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噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした
何気ない幸せ【ホワイトデーSS】
ホワイトデー一週間前。
今年のバレンタインを奮発してくれた湊の為に、俺は暇さえあればお返しを探すべくネットサーフィンしていて、昼休みである今も湊手製の弁当を食いながらスマホを睨んでた。
種類はあれどこれと言って惹かれる物がなくてなかなかに難航してる。
湊ならどんな物でも喜んでくれるって分かってるけど、これでいいかなんて妥協したくないし、ちゃんと湊が好きな物を選びたい。
「とはいえ難しいな⋯」
「何が?」
スマホを置いて食べ終わった弁当箱を片付けながら溜め息混じりに零したら、隣から応答があり俺は眉を顰めた。
それを見て声の主が苦笑しながら椅子に座る。
「何でそんな顔するんだよ」
「独り言に問い掛けがあったら誰でもこうなるだろ」
「誰でもはないだろ」
そう言ってケラケラと笑うコイツは同期の畠中で、気さくで明るくさっぱりとした性格から先輩後輩男女問わず仲の良い人が多く、顔も悪くない為それなりにモテる。ちなみに独身で彼女募集中らしい。
畠中は頬杖をつくと、ニヤニヤしながら弁当箱を指差す。
「まぁ御子柴の悩みなんて、彼氏くん関係しかないんだろうけど」
「⋯⋯悪いか」
「悪くない悪くない。で? 今度は何に悩んでんの?」
もう一度似たような事を聞かれて俺は「んー」と腕を組んだ。
畠中には、入社してわりとすぐにスマホの待ち受けを見られた事で俺に同性の恋人がいるって知られてて、いろいろ聞かれてるからこういう話もたまにだけどする。
畠中曰く、俺は仕事の時と湊の時とで悩み方が違うらしい。
何がどう違うのかは分かんねぇしたまに変な事言うけど、こうして相談に乗ってくれたりするから俺にとっては同僚というより友人みたいな感じだ。
スマホを開き、待ち受けになってる湊の寝顔を眺める。
「いや、ホワイトデーに何を贈るかで悩んでるだけ。ピンとくるもんがねぇんだよ」
「王道で花束とかは?」
「喜ぶだろうけど、それだけじゃなーって」
「プラス、ホワイトデーならではのお菓子とか」
「菓子は山ほど家にある」
出先や帰り道に湊が好きそうな物を買ってたらいつの間にか消費が間に合わなくなってて、湊に当分は買ってくるの禁止って言われたから菓子は除外してたんだよな。まぁホワイトデーならって受け取ってはくれそうだけど、困らせたくはない。
肘を着いて額を押さえる俺に、畠中はある物を見せてくれた。
「こういうのは?」
「何これ」
「クリスタルフラワーってやつ」
「へぇ⋯いいな。好きそう」
サンキャッチャーとかガラスの置物とか好きだし、今のとここういうのは家にないからこれはいいかもしれない。
俺は畠中に礼を言うと、自分のスマホでクリスタルフラワーの検索を始めた。
結構色があるけど、飾るならはっきりした色の方がいいか。近くに売ってる店があるかを探さねぇとな。
それから日が経ってホワイトデー当日。
予定では今日いっぱいかかると思っていた取り引き先との仕事が定時前には終わり、直帰でいいと言われていた為お言葉に甘えて俺は現在帰路に着いていた。
今日は驚かせたいし、たまには連絡しないで帰ってみるのもいいかもしれない。
そう思いつつ、手にはクリスタルフラワーが入った紙袋を下げて歩いてるんだけど⋯やっぱ何か物足りねぇんだよな。もうちょい何かないかなってキョロキョロしてた俺の目にケーキ屋の看板が入ってきた。
ケーキならありか? ありだろ、湊好きだし。
