人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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 あの【soar】全員集合事件(?)から一夜明けて、連日のハードスケジュールを鑑みて少しばかり調整がされたのか、真那から『今日は俺だけ行くから』という連絡が来た。
 このが物凄く強調されて見えたのはオレの気のせいだろうか。
 ともかく今日のリクエストはチキンのトマト煮らしいから、帰りにトマト缶を買って帰らなければいけない。あと味醂も切れそうだったからついでに。

「ねぇ、楢篠くんは三枝先輩とどういう関係なの?」

 頭の中で副菜を何にしようか考えていると、不意に同じクラスの女子から話しかけられた。昨日、オレが真那と一緒にいるところを見たんだろうけど、関係も何も友達とは思ってくれないのだろうか。

「生まれた時からの幼馴染み」
「え、じゃあ三枝先輩の子供の頃の写真とか持ってるの?」
「持ってるけど、見せないよ? 真那のプライバシーだし」
「まだ何も言ってないのに……楢篠くんって意地悪だね」

 え、い、意地悪? でも今の聞き方だと見せてって続きそうだったし、期待持たせる前にって敢えて先に言っただけだったんだけど。
 だって真那だって嫌だろ。自分の小さい頃の写真、勝手に人に見せられるの。オレだって嫌だ。
 目を瞬いていると、オレの机の周りに人が立つ気配がしてビクッとした。見れば女の子が二人、オレを意地悪だと言った子を睨み付けてる。

「意地悪じゃないでしょ。楢篠くんなりの守り方じゃない」
「そうそう。楢篠くんは三枝先輩がアイドルだからって自慢するような人じゃないんですー」
「は? な、何よ…ちょっと聞いただけじゃない。バッカじゃないの?」

 そう言って踵を返したその子は足音を立てながら教室から出て行ったけど、もうすぐ予鈴鳴るぞ?

「あの子、この学校に三枝先輩がいるから入って来たのよね」
「ミーハーなのは結構だけど、迷惑掛けるようなやり方はやめて欲しいよねー」
「あ、ありがとう。えっと……」
常磐 千里ときわ ちさとよ」
「私は久留米 円香くるめ まどかー。よろしくね、楢篠くん」
「よ、よろしく」

 クール美人の常磐さんとふんわり可愛い久留米さん。いかにもモテそうな二人はそう言って微笑んだ。
 これまで関わりがなかったはずだけど、何で加勢してくれたんだろう?
 そんな疑問がオレの顔に出てたのか、常磐さんが腕を組んで教えてくれる。

「だって楢篠くん、中学の時から有名だもの」
「え!?」

 有名? オレが? 何で?

「三枝先輩の個人情報は公式で発表されている事以外は絶対に言わない、どんな要求も三枝先輩に不利益なものは断固拒否」
「徹底して三枝先輩を幼馴染みとして見てる楢篠くんの事、千里ちゃんも私も尊敬してるんだよ」

 おかしな事を言う二人だ。真那はずっとオレの幼馴染みだったんだから、アイドルやってたってそれは変わらないし変わりようがない。というか、確かにテレビに出てる芸能人なんだろうけど、普段と変わらないからかどうもは見えないんだよな。

「オレにとって真那は真那だから」
「ふふ。だから三枝先輩も、楢篠くんの前では素でいられるのね」
「本当に素敵な関係だよねー」

 久留米さんが常磐さんが組んだ腕の隙間から自分の腕を差し込み、カップルのようにくっつきながら可愛らしく笑う。
 今までは「幼馴染みなんてズルい」とか、「調子に乗ってる」とか言われる事の方が多かったけど、〝素敵〟と言われたのは初めてだった。

「あ、ありがとう」

 何か嬉しさと照れ臭さが混じって思わずはにかんでしまったけど、二人が驚いた顔をしていたのはどういう意味だったんだろう。





「って事があってな、オレすっごい嬉しかったんだ」
「そう。良かったね、ヒナ」

 その日の夜、オレは雑誌のインタビューを終えてからうちに来た真那に常磐さんと久留米さんの事を話してた。隣に座った真那はトマト煮を美味しそうに食べながら微笑んでくれる。

「でもオレ、アイドルの真那の事も全力で応援してるからな?」
?」
「今こうして目の前でオレが作ったご飯食べてる、幼馴染みの三枝真那の事も応援してるから」
「ありがとう、ヒナ」

 オレの前にいるただの幼馴染みの真那も、【soar】にいるアイドルの真那もどっちも大事な真那には変わりないからな。まぁ幼馴染みとしての真那への応援は主に人付き合いに関してだけど……ほっとくと、オレ以外とは本格的にツルまなくなるし。
 芸能界もそういうの大事だろうけど、志摩さんと風音さんがいつも上手くフォローしてくれてるみたいだからまだ安心だしな。
 そう思いながら食べてると、真那の手がオレの手を緩めに掴んできた。

