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気付いてた二人
後頭部がズキズキしてる。
暖かい何かが額に触れ、風が吹いたのか髪が頬を撫でる擽ったさに目を開けた俺は目の前の景色に一瞬ここはどこかと困惑した。
パチパチと瞬きを繰り返してたら横から音がして、穂波さんの顔がぬっと現れる。
「⋯!?」
「良かった。楪くん、目が覚めたんだね」
「大丈夫?」
寝起きなのと驚いたのとで呆けてたらもう一人の声が聞こえ、視線を移せば相馬さんもいて心配そうに聞いてきた。
何で二人が?
どうやらここは保健室らしいんだけど、どうして俺はここで寝ていたのかと記憶を辿る事数秒、廊下であった事を思い出して慌てて起き上がるとズキッと痛みが走った。
「⋯っ」
「いきなり起き上がっちゃダメだよ」
「楪くん、脳震盪起こして気を失ったんだから」
「脳震盪⋯」
確か、怒った崎森くんが腕を振り上げて俺の方に向かってきて、焦って下がったせいで足がもつれて壁に頭をぶつけたんだっけ。殴られてはないみたいだけど、あのあとどうなったんだろう。
「崎森くんは⋯」
「楪くんが気絶したあと、先生が来て連れて行ってた」
「崎森くんの暴れっぷりにもびっくりしたけど、天ヶ瀬くん凄かったよね」
「え?」
天ヶ瀬くんが凄かったってどういう事だろうって相馬さんを見たら、どこか興奮したようにベッドに手をついて教えてくれた。
「楪くんが気絶したのを見た天ヶ瀬くんが、崎森くんの胸倉掴んで〝楪は関係ないだろ〟って怒鳴ったの」
「⋯⋯」
「普段の天ヶ瀬くんからは想像出来ないくらい怒ってたよね」
「ね。でも、天ヶ瀬くんが怒るのも無理ないよ。楪くんは、天ヶ瀬くんを庇っただけだもん」
事の顛末を話してくれてるけど、俺はそれどころじゃなかった。
怒鳴ったって、そんな事をしたら秘密がバレちゃうかもしれないのに⋯もしかして俺があそこで口を出したから?
どうしよう⋯俺のせいで天ヶ瀬くんが頑張って隠してた事がみんなに⋯。
「でもでも、そのあとはやっぱり王子様だったよね」
「楪くんの事、大事そうにお姫様抱っこしてたもんね」
「思い出すだけでご飯三杯はいける」
「あんたのせいで、それが分かるようになっちゃったよ⋯」
「⋯⋯」
二人はその時の事を思い出してるのかうっとりしてて、天ヶ瀬くんが怒ってたとかそういうのは深く考えてないらしく拍子抜けする。
もしかして、天ヶ瀬くんの素はまだバレてない?
それならそれで一安心なんだけど、迷惑はかけちゃったなと落ち込んでたら扉が開く音がして、閉じていたカーテンが引かれた。先生かなと顔を上げた瞬間勢いよく何かに包まれて目を瞬く。
⋯⋯この香りは。
「楪⋯っ⋯」
「天ヶ瀬、くん⋯」
「ほんっと⋯一瞬心臓止まったんだからな⋯」
「ご、ごめんなさい⋯」
「⋯⋯目、覚ましてくれて良かった⋯」
俺の肩を抱く手が震えてる。
迷惑どころか心配までかけちゃって、俺は申し訳なさで胸が痛くなった。どうしてこう、大切にしたいのに上手に出来ないんだろう。
せめてもう大丈夫だよって安心させてあげたくて背中に腕を回したら、横から「なるほど」って聞こえてきてハッとする。
そういえば、まだ穂波さんと相馬さんがいたんだった。
慌てて腕を離し、天ヶ瀬くんの肩を押し剥がして二人を見ると、どうしてかにこにこしてて戸惑う。
「えっと⋯これは⋯⋯」
「やっぱり、二人って付き合ってたんだね」
「え?」
やっぱりとはどういう事だろう。
きょとんとしているとベッドに腰を下ろした天ヶ瀬くんが、肩を押していた俺の手を握って指先に口付けてきた。
「何となくそんな気はしてたんだ。いつからだったか急に距離縮まってたし」
「特に天ヶ瀬くんなんて、明らかに楪くんを目で追ってたし」
「追ってたつもりは⋯」
「じゃあ無意識だったのかな? 何かお願いする時、楪くんがいれば名指しで声かけてたし」
それは俺も気付いてなかった。
確かに天ヶ瀬くんの秘密を知る前よりも手伝う事が増えたなーとは思ってたけど、最初は監視目的だったから特に意識してもなかったし。