そう自己完結して店内に入り、ショートケーキとチーズケーキを一ピースずつ買ってまた家へと向かう。
マンションに着き、住んでる階まで上がって玄関前で止まった俺は、なるべく音を立てないよう慎重に鍵を開け扉を引いた。少しだけ隙間を開けて中の様子を伺ったけど、湊は気付いていないようでリビングの扉は閉まったままだ。
それにホッとし、これまた音がしないよう玄関を閉め、靴を脱いでリビングへと続く廊下を歩く。
靴はあったからいると思うんだけど、テレビの音もしねぇな。
不思議に思いつつそっとリビングの扉を開け中を覗いた俺は、その先にあるベランダで洗濯物を取り込む小さな後ろ姿が見えて思わず固まった。
言い表しようのない感情が胸に広がり、今すぐ湊を抱き締めたい衝動に駆られる。
「あ、良かった。周防くんの服、汚れ落ちてる」
何気ない光景と何気ない言葉。休みの日は干すのも取り込むのも一緒にするから、湊のこういう姿は見た事なかった。
俺の服を大事そうに抱えて撫でながら微笑む湊がどうしようもなく愛おしい。
リビングに入った俺はダイニングテーブルに荷物を置き、外の音で聞こえないだろうと足音を忍ばせる事もせず大股で近付くと、ハンガーへと手を伸ばす湊を後ろから抱き締めた。
ビクッと細い肩が跳ね、焦ったように見上げくる湊と目が合えば途端にぽかんとする。
「⋯⋯周防、くん?」
「ただいま」
「おかえりなさい⋯⋯え、あれ? お仕事は?」
「今日は直帰だったから、早めに帰ってきた」
「れ、連絡来てない⋯」
「入れてないからな」
事態が飲み込めないのか、困惑しきりの湊はポケットからスマホを取り出してメッセージを確認する。だけどサプライズで諸々渡そうと思ってた俺がそう答えると、何で? って顔をしてまた見上げてきた。
くるくると変わる表情が可愛くて、頭を撫でてから湊が取り損ねたハンガーを掴む。
「まぁそれはあとで。手伝う」
「あ、ありがとう。でも先に着替えた方が⋯」
「こっちやった方が早い」
「そ、そっか⋯」
目を瞬く湊が手を出すより早く洗濯物を取り込んで洗濯カゴに入れると、ハンガーを纏めていつもしまっている場所に片付け、手が出せなくておろおろしている湊をソファへと座らせる。
「目ぇ瞑って、ちょいここで待ってて」
「え?」
「着替えてくるから」
「わ、分かった」
「いい子」
意味が分からなくても頷いてくれる湊の額に口付け、目を閉じたのを確認してから着替える為に一度寝室へ向かう。スーツを脱いで部屋着を着てリビングに戻ると、湊はさっきと違い両手で目を覆ってた。
たぶんうっかり目を開けそうになったから慌てて押さえたんだろうな。
ここで俺が声をかけずに目の前で待ってたら、湊はずっと目隠ししたままなんだろうか。ちょっと悪戯心が湧かないでもないけど、さすがに可哀想だからテーブルに置いていた袋から包装された箱を取り出し、ソファに座る湊の足元に座る。
膝の上に置くとピクッと反応したけど手は外さなくて、その律儀さに笑いながら「開けていいよ」と言えば手を下ろして恐る恐る目を開いた。
「⋯⋯?」
「バレンタインのお返し」
「バレンタイン⋯⋯あ、そっか。ありがとう、開けてもいい?」
「もちろん」
何で不思議そうな顔をするのかと思ったら、どうやら今日がホワイトデーだって事に気付いていなかったらしい。
湊らしいなと思いつつ隣に座り直して開ける様子を眺めてると、リボンを解き丁寧に包装紙を剥がして蓋を開ける。中は布製の袋で包まれてるから湊にはまだ分からないけど、絞られた口を開いて覗き込んだ湊はハッと息を飲んだ。
「これってガラス?」
「クリスタルフラワーっつーやつ」
「クリスタルフラワー⋯初めて聞いた」
袋からも出して両手で目線まで持ち上げた湊は、何度も色んな角度から眺めて満足したのか嬉しそうに俺を振り向いた。
