人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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欲しい(真那視点)

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 あと四日でヒナとの同棲生活が終わってしまう。
 二週間。月の半分近くは一緒にいたのに、帰る時間が不規則でむしろ遅い時の方が多くて、ほとんどの日がヒナの寝顔を見るだけで終わってしまった。
 寝顔だって毎日見られるだけで充分嬉しいし、ヒナはどんな時だって可愛くて幸せなんだけど、やっぱり声も聞きたいし触れ合いたい。朝だけじゃ全然足りない。



「ヒナとの事、公表出来たらいいのに」

 そうすれば堂々と手を繋いでデート出来るし、こんな期間限定じゃなくてちゃんと同棲だって出来る。もっとヒナと一緒にいられるのに。
 ダンスレッスンの休憩中、端に座ってぼんやりしながらそう呟いたら、風音が腰を下ろして大きく溜め息をついた。

「そんな事したら陽向にも迷惑だろ。アイツは一般人なんだから」
「……でも俺は、ヒナだけがいればいい」
「あー…お前、最近色んな人から口説かれてるんだっけ」

 風音の言う通り、ここ数日積極的な人が多くて困っている。
    何度か音楽番組で一緒になった女性シンガーや、ラジオにもゲスト出演しただけの女性パーソナリティ。特に酷いのは、雑誌の撮影で擦れ違いざまに挨拶しただけのモデルが、何故かそれ以降会うたび俺にまとわりついてくる。
     甘ったるい香水の匂いと猫撫で声が気持ち悪くて出来るだけ当たり障りなく返してるけど本当に執拗い。
 隙あらば腕を絡めて来ようとするから避けるのに必死だ。
 もし匂いが移ってヒナが不安を感じたら、俺はあの女を許せない。

「ま、手に負えないようだったら水島さんにでも言っとけ。間違ってもついてったりすんなよ?」
「しないよ」

 興味もないのについて行く訳がない。
 風音は肩を竦めてから水を飲むと数秒黙り込み、俺の方を向いて普段と変わらない口調で聞いてきた。

「素朴な疑問なんだけど、真那って男が好きなのか?」
「違うよ、ヒナが好きなだけ。ヒナ以外にそういう感情持った事ない」
「いつから?」
「ヒナが生まれた時から」
「年季入ってんなぁ」

 俺は、ヒナが生まれてからずっとヒナだけを見てきたから、他の人なんて眼中にさえなかった。こうしてアイドルをやっていても、ファンに感謝はしてるけどふとした時にみんながヒナならいいのにとさえ思ってしまう。
 オレのヒナは一人だけだけど、ヒナに囲まれてるって思うとそれだけで物凄く幸せだ。

「男でも女でも、陽向ならいいって事か」
「ヒナが女の子だったら、ヒナの誕生日が来たらすぐ結婚する」
「ニュース速報案件じゃねーか」
「いっそ流れてくれれば…」
「アホ」

 頭頂部に風音の手刀が振り下ろされて地味に痛い。気持ち的には本心だけど、それがヒナさえも困らせる事は分かってるからするつもりはないのに風音は容赦がなさすぎる。 

「次の通しで終わり?」
「そうだけど……お前、あからさますぎだろ」
「ヒナが待ってるから」
「夏休み明けたらどうなってんだか」
「……ずっとあの部屋にいてくれればいいのに」

 もうすぐ学校も始まるからますますヒナとの時間が取れなくなる。二周年記念のライブが終われば少し余裕が出来るとはいえ、学校へ行けてもせいぜい半日程度。一年と三年じゃ、校舎自体違うから擦れ違う事も出来なさそう。

 そういえば、一緒にプールに行ったあの子たち。最初はどっちかがヒナに気があるのかと思って牽制してたけど、純粋に友達…というより、むしろ庇護対象としてヒナを見てるって分かって安心した。あの子たちがいるなら、変な虫が寄り付かないようにしてくれるはず。
 ……本当は俺が傍にいて色んなものからヒナを守ってあげたいけど。

「ほら、休憩終わり。行くぞ、真那」
「ん」

 離れた場所にいる志摩さんの手招きで風音が立ち上がり俺もそれに倣う。
 チラリと時計を見るともう二十一時を回ってるから、ヒナは寝る準備を済ませているはずだ。それでも、起きて待ってようとはしてくれるんだよね。寝落ちてる率は高いけど。
 立ち位置を確認し、鏡に向き合って自分の顔を見つめる。無表情で無感情で気怠げな顔。みんなは王子様みたいだって言うけど、ただ綺麗な顔をした母に似ただけで、性格なんて父とも母とも似ていない。
 それが俺の個性だって言ってありのままに受け入れて傍にいてくれるのはヒナだけだから、俺はヒナのためだけにアイドルでい続ける。
 ヒナが、「ずっと応援してる」って言ってくれたから。




 明日にはヒナは家へと帰ってしまうのだけど、俺があまりにもへこんでいたからか、水島さんから特別にライブ前の最後のオフが貰えた。
 前日は日付けが変わってからの帰宅になったけど、お風呂に入ってヒナが作っておいてくれた夕飯を食べ、いつものようにヒナを抱き締めて眠った俺は、今もまだ惰眠を貪っている。

「真那」

 夢現にヒナの声が聞こえ、俺は温もりを確かめるように手を動かしたんだけど、そこに求めていた人がいなくて眉を顰めた。
 身体を軽く揺すられてうっすら目を開ければ、ベッドに乗せた腕に顎を埋めているヒナがいて目を瞬く。

