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歩む先の不安
月が変わるにつれ、僕はこの先の事を考える時間が増えてきた。
資格もいろいろ取ったし専門的な事も覚えたけど、だからと言ってこれっていうものが見付からなくて、まだ一年あるとはいえ現状どうしたらいいのか悩んでる。
マスターへの恩返しは別としても喫茶店をやめて就職しなきゃなとは思ってるのに、そんな日が来る事が怖くて堪らない。マスターだから、岡野くんだから、あのお店に来るお客さんだから僕は受け入れて貰えたのかもしれなくて、そこから出たらどうなるか⋯ただただ不安だ。
「叶くんはどうするの?」
「俺は普通にサラリーマン。大学出たら茉莉と暮らすし、落ち着いたらプロポーズしようと思ってるから堅実に」
「え、そうなの? わぁ、茉莉ちゃん喜ぶだろうなぁ」
「結婚式には呼ぶから」
「ありがとう」
二人はいつもラブラブだから、きっと一年とか二年後には結婚してる気がする。
ウェディングドレスを着た茉莉ちゃん、すっこぐ綺麗だろうなぁ。
「遥斗は?」
「うん?」
「結婚式。挙げないのか?」
「? 男同士だよ?」
「今は男同士でも挙げられるぞ」
「そ、そうなんだ⋯」
結婚って、言葉も行動も僕には無縁だったし、この先も一生関わる事柄じゃないって思ってたから何も知らなかった。でもそっか、同性同士でも好きな人と神様に誓えるようになったんだ。
いいな。すごく素敵な事だと思う。
引け目を感じてた人が堂々と幸せだって言えるんだもん、いい事だよ。
それにしても、叶くんはサラリーマンか。
「僕はサラリーマンって柄じゃないなぁ⋯」
「そうだな。遥斗はバリバリ働くってより、今のバイト先みたいにのんびり出来る方が性に合ってると思う」
「でもマスターに頼りっきりなのも申し訳なくて⋯」
優しいマスターは、僕が悩んでるって知ったらきっと「このままうちで働いてていいよ」って言ってくれると思う。だけどそれじゃ大学にまで行った意味はなくて、ちゃんと会社に勤めないと一人前になれない気がするんだ。
鷹臣さんの隣に胸を張って立つ為にも就職しなきゃいけないのに、こうして悩み続けてる自分が情けない。
「⋯頑張らなきゃ」
「遥斗、無理だけはするなよ」
「ありがとう。でも、今のままじゃダメだから」
「⋯⋯⋯」
もう時間がない。一年なんてあっという間に過ぎる。
叶くんみたいに早くから決めてる人だっているんだから、せめて就職したい会社を選ぶくらいはしてみんなを安心させなきゃ。
そうじゃなきゃ、僕は本当にダメになってしまう。
「遥斗、少しいい?」
夕食後、お風呂までの時間に少しでも勉強しておこうと部屋に戻ろうとしたら片付けを終えた鷹臣さんに呼び止められた。
振り向き首を傾げると、手を引かれてソファに座らされる。
隣に鷹臣さんも腰を下ろして、僕の顔を真っ直ぐに見てきた。
「卒業後の事、ずいぶん悩んでるみたいだね」
「⋯どうして⋯」
「宮代くんが連絡をくれたんだよ。遥斗が思い詰めてるみたいで心配だって」
「叶くんが⋯」
確かに周りがどんどん将来の事を決めていく中で自分だけが何も見付けられない事には凄く焦ってたけど、まさか鷹臣さんに連絡するほど心配を掛けてたなんて思わなかった。
そんな事も気付けないなんて、やっぱり僕は情けない。
「何に一番悩んでる?」
「⋯⋯⋯受け入れて貰えるか⋯です⋯」
「それは、遥斗の性格の事?」
「⋯はい⋯」
引っ込み思案で人と目を合わせる事も接する事も苦手。
話すのも下手だし、初対面の人には絶対吃るから、それをどう思われるのかが一番の不安だった。
みんながみんな、優しく受け入れてくれるとは限らないんだから。
鷹臣さんの顔が見れなくて、目を伏せた僕の頬を大きな手が挟む。
