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充電
天ヶ瀬くんの家で年を越し、冬休みもあと僅かになった今日この頃、俺は天ヶ瀬くんのお父さんに言われた事を暇さえあれば考えてた。
(名前⋯呼んでみたい気持ちはある⋯)
学校の誰も呼んでないから特別感もあるし、より親密って感じがしていいなとは思うんだけど、いざ呼ぶ時に変に緊張しちゃいそうで⋯噛んだりしたら失礼だし、そっちの心配の方が大きいまである。
でも、俺だってお父さんたちみたいな形でもいいから呼んで欲しいって思ってて、それにはまず俺が頑張る必要があるって思ってた。
「⋯⋯か、櫂、くん⋯」
一人だけの部屋の中でそう呟くけど、ほとんど声になってなくて軽く咳払いをする。
目の前に本人がいる訳じゃないのに物凄く恥ずかしい。
「練習すれば、自然に言えるようになるのかな⋯」
恋人の名前を練習するっていうのも良く分からないけど、ちゃんと呼べるようになりたいし、一人でたくさん口にしてみようかな。
そう決めて意気込んだ俺は、さっそく口の動きだけで呼びながら洗濯を干す為に洗面所に向かった。
でも呼べるようになっても、学校では天ヶ瀬くんの方がいいのかな。
うちの学校は冬休み明け、始業式後にすぐ修学旅行が始まり時間厳守で駅に集合して新幹線で大阪まで向かう。三泊四日、関西の名所を回って最終日の昼には現地を立つんだけど、自由行動が今から少しだけ憂鬱だった。
女子たちが、天ヶ瀬くんと同じ場所に行けば合流出来るって話してたから、きっと天ヶ瀬くんとは回れないだろうなって。
そうなったら仕方ないから、はぐれないようにだけしないと。
「楪くん、はい、あーん」
「?」
初めての新幹線にワクワクしてあっという間に過ぎていく景色を眺めていたら、穂波さんが何か差し出してそう声を掛けてきた。
見るとチョコがけのスティック菓子があって、目を瞬きながらも口を開けたらにこにこしながら入れられる。
「他にもスナック菓子と、グミと、一口チョコあるよ」
「た、たくさん持って来たね」
「無礼講だもん。楽しまないと」
「穂波」
次から次へとお菓子を出す穂波さんに苦笑してたら、席を外してた天ヶ瀬くんが戻ってきてわざとらしいくらいの笑顔で俺の顔の前に手を出してきた。
「あ、ごめんね。天ヶ瀬くんに断りもなくあーんしちゃった」
「次からは気を付けて」
「りょ。お詫びにグミあげるから、食べさせ合いっこでもして」
「ありがとう」
食べさせ合いっこって⋯そんな見るからにバレそうな事、する訳にはいかないのに。っていうか、俺にあーんするのに天ヶ瀬くんに断らなきゃいけないってどうして?
