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騒動
学期ごとに実施される期末テストは、平日の一週間を丸々テスト期間として行われる。それから土日を挟んで、月曜日の登校時に順位表が貼り出されるんだけど、いつもは賑やかな廊下が今日は少しだけ異質に感じた。
「王子、また一位だよ」
「え、じゃあ崎森は二位か。頑張ってたのになぁ」
「⋯⋯それが、今回は三位だった」
「え!?」
ヒソヒソと交される会話の中心にいるのは呆然と順位表を見ている崎森くんで、あとから確認しにきた人たちはその周りを半円状に囲むようにして崎森くんと距離を取ってる。
同情するような視線が崎森くんに注がれて、自分の順位に納得のいかない崎森くんはワナワナと震え出した。両手の拳が白くなるくらい強く握り込まれ、その横顔は怒りに満ちている。
俺も自分のを確認しにきたんだけど、それを見て足を止めずにはいられなかった。
「だっさ。あんなに勉強してて順位落とすとか」
「やめてやれって。可哀想だろ」
誰かが嘲笑混じりに言って一緒にいる人が止めてるみたいだけど、その人も声が笑ってて凄く嫌な気持ちになる。
崎森くんにも聞こえているだろうし、なんでそんな事言えるんだろう。
ほんの僅かの沈黙のあと、誰かが「天ヶ瀬くん」と言った。途端に目を見開いた崎森くんが足音のする方を睨み付け、天ヶ瀬くんの姿を認めてゆらりと歩き出す。
「天ヶ瀬くん、今回も一位だよ」
「おめでとう!」
「ありがとう。でも、出来れば俺が確認するまでは内緒にしてくれないかな」
「ごめーん」
いつもと変わらない風景。
なのにそこに近付いて行く崎森くんは普通じゃなくて、俺は不安に思いながらも二人から少し離れた場所で止まる。
何かあったら、俺が二人の間に入ろう。
「⋯⋯天ヶ瀬⋯」
「崎森。テストお疲れ。今回凄く頑張ってたって聞いたよ」
「⋯⋯⋯白々しい⋯」
「え?」
天ヶ瀬くんと三人分くらいの距離を空けて止まった崎森くんが、感情のこもらない声で言ってゆっくりと指を差す。横顔、ゾッとするくらい表情がない。
周りの人たちはシーンとして事の成り行きを見てて、天ヶ瀬くんの後ろからついてきてた子たちは困惑して顔を見合わせてる。
「どうせ分かってたんだろ? 僕がどれだけ頑張ろうと自分は絶対一位だから心配ないって」
「何言って⋯」
「⋯いい気なものだよな。いつもそうやって、余裕面して僕を見下してるんだろ」
「そんな事しないよ。一体どうしたんだ?」
「あの、天ヶ瀬くん⋯⋯崎森くん、今回三位だったんだって」
今日に限って突っかかってくる崎森くんに眉を顰めてた天ヶ瀬くんだけど、一緒にいた女子にそう教えられて目を瞬いた。それから順位表へと視線をやって、少し迷ってから崎森くんに戻して口を開く。
「そっか⋯⋯順位落ちたのは辛いよね。分かるよ。俺だっていつも不安で⋯」
「ふざけるな!」
天ヶ瀬くんもたくさん勉強して首位をキープしてる人だから、それが無駄になるかもって考える事もあるって言ってた。だからそう言ったんだと思うけど、当然それを知らない崎森くんが突然大きな声を上げる。
まさか怒鳴るなんて思ってなかったから、俺の肩がビクッと跳ねた。
「辛い? 分かる? お前は一度だって落とした事ないじゃないか⋯⋯勉強も、スポーツも⋯涼しい顔して簡単にこなしていく⋯⋯何もかも恵まれたお前に、僕の悔しさが分かってたまるか!」
「崎森⋯」
「お前さえ⋯お前さえいなければ僕はこんな目に遭わずに済んだんだ! お前がいるから僕はいつまで経っても⋯っ」
「どうして人のせいにするの?」
驚いて心臓をバクバクさせながら聞いてたら、だんだんとヒートアップしていく崎森くんの言葉に俺の頭が冷静さを取り戻していく。
天ヶ瀬くん自身を否定するような事まで言われて、何も知らないくせにって悔しくなった俺は考えるよりも前に話に割り込んでた。天ヶ瀬くんがギョッとしたように俺を見る。
