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溢れる
「⋯作りすぎちゃった⋯」
あれから無心になって料理をしてたんだけど、気付いた時にはダイニングテーブルの上にはおおよそ二人分とは言い難い量の食事が並んでた。
こんなに作る予定じゃなかったのに⋯。
まぁ残れば明日の俺のご飯になるだけだし、問題はないと全部にラップをし掃除機をかけて干していた洗濯物を取り込んで片付けてたらインターホンが鳴った。
途中だったけど急いで玄関に行き扉を開けたら、眉を顰めた天ヶ瀬くんが門のところに立ってて息を吐く。
「お前な、モニター確認してから開けろ」
「あ、天ヶ瀬くんだと思ってたから⋯」
「だとしても、だ。変な奴だったらどうすんだよ」
サンダルを履いて門まで迎えに来た俺の額を人差し指で軽くつつき、天ヶ瀬くんがポーチを抜けて玄関まで行く。先に上がってスリッパを出したら「お邪魔します」って靴を脱いだけど、良く考えたら天ヶ瀬くんがうちに来るのって初めてだよね。
何だかドキドキしてきた。
「何か、いい匂いすんだけど」
「あ、夕飯作ってて⋯」
「え、食いたい」
「う、うん⋯食べてくれるかなって思って⋯」
入るなりすぐに気付いて匂いを嗅ぐ天ヶ瀬くんに気恥しさを感じつつ答えたら、ふっと笑って俺の肩を抱くと額に口付けてきた。
嬉しそうな様子に俺もホッとする。
「そうだ、崎森の事聞きたいか?」
「崎森くん? あのあと先生に連れて行かれたって穂波さんが教えてくれたけど⋯」
「そう、そのあと」
本当は、俺は崎森くんを刺激しただけだから聞かない方がいいのかもしれないけど、あそこまで騒動にしちゃったから知っておきたい気持ちはある。
だから頷いて、リビングに案内してソファに座って貰い、いつもは天ヶ瀬くんがしてくれるお茶とお茶請けを用意してテーブルに運んだら、「ありがとな」って言って頭を撫でられた。
「そういや病院は?」
「大丈夫だったよ。一応二十四時間は気にしてねって言われたくらい」
「そっか。あんな無茶、もうするなよ」
「無茶というか⋯天ヶ瀬くんだって頑張ってるのにって思ったら我慢出来なくて⋯」
「言いたい奴には言わせてやりゃいいんだよ。お前が怪我する方が俺は無理」
頭から頬に手が滑ってきて労わるように擽られ首を竦めてたら、いきなり腕が引かれて膝の上に向かい合う形で座らされて目を瞬いた。
それなりにスキンシップには慣れてきたけど、いきなりはまだ緊張する。
「楪が気を失ったあと、周りの奴らがひどいだの最低だの騒ぎ出したんだよ。それを聞きつけた先生が来て崎森を連れてったからひとまずは収まったけど、教室戻ってもしばらく落ち着きはなかったな」
「大変だったんだね」
「同情出来る部分はあれど、あれはやり過ぎだ」
目を伏せた天ヶ瀬くんが俺の手を握って親指で甲を撫でながら話してくれる。
あそこにはほとんどの生徒がいたから、学校中その話題で持ち切りだっただろうな。ただでさえ天ヶ瀬くんと崎森くんは一位を競い合ってるって噂されてたし⋯あんまり悪い言い方をされてないといいけど。
天ヶ瀬くんは息を吐き、ソファに凭れかかって眉を顰めた。
「崎森の奴、母親からすげぇ重圧受けてたんだと」
「え?」
「何でも一位じゃねぇと駄目で、少しでも欠点があれば怒鳴られてなじられるらしい。だからずっと一位にいる俺を敵視して、今回こそはって死に物狂いで勉強してたのに順位が落ちたからもう耐え切れなくなったって。崎森本人が話してくれた」
「そうだったんだ⋯」
知らなかったとはいえ、追い詰めるような事言っちゃったかもしれない。でも、だからって天ヶ瀬くんにひどい事を言うのは違うって思うんだ。
「頑張っても一位以外認めて貰えないなんて⋯そんなの耐えられなくなって当然だよ」
「教育熱心といえばそれまでだけど、あの状態にまで追い込まれてたらもう虐待って言われてもおかしくねぇよ。だから周りとも話して、母親が変わんねぇなら児相にも相談するって」
もし崎森くんが、ただお母さんに頑張ったねって褒めて欲しくて努力してたならこんなに悲しい事はない。
でもお母さんも崎森くんの為を思ってたなら⋯どこかで狂っちゃったのかな。
