じはなかったし、もしかしたら聞きたくなかったのかも。俺が赤瀬の立場だったら、兄ちゃんの恋人の事なんて知りたくないもんね。


 土曜日、バイトに向かう兄ちゃんを見送った俺は、準備をして待ち合わせ場所である駅へと向かった。
 十分前に着いたのに赤瀬はすでに待っていて、二人の女の子たちと楽しそうに話してる。知り合いなのかとも思ったけど、〝お兄さん〟って呼ばれてるからそうじゃないらしい。
 陽キャだからというより、赤瀬がすごいのかも。
 話が終わったら声をかけようと思ってたから遠目に見てたら、ふとこっちを向いた赤瀬が気付いて女の子たちに何かを言って俺の方へと向かってきた。

「はよ、凪沙」
「おはよう。あの人たちよかったの?」
「ああ、大丈夫。ただのナンパだし」
「そうなんだ」

 ナンパされて、あんなに仲良く話す事って陽キャには当たり前なのかな。友達みたいに盛り上がってたけど。
 ちらりと女の子たちがいた方を見るともういなくて、どっちもあっさりしてるんだなって思った。
 兄ちゃんもよくナンパされてるけど、キッパリ断ったりあんまりしつこいと無視したりするから、赤瀬の対応は素直に感心する。

「凪沙、朝飯いつ食った?」
「八時くらいかな」
「じゃあ腹減ってねぇか⋯俺、ぎりぎりまで寝てて食ってねぇんだよな。奢るから、先に飯食っていい?」
「うん、いいよ」

 別に奢りじゃなくても着いて行くのにと思いつつ、どこの飲食店がいいかと辺りを見回す。
 カフェ、ファーストフード、丼チェーン店。結構選び放題だけど、赤瀬はどれくらいお腹空いてるんだろう。

「ハンバーガー食いてぇ」
「⋯ライバル店の三つ巴⋯」
「はは、んじゃ、あんま並んでねぇ方行くか」

 どうしてって聞きたくなるほど近い場所に系列の違うバーガーショップがある。
 俺の呟きに笑った赤瀬は俺の手首を掴むと、比較的お客さんのいない店へと歩き出した。それでも五分以上は待ちそうだけど。
 結局、飲み物だけだからいいって言ったのに、それならなおさらって返されて赤瀬に奢って貰ってしまった。
 次に赤瀬が何かを買おうとしたら、俺が払わないとだ。
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