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愛おしい(櫂視点)
「天ヶ瀬くん、ちょっとこっちお願いしてもいい?」
「⋯⋯⋯」
「天ヶ瀬くん?」
「⋯! あ、すみません⋯こっちですか?」
「そうだけど⋯大丈夫?」
「大丈夫です、少しぼんやりしていただけなので」
危ねぇ危ねぇ、先生相手にらしくない事をしちまった。
ここ最近の俺は期末前にも関わらずこうしてぼんやりする事が増えていて、親父やおふくろだけじゃなくクラスの奴らにも心配されてるんだけど⋯原因は分かってる。
『櫂くん』
あの時、楪に名前を呼ばれた事がずっと頭に残ってる。
実は膝に転んだ時点で目は覚めてて、でも起きんのももったいないから寝たフリしてたんだけど⋯⋯名前が呼ばれるのは予想外だった。
親父に言われてからはまぁ意識はしてたし、でも楪の事だからめっちゃスローペースだろうなって思ってたから本当に意外も意外で⋯おかげで俺も呼びてぇって気持ちにはなったけど、あいつのあの行動力は何なんだろうな。
崎森の時だって、暴れられない俺の為に矢面に立ってくれたし。
高校生の分際で何言ってんだって呆れられるかもしんねぇけど、俺、もう楪がいねぇと生きていけない気がする。
「あーまがーせくん」
先生から言い付けられた用事を済ませて教室に戻る途中、別クラスの女子に話しかけられた。誰だっけ?
「どうしたの?」
「もうすぐバレンタインでしょ? ビターとミルク、どっちがいいかなって」
「去年も言ったと思うけど、あんまり甘い物好きじゃないんだ」
「甘くなければいい?」
「えっと、そういう問題じゃなくて⋯」
そもそもいらないからハッキリそう言えたらいいんだけど、優しい王子モードの俺は人の好意は無碍に出来ない。
もう身に染み付いてるせいで条件反射みたいに受け入れてるものの、この学校の女子は押しが強くて二年目も終わるのに皮を脱ぎたくて仕方なくなってる。ただ楪が必死に隠してくれてるから、それを裏切るのもなって感じで耐えてるだけだ。
女子は首を傾げて考えたあと、納得したのか「分かった」と言って手を振り走り去って行ったけど⋯何が分かったんだ?
(去年みてぇにダンボールいっぱいは勘弁)
消費するのに親父やおふくろ、親戚に手伝って貰ったっつー苦い思い出がある。手作りだけは怖くて食ってねぇけど。
楪のなら迷いなく食えんだけどな。
(そういや、あいつはバレンタインどうすんだろ)
男だし、くれるっつー保証はねぇけど、やっぱ恋人からは欲しいよな。何なら飯作ってくれるだけでもいいし、もっと言うなら一緒にいられるだけでいい。
楪の傍は居心地がいいから離れ難くなるけど、少しの時間でも顔が見れて声が聞けるなら充分だ。
「天ヶ瀬、ちょうどいいところに。すまんがこれを運んでくれるか。次の授業で使うから」
「分かりました」
次から次へと用事を言い渡されるのは信頼があるからか体良く使われてるからか。まぁ俺がめったに断んねぇからだろうけど、せめて一度に運べる量でお願いしてくんねぇかな。
ダンボールに入った教材とプリントって。
「あ、天ヶ瀬くんそれ運ぶの? 手伝うよ」
「ありがとう。でも重いからいいよ」
「プリントくらいはいけるよ、任せて」
「⋯じゃあお願いしようかな」
こうしてすぐに救いの手が差し伸べられるのもこの皮のおかげだな。
声をかけてくれた女子に気付かれないよう自嘲気味に笑った俺は、プリントを任せてダンボールを持ち上げた。
もし俺が、本当は自分勝手で王子とは真逆の性格だって知ったら、みんなはどう思うんだろうな。
