孤独な青年はひだまりの愛に包まれる

ミヅハ

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目撃

 鷹臣さんのお家にお世話になり始めてから早二週間。
 その間に僕は鷹臣さんの凄さをまざまざと思い知らされて、本当に僕なんかが恋人でいいのかと心配になってた。
 鷹臣さんは顔が整ってて背が高くてセンスも良くて、きっとお仕事も凄く出来る人。加えて料理も掃除も洗濯もその他も、僕が手を出すなんて以ての外ってくらい完璧にこなしてる。
 正直、今の僕は鷹臣さんにとってはお荷物状態でしかなかった。



「いいじゃん、スパダリ」

 大学のカフェテリア。今日は彼女さんが家の用事でお休みしてるという叶くんと一緒に休憩してて、付き合ってる人がいてどうしたら役に立てるか悩んでるって話をしたらそんな答えが返ってきた。
 ちなみに男の人だって言うのは一番初めに伝えてる。

「スパダリ?」
「スーパーダーリンの略。イケメンで高身長で家事完璧でその他何でも出来るんだろ? しかも広くて立派な一軒家に住んでるって事は収入も高そうだし、いい会社に勤めてそう」
「仕事の話とか大学とか、そういう話はした事ないなぁ」
「普段どんな話してんの?」

 聞かれて家での会話を思い出す。昨日は何を話したっけ。
 大人な鷹臣さんはいつだって穏やかなトーンで僕の目を見て話してくれて、時々頬に触れたり頭を撫でたりしてくれる。

『遥斗くんは嫌いな食べ物はある?』
『辛いのと苦いのはちょっと⋯』
『食材は?』
『ゲテモノ系以外なら大丈夫です』
『ゲテモノ系?』
『ナマコとか⋯』
『それはさすがに俺も調理しないかな』

 そう言って鷹臣さんは珍しく声を上げて笑ってたっけ。
 あんまり人と話す事が得意じゃない僕だけど、鷹臣さんと話すのは本当に楽しくてつい時間を忘れちゃう事がある。叶くんでもそんな気持ちになった事ないのに、鷹臣さんとだともっと話したいって思うんだ。
 それに最近気付いたんだけど⋯僕、めちゃくちゃ鷹臣さんに甘やかされてる。
 朝起きれなかったら起こしに来てくれるし、最初の日からずっと何時からだろうと大学に送ってくれるし、バイトが終わったら迎えに来てくれて⋯おまけにお風呂上がりには飲み物が用意してあってドライヤーまでしてくれるんだよ。
 自分がダメ人間になりそうで怖い。

「遥斗?」
「あ、えっと⋯日常的な会話、かな」
「日常的な会話ねぇ。まぁ幸せそうだし、遥斗が気にならないんならいいんじゃないか?」
「⋯僕、幸せそう?」
「え、そんな顔しといて幸せじゃないの?」
「どんな顔してる?」

 朝の支度をする時以外基本的に鏡は見ないからそんな顔って言われても分からない。
 頬を軽く押さえながら聞き返すと、叶くんは僕の顔をじーっと見たあとふって笑って額をつついてきた。

「普段からふわふわしてるけど、今はもっとふわふわしてる。あと、さっきその人の事考えてたんだなって分かるくらいにまにましてた」
「にまにま⋯」
「何にせよ、友達が幸せなら俺も嬉しいよ」
「ありがとう、叶くん」
「役に立ちたいなら、して欲しい事聞いてみれば?」
「⋯⋯そうだね。そうしてみる」
「頑張れ」

 鷹臣さんはちゃんと答えてくれる人なんだから、分からないなら叶くんの言う通り聞いてみればいいんだよね。
 さっそく今夜にでもと気合いを入れた僕は、相談に乗ってくれた叶くんにお礼として今度飲み物を奢る約束をして席を立ち、それぞれの講義室に向かう為その場をあとにした。
 せめて掃除か洗濯だけでも出来ないかな。


 大学が終わり、バイトに向かう途中には僕が良く寄る文房具屋さんがある。品揃えが豊富で大体の物はここにあるからここら辺の学校に通う人たちから重宝されてた。
 そろそろシャー芯とノートが切れそうだし、買っておこうとお店に入ろうとした僕の耳に聞き覚えのある声が入ってきた気がして足を止める。何気なくそっちに視線を向けて動けなくなった。

「今回は本当に疲れたんですよ? 分かってます?」
「分かってる。君には感謝してるよ」
「もっと労って下さい」
「労っているからこそ、君の行きたい場所に連れて来たんだろう?」
「そうじゃないと割に合いませんもの。あ、ここですよ。もうお腹がはち切れそうになるくらい食べまくりますからね」
「はいはい。好きなだけどうぞ」

 楽しそうに話をする背の高いかっこいい男の人と小柄で綺麗な女の人。
 女の人に腕を引かれて呆れた顔をしながらもカフェへと入っていった男の人は間違いなく鷹臣さんで、二人の気兼ねない様子に親密度の高さを知る。

(⋯⋯もしかして、彼女さん、とか⋯)

 いつまでも答えを出せない僕にうんざりしてあの人とのお付き合いを始めた? もしくはこれからお付き合いする人、とか。
 だとしたら僕は、もうすぐお別れを告げられるのかな。

(⋯やだな⋯そんなの⋯)

 ズキリと胸に痛みが走った。
 本当なら、鷹臣さんがあの人を選ぶんなら僕は身を引かなきゃいけないのに、身体中が嫌だって叫んでる。別れたくない、離れたくないって。
 いつだって僕に優しく触れてくれていた手が今度からはあの人に触れるなんて、考えただけでも胸が苦しくて堪らなくなる。僕以外に優しくしないで、触らないで、笑いかけないで⋯全部全部、僕だけのものなんだから。

「⋯⋯僕の鷹臣さんなのに⋯⋯⋯⋯え」

 自分勝手な欲望が溢れてきて、無意識に零れた言葉に自分自身が驚いた。
〝僕の〟なんて、そんなものみたいな言い方、鷹臣さんに失礼だし烏滸がましい。
 でも、そのおかげで気付いた事がある。

「⋯⋯⋯これって⋯僕、ヤキモチ妬いてる⋯?」

 どう考えたって立派に妬いてる。鷹臣さんに触れた女の人に。
 恋愛感情が分からないからって足踏みしてたけど、ちゃんと僕、そういう意味で鷹臣さんの事好きだったんだ。

「⋯顔熱い⋯」

 はっきりと理解した途端全身が熱くなってきた。
 でも、もし本当に鷹臣さんがあの人を選ぶならこの気持ちは迷惑になる。うっかり口を滑らせてしまう前に離れた方がいいのかも。
 今日は早上がりさせて貰って、帰って荷物を纏めて鷹臣さんが帰ってくる前に出て行こう。そうすれば安心してあの人とお付き合い出来るよね。

「住まわせてくれたお礼だけは考えておかないと」

 きゅっと唇を噛み、カフェの前は通らないよう避けて走り出した僕はズキズキと痛む胸を押さえてバイト先へと向かった。
 自覚した途端諦めなきゃいけないなんて、悲しいな。
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