「俺の考えを言ってもいい?」
「? はい」
「先が不透明だからと不安ばかりを抱えて、焦って事を進めても満足のいく答えは出せないよ。妥協しなければいけない事も確かにあるけど、どうしたいかも決まっていないなら無理に選ばなくていいと俺は思ってる」
「でも⋯」
「まだあと一年あるし、大学を卒業してからゆっくり考えてもいいんじゃないかな。遥斗はマスターや岡野くんのいるあのお店が好きだろう? だったらバイトをしながらでも考える事は出来るよ」
鷹臣さんの言葉は僕には都合が良すぎる。だって、ゆっくりって僕のペースでって事だよね。そんなの、期限がないならいつまでだって悩んでしまいそうだ。
「それは⋯ダメです⋯」
「どうして? 少なくとも俺にはいい事なんだけど」
「え?」
「俺は遥斗が幸せに笑ってくれている方がいいからね。無理して選んだ道でやつれていく遥斗なんて見たくない。それに、喫茶店は遥斗と出会えた場所でもあるから、出来れば辞めて欲しくはないかな」
鷹臣さんがそんな風に思ってくれてるなんて気付いてもなくて、僕と同じように大切な場所にしてくれてるのも初めて知った。
まるで〝あのままあそこにいたい〟っていう、僕の本心を見透かすみたいな鷹臣さんの言葉に僕の目に涙が滲む。
「遥斗は今まで頑張り過ぎるくらい頑張ってきたんだから、少しくらい休んだっていいんだよ。好きな事をして過ごす時間だって、生きていく上では大事なんだから」
「⋯っ⋯」
「俺と一緒に、のんびりやっていこう」
本当にいいのかな。もっともっと、他の人より頑張らなきゃダメだって思ってるのに、足を止めてもいいのかな。
鷹臣さんの言葉に甘えてもいい?
そっと背中に回された手に抱き寄せられ暖かい腕の中に包まれた僕は、今までこんなに泣いた事がないってくらい涙を流しながら鷹臣さんの背中に腕を回して胸元へと顔を埋めた。
何だか、ずっと刺さってた胸のつっかえが取れた気がする。
資格もいろいろ取ったし専門的な事も覚えたけど、だからと言ってこれっていうものが見付からなくて、まだ一年あるとはいえ現状どうしたらいいのか悩んでる。
マスターへの恩返しは別としても喫茶店をやめて就職しなきゃなとは思ってるのに、そんな日が来る事が怖くて堪らない。マスターだから、岡野くんだから、あのお店に来るお客さんだから僕は受け入れて貰えたのかもしれなくて、そこから出たらどうなるか⋯ただただ不安だ。
「叶くんはどうするの?」
「俺は普通にサラリーマン。大学出たら茉莉と暮らすし、落ち着いたらプロポーズしようと思ってるから堅実に」
「え、そうなの? わぁ、茉莉ちゃん喜ぶだろうなぁ」
「結婚式には呼ぶから」
「ありがとう」
二人はいつもラブラブだから、きっと一年とか二年後には結婚してる気がする。
ウェディングドレスを着た茉莉ちゃん、すっこぐ綺麗だろうなぁ。
「遥斗は?」
「うん?」
「結婚式。挙げないのか?」
「? 男同士だよ?」
「今は男同士でも挙げられるぞ」
「そ、そうなんだ⋯」
結婚って、言葉も行動も僕には無縁だったし、この先も一生関わる事柄じゃないって思ってたから何も知らなかった。でもそっか、同性同士でも好きな人と神様に誓えるようになったんだ。
いいな。すごく素敵な事だと思う。
引け目を感じてた人が堂々と幸せだって言えるんだもん、いい事だよ。
それにしても、叶くんはサラリーマンか。
「僕はサラリーマンって柄じゃないなぁ⋯」
「そうだな。遥斗はバリバリ働くってより、今のバイト先みたいにのんびり出来る方が性に合ってると思う」
「でもマスターに頼りっきりなのも申し訳なくて⋯」
優しいマスターは、僕が悩んでるって知ったらきっと「このままうちで働いてていいよ」って言ってくれると思う。だけどそれじゃ大学にまで行った意味はなくて、ちゃんと会社に勤めないと一人前になれない気がするんだ。