放課後、俺は楪に勉強を教える為うちへ連れて行き部屋へと通した。
勝手知ったるでブランケットを羽織る姿に笑みを浮かべ、先に準備しててと言ってまた下に降りる。いつものように飲み物と、今日はパウンドケーキを二切れずつ乗せた皿を手に戻ると楪は食い入るようにスマホを見てた。
「!!」
「⋯⋯今何見てた?」
「な、何でもない⋯っ」
俺がドアを開けるなり慌てて隠したから怪しいと思いそう聞くと、あからさまに狼狽えた様子で首を振る。分かりやす過ぎだろ、誤魔化すの下手か。
持ってきた物をテーブルに置き、目を泳がせる楪の顔を覗き込みながら俺は更に詰め寄る。
「何でもない訳ねぇよな?」
「あ⋯え、えっと⋯」
「エロいもんでも見てたか?」
「!? ち、違うよ⋯っ」
楪がそんなもんに興味あるとは思えねぇけど、揶揄い混じりにそう言えば途端に真っ赤になってさっきよりも勢いよく首を振った。
「じゃあ何?」
「⋯⋯⋯どうしても見せなきゃダメ?」
「見せねぇなら、やましい事なんだって思うけど?」
「⋯⋯⋯」
どう考えても楪が隠し切れるとは思えないし、それでも隠そうとするなら後ろめたいものかと勘繰ってしまうのも仕方ないだろう。
そう答えて眉を顰め楪が出すのを待っていると、観念したのかおずおずと見せてきた。
スマホの画面には雑貨やアクセサリーが表示されてて、サイト名に〝バレンタインにおすすめなもの10選〟って書いてあり俺はハッとする。
「⋯⋯悪い」
「う、ううん⋯俺がコソコソしてたのが悪いんだし⋯」
「いや、これはコソコソする。マジでごめん」
まさかバレンタイン関連だとは思わなかった。
素直な楪が俺には言えねぇようなもんを見てんのが嫌で、楪の全部を知りたいっていう俺の独占欲で申し訳ない事したな。
気まずそうに顔を伏せる楪に、スマホを見た俺は黒い小さめのマグカップを指差す。
「俺、これがいい」
「⋯マグカップ?」
「持ってねぇから。こんくらいなら使い勝手良さそうだし」
悩んでたみたいだったしせめてと思ってそう言えば、楪は数回瞬きしたあとふわっと微笑んで頷いた。
「分かった。じゃあこれにするね」
「ん」
「ありがとう」
礼を言うのはこっちなのに、何でお前がそんな嬉しそうに言うんだ。
ほんと敵わねぇなと苦笑した俺は、にこにこで店舗検索を始めた楪を抱き締める。
愛しいってこういう事を言うんだろうな。
「⋯⋯⋯」
「天ヶ瀬くん?」
「⋯! あ、すみません⋯こっちですか?」
「そうだけど⋯大丈夫?」
「大丈夫です、少しぼんやりしていただけなので」
危ねぇ危ねぇ、先生相手にらしくない事をしちまった。
ここ最近の俺は期末前にも関わらずこうしてぼんやりする事が増えていて、親父やおふくろだけじゃなくクラスの奴らにも心配されてるんだけど⋯原因は分かってる。
『櫂くん』
あの時、楪に名前を呼ばれた事がずっと頭に残ってる。
実は膝に転んだ時点で目は覚めてて、でも起きんのももったいないから寝たフリしてたんだけど⋯⋯名前が呼ばれるのは予想外だった。
親父に言われてからはまぁ意識はしてたし、でも楪の事だからめっちゃスローペースだろうなって思ってたから本当に意外も意外で⋯おかげで俺も呼びてぇって気持ちにはなったけど、あいつのあの行動力は何なんだろうな。
崎森の時だって、暴れられない俺の為に矢面に立ってくれたし。
高校生の分際で何言ってんだって呆れられるかもしんねぇけど、俺、もう楪がいねぇと生きていけない気がする。
「あーまがーせくん」
先生から言い付けられた用事を済ませて教室に戻る途中、別クラスの女子に話しかけられた。誰だっけ?
