6 / 79
たった一人の(櫂視点)
「天ヶ瀬くんの事、一年の時から好きなの。良かったら付き合って欲しいな」
貴重な休み時間に呼び出された理由は分かってたとはいえ、こうもしょっちゅうだといい加減嫌になってくる。まぁ、〝王子〟である俺は呼び出しには応えるから仕方ないけど、ふとした時に全部ぶちまけてやろうかって思う事もあって⋯ほんと、楪じゃねぇけど俺のがうっかりしそうだわ。
恥ずかしそうに制服の裾を弄る目の前の子は可愛いっちゃ可愛いんだろう。
でも、王子の皮を被ってる俺にこの子の想いを受け入れる資格はない。
「ごめんね。今は誰とも付き合う気はないんだ」
「そっかぁ⋯」
「でも気持ちは嬉しかったよ、ありがとう」
「ううん、こっちこそ聞いてくれてありがとう」
俺が誰に告白されても断る事は知れ渡ってるからそこまで引き下がる子はいないけど、何度でもチャレンジする奴はいるから諦めない気持ちには素直に感心してしまう。
何でそんな、俺なんかをそこまで好きなんだか。
手を振って立ち去る女子に微笑んで振り返し、姿が見えなくなってから素に戻って息を吐く。
(めんどくせぇ⋯)
告白されんのも断んのも、そもそも呼び出しさえ煩わしい。
こうやって思うようになったのも、アイツにバレて気が緩んでるせいかもしれねぇな。
お人好しで、監視するなんて言われて無理やり連絡交換させられてんのに、呼べば本当に来るし大人しく見えて存外口が回る。何つーか、邪気がねぇからか、普通なら照れ臭くなるようなセリフもすんなり入ってくんだよな。
しかも、態度もまったく変わんねぇし。
(マジで変な奴)
素の自分を隠さなくていい分、楽っちゃ楽ではあるけど。
一緒にいて気が休まるのは、たぶんアイツの雰囲気によるものなんだろうな。
「あれ、天ヶ瀬くん」
「楪」
校舎の壁に寄り掛かり考えてたら本人が現れて一瞬焦る。
でも今日は呼んでねぇし、俺がここにいるのもさっきの子しか知らねぇだろうから眉を顰めたら、手に持っていたゴミ袋を持ち上げた。
ああ、ゴミ捨てか。
「ごめんね、ちょっと通るね」
別に学校内なんだから謝る事ねぇのに⋯行儀良く育てられたんだろうな。
ゴミ捨て場に行く楪の後ろ姿を見てたら変な感覚になって、手を伸ばして腕を掴むとビクリと跳ねて振り向く。
「え⋯⋯も、もしかして通っちゃダメだった?」
「⋯⋯」
「でもここが一番近くて⋯」
通っちゃ駄目とかあるはずないのに、何でそこを気にするんだよ。
眉尻を下げて困惑した顔をする楪はどこからどう見ても男なのに、さっきの子より可愛く見えんのは何でだ?
自分で自分の行動と感情に戸惑いつつ楪が持っていたゴミを取って歩き出すと、今度は焦ったように追い掛けてきた。
「あ、天ヶ瀬くん⋯っ」
「俺の方が早い」
「え? う、うん。それはそうかもしれないけど⋯」
「⋯うるせぇ」
ゴミ袋を取り返そうとする楪の手を躱し、顔を寄せて低く言えば目を瞬いて黙り込む。
その間にゴミを捨て、所在なさげにしている楪の手を見た俺はどうしてかまた掴もうと伸ばしてた。
「なぁ⋯⋯」
「あ、天ヶ瀬くん見っけ」
「ここにいたんだー」
今日一緒に帰ろう、そう言おうとしたのにいきなり現れた女子に遮られ俺は思わず舌打ちをする。楪が慌てて首を振ってたけど⋯⋯何でこいつに気を遣わせてんだ俺は。
一つ息を吐き王子の笑顔を貼り付けて振り向くと二人は頬を染めて近付いてきた。
「俺に用事?」
「ちょっと手伝って欲しいなって」
「長机を運びたいんだ」
「いいよ。どこに運ぶの?」
「体育倉庫」
それくらい自分たちで運べるだろと思いつつ、俺なら一人でも持てるからそっちの方が早いかと納得し頷く。別に帰ろうと思えばいつでも帰れるしな。
喜ぶ女子が俺たちに背を向けた瞬間袖を引かれて視線を下ろしたら、楪が俺を見上げてコソッと喋った。
「ゴミ、捨ててくれてありがとう」
俺が無理やり取り上げて勝手に捨てただけなのにお礼言うのか。
ほんとにこいつはと思いつつ乱暴に頭を撫でたらぽかんとしてたけど、何となくこのまままた明日ってなんのは嫌で、チラリと女子の方を向いた俺はこっちを見ていないのを確認してから楪の耳元に口を寄せた。
「すぐ終わらせるから、待っててくんねぇ?」
「へ⋯」
「一緒に帰ろ」
いつもなら問答無用で手を引いてうちに連れてくからか、初めて言われた言葉に目を瞬いていた楪だったけど、少しして今度は顔全体で笑うとこくりと頷いた。
まるで花が綻ぶような笑顔に固まってたら、女子から呼ばれてハッとする。
何だこれ⋯なんか、上手く王子になれねぇ。
「ごめん、すぐ追い掛けるから先に行ってて」
「え、あ、うん⋯。分かった」
「長机は体育倉庫にあるから、そこで待ってるね」
「うん」
口調だけは取り繕えたからどうにかなったけど、いつもの表情が出来なくて片手で口元を覆い意識を王子へと持っていこうとする。
「天ヶ瀬くん?」
柔らかな声が俺の名前を呼ぶ。楪を見れば心配そうな顔をしてて、俺がそんな顔をさせてるんだって気付いて胸がザワついた。
楪には笑顔が似合う。さっきみたいな、ふわって感じの優しい笑顔が。
っつーか俺はそれどころじゃねぇだろ。どうやって体育倉庫に行くんだよ。何で王子になれねぇ? 俺のどこがおかしくなってんだ?