「すっごく綺麗。ありがとう、周防くん」
「どういたしまして。ケーキも買ってきたから、あとで一緒に食お」
「ケーキも? 嬉しい、ありがとう!」
パッと表情を明るくしてにこにことクリスタルフラワーを見下ろす湊にふっと笑い、肩を抱き寄せた俺は弧を描く唇へと口付けた。
何度か啄んでから離すとぐっと服が掴まれ、赤い顔が間近で見上げてくる。
「⋯もっと」
「じゃあ膝乗って」
「うん」
可愛らしいおねだりに頬を撫でながら言えば、頷いた湊はクリスタルフラワーをテーブルに置いてから俺の膝に跨ってきた。
腰を抱き寄せ数回軽く触れ合わせてから深くし、薄く開いた隙間へ舌を差し込んで湊の舌を絡め取る。
「ん⋯っ」
擦り合わせ舌の裏や上顎を刺激していると、湊の声に甘さが増してくるのはもう分かってる。
わざと唾液の音を立てながら絡ませてると湊が足をもぞもぞさせ始め、それに気付いて腰を抱いていた手を尻へと滑らせて撫でれば湊が大きく反応した。
最後に強めに吸って口を離したらくったりと肩に寄り掛かってきて、息苦しさから涙目になった目蓋に口付けると緩く首を振られる。
「んー?」
「も、だめ⋯⋯ご飯、作れなくなる⋯」
「俺が作ってもいいし、デリバリーでもいいよ」
「それは⋯⋯っ、あ、待って⋯」
弱々しい抵抗なんてあってないようなもので、顔中にキスをしながら太腿から付け根にまで撫で上げたら湊がその手を押さえてきた。
お互いに反応してるし当たってるんだから、もう俺に身を委ねればいいのに。
「駄目か?」
「⋯うぅ⋯」
湊は俺の手を押さえてるつもりなんだろうけど、元から力の差はあるし今に至ってはそこまで力も入ってないから構わず付け根を撫でながら問えば、小さく唸った湊は上目遣いで俺を見て眉尻を下げた。
何年経ってもこういうので真っ赤になんのほんと可愛い。
「ほ、ほんとにご飯、作れないからね?」
「ん」
そんなに飯作りたかったのかと思いつつ頷けば、湊は小さく「もう⋯」と零して押さえていた手を離し俺の首へと回してきた。
「でも⋯ここじゃやだ⋯」
「んじゃ、ベッド行くか」
確かにソファじゃ湊に負担が掛かるしな。
俺は掛け声と共に湊を抱き上げ寝室に向かうと、華奢な身体をベッドに横たえ覆いかぶさった。組み敷くと途端に湊の小ささが際立つのに、その表情はれっきとした大人でギャップが堪らない。
「湊、好きだよ」
「俺も大好き」
額を合わせいつも思ってる事を伝えればすぐに応えてくれる湊に微笑みかけ、唇を触れ合わせながら滑らかな肌へと手を這わせた。
およそ数時間後。
ヤったあと寝落ちたから外はもう真っ暗で、いつもの夕飯時間もとっくに過ぎているリビングで、俺と湊はケーキに舌鼓を打っていた。
「美味しい」
「な。そんな甘くないし、当たりかもな」
「今年の誕生日ケーキ、ここにお願いする?」
「あり」
ケーキが入っていた箱に印字された店名を見てた湊がそう言うあたり、結構気に入ってるっぽい。湊は甘いもんが好きだけど、どこのでもいいって訳じゃなくてそれなりにこだわりがあるんだよな。
例えばシュークリームはこの店、クレープならこの店、みてぇな。
お気に入りの店を見付けに、今度の休みは食べ歩きにでも行こうかね。
「今年もありがとう、周防くん」
「俺の方こそありがとな」
湊がくれるもんに比べれば全然大したもんじゃねぇけど、それでも湊がこうして笑ってくれんならそれだけで俺は幸せだって思える。
はにかむ湊の口端にクリームがついてる事に気付いた俺はそれを舌で舐め取ったんだけど、された湊は目を瞬いたあと赤くなり「言ってくれれば自分で拭いたのに」と恥ずかしそうに零した。
こういう事が出来んのも彼氏の特権なのにな。
FIN.