そんな俺の疑問なんて気付いているのかいないのか、にこやかに受け取った天ヶ瀬くんが隣に腰を下ろしたのを見て穂波さんは別グループへと移動して、女子たちと楽しそうにお喋りを始めた。
「⋯もう心折れそう」
貰ったチョコスティックのお菓子を食べてたら、周りの喧騒に掻き消されそうなほど小さな声で天ヶ瀬くんが呟いた。
意味を知って眉尻を下げた俺は、ささっと確認して天ヶ瀬くんの手を握る。
「もしどうしても無理ってなったら、二人でちょっとだけ抜ける?」
「ちょっとどころか、ずっと楪だけといたいんだけど」
学校ならこの時間だけって決まってるから王子様モードでいられるけど、泊まりだとずっとそうしてないといけないからいつもの倍は疲れるよね。しかも四日もあるし。
どうにかしてあげられたらいいけど、俺は素に戻れる時間を作ってあげる事しか出来ない。
「まぁ頑張るけど⋯」
「天ヶ瀬くん♪」
「これ食べる?」
頭を押さえて溜め息混じりに零した時、女子が二人来て天ヶ瀬くんへとスナック菓子の開け口を向けてきた。少し考えてから手を入れ二つ取った天ヶ瀬くんは、いつもの優しい笑顔で女子を見上げる。
「ありがとう」
「ううん、いいんだよ~」
「また欲しくなったら言ってね」
真正面から微笑まれた女子は頬を染めて手を振ると、嬉しそうに話しながら友達のところへと向かった。
その姿が見えなくなってから一つを俺の口元へと寄せた天ヶ瀬くんが囁くように「あーん」って言ってきて、俺は目を瞬きつつも口を開け食べさせて貰う。
他の人に見られたらって思ったけど、そんな俺を見て楽しそうな顔をしてたからまぁいっか。
「楪」
「うん?」
「ちょっとついて来て」
「?」
残りを口に放り込み咀嚼した天ヶ瀬くんがそう言って立ち上がり、視線で促して歩き出したから首を傾げつつもクラスメイトをチラ見してからついて行くと、どうしてかトイレに押し込まれた。
そのままぎゅっと抱き締められて髪に頬擦りされる。
「こんなとこで悪いけど、ちょい充電させて」
「充電?」
「ん。楪の元気分けて貰う」
「ならたくさん持っていって」
少しでも天ヶ瀬くんの力になれるなら場所がどこだろうと全然構わない。
俺も広い背中に腕を回し、どこからでも元気が伝わるよう隙間がないくらいにぴったりと身体をくっつける。
いつか天ヶ瀬くんが、本当の自分で過ごせる日がくるといいんだけど。
「楪、キスしたい」
「う、うん。いいよ」
「結構激しいのでも?」
「⋯⋯う、ん⋯」
そういうの改めて聞かれると恥ずかしくて、顔が熱くなるのを感じながら頷いたら柔らかく微笑んだ天ヶ瀬くんが俺の頬を撫でて上向かせ、唇を重ねてきた。
この瞬間はいつもドキドキする。
舌が絡み合い、口の中をたくさん舐められるくらい激しかったけど、天ヶ瀬くんは満足してくれたようでさっきよりもクラスメイトに向ける表情は明るくなってたから良かった。
修学旅行、楽しめるといいな。
(名前⋯呼んでみたい気持ちはある⋯)
学校の誰も呼んでないから特別感もあるし、より親密って感じがしていいなとは思うんだけど、いざ呼ぶ時に変に緊張しちゃいそうで⋯噛んだりしたら失礼だし、そっちの心配の方が大きいまである。
でも、俺だってお父さんたちみたいな形でもいいから呼んで欲しいって思ってて、それにはまず俺が頑張る必要があるって思ってた。
「⋯⋯か、櫂、くん⋯」
一人だけの部屋の中でそう呟くけど、ほとんど声になってなくて軽く咳払いをする。
目の前に本人がいる訳じゃないのに物凄く恥ずかしい。
「練習すれば、自然に言えるようになるのかな⋯」
恋人の名前を練習するっていうのも良く分からないけど、ちゃんと呼べるようになりたいし、一人でたくさん口にしてみようかな。
そう決めて意気込んだ俺は、さっそく口の動きだけで呼びながら洗濯を干す為に洗面所に向かった。
でも呼べるようになっても、学校では天ヶ瀬くんの方がいいのかな。
うちの学校は冬休み明け、始業式後にすぐ修学旅行が始まり時間厳守で駅に集合して新幹線で大阪まで向かう。三泊四日、関西の名所を回って最終日の昼には現地を立つんだけど、自由行動が今から少しだけ憂鬱だった。
女子たちが、天ヶ瀬くんと同じ場所に行けば合流出来るって話してたから、きっと天ヶ瀬くんとは回れないだろうなって。
そうなったら仕方ないから、はぐれないようにだけしないと。
「楪くん、はい、あーん」
「?」
初めての新幹線にワクワクしてあっという間に過ぎていく景色を眺めていたら、穂波さんが何か差し出してそう声を掛けてきた。
見るとチョコがけのスティック菓子があって、目を瞬きながらも口を開けたらにこにこしながら入れられる。
「他にもスナック菓子と、グミと、一口チョコあるよ」
「た、たくさん持って来たね」
「無礼講だもん。楽しまないと」
「穂波」
次から次へとお菓子を出す穂波さんに苦笑してたら、席を外してた天ヶ瀬くんが戻ってきてわざとらしいくらいの笑顔で俺の顔の前に手を出してきた。
「あ、ごめんね。天ヶ瀬くんに断りもなくあーんしちゃった」
「次からは気を付けて」
「りょ。お詫びにグミあげるから、食べさせ合いっこでもして」
「ありがとう」
食べさせ合いっこって⋯そんな見るからにバレそうな事、する訳にはいかないのに。っていうか、俺にあーんするのに天ヶ瀬くんに断らなきゃいけないってどうして?