若干テンパリつつ口元を動かしてたら、不意に手が握られて目を見瞠る。
「大丈夫だよ、落ち着いて。深呼吸」
「⋯⋯⋯」
「天ヶ瀬くんも、わたわたしちゃう事あるんだね」
控えめに笑う楪の声と言葉に不思議と心が落ち着いていく。
試しに笑ってみたら楪も笑顔で頷いてくれたから、どうやら俺の王子モードは戻ってくれたみたいだ。
俺がうっかり鍵を掛け忘れたから始まった事だけど、バレたのが楪で良かったって心底思う。じゃなきゃ俺はとっくのとうに偽王子だってバレて、周りの奴らから批判食らってたかもしれない。
こんな風に、穏やかな気持ちではいられなかっただろう。
(⋯⋯マジか)
まさか自分が、同性に対してこんな気持ちになるとは思わなかった。
でも自覚したからこそ、目の前の楪が誰よりも可愛く見えるってのは理解出来る。
『天ヶ瀬くんは、どんな女の子のヒーローになるんだろうね』
俺は、楪を守れる存在になりたい。
楪だけのヒーローがいいな。
貴重な休み時間に呼び出された理由は分かってたとはいえ、こうもしょっちゅうだといい加減嫌になってくる。まぁ、〝王子〟である俺は呼び出しには応えるから仕方ないけど、ふとした時に全部ぶちまけてやろうかって思う事もあって⋯ほんと、楪じゃねぇけど俺のがうっかりしそうだわ。
恥ずかしそうに制服の裾を弄る目の前の子は可愛いっちゃ可愛いんだろう。
でも、王子の皮を被ってる俺にこの子の想いを受け入れる資格はない。
「ごめんね。今は誰とも付き合う気はないんだ」
「そっかぁ⋯」
「でも気持ちは嬉しかったよ、ありがとう」
「ううん、こっちこそ聞いてくれてありがとう」
俺が誰に告白されても断る事は知れ渡ってるからそこまで引き下がる子はいないけど、何度でもチャレンジする奴はいるから諦めない気持ちには素直に感心してしまう。
何でそんな、俺なんかをそこまで好きなんだか。
手を振って立ち去る女子に微笑んで振り返し、姿が見えなくなってから素に戻って息を吐く。
(めんどくせぇ⋯)
告白されんのも断んのも、そもそも呼び出しさえ煩わしい。
こうやって思うようになったのも、アイツにバレて気が緩んでるせいかもしれねぇな。
お人好しで、監視するなんて言われて無理やり連絡交換させられてんのに、呼べば本当に来るし大人しく見えて存外口が回る。何つーか、邪気がねぇからか、普通なら照れ臭くなるようなセリフもすんなり入ってくんだよな。
しかも、態度もまったく変わんねぇし。
(マジで変な奴)
素の自分を隠さなくていい分、楽っちゃ楽ではあるけど。
一緒にいて気が休まるのは、たぶんアイツの雰囲気によるものなんだろうな。
「あれ、天ヶ瀬くん」
「楪」
校舎の壁に寄り掛かり考えてたら本人が現れて一瞬焦る。
でも今日は呼んでねぇし、俺がここにいるのもさっきの子しか知らねぇだろうから眉を顰めたら、手に持っていたゴミ袋を持ち上げた。
ああ、ゴミ捨てか。
「ごめんね、ちょっと通るね」
別に学校内なんだから謝る事ねぇのに⋯行儀良く育てられたんだろうな。
ゴミ捨て場に行く楪の後ろ姿を見てたら変な感覚になって、手を伸ばして腕を掴むとビクリと跳ねて振り向く。
「え⋯⋯も、もしかして通っちゃダメだった?」
「⋯⋯」
「でもここが一番近くて⋯」
通っちゃ駄目とかあるはずないのに、何でそこを気にするんだよ。
眉尻を下げて困惑した顔をする楪はどこからどう見ても男なのに、さっきの子より可愛く見えんのは何でだ?
