モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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モヤモヤの正体

 期末テストがやってくる。
 少し前に出題の範囲が発表され、みんなが本格的にテスト勉強に励むようになった頃、俺は不穏な話を耳に挟んだ。

「崎森の奴、顔真っ白だったぞ」
「何か、寝る間も惜しんでテス勉してるらしい」
「何でそこまで⋯アイツ、難関大余裕なんじゃねぇの?」
「負けたくないヤツがいるんだと」
「⋯⋯もしかして王子?」
「たぶん。いつも崎森が下だし、思い詰めてんじゃないか?」
「変な気起こさなけりゃいいけど」

 一学期の期末テストの順位発表の時何だか様子がおかしかったけど、そんなに頑張って勉強してるんだ。でも、天ヶ瀬くんだって俺に勉強教えてくれながらも自習してるし、順位は落とした事ないからきっとまた一位のような気がする。
 そうなった時、崎森くんはどうするんだろう。

「楪」
「天ヶ瀬くん」
「こんなところでぼーっとしてると危ないよ」
「え、あれ? いつの間に階段まで」

 もしかしたら、一位の天ヶ瀬くんが何か言われるんじゃないかって不安に思いつつ歩いてたら肩がつつかれて声をかけられた。何が危ないのかと思って足元を見たら階段の段差に半分足が出てて、このまま降りてたら落ちてたかもしれないってゾッとする。
 捻った足も完治したのに、また怪我をするところだった。
 一歩下がり、天ヶ瀬くんを振り向くと両手に荷物を抱えてる。

「わ、凄いね。手伝う」
「ありがとう。じゃあこっちお願い」

 こういう頼まれ事はいつもだけど、たまに遠慮を知らない先生がいて持ち過ぎなくらい物を持ってる時がある。俺が気付く前に他の人が駆け寄ってる時はともかく、俺が最初だったらこうして手伝ってた。

「天ヶ瀬くん、私も手伝うよ」
「私も」
「楪が手伝ってくれてるから大丈夫。ありがとう」

 少し歩き出すと女子たちが声をかけてくるけど、天ヶ瀬くんはやんわりと断って食い下がられないようさっさと進んで行く。
 無視はしないけど、全部受け入れる事もしないんだよね。
 めったに足を踏み入れない資料庫に入り、どこに片付ける物かと手元を見下ろす。

「楪が持ってんのは奥な。任せていいか?」
「もちろん」
「届かない場所とかあったら言って」
「うん」

 資料庫の奥にあるスチール棚に自分が持っていた物を片付けてると、天ヶ瀬くんがいる方で誰かと話す声が聞こえてきた。先生でも来たのかなと思って戻ろうとした時、「天ヶ瀬くんが好き」って言葉が耳に入り足を止める。
 こんなとこでも告白ってされるんだと思ったけど、これ、俺聞いてちゃダメだよね。
 でも一番奥に行っても聞こえてきちゃうから⋯どうしよう。

「私、天ヶ瀬くんの彼女になりたいの」
「ごめん、応えられない」
「どうしてもダメ?」
「ごめんね」
「⋯やだ!」

 声を聞いてるだけでも本当に天ヶ瀬くんが好きなんだなって分かる。
 でも天ヶ瀬くんは頷かなくて、だけど女子も諦められないのか更に言い募ったあと軽い足音と何かが落ちた音がした。
 何かあったのかなってバレない程度に顔を覗かせたら、女子が天ヶ瀬くんに抱き着いているのが見えて俺は息を飲む。

「お願い、少しでいいの⋯付き合って、私の事知ってそれでも無理なら振ってくれていいから」
「出来ない」
「⋯っ⋯」

 女の子の華奢な腕が天ヶ瀬くんの背中に回されて、泣きそうな顔が縋るように胸元に埋められる。隙間なく密着してる二人に胸の中がザワついて、急に喉が渇いたみたいになって息も上手に吸えなくなった。
 黒い何かが渦を巻いて、嫌な気持ちがどんどん湧いてくる。