天ヶ瀬くんを見るとどこか照れ臭そうにしてて、穂波さんと相馬さんがいるのに少しだけ素の部分が見えた。
「でも、気付いたの私たちくらいだよ」
「他の人は、王子とシンデレラがめちゃくちゃ仲良くなってるーって思ってるだけかな」
「あ、でも安心して。面倒な事になるの分かってるし、絶対誰にも言わないから」
「私たちは二人を遠くから見守らせて頂きます」
穂波さんも相馬さんもそう言ってにっこり笑うと、おもむろに椅子から立ち上がり「ゆっくり休みなね」と手を振って保健室から出て行った。それと入れ違いに保険医が戻ってきたらしく、俺が寝ていたベッドの方へと顔を覗かせる。
「目が覚めた? 顔色は悪くないけど、頭を打ってるから念の為病院に行った方がいいわね。親御さんはご在宅?」
「あ、父は今日から出張で⋯」
「そうなの? じゃあ先生が連れて行くから、帰り支度をしてくれる?」
「は、はい」
「俺が持ってきます」
保険医からの質問に、会社どころかこっちにすらいないと申し訳なく思いながら答えたら一瞬天ヶ瀬くんが反応したような気がした。でも表情とか声色は王子様のままで、ベッドから腰を上げると俺の頭をポンポンしてから保険医の横を抜けて出て行ったけど⋯うぅ、先生に生温かい目で見られてる。
先生から体調はどうか、違和感はないかなど質問をされてるうちに俺のリュックを持った天ヶ瀬くんが戻ってきて、俺は先生と一緒に病院へと向かった。
現状では特に問題はないけど、二十四時間は体調に気を配るよう言われて診察は終わり家へと送って貰う。たんこぶ出来てるみたいで触ると痛い。
そういえば、待ち時間の間に天ヶ瀬くんから『あとで行く』って簡潔なメッセージが来てた。放課後行けなくなったから、代わりに来てくれるのかな。
「⋯夕飯、作ったら食べてくれるかな」
俺の料理好きって言ってくれるし、もしかしたら一緒に食べられるかもって思った俺は着替えて冷蔵庫の中を確認する。買い物に行かなくても材料はありそうだし、天ヶ瀬くんはたくさん食べるから品数も多めに作ろう。
美味いよって笑う天ヶ瀬くんの笑顔を思い浮かべた俺は、少し早いけどさっそく調理に取り掛かった。
好きな人にご飯を作れるって幸せだな。
暖かい何かが額に触れ、風が吹いたのか髪が頬を撫でる擽ったさに目を開けた俺は目の前の景色に一瞬ここはどこかと困惑した。
パチパチと瞬きを繰り返してたら横から音がして、穂波さんの顔がぬっと現れる。
「⋯!?」
「良かった。楪くん、目が覚めたんだね」
「大丈夫?」
寝起きなのと驚いたのとで呆けてたらもう一人の声が聞こえ、視線を移せば相馬さんもいて心配そうに聞いてきた。
何で二人が?
どうやらここは保健室らしいんだけど、どうして俺はここで寝ていたのかと記憶を辿る事数秒、廊下であった事を思い出して慌てて起き上がるとズキッと痛みが走った。
「⋯っ」
「いきなり起き上がっちゃダメだよ」
「楪くん、脳震盪起こして気を失ったんだから」
「脳震盪⋯」
確か、怒った崎森くんが腕を振り上げて俺の方に向かってきて、焦って下がったせいで足がもつれて壁に頭をぶつけたんだっけ。殴られてはないみたいだけど、あのあとどうなったんだろう。
「崎森くんは⋯」
「楪くんが気絶したあと、先生が来て連れて行ってた」
「崎森くんの暴れっぷりにもびっくりしたけど、天ヶ瀬くん凄かったよね」
「え?」
天ヶ瀬くんが凄かったってどういう事だろうって相馬さんを見たら、どこか興奮したようにベッドに手をついて教えてくれた。
「楪くんが気絶したのを見た天ヶ瀬くんが、崎森くんの胸倉掴んで〝楪は関係ないだろ〟って怒鳴ったの」
「⋯⋯」
「普段の天ヶ瀬くんからは想像出来ないくらい怒ってたよね」
「ね。でも、天ヶ瀬くんが怒るのも無理ないよ。楪くんは、天ヶ瀬くんを庇っただけだもん」
事の顛末を話してくれてるけど、俺はそれどころじゃなかった。
怒鳴ったって、そんな事をしたら秘密がバレちゃうかもしれないのに⋯もしかして俺があそこで口を出したから?
