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うっかり
文化祭当日まであと一週間。
セットもほぼ完成して、セリフもどうにか頭に叩き込んで、今日の放課後は調整も済ませた衣装を着てのプチリハーサルをするらしい。しかも一番大変な舞踏会のシーンを。
ドレスに慣れる為とはいえ、ウィッグも被ってガラスの靴に見立てたパンプスも履くそうだから、俺は裾を踏んで転ばないように注意しなければいけない。
そんな俺は、今鏡が置かれた机の前に座ってメイクを施されていた。
「ウィッグだけでも充分だったけど、楪くん化粧映えするね」
「⋯あんまり嬉しくない⋯」
「あはは、男の子だもんね。でも、凄く可愛くなってるよ」
さすがは普段からお化粧をしている女子。男の顔なのにあっという間に仕上げていく。
鏡を見たら、睫毛は伸びてるし唇はツヤツヤぷるぷるしてるし違和感しかない。
「天ヶ瀬くんは?」
「準備バッチリ!」
「じゃあシンデレラが入場するシーンから始めよっか」
「楪くん、移動するよー」
「う、うん」
受け入れたとはいえ、この格好で天ヶ瀬くんやみんなの前に立つのやだな。
引き摺らないようスカートを上げて歩き、机が運び出された教室へと足を踏み入れると黄色い悲鳴が止んでどよめきが起こった。顔を上げられずにいたら背中を押されて、視界に白い靴のつま先が入る。
チラリと目線を上げれば前髪を上げた天ヶ瀬くんがいて、目を見瞠って固まってた。
「⋯かっわ⋯」
いつも以上にカッコよくなってる天ヶ瀬くんに俺も固まってたら、小さくそう零したあと慌てて口元を押さえる。何か、顔が赤くなってるような⋯。
目を瞬いて天ヶ瀬くんを見てたんだけど、女子が集まってきてあっという間に取り囲まれてしまった。
「やばー! 楪くん可愛い!」
「まさかの原石発見」
「待って待って、写真撮りたい!」
え、写真? って思ってる間にカメラが構えられ、女子に挟まれてシャッターが切られる。天ヶ瀬くんも隣に並ばされてツーショットが撮られたんだけど、天ヶ瀬くんがにこって笑うだけで悲鳴が上がってた。
改めて横目で見るけど、天ヶ瀬くん似合いすぎだ。
「あれが似合うとか、マジかよ」
「あいつ、実はついてねぇんじゃねーの?」
「ひん剥いてみるか?」
「もう、そういう事言わないの」
「さいてー」
広尾くんがニヤニヤしながら友達と話してて、それを聞いてた女子が窘めてくれるけど⋯たぶん気持ち悪いって思ってるんだろうな。
ぎゅっとスカートを握ったら背中に何かが触れて、顔を上げると天ヶ瀬くんが真剣な顔をして首を振ってた。気にしなくていいって言いたいのかな。
「⋯やっぱり必要だわ」
背中に天ヶ瀬くんの手の温もりを感じてホッとしてたら、それまで黙っていた穂波さんがワナワナと震えながらそう呟いた。
相馬さんが首を傾げて「何が?」と問い掛ける。
「何って⋯それはもちろんあれに決まってるじゃない。キスシーンよ!」
「え?」
「おお!」
当たり前でしょと言わんばかりに穂波さんが拳を高らかに上げて宣言するけど、俺には寝耳に水でポカンとしてしまう。
き、キスシーン? 男ばっかりの演劇で?
例えフリだとしても、男同士なんて誰も見たくないと思う。しかも王子様は天ヶ瀬くんだし、絶対みんな嫌なはず⋯と思って穂波さんに首を振ったら、そんな俺を見て含んだ笑みを浮かべながら親指を立てた。
「女子が相手なら絶対入れなかったけど、楪くんなら⋯ありよりのあり!」
「あんた、なんか変な扉開いてない?」
「楪くんが思いの外可愛くて⋯」
可愛くないし、入れなかったんなら入れないままでいいと思うのに言えなくてただ首を振るしか出来ない。というか、どうして天ヶ瀬くんは反応しないの?
