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ナンパの断り方
崎森くんの件はあれ以来何ともなく、俺たちは夏休みを迎えた。
夏休みの間、監視ってどうなるんだろうって思ってたら、帰り際に「俺が呼んだら来いよ」と言われてしまったから変わらないみたい。
でも用事優先でいいって言ってくれるあたり、天ヶ瀬くんって優しいよね。
「奏斗。夏休みに入ってすぐで悪いんだが、父さん、明日から一ヶ月ほど出張に行く事になった」
「そうなの? 分かった。俺の事なら心配しないで」
「いつもすまないな。何かあったらすぐに連絡してきてくれ」
「うん」
お父さんは建築関係の仕事をしていて、こうして出張や泊まりがけで別の現場に行く事が良くある。そのたびに留守番してたから、もう一人で過ごすのもすっかり慣れた。
寂しくないと言えば嘘になるけど、俺の生活面や学費の為に頑張ってくれてるお父さんには我儘は言えない。
「奏斗の誕生日には一度戻ってくるから」
「え、いいよ。そっちの方が大変でしょ? 電話でおめでとうって言ってくれるだけで充分だよ」
「⋯欲しい物はあるか?」
「お父さんが選んでくれた物なら何でも嬉しい」
そう言ってにこっと笑うと、お父さんは息を吐いて微笑み俺の頭を撫でてきた。いつもと変わらない、少し皮の厚くなったお父さんの手。
なのにどうしてか、天ヶ瀬くんの手を思い出してしまった。
お父さんとは違うけど、大きくて骨張ってて、俺とは違う男らしい手。
(何でかな⋯)
夏休み前は毎日触れられてたせいか、一日でも空くと何となく物足りないと思ってしまう。お父さんみたいに丁寧な撫で方はされた事ないけど、あの髪をぐちゃぐちゃにするような撫で方も結構好きなんだよね。
でももし他の人もあの手で撫でられてたら⋯。
(いやいや、他の人は撫でないから)
そういえば、結局どうして撫でるのかは聞けなかったなぁ。
あれ? そもそも俺、同い年に見られてる? もしかして年下に見えるからつい弟みたいな感覚でとか、そんな感じだったりしない?
「まさか、だよね」
いくら天ヶ瀬くんが大人っぽくてもそれはさすがにないよって自分で突っ込みつつも、俺は心のどこかで疑惑が拭えないでいた。
本当にそうだったら切なすぎる。
お父さんが出張に行って三日目。
朝から課題に取り掛かりうんうん唸っていた俺のスマホが不意に震えた。
「?」
手を止めて画面をタップすると相手は天ヶ瀬くんで、『今日暇か?』って来てる。
暇といえば暇だけど⋯いつもみたいにどこそこに来いじゃないのは用事があるかもって気にしてくれてるのかな。
少し考えた俺は、スマホを手に取って文字を打つ。
『暇だよ、どうしたの?』
『大通りにある広場で肉フェスやってるらしいんだけど、行かねぇかなって』
『大通りだったら学校の人たちいるかもしれないよ?』
『一応王子モードにする』
そこまでして肉フェスに行きたいんだ。
だったら俺がお供した方が、天ヶ瀬くん的にも気が楽になるかな。
『分かった、行く』
『集合は十二時に現地でいいか?』
『うん』
『じゃ、あとでな』
思いがけずお誘いされたけど、肉フェスって初めてだ。どんな感じなんだろ。〝肉フェス〟っていうくらいだからお肉の料理がたくさんあるのかな。
課題の合間に摘んでいたポテトチップスの袋口を輪ゴムで閉じ、まだ時間もある為ここまでやろうと決めた俺はさっきよりも真剣な顔でノートへと視線を下ろした。
そういえば、クラスメイトと遊びに行くのって初めてだ。
十二時になる十分前。広場の入口から中を見た俺は人の多さに圧倒されて口をぽかんと開けていた。
これは本当にクラスメイトにバッタリとかありそう。
「⋯え、ちょ、何あの人!」
「うわぁ⋯イケメン⋯」
「⋯王子様?」
邪魔にならないように端に寄って待ってたらそんな声が聞こえて、まさかと思い振り向いた俺はハッとした。見た目は完璧に王子様然とした天ヶ瀬くんが、悠然と人の間を抜けて歩いて来てたから。
抜けてというか、勝手に人が避けていくっていうか⋯⋯モーゼの十戒かな?
