モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

文字の大きさ
30 / 79

溢れる

「⋯作りすぎちゃった⋯」

 あれから無心になって料理をしてたんだけど、気付いた時にはダイニングテーブルの上にはおおよそ二人分とは言い難い量の食事が並んでた。
 こんなに作る予定じゃなかったのに⋯。
 まぁ残れば明日の俺のご飯になるだけだし、問題はないと全部にラップをし掃除機をかけて干していた洗濯物を取り込んで片付けてたらインターホンが鳴った。
 途中だったけど急いで玄関に行き扉を開けたら、眉を顰めた天ヶ瀬くんが門のところに立ってて息を吐く。

「お前な、モニター確認してから開けろ」
「あ、天ヶ瀬くんだと思ってたから⋯」
「だとしても、だ。変な奴だったらどうすんだよ」

 サンダルを履いて門まで迎えに来た俺の額を人差し指で軽くつつき、天ヶ瀬くんがポーチを抜けて玄関まで行く。先に上がってスリッパを出したら「お邪魔します」って靴を脱いだけど、良く考えたら天ヶ瀬くんがうちに来るのって初めてだよね。
 何だかドキドキしてきた。

「何か、いい匂いすんだけど」
「あ、夕飯作ってて⋯」
「え、食いたい」
「う、うん⋯食べてくれるかなって思って⋯」

 入るなりすぐに気付いて匂いを嗅ぐ天ヶ瀬くんに気恥しさを感じつつ答えたら、ふっと笑って俺の肩を抱くと額に口付けてきた。
 嬉しそうな様子に俺もホッとする。

「そうだ、崎森の事聞きたいか?」
「崎森くん? あのあと先生に連れて行かれたって穂波さんが教えてくれたけど⋯」
「そう、そのあと」

 本当は、俺は崎森くんを刺激しただけだから聞かない方がいいのかもしれないけど、あそこまで騒動にしちゃったから知っておきたい気持ちはある。
 だから頷いて、リビングに案内してソファに座って貰い、いつもは天ヶ瀬くんがしてくれるお茶とお茶請けを用意してテーブルに運んだら、「ありがとな」って言って頭を撫でられた。

「そういや病院は?」
「大丈夫だったよ。一応二十四時間は気にしてねって言われたくらい」
「そっか。あんな無茶、もうするなよ」
「無茶というか⋯天ヶ瀬くんだって頑張ってるのにって思ったら我慢出来なくて⋯」
「言いたい奴には言わせてやりゃいいんだよ。お前が怪我する方が俺は無理」

 頭から頬に手が滑ってきて労わるように擽られ首を竦めてたら、いきなり腕が引かれて膝の上に向かい合う形で座らされて目を瞬いた。
 それなりにスキンシップには慣れてきたけど、いきなりはまだ緊張する。

「楪が気を失ったあと、周りの奴らがひどいだの最低だの騒ぎ出したんだよ。それを聞きつけた先生が来て崎森を連れてったからひとまずは収まったけど、教室戻ってもしばらく落ち着きはなかったな」
「大変だったんだね」
「同情出来る部分はあれど、あれはやり過ぎだ」

 目を伏せた天ヶ瀬くんが俺の手を握って親指で甲を撫でながら話してくれる。
 あそこにはほとんどの生徒がいたから、学校中その話題で持ち切りだっただろうな。ただでさえ天ヶ瀬くんと崎森くんは一位を競い合ってるって噂されてたし⋯あんまり悪い言い方をされてないといいけど。
 天ヶ瀬くんは息を吐き、ソファに凭れかかって眉を顰めた。

「崎森の奴、母親からすげぇ重圧受けてたんだと」
「え?」
「何でも一位じゃねぇと駄目で、少しでも欠点があれば怒鳴られてなじられるらしい。だからずっと一位にいる俺を敵視して、今回こそはって死に物狂いで勉強してたのに順位が落ちたからもう耐え切れなくなったって。崎森本人が話してくれた」
「そうだったんだ⋯」

 知らなかったとはいえ、追い詰めるような事言っちゃったかもしれない。でも、だからって天ヶ瀬くんにひどい事を言うのは違うって思うんだ。

「頑張っても一位以外認めて貰えないなんて⋯そんなの耐えられなくなって当然だよ」
「教育熱心といえばそれまでだけど、あの状態にまで追い込まれてたらもう虐待って言われてもおかしくねぇよ。だから周りとも話して、母親が変わんねぇなら児相にも相談するって」

 もし崎森くんが、ただお母さんに頑張ったねって褒めて欲しくて努力してたならこんなに悲しい事はない。
 でもお母さんも崎森くんの為を思ってたなら⋯どこかで狂っちゃったのかな。

「お母さんって、優しいだけじゃないんだね」
「まぁ、うちの母親みたいなのもいれば親父みたいな母親もいるだろうし、それこそ崎森のおふくろみたいなのもいるだろ。⋯もしかして、母親の事覚えてねぇのか?」
「お母さん、俺が赤ん坊の頃に事故で亡くなってて。写真でしか知らないんだ」
「そうなのか」

 幼い頃は自分と同じ年頃の子が母親と手を繋いで歩いているのを見て羨ましいと思った事はあるけど、お父さんがその分愛情を注いでくれたからわりと平気だった。ただ出張が増えた今の方が寂しさはあるけど。
 リビングの棚にはお母さんの写真が飾ってあって、視線を向けたら天ヶ瀬くんもそっちを向いて微笑む。

「楪そっくりだな」
「え、ほんと? 嬉しい、ありがとう」

 出産時の映像とかでお母さんの声は聞いた事あるけど、思い出はないからお母さんの存在ってぼんやりとした感覚だった。でも似てるって言われると、俺の中にもちゃんとお母さんがいるんだって思えて嬉しくなる。
 しかもお父さんじゃなくて、天ヶ瀬くんが言ってくれたからより嬉しい。
 そっくりなんだって自分で自分の頬を抓んでたら、天ヶ瀬くんの手が俺の手ごと頬を包み額を合わせてきた。

「?」
「もうちょいさ、我儘言えよ」
「え?」
「親父さんが出張の時とか、一人って寂しいだろ? そういう時は俺を呼ぶなり、うちに来るなりすればいい」
「天ヶ瀬くん⋯」
「我慢とか、しなくていいから」

 もしかして今日来てくれたのって、俺が保険医にお父さんが出張に行ってるって話をしたから? あの時の反応ってそういう事だったの?

(何でそんなに優しいの⋯)

 お父さんが出張に行くなんてもう当たり前になってたし、寂しいのだって考えないようにすればいいって思ってた俺よりも気にかけてくれた天ヶ瀬くんの優しさに胸の奥が暖かくなり、俺は包まれていた手を抜くとそのまま目の前の首へと腕を回した。
 好きって気持ちが溢れて止まらない。

「楪?」

 不思議そうな天ヶ瀬くんの声に顔を上げ、自分とは違うシャープな頬に触れた俺は、目を瞬く端正な顔へと自分の顔を近付けそっと唇を触れ合わせた。
 俺の気持ち、たくさん伝わればいいな。
感想 15

あなたにおすすめの小説

また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件

月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。 翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。 「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」 逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士 貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。