「楪⋯っ」
「天ヶ瀬くんは、崎森くんに何かしたの? 勉強の邪魔した? それとも、もっとひどい事でもされた?」
「な、何だよ⋯」
「されてないよね? だってクラス違うし、天ヶ瀬くんはいつも誰かのお願いを聞いたり手伝いをしたりしてる。それに、優しい天ヶ瀬くんが人を貶めるような事するはずないんだよ」
「楪、いいから⋯」
俺を巻き込みたくないからか、止めようとする天ヶ瀬くんにぶんぶんと首を振る。
王子様な天ヶ瀬くんもそうだけど、素の天ヶ瀬くんも本当に優しいからあんな風に言うなんて許せない。俺は天ヶ瀬くんがどれだけ頑張ってるか知ってる。余裕があるとか苦労してないだなんて決め付けないで欲しい。
「ダメだよ。天ヶ瀬くんは何も悪くないんだから。だって、天ヶ瀬くんもたくさん勉強してる。最初から完璧に何もかも出来る人なんていないよ。天ヶ瀬くんだって普通の人だもん。色んな事頑張ってるんだよ」
「⋯⋯⋯」
「テストの順位が自分の望んだ通りじゃなかったからって、天ヶ瀬くんのせいにしないで。崎森くんもたくさん頑張ってきたかもしれないけど、天ヶ瀬くんが努力してないなんて思わないで欲しい」
本人が見せてないから知らないのも当然だけど、だからって天ヶ瀬くんを侮辱していい理由にはならない。何より俺が嫌だった。
大好きな天ヶ瀬くんが傷付くのは見たくない。
真っ直ぐに視線を向けて言い切った俺に、最初は怪訝そうな顔をしていた崎森くんが眉を吊り上げるなり大きく頭を振り叫んだ。
「⋯っ⋯うるさい⋯うるさいうるさい⋯! お前も天ヶ瀬と一緒だ! 一緒になって僕を嘲笑ってる! ⋯っ⋯どいつもこいつも人を馬鹿にしやがって⋯っ⋯僕に説教をするな!!」
「!」
「楪!」
完全に俺を標的にした崎森くんが怒鳴りながらこっちへ向かってきた。腕が振り上げられて、殴られると後ずさった俺の足がもつれて視界が揺れる。
後頭部に走った痛みに目が眩み、天ヶ瀬くんの焦ったような声と女子の悲鳴を最後に俺の意識はプツッと途切れた。
「王子、また一位だよ」
「え、じゃあ崎森は二位か。頑張ってたのになぁ」
「⋯⋯それが、今回は三位だった」
「え!?」
ヒソヒソと交される会話の中心にいるのは呆然と順位表を見ている崎森くんで、あとから確認しにきた人たちはその周りを半円状に囲むようにして崎森くんと距離を取ってる。
同情するような視線が崎森くんに注がれて、自分の順位に納得のいかない崎森くんはワナワナと震え出した。両手の拳が白くなるくらい強く握り込まれ、その横顔は怒りに満ちている。
俺も自分のを確認しにきたんだけど、それを見て足を止めずにはいられなかった。
「だっさ。あんなに勉強してて順位落とすとか」
「やめてやれって。可哀想だろ」
誰かが嘲笑混じりに言って一緒にいる人が止めてるみたいだけど、その人も声が笑ってて凄く嫌な気持ちになる。
崎森くんにも聞こえているだろうし、なんでそんな事言えるんだろう。
ほんの僅かの沈黙のあと、誰かが「天ヶ瀬くん」と言った。途端に目を見開いた崎森くんが足音のする方を睨み付け、天ヶ瀬くんの姿を認めてゆらりと歩き出す。
「天ヶ瀬くん、今回も一位だよ」
「おめでとう!」
「ありがとう。でも、出来れば俺が確認するまでは内緒にしてくれないかな」
「ごめーん」
いつもと変わらない風景。
なのにそこに近付いて行く崎森くんは普通じゃなくて、俺は不安に思いながらも二人から少し離れた場所で止まる。
何かあったら、俺が二人の間に入ろう。
「⋯⋯天ヶ瀬⋯」
「崎森。テストお疲れ。今回凄く頑張ってたって聞いたよ」
「⋯⋯⋯白々しい⋯」
「え?」
天ヶ瀬くんと三人分くらいの距離を空けて止まった崎森くんが、感情のこもらない声で言ってゆっくりと指を差す。横顔、ゾッとするくらい表情がない。
周りの人たちはシーンとして事の成り行きを見てて、天ヶ瀬くんの後ろからついてきてた子たちは困惑して顔を見合わせてる。