「……ヒナ」
「うん?」
「これからも俺、頑張るから。…でもその為には、ヒナにお願いしたい事があるんだけど……いい?」
「お願い?」

 綺麗な顔と違い、意外にも男らしく骨ばった手がオレの頬を挟み、真那の額とオレの額がコツンと合わせられる。ほんのり緑がかった目がオレを真っ直ぐ見つめるんだけど、その表情がどこか切なそうで目を瞬いた。

「あんまり他の人、見ないで」
「え?」
「俺だけのヒナでいてよ」
「真那?」
「ヒナは誰にでも優しいから、誰かに取られないか心配になる」
「何言って……」

 真那の整い過ぎなくらい整った顔が近過ぎるし、言ってる事が良く分からなくて困惑しながら見ていると、何故か目を閉じて僅かに顔を傾けた真那は薄めの唇をオレの唇に押し当ててきた。
 ……押し当ててきた?

「……へ?」
「俺がここに来る時は、こうやってキスさせて」
「……ええ!? や、え、な、何で……っ」
「ヒナが俺のだって確認させて」
「いやいや、オレはオレのであって別に真那のって訳じゃ……」
「俺のだよ」

 いつもは気怠げで眠そうな顔をして抑揚のない声で話す真那の真剣な表情と声に驚いて肩が跳ねる。俺に対してこんなにも真面目に話をする真那は初めてじゃないか?

「小さい頃からずっと、ヒナは俺だけのヒナだよ。俺がずっと傍にいて守ってきた……それはこれからも変わらない」
「ま、真那……」
「学校にいる間は仕方ないけど、俺といる時は俺だけを見て」

 そう言ってまた顔を近付けて来るから、オレは慌てて自分の口元を手の甲で隠す。途端にジト目になった真那がその手を引き剥がそうとするけど、オレにだって受け入れる受け入れないの選択肢はあるはずだ。

「ヒナ、手、どけて」
「や、やだ……そもそも何で…き、キス、なんかするんだよ。こういうのは好きな奴とするもんだろ?」
「そうだよ。だからヒナとしたい」
「いや、だから…………ん?」

 好きな奴とするもの→そうだよ。……そう、だよ?
 分かっててオレとしたいって……あれ、え? も、もしかして……。
 顔が物凄く熱くなった気がする。暖房入れたっけってくらい身体までホカホカして来た。それ、つまりはそういう事だよな。

「ヒナが好きだよ。ヒナが生まれてからずっと、俺はヒナしか見てない」
「……!」
「ヒナが俺を幼馴染みとしてしか見てない事は知ってる。でも、俺はもうただの幼馴染みでいたくないから」
「真、那…あの……」
「小さい頃、約束してくれたよね。大きくなったら結婚しようって」
「あ、あれは純粋無垢な子供同士の可愛らしいやり取りって言うか……」

 小さな子供が幼稚園の先生や近所のお兄さんお姉さんに、「大きくなったら結婚して」って言うような良くある話じゃないか。そもそもその時のオレは結婚が何なのか分からずに頷いてるし。

「俺は本気で言ってた。今も本気」
「…………」
「ヒナを他の誰かに取られるなんて絶対に嫌だ。ヒナ、ゆっくりでいいから、俺の事好きになって」

 普段の真那だったら「冗談言うな」で済ませられるけど、今の真那は見た事がないくらい真剣で真っ直ぐだ。オレを好きだって言うのも嘘偽りなく本当の事なんだろう。
 だったらオレもちゃんと応えなきゃ。

「……正直、この先どうなるかなんて俺には分からない。でも真那の気持ちは素直に嬉しいし、有り難いと思ってるよ。真那をそういう意味で好きになれるかは半々だけどちゃんと考えるから。だから、待っててくれるか?」
「…ん」
「ありがとう」

 誰かに好きだって伝えるのはそれはもう勇気がいる事だし、真那に至ってはそれが兄弟みたいに育って来た幼馴染みだもんな。しかも男だし。
 だから色んな意味を込めて笑顔でお礼を言えば何故か唐突に抱き締められた。

「ヒナ、キスしたい」
「オレの話聞いてたか?」
「俺に頑張れる力、ちょうだい」
「……一回だけだぞ」
「うん」

 また頬に真那の手が添えられ軽く上向かされると、今度はゆっくりと唇が重なりオレはギュッと目を瞑る。
 不慣れなオレはされるがままでどうしたらいいのかも分からず、縋るように真那の服を掴んだら背中に回された腕の力が強くなった。

 結局〝一回〟が長すぎて先にギブアップしたオレが真那の胸元を叩くまでキスをされ続けた訳だけど、目にも分かるくらい微笑んだ真那は「またしようね」と事もなげに言って食事を再開し始めた。

 すっかり冷めていたから、温め直したのは言うまでもない。
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