モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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本番当日

 天ヶ瀬くんと恋人になって一週間。
 つまりは文化祭当日。
 クラスのみんなは朝からバタバタしてて、俺も天ヶ瀬くんも最後のセリフや立ち位置を合わせたりと大忙しだ。
 俺のクラスの出し物は午前最後で、お昼を食べてからは各自自由行動になっている。天ヶ瀬くんは委員会の仕事があるから午後からも忙しいそうだけど、どこかで休憩出来るなら少しでも話せたりしないかな。
 うーん、タイミング合わせるのが難しいかも。



「⋯⋯⋯」

 どうしよう、怖くなってきた。
 もうすぐ本番で俺は舞台袖のパイプ椅子に座ってるんだけど、緊張と不安で頭の中が真っ白になってる。セリフが飛んだら、転んだら、そんな風に失敗した時の事ばかり考えてしまい胸が痛い。
 俺のせいでみんなの努力が水の泡になったら⋯。
 耳の奥で心臓の音が響いて周りの喧騒が何も聞こえてこない。ここにいるのが俺一人だけな気がしてスカートを握ったら、その手を暖かい何かが包んでくれた。
 驚いて目を開けるとしゃがんでる天ヶ瀬くんがいて、優しい顔をして俺の手を撫でてくれる。

「手が凄く冷たいね。緊張してる?」
「⋯ん⋯⋯」
「大丈夫だよ。楪はやれば出来る子だ。苦手ながらにずっと頑張ってきたんだから、ちゃんと出来るよ」
「天ヶ瀬くん⋯」
「みんながいる。何があってもフォローするから」

 天ヶ瀬くんの手の温もりがじわじわと全身に伝わって、ゆっくりと周りの音が戻ってくる。ここ、まるで交差点にいるのかなってくらい賑やかだったんだ。
 みんなが慌ただしく行き交う中、王子様の格好をした天ヶ瀬くんはまさしく王子様で⋯って自分でも何言ってるのか分かんないけど、優しい声と暖かい手に緊張は解けないまでも心が落ち着いていく。

(天ヶ瀬くんはやっぱり凄いなぁ⋯)

 俺と違って堂々としてるし、衣装も完璧に似合ってる。
 少しだけ表情を緩めて頷くとホッとしたように微笑んで立ち上がり、チラリと周りを見てから俺の頭を軽く撫で離れて行った。
 ウィッグ越しだけど、しっかりと天ヶ瀬くんの手の重みが感じられて安心する。

(うん、頑張ろう)

 天ヶ瀬くんの励ましと優しさでやる気に溢れた俺はぐっと拳を握ると、立ち上がって手足をブラブラさせる準備体操を始めた。
 ガラスの靴を落とすシーンは階段を駆け下りるから、捻ったりしないようにしておかないと。

 それから、『女人禁制! 男ばかりのシンデレラ』は幕が上がり、いよいよ始まった。
 天ヶ瀬くんが登場すると体育館が悲鳴と歓声に包まれ、それがなかなか収まらなくて話が進められないハプニングはありつつも物語は順調に進んでいく。
 一番懸念していた舞踏会のダンスシーンもどうにかやり切れたし、そのあとの階段を駆け下りながらガラスの靴を落とす場面も上手くいったし、観客席も大盛り上がりだった。
 俺のドレス姿にブーイングが起こるかもって心配も杞憂で終わったし、本当に一安心。
 そしてついに、ガラスの靴を手に国中の家を訪問していた王子様がシンデレラと再会し、場面はクライマックスの結婚式へと移った。
 俺はシンデレラに結婚式のシーンがあったのかを知らないから何も言えないんだけど、誓いの言葉を交わした二人がキスをして幕が降りる。
 つまり、件のキスシーンはここで入るって訳だけど⋯。

「楪、緊張しすぎ」
「だ、だって⋯」
「お前の前には俺しかいねぇんだから、俺だけ見てろ」

 そんなカッコいい姿でそんなカッコいい事を言われると余計に緊張する。
 舞台には二人しかいなくて、至近距離で見つめ合ってるからこうして小声で話せるんだけど、次のシーンにやばいくらいに胸がドキドキしてる俺は氷みたいになってた。
 苦笑した天ヶ瀬くんが、俺の腰を抱き寄せ最後のセリフを口にする。

『我が愛しのシンデレラ。永遠とわの愛を君だけに』

 そうして顔が近付いて、本来なら鼻先が触れる程度で止まる―はずだった。
 天ヶ瀬くんはマントを掴んで持ち上げると、観客側から見えないように俺を隠し更に顔を寄せて微笑んだ。

「好きだよ、楪」
「え⋯」

 俺にしか聞こえない声がそう言って唇が重なる。
 色んな感情の籠った悲鳴が体育館を埋めつくし幕は降りたけど、かくいう俺は天ヶ瀬くんが離れたあとにようやく何をされたのかに気付き、両手で自分の口を塞いだ。
 それを見てニヤリと笑った天ヶ瀬くんは、俺の肩へと腕を回すとみんなの待つ舞台袖へと連れて行ってくれるけど⋯俺の顔まだ赤いのに。

「二人ともお疲れ様ー!」
「天ヶ瀬くんヤバいくらいカッコよかったー」
「ほんとに王子様だったよね」
「まだドキドキしてる⋯」
「ってかキスシーン、リハなしだったのに上手にやってたね」

 大興奮のみんなが俺たちを囲って次々に言葉をかけてくれるけど、俺は反応さえ出来なくて俯いてる。それに気付いた相馬さんが、不思議そうに顔を覗き込んできた。

「あれ、楪くん、顔真っ赤だけどどうしたの?」
「⋯な、何でもない⋯」
「何でもないようには見えないけど⋯」
「あ、もしかしてキスシーンが恥ずかしかった? 楪くん、そういうの苦手そうだし」
「天ヶ瀬くんの顔、間近で見たらそうなるよね」

 女子はみんな分かるよって言ってくれるけど、実際はそれで赤くなってるんじゃなくて、でも言えるはずもないからそういう事にしようと頷いたら突然腕を引かれて目を瞬く。
 振り向くと広尾くんがいて、どこかムッとしたような顔で俺を見てた。

「⋯ムカつく」
「え?」

 そう言って乱暴に腕を離すと足音を鳴らしながらどこかへ行っちゃったけど、何で俺はムカつかれたのかな。
 呆然と見送ってたら穂波さんが「あらあら」って言って俺の肩をポンポンする。

「楪くんも罪な男ねぇ」
「ああ、なるほど。小学生か」
「へ⋯」

 穂波さんと相馬さんが呆れた顔で話してるものの、俺にはピンとも来なくて首を傾げてたら隣に天ヶ瀬くんが立ってにこっと笑う。

「また何か言われたら、俺に言いなね」
「う、うん⋯」

 笑顔なのに背後に黒いオーラがある気がして目を瞬いた俺だけど、それがどうしてか分からなくてとりあえず頷いておいた。
 それにしても、何でみんなやれやれって顔してるんだろう。
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