「楪、お待たせ」
「⋯⋯」
「楪?」
「あ、ううん。全然待ってないから」
私服姿はぼんやりとしか想像出来なかったけど、それを余裕で飛び越えるくらいカッコよくてぼーっと見てたら、不思議そうな天ヶ瀬くんに呼ばれて我に返る。
慌てて首を振ったら大学生っぽい女の人が二人近付いて来てるのが視界の端に見えた。
「あのぉ、もしかして肉フェスに来たんですか?」
「そうですけど⋯」
「私たちもそうなんです。良かったら一緒に回りません?」
「初めて来たから勝手が分からなくて、教えて貰えたらなって」
「こっちも二人なので、お友達もぜひ」
うわぁ、初めて目の前でナンパされてるの見た。ついででオマケとはいえ俺も誘ってくれるなんて、優しい人たちだなぁ。
俺は初めてだけど、天ヶ瀬くんはどうなんだろ。慣れてるなら一緒に行ってあげた方がこの人たちも助かるんじゃ⋯と思って向かいに立つ天ヶ瀬くんを見上げたら、わざとらしくにこっと笑って俺の肩を抱き寄せた。
「すみません、俺たちデートしに来てるので。二人だけで回ります」
「え?」
「あ、そ、そうなんですか⋯」
「お邪魔しました~⋯」
目を瞬きながら見上げると思った以上に天ヶ瀬くんの顔が近くにあって驚く。
ただ肉フェスを一緒に回る為に呼ばれたのかと思ってたんだけど。
「肉フェスでナンパしてんじゃねぇよ」
「これってデートなの?」
「あ? ⋯⋯いや、その方が手っ取り早く断れっから⋯」
「あ、なるほど! 天ヶ瀬くん賢い!」
女の人たちが遠くに行ったのを見て舌打ちしながら吐き捨てた天ヶ瀬くんに尋ねると、少しだけ視線を彷徨わせたあとバツが悪そうに答えてくれる。
確かにデートって言った瞬間女の人たち「あ」って顔になってたもんね。
断り方までスマートなんて凄いなぁなんて感心してたら、天ヶ瀬くんが肩を落として溜め息をついた。
何で落ち込んでるんだろう?
夏休みの間、監視ってどうなるんだろうって思ってたら、帰り際に「俺が呼んだら来いよ」と言われてしまったから変わらないみたい。
でも用事優先でいいって言ってくれるあたり、天ヶ瀬くんって優しいよね。
「奏斗。夏休みに入ってすぐで悪いんだが、父さん、明日から一ヶ月ほど出張に行く事になった」
「そうなの? 分かった。俺の事なら心配しないで」
「いつもすまないな。何かあったらすぐに連絡してきてくれ」
「うん」
お父さんは建築関係の仕事をしていて、こうして出張や泊まりがけで別の現場に行く事が良くある。そのたびに留守番してたから、もう一人で過ごすのもすっかり慣れた。
寂しくないと言えば嘘になるけど、俺の生活面や学費の為に頑張ってくれてるお父さんには我儘は言えない。
「奏斗の誕生日には一度戻ってくるから」
「え、いいよ。そっちの方が大変でしょ? 電話でおめでとうって言ってくれるだけで充分だよ」
「⋯欲しい物はあるか?」
「お父さんが選んでくれた物なら何でも嬉しい」
そう言ってにこっと笑うと、お父さんは息を吐いて微笑み俺の頭を撫でてきた。いつもと変わらない、少し皮の厚くなったお父さんの手。
なのにどうしてか、天ヶ瀬くんの手を思い出してしまった。
お父さんとは違うけど、大きくて骨張ってて、俺とは違う男らしい手。
(何でかな⋯)
夏休み前は毎日触れられてたせいか、一日でも空くと何となく物足りないと思ってしまう。お父さんみたいに丁寧な撫で方はされた事ないけど、あの髪をぐちゃぐちゃにするような撫で方も結構好きなんだよね。
でももし他の人もあの手で撫でられてたら⋯。
(いやいや、他の人は撫でないから)
そういえば、結局どうして撫でるのかは聞けなかったなぁ。
あれ? そもそも俺、同い年に見られてる? もしかして年下に見えるからつい弟みたいな感覚でとか、そんな感じだったりしない?