「ラストだけパパッと書き換えてくる!」
「行ってら~」
「あ⋯っ」
自分が持っていた台本を握り締めた穂波さんが颯爽と教室から出て行き足音が遠ざかる。止める間もなかったし、俺の意思は伝わらなかったみたい。
もしかしたら、拒否されるって分かってるからこそ敢えて見なかった事にしたのかもしれないけど。
誰も否定しなかったから、キスシーンはもう決定になってしまった。
「脚本家いないけど、リハやっちゃおっか。楪くん、一度廊下に出てくれる?」
「あ、うん⋯」
こうなったら腹を括るしかない。
俺一人じゃなく、みんなで作ってる劇なんだから恥ずかしいなんて言っていられないし、天ヶ瀬くんの為にも絶対成功させたいから。
廊下に出た俺は一人息を吐くと、スカートをぐっと上げて気合を入れ直した。
本当にはしないんだし、自分は俳優だと思えばいいんだ。
目の前に落ち込んだ天ヶ瀬くんがいる。
今日はガラスの靴を落とすまでのリハーサルだったからいつもより早く終わって、久し振りに天ヶ瀬くんの家にお邪魔したんだけど⋯どうしてか天ヶ瀬くんはベッド横に座って顔を伏せてた。
「あ、天ヶ瀬くん⋯?」
「⋯⋯⋯」
「⋯えっと⋯何かあった⋯?」
珍しく一言も返してくれないし、こっちを見てくれないから心配になって聞くんだけど、それでも反応してくれなくて悲しくなった俺は制服の袖を掴んで引っ張ってみる。
少しして、溜め息を零した天ヶ瀬くんがようやく顔を上げてくれたものの⋯何とも言えない表情をしてるから今度は俺の方が口を塞いでしまった。
戸惑ってると、裾を掴む俺の手を外して握り込む。
「自分が勝手に落ちてるだけだから気にすんな」
「⋯何で落ちてるの?」
「⋯⋯キスシーン、嫌なんだろ?」
「え?」
「めちゃくちゃ拒否ってたじゃん」
言われて放課後の事を思い出す。確かに首は振ってたけど、あれは恥ずかしいのとフリとはいえ人前ではしたくないからで⋯って頭の中でいくら否定しても天ヶ瀬くんには伝わらないよね。
俺は天ヶ瀬くんの手を握り返すと、どう言えば分かって貰えるかを考えながら口を開いた。
「⋯い、嫌じゃないよ⋯」
「何なら穂波には俺から言っとくから」
「ほ、ほんとに嫌じゃないんだよ?」
「無理しなくていいって」
「む、無理なんてしてない⋯! だって⋯だって俺、天ヶ瀬くんの事好きだから⋯っ」
「え?」
「⋯⋯え?」
あれ、俺⋯今何て言った?
自分の発言を思い出しぶわっと全身から湯気が吹き出そうなくらい真っ赤になった俺は、口を押さえると慌てて天ヶ瀬くんに背中を向けた。
さ、最悪だ⋯こんな風に言うつもりなかったのに⋯!
セットもほぼ完成して、セリフもどうにか頭に叩き込んで、今日の放課後は調整も済ませた衣装を着てのプチリハーサルをするらしい。しかも一番大変な舞踏会のシーンを。
ドレスに慣れる為とはいえ、ウィッグも被ってガラスの靴に見立てたパンプスも履くそうだから、俺は裾を踏んで転ばないように注意しなければいけない。
そんな俺は、今鏡が置かれた机の前に座ってメイクを施されていた。
「ウィッグだけでも充分だったけど、楪くん化粧映えするね」
「⋯あんまり嬉しくない⋯」
「あはは、男の子だもんね。でも、凄く可愛くなってるよ」
さすがは普段からお化粧をしている女子。男の顔なのにあっという間に仕上げていく。
鏡を見たら、睫毛は伸びてるし唇はツヤツヤぷるぷるしてるし違和感しかない。
「天ヶ瀬くんは?」
「準備バッチリ!」
「じゃあシンデレラが入場するシーンから始めよっか」
「楪くん、移動するよー」
「う、うん」
受け入れたとはいえ、この格好で天ヶ瀬くんやみんなの前に立つのやだな。
引き摺らないようスカートを上げて歩き、机が運び出された教室へと足を踏み入れると黄色い悲鳴が止んでどよめきが起こった。顔を上げられずにいたら背中を押されて、視界に白い靴のつま先が入る。
チラリと目線を上げれば前髪を上げた天ヶ瀬くんがいて、目を見瞠って固まってた。
「⋯かっわ⋯」
いつも以上にカッコよくなってる天ヶ瀬くんに俺も固まってたら、小さくそう零したあと慌てて口元を押さえる。何か、顔が赤くなってるような⋯。
目を瞬いて天ヶ瀬くんを見てたんだけど、女子が集まってきてあっという間に取り囲まれてしまった。
「やばー! 楪くん可愛い!」
「まさかの原石発見」
「待って待って、写真撮りたい!」
え、写真? って思ってる間にカメラが構えられ、女子に挟まれてシャッターが切られる。天ヶ瀬くんも隣に並ばされてツーショットが撮られたんだけど、天ヶ瀬くんがにこって笑うだけで悲鳴が上がってた。
改めて横目で見るけど、天ヶ瀬くん似合いすぎだ。
「あれが似合うとか、マジかよ」
「あいつ、実はついてねぇんじゃねーの?」
「ひん剥いてみるか?」
「もう、そういう事言わないの」
「さいてー」
広尾くんがニヤニヤしながら友達と話してて、それを聞いてた女子が窘めてくれるけど⋯たぶん気持ち悪いって思ってるんだろうな。
ぎゅっとスカートを握ったら背中に何かが触れて、顔を上げると天ヶ瀬くんが真剣な顔をして首を振ってた。気にしなくていいって言いたいのかな。
「⋯やっぱり必要だわ」
背中に天ヶ瀬くんの手の温もりを感じてホッとしてたら、それまで黙っていた穂波さんがワナワナと震えながらそう呟いた。
相馬さんが首を傾げて「何が?」と問い掛ける。
「何って⋯それはもちろんあれに決まってるじゃない。キスシーンよ!」
「え?」
「おお!」
当たり前でしょと言わんばかりに穂波さんが拳を高らかに上げて宣言するけど、俺には寝耳に水でポカンとしてしまう。
き、キスシーン? 男ばっかりの演劇で?
