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新しい一年
クリスマスを天ヶ瀬くんの家で過ごして一週間、俺は天ヶ瀬くん経由でお母さんに呼ばれてまたお邪魔しに来ていた。今度は事前に泊まりでねって言われてたから、着替えや洗面用具をバッチリ準備して手土産も持って来たんだけど⋯どうしては俺はここにいるのでしょうか。
「かなくん、いっぱい食べてね」
「そうだぞ、遠慮なんてしなくていいからな」
「これ、お前好きそうじゃね?」
「う、うん」
年末の賑やかなファミレス。
天ヶ瀬くんの家に着くなりお昼を食べに行こうって言われて、お父さんの運転する車で繁華街まで来た俺たちはお洒落な外観のお店に入ってメニューを見ていた。
向かいにお父さんとお母さん、隣には天ヶ瀬くんがいて料理の写真を指差してるんだけど、家族の輪の中に当たり前のように入れて貰えてる現状にはずっと戸惑ってる。
「楪、ピザ一緒に食わねぇ?」
「うん、いいよ」
「どれがいい?」
「天ヶ瀬くんの好きなの選んで」
「んー⋯⋯じゃあこれにしよ」
二つあるメニューの一つを天ヶ瀬くんと見ていたらそう聞かれ、特に苦手な物もないから任せればチーズとベーコンのピザを選んだ。
俺はなかなか決まらなくて、ドリアかパスタで悩んでる。
「前から思ってたんだが⋯お前たちはなんでまだ苗字で呼び合ってんだ?」
とっくに決め終わったお父さんが、不意に頬杖をつきながらそう言って眉を顰めた。
自分でも気にしてなかった事を言われて顔を見合わせたけど、天ヶ瀬くんも同じ気持ちだったのか困惑したようにお父さんに視線を移す。
「え、別に深い意味はねぇけど⋯」
「呼び慣れてるっていうのもあるかも⋯です」
「恋人なら名前で呼びたくね?」
「!?」
「あれ、まだ付き合ってねぇの?」
まさかそこを突っ込まれるとは思ってなくて驚いた顔をする俺に、お父さんはおかしいなって目を瞬く。その反応の方が俺には「あれ?」なんだけど⋯。
チラリと天ヶ瀬くんを見ると、俺よりは落ち着いた様子だけど難しい顔をしてた。
「や⋯付き合ってはいる」
「だろ? 櫂はカナの事、名前で呼びたくねぇ? 俺も直美も普通に呼んでるのに」
「あんたらが早すぎんだよ。っつか、カナってなんだ」
「〝奏斗〟だから」
そういえば、お父さんもお母さんも自己紹介したあとにはもう〝かな〟呼びになってたっけ。凄く自然だったから気にもしてなかった。
お母さんが店員さんに注文し始めたから慌ててカルボナーラをお願いし、天ヶ瀬くんとお父さんを交互に見る。何となく険悪なムードになってるのはどうしてだろう。
「おふくろみたいに〝くん〟付けんならともかく、息子の恋人を愛称とはいえ呼び捨てにするのはどうかと思うんだけど?」
「お前がモタモタしてんのが悪いんだろ? 呼びてぇならその時に呼びゃ良かったんだよ」
「順序っつーもんがあんだよ」
「名前呼ぶのに順序もクソもあるか」
見た目は童話に出てくるような王子様然とした二人が、不良もびっくりなくらい乱暴な口調で言い合ってるからさっきよりもこっちを見る人が増えてる。
大きい声を出してる訳じゃないんだけど、やっぱり目立つから入店して途端に注目はされてたし。
「ほーら、こんなところで喧嘩しないの。かなくんも困ってるでしょ。ウィルくんも、櫂くんのペースで呼ばせてあげて」
「意気地なし」
「クソ親父」
お母さんがこんな風にのんびりしてるって事は、もしかしたら日常茶飯事なのかもしれない。これが二人なりのスキンシップとか。
仲は悪くないと思うし、言い方がキツいだけで普通の会話なんだろうな。
順番に運ばれてくる料理に手を合わせて食べながら、俺は名前について考える。
天ヶ瀬くんは、呼ばれたかったりするんだろうか。
テレビに表示されたカウントダウンは残り十五分。
あと少しで今年が終わり、新しい年が始まろうとしている中、俺はソファに寄り掛かるようにして座る天ヶ瀬くんの立てた膝の間に座って音楽番組を見ていた。
ちなみにお父さんとお母さんは、外で新年を迎えたあと初詣にも行くと言って年越し蕎麦を食べてすぐ出掛けたから、家の中には俺と天ヶ瀬くんの二人だけだ。
「あ、【soar】だ」
「ファン?」
「そういう訳じゃないけど、三人ともカッコいいなって」
「ふーん」
「?」
三人組のアイドルグループがテレビに映った瞬間、観客席から歓声か悲鳴か分からない声が上がる。
テレビはもちろん、街中のポスターや広告で絶対に名前を見るくらい有名な人たちだし、歌もダンスも上手でカッコいいから見掛けると目で追うようになってた。
あれだ。ゲームやアニメで、知ってる曲とかが聞こえてきたら思わず反応するのと同じ感じかな。
激しめの曲とダンスを凄いなって見入ってたら、俺の返事を聞いた天ヶ瀬くんが拗ねたように零してお腹に腕を回してきた。
「天ヶ瀬くん?」
「⋯⋯俺と、どっちがカッコいい?」
その問い掛けに俺は思わず目を瞬いた。
もしかして、俺があの人たちをカッコいいって言ったから拗ねてるの?
