モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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天ヶ瀬くんと広尾くん

 一日目、二日目は特に何事もなく過ごす事が出来た。
 限界がきた天ヶ瀬くんに人気のない場所に連れて行かれて充電されたりはあったものの、大きなハプニングも起こらずみんな至って真面目だったと思う。
 ちょっとはしゃぎ過ぎて怒られた人もいたけど。
 ちなみに旅館の部屋割りは男女別の五人部屋で、先生が決めたから天ヶ瀬くんとは別になってしまった。でも広尾くんと赤松くんと一緒で、二人とも俺に気さくに話しかけてくれたおかげでぼっちにならずに済んだ。
 天ヶ瀬くん、広尾くんには気を付けろって言ってたけど⋯なんだったんだろ。

「天ヶ瀬くーん」 
「こっちこっちー」
「ちょっと、天ヶ瀬くんの隣は私よ」
「早い者勝ちですー」
「騒ぐと他の人に迷惑だよ」

 三日目の自由行動。
 案の定俺たちと場所を合わせた女子たちが押し寄せ、天ヶ瀬くんの周りで言い合いをしながら誰が隣に並ぶか争ってる。窘められて黙ったけど、睨み合いは続いてて同じ班なのに近付く事も出来ない。
 観光地だから他にもたくさん人がいて、見目のいい天ヶ瀬くんはそれも相俟って注目の的だ。「モデル?」「芸能人?」なんて言われてるし、心なしか当人の笑顔が引き攣ってる気がする。

「天ヶ瀬くん効果、恐るべし」
「楪くんも大変ね」
「大変なのは天ヶ瀬くんだよ」
「モテる男はやっぱ違うなー」

 傍にいられないのは寂しいし天ヶ瀬くんの近くにいる女子にはモヤるけど、あの中心にいる天ヶ瀬くんが誰よりも大変なのは分かってる。

「楪」
「広尾くん」

 落ち込んでるのを悟られないように天ヶ瀬くんたちを見てたら、違うグループの広尾くんが声をかけてくれた。確か、広尾くんのグループの女子もあそこにいるんだっけ。
 というかほとんどの女子がいるから、あぶれた男子たちは呆れたように話してる。

「これ見てみ。あそこの売店に売ってた」
「可愛い。ハリネズミ?」
「そ。棘の部分わりと痛いから、踏んだら地獄」
「床に落とさないようにしないとだね」

 今し方買ったらしいハリネズミのキーホルダーを見せてくれた広尾くんの軽口に笑いながら返すと、輪っかの部分を持って俺の目の前にぶらさげてきた。

「やる」
「え? い、いいよ。広尾くんが買ったものでしょ?」
「俺より楪のが似合う」
「に、似合う?」

 キーホルダーに似合う似合わないがあるのは初めて知った。俺ってハリネズミが似合うんだ。
 しばらく「やる」「いい」って応酬してたんだけど、どうにも広尾くんは引いてくれなさそうで、仕方なく両手をお椀型にして出したらポトッと手の平に落とされた。

「良かったらリュックにつけてな」
「ありがとう。大事にするね」
「ん」

 どうしてくれたのかは分からないけど、可愛いし広尾くんの言うようにリュックにつけたらいいアクセントになりそう。鈴もついてるから落としても分かりやすそうだし。
 ハリネズミを見て笑みを浮かべる俺に広尾くんも微笑んでくれる。
 継母役の時は怖い人だなって思ってたけど、何だかんだ優しいよね。

「楪の王子はあんなんだし、一緒に回んないか?」
「そう、だね⋯」

 自由行動、一緒にここ行こう、あそこ行こうって話してたのにな。
 学校行事だし、俺ばっかりが天ヶ瀬くんを独り占めする訳にもいかないから仕方ないとはいえいつも以上に距離が遠い。
 この寂しさを感じないようにするには、みんなで楽しく過ごすのがいいのかも。そう思って俺が頷くと広尾くんは安心したように笑顔になり、俺の背中を押してきた。
 ⋯⋯それにしても、いつまで天ヶ瀬くんを俺の王子って言うんだろう。シンデレラを演じたのは二ヶ月も前なのに。

「あっち、美味そうなのあったから食いに行こ」
「え⋯みんなとは行動しないの?」
「自由行動なんだし、別にいいだろ」

 広尾くんとは二人きりにならないよう天ヶ瀬くんから言われてるし、俺もそれに頷いたからこのまま行くと約束を破っちゃう事になる。でも楽しそうな横顔に水を差す真似は出来なくて、どうしようって悩んでる間に連れ出されてしまった。
 露店前までくるといい匂いが漂ってきて、小腹が空いてたのか小さくお腹が鳴る。

「回転焼き⋯って、今川焼きじゃねぇの?」
「地域によって違うみたいだね。兵庫は御座候らしいよ」
「ご、御座候⋯厳ついな」
「何か、時代劇にありそうだよね」
「な。どれにする?」
「さつまいもとか美味しそう」

 粒あんやカスタードが定番だけどせっかくだしと〝蜜芋餡〟と書かれた商品を指差す。広尾くんも少し考えて白あんを選んでた。
 包み紙に挟んで渡された今川焼きは温かくて、外は少しカリッとしていて中はふわふわしていて美味しい。さつまいももほどよい甘さで生地との相性も抜群だ。

「美味いな」
「うん。温かいから身体もぽかぽかになるね」
「⋯一口貰っていい?」
「いいよ、どうぞ」

 自分が齧った方とは反対側を広尾くんの方に向けて差し出せば、食べようと口を開けて近付いてくる。だけどギリギリのところで俺の腕が引かれ、驚いて見上げると無表情の天ヶ瀬くんがいた。

「勝手に連れ出さないでくれる? 穂波が、楪がいないって焦ってたんだけど」
「俺の班の奴には言ったけどな」
「〝俺たち〟に言ってくれないと分からないよ」
「楪の傍にいなかったくせによく言う」

 肩を引き寄せられて背中が天ヶ瀬くんに当たる。
 険悪なムードの二人に俺が戸惑ってると、遠くから「天ヶ瀬くんはー?」って声が聞こえてきた。それに小さく舌打ちした天ヶ瀬くんは、俺の手首を掴むと女子がいる方とは逆に足を踏み出す。

「どこ行くんだよ」
「広尾には関係ない」
「はぁ? ふざけ⋯っ⋯!?」

 眉根を寄せた広尾くんが天ヶ瀬くんに掴みかかろうとしたけど、何かに気付いてビクリと動きを止めた。驚きと困惑の表情に俺の頭にもハテナが浮かぶけど、ふいっと広尾くんから視線を外した天ヶ瀬くんが今度こそ歩き出す。
 引っ張られて俺も足を動かすけど、いつもよりも力が強くて振り向いてもくれないから不安でいっぱいになってた。
 もしかしなくても、天ヶ瀬くん怒ってる⋯?
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