モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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たった一人の(櫂視点)

「天ヶ瀬くんの事、一年の時から好きなの。良かったら付き合って欲しいな」

 貴重な休み時間に呼び出された理由は分かってたとはいえ、こうもしょっちゅうだといい加減嫌になってくる。まぁ、〝王子〟である俺は呼び出しには応えるから仕方ないけど、ふとした時に全部ぶちまけてやろうかって思う事もあって⋯ほんと、楪じゃねぇけど俺のがうっかりしそうだわ。
 恥ずかしそうに制服の裾を弄る目の前の子は可愛いっちゃ可愛いんだろう。
 でも、王子の皮を被ってる俺にこの子の想いを受け入れる資格はない。

「ごめんね。今は誰とも付き合う気はないんだ」
「そっかぁ⋯」
「でも気持ちは嬉しかったよ、ありがとう」
「ううん、こっちこそ聞いてくれてありがとう」

 俺が誰に告白されても断る事は知れ渡ってるからそこまで引き下がる子はいないけど、何度でもチャレンジする奴はいるから諦めない気持ちには素直に感心してしまう。
 何でそんな、俺なんかをそこまで好きなんだか。
 手を振って立ち去る女子に微笑んで振り返し、姿が見えなくなってから素に戻って息を吐く。

(めんどくせぇ⋯)

 告白されんのも断んのも、そもそも呼び出しさえ煩わしい。
 こうやって思うようになったのも、にバレて気が緩んでるせいかもしれねぇな。
 お人好しで、監視するなんて言われて無理やり連絡交換させられてんのに、呼べば本当に来るし大人しく見えて存外口が回る。何つーか、邪気がねぇからか、普通なら照れ臭くなるようなセリフもすんなり入ってくんだよな。
 しかも、態度もまったく変わんねぇし。

(マジで変な奴)

 素の自分を隠さなくていい分、楽っちゃ楽ではあるけど。
 一緒にいて気が休まるのは、たぶんアイツの雰囲気によるものなんだろうな。

「あれ、天ヶ瀬くん」
「楪」

 校舎の壁に寄り掛かり考えてたら本人が現れて一瞬焦る。
 でも今日は呼んでねぇし、俺がここにいるのもさっきの子しか知らねぇだろうから眉を顰めたら、手に持っていたゴミ袋を持ち上げた。
 ああ、ゴミ捨てか。

「ごめんね、ちょっと通るね」

 別に学校内なんだから謝る事ねぇのに⋯行儀良く育てられたんだろうな。
 ゴミ捨て場に行く楪の後ろ姿を見てたら変な感覚になって、手を伸ばして腕を掴むとビクリと跳ねて振り向く。

「え⋯⋯も、もしかして通っちゃダメだった?」
「⋯⋯」
「でもここが一番近くて⋯」

 通っちゃ駄目とかあるはずないのに、何でそこを気にするんだよ。
 眉尻を下げて困惑した顔をする楪はどこからどう見ても男なのに、さっきの子より可愛く見えんのは何でだ?
 自分で自分の行動と感情に戸惑いつつ楪が持っていたゴミを取って歩き出すと、今度は焦ったように追い掛けてきた。

「あ、天ヶ瀬くん⋯っ」
「俺の方が早い」
「え? う、うん。それはそうかもしれないけど⋯」
「⋯うるせぇ」

 ゴミ袋を取り返そうとする楪の手を躱し、顔を寄せて低く言えば目を瞬いて黙り込む。
 その間にゴミを捨て、所在なさげにしている楪の手を見た俺はどうしてかまた掴もうと伸ばしてた。

「なぁ⋯⋯」
「あ、天ヶ瀬くん見っけ」
「ここにいたんだー」

 今日一緒に帰ろう、そう言おうとしたのにいきなり現れた女子に遮られ俺は思わず舌打ちをする。楪が慌てて首を振ってたけど⋯⋯何でこいつに気を遣わせてんだ俺は。
 一つ息を吐き王子の笑顔を貼り付けて振り向くと二人は頬を染めて近付いてきた。

「俺に用事?」
「ちょっと手伝って欲しいなって」
「長机を運びたいんだ」
「いいよ。どこに運ぶの?」
「体育倉庫」

 それくらい自分たちで運べるだろと思いつつ、俺なら一人でも持てるからそっちの方が早いかと納得し頷く。別に帰ろうと思えばいつでも帰れるしな。
 喜ぶ女子が俺たちに背を向けた瞬間袖を引かれて視線を下ろしたら、楪が俺を見上げてコソッと喋った。

「ゴミ、捨ててくれてありがとう」

 俺が無理やり取り上げて勝手に捨てただけなのにお礼言うのか。
 ほんとにこいつはと思いつつ乱暴に頭を撫でたらぽかんとしてたけど、何となくこのまままた明日ってなんのは嫌で、チラリと女子の方を向いた俺はこっちを見ていないのを確認してから楪の耳元に口を寄せた。

「すぐ終わらせるから、待っててくんねぇ?」
「へ⋯」
「一緒に帰ろ」

 いつもなら問答無用で手を引いてうちに連れてくからか、初めて言われた言葉に目を瞬いていた楪だったけど、少しして今度は顔全体で笑うとこくりと頷いた。
 まるで花が綻ぶような笑顔に固まってたら、女子から呼ばれてハッとする。
 何だこれ⋯なんか、上手く王子になれねぇ。

「ごめん、すぐ追い掛けるから先に行ってて」
「え、あ、うん⋯。分かった」
「長机は体育倉庫にあるから、そこで待ってるね」
「うん」

 口調だけは取り繕えたからどうにかなったけど、いつもの表情が出来なくて片手で口元を覆い意識を王子へと持っていこうとする。

「天ヶ瀬くん?」

 柔らかな声が俺の名前を呼ぶ。楪を見れば心配そうな顔をしてて、俺がそんな顔をさせてるんだって気付いて胸がザワついた。
 楪には笑顔が似合う。さっきみたいな、ふわって感じの優しい笑顔が。
 っつーか俺はそれどころじゃねぇだろ。どうやって体育倉庫に行くんだよ。何で王子になれねぇ? 俺のどこがおかしくなってんだ?
 若干テンパリつつ口元を動かしてたら、不意に手が握られて目を見瞠る。

「大丈夫だよ、落ち着いて。深呼吸」
「⋯⋯⋯」
「天ヶ瀬くんも、わたわたしちゃう事あるんだね」

 控えめに笑う楪の声と言葉に不思議と心が落ち着いていく。
 試しに笑ってみたら楪も笑顔で頷いてくれたから、どうやら俺の王子モードは戻ってくれたみたいだ。
 俺がうっかり鍵を掛け忘れたから始まった事だけど、バレたのが楪で良かったって心底思う。じゃなきゃ俺はとっくのとうに偽王子だってバレて、周りの奴らから批判食らってたかもしれない。
 こんな風に、穏やかな気持ちではいられなかっただろう。

(⋯⋯マジか)

 まさか自分が、同性に対してこんな気持ちになるとは思わなかった。
 でも自覚したからこそ、目の前の楪が誰よりも可愛く見えるってのは理解出来る。

『天ヶ瀬くんは、どんな女の子のヒーローになるんだろうね』

 俺は、楪を守れる存在になりたい。
 楪だけのヒーローがいいな。
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