その様子が何だか可愛く見えて、クスリと笑った俺は身体を横向きにするとムッとしてる天ヶ瀬くんの頬に触れて首を傾げた。
「天ヶ瀬くんへのカッコいいと、アイドルへのカッコいいって違うよ。アイドルには憧れみたいな気持ちしかないけど、俺にとってドキドキするくらいカッコいいのは天ヶ瀬くんだけ」
「⋯じゃあ、他の奴をカッコいいとか言うな」
「うん、分かった。もう言わない」
こういうのもヤキモチって言うのかな。でも、確かに天ヶ瀬くんがアイドルの女の子を可愛いって言ってたら嫌かも。
約束と言って小指を絡ませると機嫌を直して俺を抱き締めてくれる。
「あ、年明ける」
ふとテレビを見た天ヶ瀬くんがそう呟いたから視線を向けると、アイドルたちが勢揃いでカウントダウンをしていた。
あと三十秒で新年になる。
『五、四、三、二、一⋯ハッピーニューイヤー!』
出演者全員が年明けを祝う言葉を口にした瞬間、バッとカラーテープや紙吹雪が舞い画面が一気に華やかになった。
年を越した実感はないもののその賑やかさをじっと眺めてたら、肩がぐっと抱かれて天ヶ瀬くんの顔が近くなる。
「あけおめ。今年もよろしくな、楪」
「あけましておめでとう。俺の方こそ、よろしくお願いします」
笑顔の天ヶ瀬くんに俺も笑って言葉を返すと、更に顔が寄って唇が重なった。手をどこに持っていくか悩んで、そっと背中に回すと口付けが深くなる。
大好きな人と初めて過ごす年越しは、新年早々幸せな気持ちに包まれたのだった。
「かなくん、いっぱい食べてね」
「そうだぞ、遠慮なんてしなくていいからな」
「これ、お前好きそうじゃね?」
「う、うん」
年末の賑やかなファミレス。
天ヶ瀬くんの家に着くなりお昼を食べに行こうって言われて、お父さんの運転する車で繁華街まで来た俺たちはお洒落な外観のお店に入ってメニューを見ていた。
向かいにお父さんとお母さん、隣には天ヶ瀬くんがいて料理の写真を指差してるんだけど、家族の輪の中に当たり前のように入れて貰えてる現状にはずっと戸惑ってる。
「楪、ピザ一緒に食わねぇ?」
「うん、いいよ」
「どれがいい?」
「天ヶ瀬くんの好きなの選んで」
「んー⋯⋯じゃあこれにしよ」
二つあるメニューの一つを天ヶ瀬くんと見ていたらそう聞かれ、特に苦手な物もないから任せればチーズとベーコンのピザを選んだ。
俺はなかなか決まらなくて、ドリアかパスタで悩んでる。
「前から思ってたんだが⋯お前たちはなんでまだ苗字で呼び合ってんだ?」
とっくに決め終わったお父さんが、不意に頬杖をつきながらそう言って眉を顰めた。
自分でも気にしてなかった事を言われて顔を見合わせたけど、天ヶ瀬くんも同じ気持ちだったのか困惑したようにお父さんに視線を移す。
「え、別に深い意味はねぇけど⋯」
「呼び慣れてるっていうのもあるかも⋯です」
「恋人なら名前で呼びたくね?」
「!?」
「あれ、まだ付き合ってねぇの?」
まさかそこを突っ込まれるとは思ってなくて驚いた顔をする俺に、お父さんはおかしいなって目を瞬く。その反応の方が俺には「あれ?」なんだけど⋯。
チラリと天ヶ瀬くんを見ると、俺よりは落ち着いた様子だけど難しい顔をしてた。
「や⋯付き合ってはいる」
「だろ? 櫂はカナの事、名前で呼びたくねぇ? 俺も直美も普通に呼んでるのに」
「あんたらが早すぎんだよ。っつか、カナってなんだ」
「〝奏斗〟だから」
そういえば、お父さんもお母さんも自己紹介したあとにはもう〝かな〟呼びになってたっけ。凄く自然だったから気にもしてなかった。
お母さんが店員さんに注文し始めたから慌ててカルボナーラをお願いし、天ヶ瀬くんとお父さんを交互に見る。何となく険悪なムードになってるのはどうしてだろう。
「おふくろみたいに〝くん〟付けんならともかく、息子の恋人を愛称とはいえ呼び捨てにするのはどうかと思うんだけど?」