「お母さんって、優しいだけじゃないんだね」
「まぁ、うちの母親みたいなのもいれば親父みたいな母親もいるだろうし、それこそ崎森のおふくろみたいなのもいるだろ。⋯もしかして、母親の事覚えてねぇのか?」
「お母さん、俺が赤ん坊の頃に事故で亡くなってて。写真でしか知らないんだ」
「そうなのか」
幼い頃は自分と同じ年頃の子が母親と手を繋いで歩いているのを見て羨ましいと思った事はあるけど、お父さんがその分愛情を注いでくれたからわりと平気だった。ただ出張が増えた今の方が寂しさはあるけど。
リビングの棚にはお母さんの写真が飾ってあって、視線を向けたら天ヶ瀬くんもそっちを向いて微笑む。
「楪そっくりだな」
「え、ほんと? 嬉しい、ありがとう」
出産時の映像とかでお母さんの声は聞いた事あるけど、思い出はないからお母さんの存在ってぼんやりとした感覚だった。でも似てるって言われると、俺の中にもちゃんとお母さんがいるんだって思えて嬉しくなる。
しかもお父さんじゃなくて、天ヶ瀬くんが言ってくれたからより嬉しい。
そっくりなんだって自分で自分の頬を抓んでたら、天ヶ瀬くんの手が俺の手ごと頬を包み額を合わせてきた。
「?」
「もうちょいさ、我儘言えよ」
「え?」
「親父さんが出張の時とか、一人って寂しいだろ? そういう時は俺を呼ぶなり、うちに来るなりすればいい」
「天ヶ瀬くん⋯」
「我慢とか、しなくていいから」
もしかして今日来てくれたのって、俺が保険医にお父さんが出張に行ってるって話をしたから? あの時の反応ってそういう事だったの?
(何でそんなに優しいの⋯)
お父さんが出張に行くなんてもう当たり前になってたし、寂しいのだって考えないようにすればいいって思ってた俺よりも気にかけてくれた天ヶ瀬くんの優しさに胸の奥が暖かくなり、俺は包まれていた手を抜くとそのまま目の前の首へと腕を回した。
好きって気持ちが溢れて止まらない。
「楪?」
不思議そうな天ヶ瀬くんの声に顔を上げ、自分とは違うシャープな頬に触れた俺は、目を瞬く端正な顔へと自分の顔を近付けそっと唇を触れ合わせた。
俺の気持ち、たくさん伝わればいいな。
あれから無心になって料理をしてたんだけど、気付いた時にはダイニングテーブルの上にはおおよそ二人分とは言い難い量の食事が並んでた。
こんなに作る予定じゃなかったのに⋯。
まぁ残れば明日の俺のご飯になるだけだし、問題はないと全部にラップをし掃除機をかけて干していた洗濯物を取り込んで片付けてたらインターホンが鳴った。
途中だったけど急いで玄関に行き扉を開けたら、眉を顰めた天ヶ瀬くんが門のところに立ってて息を吐く。
「お前な、モニター確認してから開けろ」
「あ、天ヶ瀬くんだと思ってたから⋯」
「だとしても、だ。変な奴だったらどうすんだよ」
サンダルを履いて門まで迎えに来た俺の額を人差し指で軽くつつき、天ヶ瀬くんがポーチを抜けて玄関まで行く。先に上がってスリッパを出したら「お邪魔します」って靴を脱いだけど、良く考えたら天ヶ瀬くんがうちに来るのって初めてだよね。
何だかドキドキしてきた。
「何か、いい匂いすんだけど」
「あ、夕飯作ってて⋯」
「え、食いたい」
「う、うん⋯食べてくれるかなって思って⋯」
入るなりすぐに気付いて匂いを嗅ぐ天ヶ瀬くんに気恥しさを感じつつ答えたら、ふっと笑って俺の肩を抱くと額に口付けてきた。
嬉しそうな様子に俺もホッとする。
「そうだ、崎森の事聞きたいか?」
「崎森くん? あのあと先生に連れて行かれたって穂波さんが教えてくれたけど⋯」
「そう、そのあと」
本当は、俺は崎森くんを刺激しただけだから聞かない方がいいのかもしれないけど、あそこまで騒動にしちゃったから知っておきたい気持ちはある。
だから頷いて、リビングに案内してソファに座って貰い、いつもは天ヶ瀬くんがしてくれるお茶とお茶請けを用意してテーブルに運んだら、「ありがとな」って言って頭を撫でられた。
「そういや病院は?」
「大丈夫だったよ。一応二十四時間は気にしてねって言われたくらい」
「そっか。あんな無茶、もうするなよ」
「無茶というか⋯天ヶ瀬くんだって頑張ってるのにって思ったら我慢出来なくて⋯」
「言いたい奴には言わせてやりゃいいんだよ。お前が怪我する方が俺は無理」