今年のバレンタインを奮発してくれた湊の為に、俺は暇さえあればお返しを探すべくネットサーフィンしていて、昼休みである今も湊手製の弁当を食いながらスマホを睨んでた。
種類はあれどこれと言って惹かれる物がなくてなかなかに難航してる。
湊ならどんな物でも喜んでくれるって分かってるけど、これでいいかなんて妥協したくないし、ちゃんと湊が好きな物を選びたい。
「とはいえ難しいな⋯」
「何が?」
スマホを置いて食べ終わった弁当箱を片付けながら溜め息混じりに零したら、隣から応答があり俺は眉を顰めた。
それを見て声の主が苦笑しながら椅子に座る。
「何でそんな顔するんだよ」
「独り言に問い掛けがあったら誰でもこうなるだろ」
「誰でもはないだろ」
そう言ってケラケラと笑うコイツは同期の畠中で、気さくで明るくさっぱりとした性格から先輩後輩男女問わず仲の良い人が多く、顔も悪くない為それなりにモテる。ちなみに独身で彼女募集中らしい。
畠中は頬杖をつくと、ニヤニヤしながら弁当箱を指差す。
「まぁ御子柴の悩みなんて、彼氏くん関係しかないんだろうけど」
「⋯⋯悪いか」
「悪くない悪くない。で? 今度は何に悩んでんの?」
もう一度似たような事を聞かれて俺は「んー」と腕を組んだ。
畠中には、入社してわりとすぐにスマホの待ち受けを見られた事で俺に同性の恋人がいるって知られてて、いろいろ聞かれてるからこういう話もたまにだけどする。
畠中曰く、俺は仕事の時と湊の時とで悩み方が違うらしい。
何がどう違うのかは分かんねぇしたまに変な事言うけど、こうして相談に乗ってくれたりするから俺にとっては同僚というより友人みたいな感じだ。
スマホを開き、待ち受けになってる湊の寝顔を眺める。
「いや、ホワイトデーに何を贈るかで悩んでるだけ。ピンとくるもんがねぇんだよ」
「王道で花束とかは?」
「喜ぶだろうけど、それだけじゃなーって」
「プラス、ホワイトデーならではのお菓子とか」
「菓子は山ほど家にある」
出先や帰り道に湊が好きそうな物を買ってたらいつの間にか消費が間に合わなくなってて、湊に当分は買ってくるの禁止って言われたから菓子は除外してたんだよな。まぁホワイトデーならって受け取ってはくれそうだけど、困らせたくはない。
肘を着いて額を押さえる俺に、畠中はある物を見せてくれた。
「こういうのは?」
「何これ」
「クリスタルフラワーってやつ」
「へぇ⋯いいな。好きそう」
サンキャッチャーとかガラスの置物とか好きだし、今のとここういうのは家にないからこれはいいかもしれない。
俺は畠中に礼を言うと、自分のスマホでクリスタルフラワーの検索を始めた。
結構色があるけど、飾るならはっきりした色の方がいいか。近くに売ってる店があるかを探さねぇとな。
それから日が経ってホワイトデー当日。
予定では今日いっぱいかかると思っていた取り引き先との仕事が定時前には終わり、直帰でいいと言われていた為お言葉に甘えて俺は現在帰路に着いていた。
今日は驚かせたいし、たまには連絡しないで帰ってみるのもいいかもしれない。
そう思いつつ、手にはクリスタルフラワーが入った紙袋を下げて歩いてるんだけど⋯やっぱ何か物足りねぇんだよな。もうちょい何かないかなってキョロキョロしてた俺の目にケーキ屋の看板が入ってきた。
ケーキならありか? ありだろ、湊好きだし。
そう自己完結して店内に入り、ショートケーキとチーズケーキを一ピースずつ買ってまた家へと向かう。
マンションに着き、住んでる階まで上がって玄関前で止まった俺は、なるべく音を立てないよう慎重に鍵を開け扉を引いた。少しだけ隙間を開けて中の様子を伺ったけど、湊は気付いていないようでリビングの扉は閉まったままだ。