そんな俺の疑問なんて気付いているのかいないのか、にこやかに受け取った天ヶ瀬くんが隣に腰を下ろしたのを見て穂波さんは別グループへと移動して、女子たちと楽しそうにお喋りを始めた。
「⋯もう心折れそう」
貰ったチョコスティックのお菓子を食べてたら、周りの喧騒に掻き消されそうなほど小さな声で天ヶ瀬くんが呟いた。
意味を知って眉尻を下げた俺は、ささっと確認して天ヶ瀬くんの手を握る。
「もしどうしても無理ってなったら、二人でちょっとだけ抜ける?」
「ちょっとどころか、ずっと楪だけといたいんだけど」
学校ならこの時間だけって決まってるから王子様モードでいられるけど、泊まりだとずっとそうしてないといけないからいつもの倍は疲れるよね。しかも四日もあるし。
どうにかしてあげられたらいいけど、俺は素に戻れる時間を作ってあげる事しか出来ない。
「まぁ頑張るけど⋯」
「天ヶ瀬くん♪」
「これ食べる?」
頭を押さえて溜め息混じりに零した時、女子が二人来て天ヶ瀬くんへとスナック菓子の開け口を向けてきた。少し考えてから手を入れ二つ取った天ヶ瀬くんは、いつもの優しい笑顔で女子を見上げる。
「ありがとう」
「ううん、いいんだよ~」
「また欲しくなったら言ってね」
真正面から微笑まれた女子は頬を染めて手を振ると、嬉しそうに話しながら友達のところへと向かった。
その姿が見えなくなってから一つを俺の口元へと寄せた天ヶ瀬くんが囁くように「あーん」って言ってきて、俺は目を瞬きつつも口を開け食べさせて貰う。
他の人に見られたらって思ったけど、そんな俺を見て楽しそうな顔をしてたからまぁいっか。
「楪」
「うん?」
「ちょっとついて来て」
「?」
残りを口に放り込み咀嚼した天ヶ瀬くんがそう言って立ち上がり、視線で促して歩き出したから首を傾げつつもクラスメイトをチラ見してからついて行くと、どうしてかトイレに押し込まれた。
そのままぎゅっと抱き締められて髪に頬擦りされる。
「こんなとこで悪いけど、ちょい充電させて」
「充電?」
「ん。楪の元気分けて貰う」
「ならたくさん持っていって」
少しでも天ヶ瀬くんの力になれるなら場所がどこだろうと全然構わない。
俺も広い背中に腕を回し、どこからでも元気が伝わるよう隙間がないくらいにぴったりと身体をくっつける。
いつか天ヶ瀬くんが、本当の自分で過ごせる日がくるといいんだけど。
「楪、キスしたい」
「う、うん。いいよ」
「結構激しいのでも?」
「⋯⋯う、ん⋯」
そういうの改めて聞かれると恥ずかしくて、顔が熱くなるのを感じながら頷いたら柔らかく微笑んだ天ヶ瀬くんが俺の頬を撫でて上向かせ、唇を重ねてきた。
この瞬間はいつもドキドキする。
舌が絡み合い、口の中をたくさん舐められるくらい激しかったけど、天ヶ瀬くんは満足してくれたようでさっきよりもクラスメイトに向ける表情は明るくなってたから良かった。
修学旅行、楽しめるといいな。
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