頭から頬に手が滑ってきて労わるように擽られ首を竦めてたら、いきなり腕が引かれて膝の上に向かい合う形で座らされて目を瞬いた。
それなりにスキンシップには慣れてきたけど、いきなりはまだ緊張する。
「楪が気を失ったあと、周りの奴らがひどいだの最低だの騒ぎ出したんだよ。それを聞きつけた先生が来て崎森を連れてったからひとまずは収まったけど、教室戻ってもしばらく落ち着きはなかったな」
「大変だったんだね」
「同情出来る部分はあれど、あれはやり過ぎだ」
目を伏せた天ヶ瀬くんが俺の手を握って親指で甲を撫でながら話してくれる。
あそこにはほとんどの生徒がいたから、学校中その話題で持ち切りだっただろうな。ただでさえ天ヶ瀬くんと崎森くんは一位を競い合ってるって噂されてたし⋯あんまり悪い言い方をされてないといいけど。
天ヶ瀬くんは息を吐き、ソファに凭れかかって眉を顰めた。
「崎森の奴、母親からすげぇ重圧受けてたんだと」
「え?」
「何でも一位じゃねぇと駄目で、少しでも欠点があれば怒鳴られてなじられるらしい。だからずっと一位にいる俺を敵視して、今回こそはって死に物狂いで勉強してたのに順位が落ちたからもう耐え切れなくなったって。崎森本人が話してくれた」
「そうだったんだ⋯」
知らなかったとはいえ、追い詰めるような事言っちゃったかもしれない。でも、だからって天ヶ瀬くんにひどい事を言うのは違うって思うんだ。
「頑張っても一位以外認めて貰えないなんて⋯そんなの耐えられなくなって当然だよ」
「教育熱心といえばそれまでだけど、あの状態にまで追い込まれてたらもう虐待って言われてもおかしくねぇよ。だから周りとも話して、母親が変わんねぇなら児相にも相談するって」
もし崎森くんが、ただお母さんに頑張ったねって褒めて欲しくて努力してたならこんなに悲しい事はない。
でもお母さんも崎森くんの為を思ってたなら⋯どこかで狂っちゃったのかな。
「お母さんって、優しいだけじゃないんだね」
「まぁ、うちの母親みたいなのもいれば親父みたいな母親もいるだろうし、それこそ崎森のおふくろみたいなのもいるだろ。⋯もしかして、母親の事覚えてねぇのか?」
「お母さん、俺が赤ん坊の頃に事故で亡くなってて。写真でしか知らないんだ」
「そうなのか」
幼い頃は自分と同じ年頃の子が母親と手を繋いで歩いているのを見て羨ましいと思った事はあるけど、お父さんがその分愛情を注いでくれたからわりと平気だった。ただ出張が増えた今の方が寂しさはあるけど。
リビングの棚にはお母さんの写真が飾ってあって、視線を向けたら天ヶ瀬くんもそっちを向いて微笑む。
「楪そっくりだな」
「え、ほんと? 嬉しい、ありがとう」
出産時の映像とかでお母さんの声は聞いた事あるけど、思い出はないからお母さんの存在ってぼんやりとした感覚だった。でも似てるって言われると、俺の中にもちゃんとお母さんがいるんだって思えて嬉しくなる。
しかもお父さんじゃなくて、天ヶ瀬くんが言ってくれたからより嬉しい。
そっくりなんだって自分で自分の頬を抓んでたら、天ヶ瀬くんの手が俺の手ごと頬を包み額を合わせてきた。
「?」
「もうちょいさ、我儘言えよ」
「え?」
「親父さんが出張の時とか、一人って寂しいだろ? そういう時は俺を呼ぶなり、うちに来るなりすればいい」
「天ヶ瀬くん⋯」
「我慢とか、しなくていいから」
もしかして今日来てくれたのって、俺が保険医にお父さんが出張に行ってるって話をしたから? あの時の反応ってそういう事だったの?
(何でそんなに優しいの⋯)
お父さんが出張に行くなんてもう当たり前になってたし、寂しいのだって考えないようにすればいいって思ってた俺よりも気にかけてくれた天ヶ瀬くんの優しさに胸の奥が暖かくなり、俺は包まれていた手を抜くとそのまま目の前の首へと腕を回した。
好きって気持ちが溢れて止まらない。
「楪?」
不思議そうな天ヶ瀬くんの声に顔を上げ、自分とは違うシャープな頬に触れた俺は、目を瞬く端正な顔へと自分の顔を近付けそっと唇を触れ合わせた。
俺の気持ち、たくさん伝わればいいな。
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