モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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 修学旅行が終わり、通常の学生生活に戻った俺はもうすぐ迎えるバレンタインをどうしようか悩んでいた。
 レシピさえあれば作れない事はないけど、去年はダンボール箱いっぱいに貰ってたから今年もそうだろうなって思ってて、だったら身体にも良くないからチョコじゃなく違う物がいいのかなって考えたり。
 でもバレンタインといえばチョコって固定概念があるから何とも⋯なんなら天ヶ瀬くんに何が食べたいな聞いてみてもいいかもしれない。誕生日みたいにサプライズしたい気持ちはあるけど。

「櫂くん、櫂くん」

 そんな風にいろいろ考えてる俺だけど天ヶ瀬くんの名前を呼ぶ事は全然諦めてなくて、一人の時にはなるべく口にするようにしてた。傍から見たらブツブツ人の名前を呟いてるただの変な人なんだろうけど、おかげで結構スムーズに言えるようになった気がする。
 あとは本人の前で呼べれば完璧だ。
 口の中で言いながら夕飯の支度をするべくキッチンに行き、冷蔵庫を見ていたら不意にインターホンが鳴った。
 宅配便かなと思いつつモニターを確認すると天ヶ瀬くんが立ってて、来るって約束してたっけと記憶を掘り起こす。でもどう考えてもそんな約束どころかメッセージも来てなくて、俺は首を傾げながらも出迎えるべく玄関へと向かい扉を開けた。

「いらっしゃい、天ヶ瀬くん」
「よ。急に来てごめんな」

 俺がプレゼントしたマフラーをして防寒対策バッチリな天ヶ瀬くんを中へ入れ、スリッパを出そうとしたらその手を掴まれて抱き締められる。

「昨日も今日も俺の用事で会えなかったから、どうしても顔が見たくなってさ」

 付き合う時、休みの日にお互いに用事がない時は会おうって約束してて、珍しく土曜日と日曜日は天ヶ瀬くんが忙しくしてたんだよね。俺も寂しいなって思ってたけど⋯まさか、会いに来てくれるとは思わなかった。
 普段から感じてるけど、こういう時本当に大事にしてくれてるんだって嬉しくなる。
 コートの厚みでいつもよりも遠い背中に腕を回して見上げたら、ヒンヤリした唇が額に触れた。

「あー⋯癒される⋯」
「大変な用事だったの?」
「まぁな。親戚に来年高校受験する奴がいてさ、そいつの親に頼まれたから家庭教師してきたんだけど全く以てやる気なくて。何回ブチ切れそうになったか」
「お、お疲れ様⋯」
「もう二度と行かねぇ」

 努力家の天ヶ瀬くんは、自分も分からない事をとことんまで追求するからか教え方が凄く上手だ。
 俺、天ヶ瀬くんに教えて貰うようになってから順位上がってるし。
 でも、やる気が出ないのも凄く分かるから、俺は天ヶ瀬くんを労う事にした。

「今から夕飯作ろうと思ってたんだけど、食べてく?」
「食う」
「じゃあリビング行こ」
「ん。お邪魔します」

 腕を離し今度こそスリッパを出して促すと、天ヶ瀬くんは手にしていた箱を俺に渡してきた。目を瞬きながら受け取るとポンポンと頭を叩いてリビングへと向かう。
 これ、もしかしてケーキ?
 思わぬデザートが出来て嬉しく思いながらあとを追い、俺は小さく「あ」と零した。

(そうだ、せっかくだし名前呼んでみようかな)

 天ヶ瀬くんが目の前にいて声に出せるか分からないけど、あれだけ練習したんだからチャレンジしてもいいかも。
 リビングに入る前に口の動きだけで天ヶ瀬くんの名前を呟いた俺は、ソファに座ってる天ヶ瀬くんを見て頬を緩めテーブルに箱を置いた。
 当たり前のように寛いでくれてるの、嬉しい。
 エプロンを身に着け、冷蔵庫から使う材料を出して調理を開始する。
 でも、いつものように切ったり炒めたりしてたんだけど、気が付いたら後ろに天ヶ瀬くんが立ってて、俺が移動するたびに着いて来てた。

「⋯あの、天ヶ瀬くん? 座ってていいんだよ⋯?」
「俺さ、お前がキッチンに立ってる姿見んの好きなんだよ。だからここで見てていい?」
「それはいいけど⋯」
「邪魔はしねぇから」

 キッチンに立ってる姿が好きって、何か照れる。
 見られながら料理するのは気になるけど、天ヶ瀬くんが見たいならと頷いたら嬉しそうに笑った。学校では見せない無邪気な笑顔に胸がキュンとなる。
 さっきより後ろに下がってダイニングチェアを引き出した天ヶ瀬くんは、背凭れ側を前にして跨って座ると早く作ってと言わんばかりにキッチンを指差してきた。それに苦笑し、また背中を向けた俺は途中だった調理を開始する。
 距離はあるもののしっかり視線を感じながらも料理を完成させ、美味しいって食べてくれる天ヶ瀬くんと食事をしお腹を休める為にソファでまったりしてたんだけど、ふと気付いたら天ヶ瀬くんは俺に寄り掛かるようにして寝息を立ててた。

(疲れてたのかな)

 大変だったって言ってたし、お腹も満たされて眠くなっちゃったのかも。
 起こさないように身体をズラしてゆっくりと天ヶ瀬くんの頭を膝に乗せた俺は、目にかかる前髪を避けて横顔を眺め感嘆の息を吐く。
 天ヶ瀬くんって本当に綺麗。

(こんなに素敵な人が恋人なんて、俺って恵まれ過ぎてる)

 初めて好きになった人でもあり初めての恋人でもある天ヶ瀬くん。
 たまに本当に俺でいいのかなって思う時もあるけど、言葉はなくてもいいんだよって思わせてくれるからそこまで卑屈にならずに済んでる。今日だって、顔が見たくなったからって会いに来てくれたし。
 俺も、天ヶ瀬くんにたくさんの嬉しいをあげたい。

「いつもありがとう⋯⋯⋯⋯櫂くん」

 幸せにしてあげたい、ずっと笑ってて欲しい。
 俺の膝枕で穏やかに眠る天ヶ瀬くんの髪に触れ、聞こえないけどと思いながらも小さな声で名前を呼ぶ。
 いつかはが、俺たちの当たり前になるといいな。
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