「どうせ分かってたんだろ? 僕がどれだけ頑張ろうと自分は絶対一位だから心配ないって」
「何言って⋯」
「⋯いい気なものだよな。いつもそうやって、余裕面して僕を見下してるんだろ」
「そんな事しないよ。一体どうしたんだ?」
「あの、天ヶ瀬くん⋯⋯崎森くん、今回三位だったんだって」
今日に限って突っかかってくる崎森くんに眉を顰めてた天ヶ瀬くんだけど、一緒にいた女子にそう教えられて目を瞬いた。それから順位表へと視線をやって、少し迷ってから崎森くんに戻して口を開く。
「そっか⋯⋯順位落ちたのは辛いよね。分かるよ。俺だっていつも不安で⋯」
「ふざけるな!」
天ヶ瀬くんもたくさん勉強して首位をキープしてる人だから、それが無駄になるかもって考える事もあるって言ってた。だからそう言ったんだと思うけど、当然それを知らない崎森くんが突然大きな声を上げる。
まさか怒鳴るなんて思ってなかったから、俺の肩がビクッと跳ねた。
「辛い? 分かる? お前は一度だって落とした事ないじゃないか⋯⋯勉強も、スポーツも⋯涼しい顔して簡単にこなしていく⋯⋯何もかも恵まれたお前に、僕の悔しさが分かってたまるか!」
「崎森⋯」
「お前さえ⋯お前さえいなければ僕はこんな目に遭わずに済んだんだ! お前がいるから僕はいつまで経っても⋯っ」
「どうして人のせいにするの?」
驚いて心臓をバクバクさせながら聞いてたら、だんだんとヒートアップしていく崎森くんの言葉に俺の頭が冷静さを取り戻していく。
天ヶ瀬くん自身を否定するような事まで言われて、何も知らないくせにって悔しくなった俺は考えるよりも前に話に割り込んでた。天ヶ瀬くんがギョッとしたように俺を見る。
「楪⋯っ」
「天ヶ瀬くんは、崎森くんに何かしたの? 勉強の邪魔した? それとも、もっとひどい事でもされた?」
「な、何だよ⋯」
「されてないよね? だってクラス違うし、天ヶ瀬くんはいつも誰かのお願いを聞いたり手伝いをしたりしてる。それに、優しい天ヶ瀬くんが人を貶めるような事するはずないんだよ」
「楪、いいから⋯」
俺を巻き込みたくないからか、止めようとする天ヶ瀬くんにぶんぶんと首を振る。
王子様な天ヶ瀬くんもそうだけど、素の天ヶ瀬くんも本当に優しいからあんな風に言うなんて許せない。俺は天ヶ瀬くんがどれだけ頑張ってるか知ってる。余裕があるとか苦労してないだなんて決め付けないで欲しい。
「ダメだよ。天ヶ瀬くんは何も悪くないんだから。だって、天ヶ瀬くんもたくさん勉強してる。最初から完璧に何もかも出来る人なんていないよ。天ヶ瀬くんだって普通の人だもん。色んな事頑張ってるんだよ」
「⋯⋯⋯」
「テストの順位が自分の望んだ通りじゃなかったからって、天ヶ瀬くんのせいにしないで。崎森くんもたくさん頑張ってきたかもしれないけど、天ヶ瀬くんが努力してないなんて思わないで欲しい」
本人が見せてないから知らないのも当然だけど、だからって天ヶ瀬くんを侮辱していい理由にはならない。何より俺が嫌だった。
大好きな天ヶ瀬くんが傷付くのは見たくない。
真っ直ぐに視線を向けて言い切った俺に、最初は怪訝そうな顔をしていた崎森くんが眉を吊り上げるなり大きく頭を振り叫んだ。
「⋯っ⋯うるさい⋯うるさいうるさい⋯! お前も天ヶ瀬と一緒だ! 一緒になって僕を嘲笑ってる! ⋯っ⋯どいつもこいつも人を馬鹿にしやがって⋯っ⋯僕に説教をするな!!」
「!」
「楪!」
完全に俺を標的にした崎森くんが怒鳴りながらこっちへ向かってきた。腕が振り上げられて、殴られると後ずさった俺の足がもつれて視界が揺れる。
後頭部に走った痛みに目が眩み、天ヶ瀬くんの焦ったような声と女子の悲鳴を最後に俺の意識はプツッと途切れた。
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