「お前がモタモタしてんのが悪いんだろ? 呼びてぇならその時に呼びゃ良かったんだよ」
「順序っつーもんがあんだよ」
「名前呼ぶのに順序もクソもあるか」
見た目は童話に出てくるような王子様然とした二人が、不良もびっくりなくらい乱暴な口調で言い合ってるからさっきよりもこっちを見る人が増えてる。
大きい声を出してる訳じゃないんだけど、やっぱり目立つから入店して途端に注目はされてたし。
「ほーら、こんなところで喧嘩しないの。かなくんも困ってるでしょ。ウィルくんも、櫂くんのペースで呼ばせてあげて」
「意気地なし」
「クソ親父」
お母さんがこんな風にのんびりしてるって事は、もしかしたら日常茶飯事なのかもしれない。これが二人なりのスキンシップとか。
仲は悪くないと思うし、言い方がキツいだけで普通の会話なんだろうな。
順番に運ばれてくる料理に手を合わせて食べながら、俺は名前について考える。
天ヶ瀬くんは、呼ばれたかったりするんだろうか。
テレビに表示されたカウントダウンは残り十五分。
あと少しで今年が終わり、新しい年が始まろうとしている中、俺はソファに寄り掛かるようにして座る天ヶ瀬くんの立てた膝の間に座って音楽番組を見ていた。
ちなみにお父さんとお母さんは、外で新年を迎えたあと初詣にも行くと言って年越し蕎麦を食べてすぐ出掛けたから、家の中には俺と天ヶ瀬くんの二人だけだ。
「あ、【soar】だ」
「ファン?」
「そういう訳じゃないけど、三人ともカッコいいなって」
「ふーん」
「?」
三人組のアイドルグループがテレビに映った瞬間、観客席から歓声か悲鳴か分からない声が上がる。
テレビはもちろん、街中のポスターや広告で絶対に名前を見るくらい有名な人たちだし、歌もダンスも上手でカッコいいから見掛けると目で追うようになってた。
あれだ。ゲームやアニメで、知ってる曲とかが聞こえてきたら思わず反応するのと同じ感じかな。
激しめの曲とダンスを凄いなって見入ってたら、俺の返事を聞いた天ヶ瀬くんが拗ねたように零してお腹に腕を回してきた。
「天ヶ瀬くん?」
「⋯⋯俺と、どっちがカッコいい?」
その問い掛けに俺は思わず目を瞬いた。
もしかして、俺があの人たちをカッコいいって言ったから拗ねてるの?
その様子が何だか可愛く見えて、クスリと笑った俺は身体を横向きにするとムッとしてる天ヶ瀬くんの頬に触れて首を傾げた。
「天ヶ瀬くんへのカッコいいと、アイドルへのカッコいいって違うよ。アイドルには憧れみたいな気持ちしかないけど、俺にとってドキドキするくらいカッコいいのは天ヶ瀬くんだけ」
「⋯じゃあ、他の奴をカッコいいとか言うな」
「うん、分かった。もう言わない」
こういうのもヤキモチって言うのかな。でも、確かに天ヶ瀬くんがアイドルの女の子を可愛いって言ってたら嫌かも。
約束と言って小指を絡ませると機嫌を直して俺を抱き締めてくれる。
「あ、年明ける」
ふとテレビを見た天ヶ瀬くんがそう呟いたから視線を向けると、アイドルたちが勢揃いでカウントダウンをしていた。
あと三十秒で新年になる。
『五、四、三、二、一⋯ハッピーニューイヤー!』
出演者全員が年明けを祝う言葉を口にした瞬間、バッとカラーテープや紙吹雪が舞い画面が一気に華やかになった。
年を越した実感はないもののその賑やかさをじっと眺めてたら、肩がぐっと抱かれて天ヶ瀬くんの顔が近くなる。
「あけおめ。今年もよろしくな、楪」
「あけましておめでとう。俺の方こそ、よろしくお願いします」
笑顔の天ヶ瀬くんに俺も笑って言葉を返すと、更に顔が寄って唇が重なった。手をどこに持っていくか悩んで、そっと背中に回すと口付けが深くなる。
大好きな人と初めて過ごす年越しは、新年早々幸せな気持ちに包まれたのだった。
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