どうしよう⋯俺のせいで天ヶ瀬くんが頑張って隠してた事がみんなに⋯。
「でもでも、そのあとはやっぱり王子様だったよね」
「楪くんの事、大事そうにお姫様抱っこしてたもんね」
「思い出すだけでご飯三杯はいける」
「あんたのせいで、それが分かるようになっちゃったよ⋯」
「⋯⋯」
二人はその時の事を思い出してるのかうっとりしてて、天ヶ瀬くんが怒ってたとかそういうのは深く考えてないらしく拍子抜けする。
もしかして、天ヶ瀬くんの素はまだバレてない?
それならそれで一安心なんだけど、迷惑はかけちゃったなと落ち込んでたら扉が開く音がして、閉じていたカーテンが引かれた。先生かなと顔を上げた瞬間勢いよく何かに包まれて目を瞬く。
⋯⋯この香りは。
「楪⋯っ⋯」
「天ヶ瀬、くん⋯」
「ほんっと⋯一瞬心臓止まったんだからな⋯」
「ご、ごめんなさい⋯」
「⋯⋯目、覚ましてくれて良かった⋯」
俺の肩を抱く手が震えてる。
迷惑どころか心配までかけちゃって、俺は申し訳なさで胸が痛くなった。どうしてこう、大切にしたいのに上手に出来ないんだろう。
せめてもう大丈夫だよって安心させてあげたくて背中に腕を回したら、横から「なるほど」って聞こえてきてハッとする。
そういえば、まだ穂波さんと相馬さんがいたんだった。
慌てて腕を離し、天ヶ瀬くんの肩を押し剥がして二人を見ると、どうしてかにこにこしてて戸惑う。
「えっと⋯これは⋯⋯」
「やっぱり、二人って付き合ってたんだね」
「え?」
やっぱりとはどういう事だろう。
きょとんとしているとベッドに腰を下ろした天ヶ瀬くんが、肩を押していた俺の手を握って指先に口付けてきた。
「何となくそんな気はしてたんだ。いつからだったか急に距離縮まってたし」
「特に天ヶ瀬くんなんて、明らかに楪くんを目で追ってたし」
「追ってたつもりは⋯」
「じゃあ無意識だったのかな? 何かお願いする時、楪くんがいれば名指しで声かけてたし」
それは俺も気付いてなかった。
確かに天ヶ瀬くんの秘密を知る前よりも手伝う事が増えたなーとは思ってたけど、最初は監視目的だったから特に意識してもなかったし。
天ヶ瀬くんを見るとどこか照れ臭そうにしてて、穂波さんと相馬さんがいるのに少しだけ素の部分が見えた。
「でも、気付いたの私たちくらいだよ」
「他の人は、王子とシンデレラがめちゃくちゃ仲良くなってるーって思ってるだけかな」
「あ、でも安心して。面倒な事になるの分かってるし、絶対誰にも言わないから」
「私たちは二人を遠くから見守らせて頂きます」
穂波さんも相馬さんもそう言ってにっこり笑うと、おもむろに椅子から立ち上がり「ゆっくり休みなね」と手を振って保健室から出て行った。それと入れ違いに保険医が戻ってきたらしく、俺が寝ていたベッドの方へと顔を覗かせる。
「目が覚めた? 顔色は悪くないけど、頭を打ってるから念の為病院に行った方がいいわね。親御さんはご在宅?」
「あ、父は今日から出張で⋯」
「そうなの? じゃあ先生が連れて行くから、帰り支度をしてくれる?」
「は、はい」
「俺が持ってきます」
保険医からの質問に、会社どころかこっちにすらいないと申し訳なく思いながら答えたら一瞬天ヶ瀬くんが反応したような気がした。でも表情とか声色は王子様のままで、ベッドから腰を上げると俺の頭をポンポンしてから保険医の横を抜けて出て行ったけど⋯うぅ、先生に生温かい目で見られてる。
先生から体調はどうか、違和感はないかなど質問をされてるうちに俺のリュックを持った天ヶ瀬くんが戻ってきて、俺は先生と一緒に病院へと向かった。
現状では特に問題はないけど、二十四時間は体調に気を配るよう言われて診察は終わり家へと送って貰う。たんこぶ出来てるみたいで触ると痛い。
そういえば、待ち時間の間に天ヶ瀬くんから『あとで行く』って簡潔なメッセージが来てた。放課後行けなくなったから、代わりに来てくれるのかな。
「⋯夕飯、作ったら食べてくれるかな」
俺の料理好きって言ってくれるし、もしかしたら一緒に食べられるかもって思った俺は着替えて冷蔵庫の中を確認する。買い物に行かなくても材料はありそうだし、天ヶ瀬くんはたくさん食べるから品数も多めに作ろう。
美味いよって笑う天ヶ瀬くんの笑顔を思い浮かべた俺は、少し早いけどさっそく調理に取り掛かった。
好きな人にご飯を作れるって幸せだな。
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