それにホッとし、これまた音がしないよう玄関を閉め、靴を脱いでリビングへと続く廊下を歩く。
靴はあったからいると思うんだけど、テレビの音もしねぇな。
不思議に思いつつそっとリビングの扉を開け中を覗いた俺は、その先にあるベランダで洗濯物を取り込む小さな後ろ姿が見えて思わず固まった。
言い表しようのない感情が胸に広がり、今すぐ湊を抱き締めたい衝動に駆られる。
「あ、良かった。周防くんの服、汚れ落ちてる」
何気ない光景と何気ない言葉。休みの日は干すのも取り込むのも一緒にするから、湊のこういう姿は見た事なかった。
俺の服を大事そうに抱えて撫でながら微笑む湊がどうしようもなく愛おしい。
リビングに入った俺はダイニングテーブルに荷物を置き、外の音で聞こえないだろうと足音を忍ばせる事もせず大股で近付くと、ハンガーへと手を伸ばす湊を後ろから抱き締めた。
ビクッと細い肩が跳ね、焦ったように見上げくる湊と目が合えば途端にぽかんとする。
「⋯⋯周防、くん?」
「ただいま」
「おかえりなさい⋯⋯え、あれ? お仕事は?」
「今日は直帰だったから、早めに帰ってきた」
「れ、連絡来てない⋯」
「入れてないからな」
事態が飲み込めないのか、困惑しきりの湊はポケットからスマホを取り出してメッセージを確認する。だけどサプライズで諸々渡そうと思ってた俺がそう答えると、何で? って顔をしてまた見上げてきた。
くるくると変わる表情が可愛くて、頭を撫でてから湊が取り損ねたハンガーを掴む。
「まぁそれはあとで。手伝う」
「あ、ありがとう。でも先に着替えた方が⋯」
「こっちやった方が早い」
「そ、そっか⋯」
目を瞬く湊が手を出すより早く洗濯物を取り込んで洗濯カゴに入れると、ハンガーを纏めていつもしまっている場所に片付け、手が出せなくておろおろしている湊をソファへと座らせる。
「目ぇ瞑って、ちょいここで待ってて」
「え?」
「着替えてくるから」
「わ、分かった」
「いい子」
意味が分からなくても頷いてくれる湊の額に口付け、目を閉じたのを確認してから着替える為に一度寝室へ向かう。スーツを脱いで部屋着を着てリビングに戻ると、湊はさっきと違い両手で目を覆ってた。
たぶんうっかり目を開けそうになったから慌てて押さえたんだろうな。
ここで俺が声をかけずに目の前で待ってたら、湊はずっと目隠ししたままなんだろうか。ちょっと悪戯心が湧かないでもないけど、さすがに可哀想だからテーブルに置いていた袋から包装された箱を取り出し、ソファに座る湊の足元に座る。
膝の上に置くとピクッと反応したけど手は外さなくて、その律儀さに笑いながら「開けていいよ」と言えば手を下ろして恐る恐る目を開いた。
「⋯⋯?」
「バレンタインのお返し」
「バレンタイン⋯⋯あ、そっか。ありがとう、開けてもいい?」
「もちろん」
何で不思議そうな顔をするのかと思ったら、どうやら今日がホワイトデーだって事に気付いていなかったらしい。
湊らしいなと思いつつ隣に座り直して開ける様子を眺めてると、リボンを解き丁寧に包装紙を剥がして蓋を開ける。中は布製の袋で包まれてるから湊にはまだ分からないけど、絞られた口を開いて覗き込んだ湊はハッと息を飲んだ。
「これってガラス?」
「クリスタルフラワーっつーやつ」
「クリスタルフラワー⋯初めて聞いた」
袋からも出して両手で目線まで持ち上げた湊は、何度も色んな角度から眺めて満足したのか嬉しそうに俺を振り向いた。
「すっごく綺麗。ありがとう、周防くん」
「どういたしまして。ケーキも買ってきたから、あとで一緒に食お」
「ケーキも? 嬉しい、ありがとう!」
