孤独な青年はひだまりの愛に包まれる

ミヅハ

文字の大きさ
44 / 54

お揃い(鷹臣視点)

 最近の遥斗は何か吹っ切れたようで、大学にしても勉強にしても前ほど沈んだ顔はしておらずむしろ笑顔な事も増えてきた。俺の話がどう作用したのかは分からないけど、前向きになれたならそれで良い。
 甘え方も少しずつ覚えて、以前に決めた甘えたい時の方法をぎこちないながらも使ったりして明らかにくっついてくる事が増えたおかげで、俺は日々忍耐との戦いになっていた。
 今だって抱き締めて欲しいらしく、頬を染めながら俺の服の裾を躊躇いがちに掴んでいる。

(可愛いな)

 背中に腕を回し抱き寄せたら肩に頭を預けてくる遥斗が愛おしい。
 柔らかな髪を撫で額に口付けるとこちらを見上げてきた。

「あの、鷹臣さん」
「ん?」
「お揃いの物についてなんですけど⋯」
「何か決まった?」
「一応⋯でも、本当に僕が選んで良かったんですか?」

 物欲のない遥斗だからこそお揃いという名目を立ててお願いしたのに、やはりずっと気にしていたようだ。
 それでも考えてはくれたみたいだから、最初に比べたらずいぶんと自我を出してくれるようにはなったと思う。

「もちろん。それで、何にしたの?」
「えっと⋯凄く悩んだんですけど⋯⋯あの、目に見える物がいいなって思って⋯あとペアだって分かりやすいもの⋯」
「うん」
「⋯⋯ゆ、指輪が、いいです⋯!」

 正直、遥斗なら実用的な物を選ぶんだと思っていた。それこそ俺に合わせて腕時計やペンなんかを選ぶだろうなと。
 でもそうか、ちゃんと〝恋人〟としての物を選んでくれたんだな。
 きっと言葉通り頭を抱えるくらい悩んだんだろう遥斗を強く抱き締め、俺はブレスレットが着けられている左手を掬い薬指に口付けた。

に着けてもいいの?」
「た、鷹臣さんが⋯いいなら⋯」
「むしろ着けてくれると嬉しいよ。次の休みの日に買いに行こうか」
「デート、ですか?」
「そのつもり」

 最初こそデートだと言わなければ気付かない遥斗だったけど、もう何度もしているからさすがに分かるようになった。俺的には遥斗と二人で出掛けるなら、コンビニだろうと散歩だろうとデートにはなるんだけどな。
 だから微笑んで頷けば遥斗は照れたようにはにかむと、「嬉しいです」と言って俺の背中に腕を回してきた。
 もうすぐ付き合って一年が経とうとしているのに、いつまでもウブで可愛い俺の恋人には堪らない気持ちになる。

「遥斗」
「はい?」

 安心しきった様子で俺に寄り掛かる遥斗の頬を撫でながら名前を呼べばすぐに返事をして見上げてくる。
 その素直さに癒されつつ顔を寄せた俺は、彼の柔らかな唇へと自分の唇を触れ合わせた。


 遥斗が指輪を選んでくれた事は、俺にとってはある意味僥倖だったのかもしれない。

(もし俺がプロポーズをしたら、遥斗はどういう反応をするんだろうか)

 血の繋がりがなくとも、ある手続きをすれば法的には家族にはなれるからその事も踏まえて遥斗には伝えるつもりだが、彼がどう受け止めてくれるのかが分からない。
 喜んでくれるなら俺も嬉しいんだけどな。

「鷹臣さん?」

 建物の壁に寄り掛かり物思いに耽っていたら、手洗いから戻ってきた遥斗に不思議そうに名前を呼ばれた。
 ハッとして見下ろすと可愛らしく小首を傾げていて思わず笑みが零れる。

「ああ、ごめんね。少しぼんやりしてた」
「どこか座って休みますか?」
「いや、大丈夫だよ」
「それならいいんですけど⋯」

 遥斗に対しては俺もそうだが、遥斗も大概心配性で俺が疲れていないかを良く気にしてくれる。遥斗が傍にいるだけでそんなもの吹き飛ぶのに、この子は俺にとって自分がどれだけ大きな存在かを理解していない。
 まだまだ自己評価が低いから仕方ないのかもしれないが。
 手の平を上に向けて差し出すとはにかんで自分の手を乗せてくれたから、いつものように握って歩き出す。

「お腹は空いてない?」
「大丈夫です」
「なら、空いたらちゃんと言うんだよ?」
「はい」

 空いている手で目にかかる前髪を避けながら言えばこくりと頷く。
 そういえば、出会った頃に比べて遥斗もずいぶんと髪が伸びた。美容院に行ける子ではないから、うちに呼んで切って貰うのもありかもしれないな。
 目を合わせられるようになれば真っ直ぐに見てくれる遥斗に微笑み、俺たちは目的の場所へと向かって歩き出した。 
 今から行くお店に、遥斗のお眼鏡に適う物があればいいんだが。

 指輪は既製品ではなく遥斗の華奢な指に合うよう細身の物をオーダーし、内側にお互いのイニシャルと付き合った日を刻印して貰う事にした。
 俺の事を知っているオーナーが最優先で仕上げてくれると言っていたが、他にも待っている人がいるだろうしとお断りした結果、およそ一ヶ月後の仕上がりになるそうだ。
 その日は俺が受け取りに行き、役所から貰ってきた書類を渡すと共に遥斗にプロポーズしようと思っている。
 断られる心配はしていないけど、遥斗は凄く驚くだろうな。
 あの子の歩む先が幸せであるように、俺が傍にいて支えてあげられたらと思っている。遥斗が望む事なら、俺の全てを賭けてでも叶えてあげたいとも。
 自分が誰かに対してこんな気持ちになるとは思わなかった。
 俺にとって遥斗は、出会うべくして出会った唯一なのかもしれない。

 それなのに。

「鷹臣さん⋯」

 俺が君を悲しませているなんて⋯。
 目を開けたくても、身体ごとどんどん暗い方へと沈んでいく感覚がする。
 手に遥斗の温もりを感じながらも、俺の意識は深い深い場所へと落ちていった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!