(⋯⋯嫌だ⋯触らないで⋯)

 今までだって、女子と近い距離で話す姿を見てモヤモヤしてた。みんな普通に天ヶ瀬くんに触れるし、隣に並んで歩く。
 そのたびに今みたいな気持ちになったけど、ここまで叫びたくなったのは初めてだ。
 俺の天ヶ瀬くんなのに⋯って。
 でも声を出さないようぎゅっと拳を握って唇を噛んでたら、天ヶ瀬くんがその子の肩に手を置いてそっと引き剥がすのが見えて肩から力が抜ける。

「どれだけ想われても、俺は同じ気持ちを返せない。勇気を出して言ってくれた事は嬉しいけど、好きじゃないのに付き合う事は出来ないよ」
「⋯本当に、どうしても⋯?」
「うん」
「⋯⋯⋯⋯分かった⋯⋯ごめんね、天ヶ瀬くん⋯」
「俺の方こそ、ごめん」

 目を潤ませた女子が俯いて肩を震わせながら資料庫から出て行く。
 こういう時、俺が恋人だからって飛び出せたら早く済むって分かってるけど、それは天ヶ瀬くんの秘密がバレる可能性があるから絶対に出来ない。
 天ヶ瀬くんだってああしてきっぱり言ってくれてるし気にする必要ないのに⋯まだ耳の奥でドクドクと脈打つ音が聞こえる。

「⋯はぁ⋯参ったな⋯」

 大きく息を吐き額を押さえた天ヶ瀬くんが壁に寄り掛かりながら小さく零す。その姿を見て耐えられなくなった俺は、棚の隙間から抜け出ると狭い場所を走って天ヶ瀬くんに抱き着いた。
 ふわりと香った甘い匂いにまたモヤモヤする。

「楪?」
「⋯⋯⋯」
「⋯こっち向け」
「⋯⋯⋯」
「楪」

 早く天ヶ瀬くんだけの匂いになればいいのにって頬を押し当ててたらそう言われたけど、自分がいつものように笑える気がしなくて応えずにいたら大きな手が頬を撫でながら顎まで降りて無理やり上げられた。
 パチッと目が合ったけど、見てはいられなくて視線を逸らすとふっと笑われる。

「わ、笑うほどひどい顔なんだ⋯」
「違う違う。めっちゃ妬いてくれてんなーって」
「焼く?」
「ヤキモチ」
「やきもち⋯」

 どこで何を焼いてるんだろって目を瞬いたら、軽く頬が抓まれて短く言われる。それを反芻して頭に入れた瞬間、自分のモヤモヤの正体が分かってハッとした。
 そっか、そうだったんだ。

「俺、ヤキモチ妬いてたんだ⋯」

 初めて誰かに嫉妬した。
 あんなに胸がザワザワして、気持ちが落ち着かなくなるのがヤキモチなんだ。
 でも、触らないでとか、近付かないでとか、そういうのは自分勝手でちょっと嫌かも⋯とは感じつつも、また同じような場面を見たら思っちゃうんだろうな。
 複雑な心境に目を伏せてたら、天ヶ瀬くんの腕が力強く俺を抱き締めてきた。

「お前はほんっとに⋯」
「?」
「いいよ、どんどん妬けよ。俺は嬉しいから」

 ヤキモチが嬉しいなんて変わってるって思ったけど、俺も天ヶ瀬くんにして貰えるなら嬉しいってなるかもしれない。
 本当にぎゅーって感じで抱き締められてるから、天ヶ瀬くんの匂いに包まれてさっきよりももっと心が穏やかになってきた。
 今更ながらに自分から抱き着いた事を思い出して恥ずかしくなるけど、広い背中に回した腕は解きたくなくて、照れ隠しに唇を引き結んだ俺は緩んでいた力を入れるともっとくっつけるくらいまで手を伸ばす。
 この腕の中は俺だけの居場所であって欲しい⋯って思うのは、我儘かな。
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