例えフリだとしても、男同士なんて誰も見たくないと思う。しかも王子様は天ヶ瀬くんだし、絶対みんな嫌なはず⋯と思って穂波さんに首を振ったら、そんな俺を見て含んだ笑みを浮かべながら親指を立てた。
「女子が相手なら絶対入れなかったけど、楪くんなら⋯ありよりのあり!」
「あんた、なんか変な扉開いてない?」
「楪くんが思いの外可愛くて⋯」
可愛くないし、入れなかったんなら入れないままでいいと思うのに言えなくてただ首を振るしか出来ない。というか、どうして天ヶ瀬くんは反応しないの?
「ラストだけパパッと書き換えてくる!」
「行ってら~」
「あ⋯っ」
自分が持っていた台本を握り締めた穂波さんが颯爽と教室から出て行き足音が遠ざかる。止める間もなかったし、俺の意思は伝わらなかったみたい。
もしかしたら、拒否されるって分かってるからこそ敢えて見なかった事にしたのかもしれないけど。
誰も否定しなかったから、キスシーンはもう決定になってしまった。
「脚本家いないけど、リハやっちゃおっか。楪くん、一度廊下に出てくれる?」
「あ、うん⋯」
こうなったら腹を括るしかない。
俺一人じゃなく、みんなで作ってる劇なんだから恥ずかしいなんて言っていられないし、天ヶ瀬くんの為にも絶対成功させたいから。
廊下に出た俺は一人息を吐くと、スカートをぐっと上げて気合を入れ直した。
本当にはしないんだし、自分は俳優だと思えばいいんだ。
目の前に落ち込んだ天ヶ瀬くんがいる。
今日はガラスの靴を落とすまでのリハーサルだったからいつもより早く終わって、久し振りに天ヶ瀬くんの家にお邪魔したんだけど⋯どうしてか天ヶ瀬くんはベッド横に座って顔を伏せてた。
「あ、天ヶ瀬くん⋯?」
「⋯⋯⋯」
「⋯えっと⋯何かあった⋯?」
珍しく一言も返してくれないし、こっちを見てくれないから心配になって聞くんだけど、それでも反応してくれなくて悲しくなった俺は制服の袖を掴んで引っ張ってみる。
少しして、溜め息を零した天ヶ瀬くんがようやく顔を上げてくれたものの⋯何とも言えない表情をしてるから今度は俺の方が口を塞いでしまった。
戸惑ってると、裾を掴む俺の手を外して握り込む。
「自分が勝手に落ちてるだけだから気にすんな」
「⋯何で落ちてるの?」
「⋯⋯キスシーン、嫌なんだろ?」
「え?」
「めちゃくちゃ拒否ってたじゃん」
言われて放課後の事を思い出す。確かに首は振ってたけど、あれは恥ずかしいのとフリとはいえ人前ではしたくないからで⋯って頭の中でいくら否定しても天ヶ瀬くんには伝わらないよね。
俺は天ヶ瀬くんの手を握り返すと、どう言えば分かって貰えるかを考えながら口を開いた。
「⋯い、嫌じゃないよ⋯」
「何なら穂波には俺から言っとくから」
「ほ、ほんとに嫌じゃないんだよ?」
「無理しなくていいって」
「む、無理なんてしてない⋯! だって⋯だって俺、天ヶ瀬くんの事好きだから⋯っ」
「え?」
「⋯⋯え?」
あれ、俺⋯今何て言った?
自分の発言を思い出しぶわっと全身から湯気が吹き出そうなくらい真っ赤になった俺は、口を押さえると慌てて天ヶ瀬くんに背中を向けた。
さ、最悪だ⋯こんな風に言うつもりなかったのに⋯!
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