自分で自分の行動と感情に戸惑いつつ楪が持っていたゴミを取って歩き出すと、今度は焦ったように追い掛けてきた。
「あ、天ヶ瀬くん⋯っ」
「俺の方が早い」
「え? う、うん。それはそうかもしれないけど⋯」
「⋯うるせぇ」
ゴミ袋を取り返そうとする楪の手を躱し、顔を寄せて低く言えば目を瞬いて黙り込む。
その間にゴミを捨て、所在なさげにしている楪の手を見た俺はどうしてかまた掴もうと伸ばしてた。
「なぁ⋯⋯」
「あ、天ヶ瀬くん見っけ」
「ここにいたんだー」
今日一緒に帰ろう、そう言おうとしたのにいきなり現れた女子に遮られ俺は思わず舌打ちをする。楪が慌てて首を振ってたけど⋯⋯何でこいつに気を遣わせてんだ俺は。
一つ息を吐き王子の笑顔を貼り付けて振り向くと二人は頬を染めて近付いてきた。
「俺に用事?」
「ちょっと手伝って欲しいなって」
「長机を運びたいんだ」
「いいよ。どこに運ぶの?」
「体育倉庫」
それくらい自分たちで運べるだろと思いつつ、俺なら一人でも持てるからそっちの方が早いかと納得し頷く。別に帰ろうと思えばいつでも帰れるしな。
喜ぶ女子が俺たちに背を向けた瞬間袖を引かれて視線を下ろしたら、楪が俺を見上げてコソッと喋った。
「ゴミ、捨ててくれてありがとう」
俺が無理やり取り上げて勝手に捨てただけなのにお礼言うのか。
ほんとにこいつはと思いつつ乱暴に頭を撫でたらぽかんとしてたけど、何となくこのまままた明日ってなんのは嫌で、チラリと女子の方を向いた俺はこっちを見ていないのを確認してから楪の耳元に口を寄せた。
「すぐ終わらせるから、待っててくんねぇ?」
「へ⋯」
「一緒に帰ろ」
いつもなら問答無用で手を引いてうちに連れてくからか、初めて言われた言葉に目を瞬いていた楪だったけど、少しして今度は顔全体で笑うとこくりと頷いた。
まるで花が綻ぶような笑顔に固まってたら、女子から呼ばれてハッとする。
何だこれ⋯なんか、上手く王子になれねぇ。
「ごめん、すぐ追い掛けるから先に行ってて」
「え、あ、うん⋯。分かった」
「長机は体育倉庫にあるから、そこで待ってるね」
「うん」
口調だけは取り繕えたからどうにかなったけど、いつもの表情が出来なくて片手で口元を覆い意識を王子へと持っていこうとする。
「天ヶ瀬くん?」
柔らかな声が俺の名前を呼ぶ。楪を見れば心配そうな顔をしてて、俺がそんな顔をさせてるんだって気付いて胸がザワついた。
楪には笑顔が似合う。さっきみたいな、ふわって感じの優しい笑顔が。
っつーか俺はそれどころじゃねぇだろ。どうやって体育倉庫に行くんだよ。何で王子になれねぇ? 俺のどこがおかしくなってんだ?
若干テンパリつつ口元を動かしてたら、不意に手が握られて目を見瞠る。
「大丈夫だよ、落ち着いて。深呼吸」
「⋯⋯⋯」
「天ヶ瀬くんも、わたわたしちゃう事あるんだね」
控えめに笑う楪の声と言葉に不思議と心が落ち着いていく。
試しに笑ってみたら楪も笑顔で頷いてくれたから、どうやら俺の王子モードは戻ってくれたみたいだ。
俺がうっかり鍵を掛け忘れたから始まった事だけど、バレたのが楪で良かったって心底思う。じゃなきゃ俺はとっくのとうに偽王子だってバレて、周りの奴らから批判食らってたかもしれない。
こんな風に、穏やかな気持ちではいられなかっただろう。
(⋯⋯マジか)
まさか自分が、同性に対してこんな気持ちになるとは思わなかった。
でも自覚したからこそ、目の前の楪が誰よりも可愛く見えるってのは理解出来る。
『天ヶ瀬くんは、どんな女の子のヒーローになるんだろうね』
俺は、楪を守れる存在になりたい。
楪だけのヒーローがいいな。
あなたにおすすめの小説
また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。