鷹臣さんの隣に胸を張って立つ為にも就職しなきゃいけないのに、こうして悩み続けてる自分が情けない。
「⋯頑張らなきゃ」
「遥斗、無理だけはするなよ」
「ありがとう。でも、今のままじゃダメだから」
「⋯⋯⋯」
もう時間がない。一年なんてあっという間に過ぎる。
叶くんみたいに早くから決めてる人だっているんだから、せめて就職したい会社を選ぶくらいはしてみんなを安心させなきゃ。
そうじゃなきゃ、僕は本当にダメになってしまう。
「遥斗、少しいい?」
夕食後、お風呂までの時間に少しでも勉強しておこうと部屋に戻ろうとしたら片付けを終えた鷹臣さんに呼び止められた。
振り向き首を傾げると、手を引かれてソファに座らされる。
隣に鷹臣さんも腰を下ろして、僕の顔を真っ直ぐに見てきた。
「卒業後の事、ずいぶん悩んでるみたいだね」
「⋯どうして⋯」
「宮代くんが連絡をくれたんだよ。遥斗が思い詰めてるみたいで心配だって」
「叶くんが⋯」
確かに周りがどんどん将来の事を決めていく中で自分だけが何も見付けられない事には凄く焦ってたけど、まさか鷹臣さんに連絡するほど心配を掛けてたなんて思わなかった。
そんな事も気付けないなんて、やっぱり僕は情けない。
「何に一番悩んでる?」
「⋯⋯⋯受け入れて貰えるか⋯です⋯」
「それは、遥斗の性格の事?」
「⋯はい⋯」
引っ込み思案で人と目を合わせる事も接する事も苦手。
話すのも下手だし、初対面の人には絶対吃るから、それをどう思われるのかが一番の不安だった。
みんながみんな、優しく受け入れてくれるとは限らないんだから。
鷹臣さんの顔が見れなくて、目を伏せた僕の頬を大きな手が挟む。
「俺の考えを言ってもいい?」
「? はい」
「先が不透明だからと不安ばかりを抱えて、焦って事を進めても満足のいく答えは出せないよ。妥協しなければいけない事も確かにあるけど、どうしたいかも決まっていないなら無理に選ばなくていいと俺は思ってる」
「でも⋯」
「まだあと一年あるし、大学を卒業してからゆっくり考えてもいいんじゃないかな。遥斗はマスターや岡野くんのいるあのお店が好きだろう? だったらバイトをしながらでも考える事は出来るよ」
鷹臣さんの言葉は僕には都合が良すぎる。だって、ゆっくりって僕のペースでって事だよね。そんなの、期限がないならいつまでだって悩んでしまいそうだ。
「それは⋯ダメです⋯」
「どうして? 少なくとも俺にはいい事なんだけど」
「え?」
「俺は遥斗が幸せに笑ってくれている方がいいからね。無理して選んだ道でやつれていく遥斗なんて見たくない。それに、喫茶店は遥斗と出会えた場所でもあるから、出来れば辞めて欲しくはないかな」
鷹臣さんがそんな風に思ってくれてるなんて気付いてもなくて、僕と同じように大切な場所にしてくれてるのも初めて知った。
まるで〝あのままあそこにいたい〟っていう、僕の本心を見透かすみたいな鷹臣さんの言葉に僕の目に涙が滲む。
「遥斗は今まで頑張り過ぎるくらい頑張ってきたんだから、少しくらい休んだっていいんだよ。好きな事をして過ごす時間だって、生きていく上では大事なんだから」
「⋯っ⋯」
「俺と一緒に、のんびりやっていこう」
本当にいいのかな。もっともっと、他の人より頑張らなきゃダメだって思ってるのに、足を止めてもいいのかな。
鷹臣さんの言葉に甘えてもいい?
そっと背中に回された手に抱き寄せられ暖かい腕の中に包まれた僕は、今までこんなに泣いた事がないってくらい涙を流しながら鷹臣さんの背中に腕を回して胸元へと顔を埋めた。
何だか、ずっと刺さってた胸のつっかえが取れた気がする。
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