「まさか、だよね」
いくら天ヶ瀬くんが大人っぽくてもそれはさすがにないよって自分で突っ込みつつも、俺は心のどこかで疑惑が拭えないでいた。
本当にそうだったら切なすぎる。
お父さんが出張に行って三日目。
朝から課題に取り掛かりうんうん唸っていた俺のスマホが不意に震えた。
「?」
手を止めて画面をタップすると相手は天ヶ瀬くんで、『今日暇か?』って来てる。
暇といえば暇だけど⋯いつもみたいにどこそこに来いじゃないのは用事があるかもって気にしてくれてるのかな。
少し考えた俺は、スマホを手に取って文字を打つ。
『暇だよ、どうしたの?』
『大通りにある広場で肉フェスやってるらしいんだけど、行かねぇかなって』
『大通りだったら学校の人たちいるかもしれないよ?』
『一応王子モードにする』
そこまでして肉フェスに行きたいんだ。
だったら俺がお供した方が、天ヶ瀬くん的にも気が楽になるかな。
『分かった、行く』
『集合は十二時に現地でいいか?』
『うん』
『じゃ、あとでな』
思いがけずお誘いされたけど、肉フェスって初めてだ。どんな感じなんだろ。〝肉フェス〟っていうくらいだからお肉の料理がたくさんあるのかな。
課題の合間に摘んでいたポテトチップスの袋口を輪ゴムで閉じ、まだ時間もある為ここまでやろうと決めた俺はさっきよりも真剣な顔でノートへと視線を下ろした。
そういえば、クラスメイトと遊びに行くのって初めてだ。
十二時になる十分前。広場の入口から中を見た俺は人の多さに圧倒されて口をぽかんと開けていた。
これは本当にクラスメイトにバッタリとかありそう。
「⋯え、ちょ、何あの人!」
「うわぁ⋯イケメン⋯」
「⋯王子様?」
邪魔にならないように端に寄って待ってたらそんな声が聞こえて、まさかと思い振り向いた俺はハッとした。見た目は完璧に王子様然とした天ヶ瀬くんが、悠然と人の間を抜けて歩いて来てたから。
抜けてというか、勝手に人が避けていくっていうか⋯⋯モーゼの十戒かな?
「楪、お待たせ」
「⋯⋯」
「楪?」
「あ、ううん。全然待ってないから」
私服姿はぼんやりとしか想像出来なかったけど、それを余裕で飛び越えるくらいカッコよくてぼーっと見てたら、不思議そうな天ヶ瀬くんに呼ばれて我に返る。
慌てて首を振ったら大学生っぽい女の人が二人近付いて来てるのが視界の端に見えた。
「あのぉ、もしかして肉フェスに来たんですか?」
「そうですけど⋯」
「私たちもそうなんです。良かったら一緒に回りません?」
「初めて来たから勝手が分からなくて、教えて貰えたらなって」
「こっちも二人なので、お友達もぜひ」
うわぁ、初めて目の前でナンパされてるの見た。ついででオマケとはいえ俺も誘ってくれるなんて、優しい人たちだなぁ。
俺は初めてだけど、天ヶ瀬くんはどうなんだろ。慣れてるなら一緒に行ってあげた方がこの人たちも助かるんじゃ⋯と思って向かいに立つ天ヶ瀬くんを見上げたら、わざとらしくにこっと笑って俺の肩を抱き寄せた。
「すみません、俺たちデートしに来てるので。二人だけで回ります」
「え?」
「あ、そ、そうなんですか⋯」
「お邪魔しました~⋯」
目を瞬きながら見上げると思った以上に天ヶ瀬くんの顔が近くにあって驚く。
ただ肉フェスを一緒に回る為に呼ばれたのかと思ってたんだけど。
「肉フェスでナンパしてんじゃねぇよ」
「これってデートなの?」
「あ? ⋯⋯いや、その方が手っ取り早く断れっから⋯」
「あ、なるほど! 天ヶ瀬くん賢い!」
女の人たちが遠くに行ったのを見て舌打ちしながら吐き捨てた天ヶ瀬くんに尋ねると、少しだけ視線を彷徨わせたあとバツが悪そうに答えてくれる。
確かにデートって言った瞬間女の人たち「あ」って顔になってたもんね。
断り方までスマートなんて凄いなぁなんて感心してたら、天ヶ瀬くんが肩を落として溜め息をついた。
何で落ち込んでるんだろう?
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