パッと表情を明るくしてにこにことクリスタルフラワーを見下ろす湊にふっと笑い、肩を抱き寄せた俺は弧を描く唇へと口付けた。
何度か啄んでから離すとぐっと服が掴まれ、赤い顔が間近で見上げてくる。
「⋯もっと」
「じゃあ膝乗って」
「うん」
可愛らしいおねだりに頬を撫でながら言えば、頷いた湊はクリスタルフラワーをテーブルに置いてから俺の膝に跨ってきた。
腰を抱き寄せ数回軽く触れ合わせてから深くし、薄く開いた隙間へ舌を差し込んで湊の舌を絡め取る。
「ん⋯っ」
擦り合わせ舌の裏や上顎を刺激していると、湊の声に甘さが増してくるのはもう分かってる。
わざと唾液の音を立てながら絡ませてると湊が足をもぞもぞさせ始め、それに気付いて腰を抱いていた手を尻へと滑らせて撫でれば湊が大きく反応した。
最後に強めに吸って口を離したらくったりと肩に寄り掛かってきて、息苦しさから涙目になった目蓋に口付けると緩く首を振られる。
「んー?」
「も、だめ⋯⋯ご飯、作れなくなる⋯」
「俺が作ってもいいし、デリバリーでもいいよ」
「それは⋯⋯っ、あ、待って⋯」
弱々しい抵抗なんてあってないようなもので、顔中にキスをしながら太腿から付け根にまで撫で上げたら湊がその手を押さえてきた。
お互いに反応してるし当たってるんだから、もう俺に身を委ねればいいのに。
「駄目か?」
「⋯うぅ⋯」
湊は俺の手を押さえてるつもりなんだろうけど、元から力の差はあるし今に至ってはそこまで力も入ってないから構わず付け根を撫でながら問えば、小さく唸った湊は上目遣いで俺を見て眉尻を下げた。
何年経ってもこういうので真っ赤になんのほんと可愛い。
「ほ、ほんとにご飯、作れないからね?」
「ん」
そんなに飯作りたかったのかと思いつつ頷けば、湊は小さく「もう⋯」と零して押さえていた手を離し俺の首へと回してきた。
「でも⋯ここじゃやだ⋯」
「んじゃ、ベッド行くか」
確かにソファじゃ湊に負担が掛かるしな。
俺は掛け声と共に湊を抱き上げ寝室に向かうと、華奢な身体をベッドに横たえ覆いかぶさった。組み敷くと途端に湊の小ささが際立つのに、その表情はれっきとした大人でギャップが堪らない。
「湊、好きだよ」
「俺も大好き」
額を合わせいつも思ってる事を伝えればすぐに応えてくれる湊に微笑みかけ、唇を触れ合わせながら滑らかな肌へと手を這わせた。
およそ数時間後。
ヤったあと寝落ちたから外はもう真っ暗で、いつもの夕飯時間もとっくに過ぎているリビングで、俺と湊はケーキに舌鼓を打っていた。
「美味しい」
「な。そんな甘くないし、当たりかもな」
「今年の誕生日ケーキ、ここにお願いする?」
「あり」
ケーキが入っていた箱に印字された店名を見てた湊がそう言うあたり、結構気に入ってるっぽい。湊は甘いもんが好きだけど、どこのでもいいって訳じゃなくてそれなりにこだわりがあるんだよな。
例えばシュークリームはこの店、クレープならこの店、みてぇな。
お気に入りの店を見付けに、今度の休みは食べ歩きにでも行こうかね。
「今年もありがとう、周防くん」
「俺の方こそありがとな」
湊がくれるもんに比べれば全然大したもんじゃねぇけど、それでも湊がこうして笑ってくれんならそれだけで俺は幸せだって思える。
はにかむ湊の口端にクリームがついてる事に気付いた俺はそれを舌で舐め取ったんだけど、された湊は目を瞬いたあと赤くなり「言ってくれれば自分で拭いたのに」と恥ずかしそうに零した。
こういう事が出来んのも彼氏の特権なのにな。
FIN.
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