モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

文字の大きさ
18 / 79

何でも

 どうやら自分は、自分でも気付かないうちに天ヶ瀬くんを好きになっていたらしい。それを自覚して早一週間、俺は今だにその事を本人に伝えられないでいた。
 理由は言わずもがな文化祭の準備で忙しくて、セリフ練習以外は舞台セットを作ったり必要な物の運び込みや買い出しなどに奔走していたからだ。

「シンデレラ、さっさと食事の準備をなさい」
「まったく、いつまで経っても鈍臭いんだから」
「ご、ごめんなさいお義姉様⋯今すぐ準備します⋯っ」

 意地悪な義姉二人に見下ろされ、俺は頭を下げて急いでその場を離れる。
 主役だからセリフが多くて、途中で飛びそうになりながらも何とかやってはいるけど、ここに感情を乗せるのが本当に難しい。
 しかも継母も意地悪な義姉ももちろん男子で、俺より背が高いから怒った顔をされると怖くて萎縮してしまいそうになる。演技だって分かってはいるんだけど⋯。

「大変よ、あなたたち! 王様が、王子様の花嫁を捜す為のパーティを開くらしいわ!」
「まぁ!」
「それは一大事だわ!」
「急いで準備をしなければ⋯! シンデレラ、シンデレラ! すぐに仕立て屋を呼んでちょうだい! とびっきり素敵なドレスを用意して貰うのよ!」
「は、はい⋯っ」

 こうして自分が演じてみて思ったけど、この境遇でも綺麗な心をなくさなかったシンデレラって凄いな。俺だったら色んな事諦めてるかも。
 でも俺、シンデレラはカボチャの馬車とガラスの靴くらいしか知らないから、最後がどうなるのか分からない。ハッピーエンドなのは当たり前なんだけど。

「はい、カット! とりあえずはここまでね」
「心臓がいてぇ⋯」
「ごめんな、楪。怖いよな」
「え? あ、ううん。大丈夫だよ」

 義姉役の二人が申し訳なさそうに謝ってくれて、俺は慌てて首を振る。
 怖くないって言えば嘘になるけど、それだけ演技に力が入ってるって事だからむしろ誇ってもいいと思うのに⋯優しいなぁ。
 今までは遠巻きに見てるだけだったクラスメイトの輪の中に自分がいて、こうして話してるの何だか不思議な感じ。最初は不安だったけど、今はシンデレラ役で良かったって思う。

「楪って、何か嗜虐心を煽るよな」
「分かる。いじめがいありそう」
「⋯⋯⋯」

 少し離れたところにいる継母役の男子、広尾ひろおくんと裏方の男子がそう話してる声が聞こえて、嬉しかった気持ちがすっと下がる。
 でもここで落ち込んだらみんなが心配するし、俺は聞こえなかったフリをして話しかけてくれる子に笑顔を作った。
 大丈夫、別に本気でいじめるつもりなんてあの人たちにはないはずだし。

「お手洗いに行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
「あんなの、気にしなくていいからね」

 気遣ってくれる相馬さんに頷き教室を出た俺は、とりあえず外の空気でも吸おうと渡り廊下に向かった。でもその途中で、先生に呼ばれていた天ヶ瀬くんと鉢合い小さく声が漏れる。
 今日は朝の挨拶しか出来てなかったから、話せるかもって嬉しくなり俺は無意識に駆け寄ろうとしてた。僅かに目を見開いた天ヶ瀬くんが、その手を掴んで踵を返し階段を上がっていく。
 一階上は文化祭当日に準備用の部屋となる空き教室が並んでて、その一つに入った天ヶ瀬くんが眉根を寄せて俺の頬を挟んできた。

「⋯お前⋯」
「?」

 何か知らないけど怒ってるのかと思い俯いたら、溜め息をついた天ヶ瀬くんの手が今度は頬を摘んできた。

「そんな顔すんな。勘違いしそうになる⋯」
「顔⋯?」
「嬉しそうな顔だよ。しかも目が合った途端とか⋯」
「だって嬉しかったから⋯」
「⋯⋯⋯」

 忙しくなってからもずっと話したいと思ってた。
 好きって気付いてからその気持ちがもっと膨らんで、一緒に委員の仕事をする穂波さんが羨ましいって思うくらい天ヶ瀬くんが遠かった。
 夏休みはあんなに近かったのに。

「天ヶ瀬くんのその話し方も久し振りな気がする」
「⋯楪」
「?」
「そんなふうに言われたら自惚れる」

 自惚れるって何だろうって思ってたら、手を離した天ヶ瀬くんが苦笑して頭を撫でてきた。
 あ、そっか。俺まだ天ヶ瀬くんに伝えられていないんだ。今二人だし、これを逃したら次のチャンスがいつ巡ってくるか分からない。
 俺は深呼吸をすると、天ヶ瀬くんの手を握り見上げる。

「!」
「あ、あの、天ヶ瀬くん⋯っ。俺、天ヶ瀬くんに伝えたい事が⋯」
『ただいまより、委員会会議を行います』

 だけど、大事な部分を言う前に軽快なリズムがスピーカーから流れ、女子生徒の淡々とした声が聞こえてきた。

『各クラスの委員長は、会議室へ集まって下さい』
  
 最初のリズムを逆から辿ったような音楽が鳴って放送は終わったけど、天ヶ瀬くんはうちのクラスの委員長だから当然行かなきゃいけない。
 つまり、俺との話はここで終わりという訳だ。

「悪い、行かねぇと」
「⋯⋯うん」
「あんま話出来なくてごめんな? 放課後も帰んの遅いし⋯」
「ううん、天ヶ瀬くんが忙しいの分かってるから」

 俺が勝手に話したいのに話せないって言ってるだけで、天ヶ瀬くんは何も悪くない。
 緩く首を振ると、吐息だけで笑った天ヶ瀬くんが俺の頭をポンポンと軽く叩いて教室から出ようとした。でも俺の前ではいつも通りだったその顔が、振り向く瞬間疲れて見えて俺は反射的に呼び止める。

「あの⋯無理、しないでね。俺に出来る事があったら何でもいいから言って」
「⋯⋯楪」
「何?」
「自分に惚れてる男に、〝何でも〟なんて言葉、口にしねぇ方がいいぞ。何言われるか分かんねぇからな」
「え⋯?」
「エロい事言われても、文句言えねぇよって」
「⋯!?」

 そんなつもりは全然なかったのに、天ヶ瀬くんにそう言われて慌てて口を押さえる。
 な、何でもってそういう意味は含まれてないのに⋯。

「冗談だよ、ありがとな。お前も無理すんなよ」
「う、うん⋯」

 顔が赤くなってるだろう俺に楽しそうに笑った天ヶ瀬くんは、さっきよりも穏やかな表情で今度こそ教室をあとにした。
 え、えっちな事って何なんだろうって思うけど、きっとどんな事でも天ヶ瀬くんなら嫌じゃないんだろうなって俺は思う。
 早く、この気持ちを伝えられたらいいのに。
感想 15

あなたにおすすめの小説

また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件

月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。 翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。 「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」 逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士 貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。