「おはよ」
「…おはよう、ヒナ」
「朝ご飯出来てるぞ」
「ん、ありがとう」

 上体を起こしまだ完全には働いていない頭を軽く振っていると、身体を支えるためについていた手にヒナの手が重ねられる。首を傾げるのとヒナが俺を見上げるのが同時で、ふわっと笑うヒナに眠気が完全に飛んでいった俺は身を屈めて口付けた。
 朝から可愛すぎる。

「そういう顔、俺以外に見せちゃ駄目だよ」
「どんな顔だ。ほら、リビング行くぞ」

 ほんのり目元を染めたヒナは立ち上がり、さっきまで重ねていた俺の手を引く。でも無理やり引っ張るんじゃなくて、俺がベッドから降りるのを待ってから歩き始めた。
 初日以外、ヒナは俺が出る時間に間に合うよう早めに起きて朝ご飯を作ってくれてて、目が覚めた時部屋中にいい匂いが充満してる上に可愛い恋人がいる生活が凄く幸せで、明日で終わってしまう事がとてつもなく切ない。

 手を離してこの部屋での定位置となった椅子に向かうヒナの背中を見ながら溜め息を零した俺は、伸ばしかけた手を引っ込めて向かいの椅子に腰を下ろした。



 俺の目の前でヒナが荷物を纏めている。
 それがどうしようもなく寂しくて顔を逸らすけど、声出しで荷物確認をするヒナに否が応にも思い知らされて結構キツい。

「ヒナ」
「うん?」
「本当に帰るの?」
「帰るよ。そういう約束だっただろ?」
「そうだけど……」

 この生活の楽しさを知ったせいで明日帰って来てもヒナがいない事に耐えられる自信がない。俺、恋人になってから前にも増してヒナを好きになってる。

「ヒナ」
「何?」
「おいで、ちょっと休憩しよう」
「始めたばっかだけど……まぁいっか」

 集中しているヒナの意識を俺に向けたくてそう呼べば、持っていた服をカバンにしまってから俺のところへ来る。膝を叩いて腕を広げると素直に座って寄りかかってくれるヒナが可愛い。
 俺よりも細い腰の後ろで手を組み額に口付けたんだけど、何故か不満げに眉を顰めたヒナが顔を上げたあと恥ずかしそうに目を閉じる。
 どこでそんなおねだりの仕方覚えたの。
 ヒナの髪を撫で数回啄んだあと、唇の隙間から舌を差し込んで歯列をなぞると小さく声を漏らして俺の服を掴んできた。

「…ん…ぅ…、ふ…っ」

 ヒナの口は小さくて、俺が舌いっぱいに伸ばせば奥歯にだって触れられる。内頬も舌の裏も上顎も全部舐め回して、唾液を交わらせるように舌を絡めて。そうしたらいつからかヒナの顔がとろんとするようになった。俺がこんな顔をさせてるんだって思うたび嬉しくなる。
 糸を引きながら唇を離し、耳から首筋へとキスをしながら移動させ様子を伺うとぎゅっと目を閉じて唇を噛んでた。顔は真っ赤だけど特段嫌がってはなさそう。

「……ヒナ」
「ンッ…真那、待っ…た…」
「ヒナ…好きだよ」
「…っ…」
「……ヒナが欲しい」

 嫌じゃないならと首や肩に唇を触れさせながらシャツの裾から手を入れ、ヒナの肌に直接触れる。
 赤ん坊の頃から一緒にいるからもちろん裸だって何度も見てるし、滑らかで柔らかい肌の触り心地だって良く知ってるけど、ヒナを抱きたいって思い始めてからはとてもじゃないけど見れなかった。
 目の前で無防備に着替えるヒナを何度押し倒したいと思ったか。

 でも、今は俺とヒナは恋人同士なんだから、欲望を素直に口に出したって問題ないはず。

「…欲しいって?」
「抱きたい。……俺はヒナと、セックスしたいって思ってる」
「せっ…!?」

 顔を上げヒナの目を真っ直ぐに見て答えると首まで赤く染めたヒナが口をパクパクさせる。けど何かに気付いたのかすぐに困惑顔になって首を傾げた。

「お、男同士っ…て、出来るのか…?」
「出来るよ」
「そう、なんだ……」

 ただ、挿れる場所を聞いたらヒナは怖がるかもしれない。痛い思いはさせたくないから時間をかけて慣らすつもりだけど、どうしたって受け入れる側には負担が大きいから。
 目をあっちこっちへ彷徨わせながら一生懸命考えていたヒナは、俺の背中に腕を回して肩に顔を埋めると小さな声で何かを話す。聞こえなくて「ん?」と問い返せばさっきよりも大きめな声で答えてくれた。

「い、いよ…真那なら…」
「……ホントに?」
「こんな嘘、つかない」
「ヒナ…」
「好きだから…真那に、オレの全部やる」

 恥ずかしがり屋なのに、こういう男らしい部分を見せるのはズルい。でも耳まで真っ赤なのを見ると相当頑張ってくれたんだなって分かるから、俺は言葉の代わりに強く抱き締めた。

「ベッド行こうか」

 ヒナが落ちないように支え立ち上がった俺の耳に、凄く小さな声で「生々しすぎる…」と聞こえて思わず笑みが零れる。
 そうだよ、ヒナ。俺たちは今から生々しい事をするんだよ。

 恥ずかしさで顔を上げられないヒナの頬に口付け、俺は内心緊張しながらも寝室へと歩き出した。
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