「どうしたの?」
「もうすぐバレンタインでしょ? ビターとミルク、どっちがいいかなって」
「去年も言ったと思うけど、あんまり甘い物好きじゃないんだ」
「甘くなければいい?」
「えっと、そういう問題じゃなくて⋯」
そもそもいらないからハッキリそう言えたらいいんだけど、優しい王子モードの俺は人の好意は無碍に出来ない。
もう身に染み付いてるせいで条件反射みたいに受け入れてるものの、この学校の女子は押しが強くて二年目も終わるのに皮を脱ぎたくて仕方なくなってる。ただ楪が必死に隠してくれてるから、それを裏切るのもなって感じで耐えてるだけだ。
女子は首を傾げて考えたあと、納得したのか「分かった」と言って手を振り走り去って行ったけど⋯何が分かったんだ?
(去年みてぇにダンボールいっぱいは勘弁)
消費するのに親父やおふくろ、親戚に手伝って貰ったっつー苦い思い出がある。手作りだけは怖くて食ってねぇけど。
楪のなら迷いなく食えんだけどな。
(そういや、あいつはバレンタインどうすんだろ)
男だし、くれるっつー保証はねぇけど、やっぱ恋人からは欲しいよな。何なら飯作ってくれるだけでもいいし、もっと言うなら一緒にいられるだけでいい。
楪の傍は居心地がいいから離れ難くなるけど、少しの時間でも顔が見れて声が聞けるなら充分だ。
「天ヶ瀬、ちょうどいいところに。すまんがこれを運んでくれるか。次の授業で使うから」
「分かりました」
次から次へと用事を言い渡されるのは信頼があるからか体良く使われてるからか。まぁ俺がめったに断んねぇからだろうけど、せめて一度に運べる量でお願いしてくんねぇかな。
ダンボールに入った教材とプリントって。
「あ、天ヶ瀬くんそれ運ぶの? 手伝うよ」
「ありがとう。でも重いからいいよ」
「プリントくらいはいけるよ、任せて」
「⋯じゃあお願いしようかな」
こうしてすぐに救いの手が差し伸べられるのもこの皮のおかげだな。
声をかけてくれた女子に気付かれないよう自嘲気味に笑った俺は、プリントを任せてダンボールを持ち上げた。
もし俺が、本当は自分勝手で王子とは真逆の性格だって知ったら、みんなはどう思うんだろうな。
放課後、俺は楪に勉強を教える為うちへ連れて行き部屋へと通した。
勝手知ったるでブランケットを羽織る姿に笑みを浮かべ、先に準備しててと言ってまた下に降りる。いつものように飲み物と、今日はパウンドケーキを二切れずつ乗せた皿を手に戻ると楪は食い入るようにスマホを見てた。
「!!」
「⋯⋯今何見てた?」
「な、何でもない⋯っ」
俺がドアを開けるなり慌てて隠したから怪しいと思いそう聞くと、あからさまに狼狽えた様子で首を振る。分かりやす過ぎだろ、誤魔化すの下手か。
持ってきた物をテーブルに置き、目を泳がせる楪の顔を覗き込みながら俺は更に詰め寄る。
「何でもない訳ねぇよな?」
「あ⋯え、えっと⋯」
「エロいもんでも見てたか?」
「!? ち、違うよ⋯っ」
楪がそんなもんに興味あるとは思えねぇけど、揶揄い混じりにそう言えば途端に真っ赤になってさっきよりも勢いよく首を振った。
「じゃあ何?」
「⋯⋯⋯どうしても見せなきゃダメ?」
「見せねぇなら、やましい事なんだって思うけど?」
「⋯⋯⋯」
どう考えても楪が隠し切れるとは思えないし、それでも隠そうとするなら後ろめたいものかと勘繰ってしまうのも仕方ないだろう。
そう答えて眉を顰め楪が出すのを待っていると、観念したのかおずおずと見せてきた。
スマホの画面には雑貨やアクセサリーが表示されてて、サイト名に〝バレンタインにおすすめなもの10選〟って書いてあり俺はハッとする。
「⋯⋯悪い」
「う、ううん⋯俺がコソコソしてたのが悪いんだし⋯」
「いや、これはコソコソする。マジでごめん」
まさかバレンタイン関連だとは思わなかった。
素直な楪が俺には言えねぇようなもんを見てんのが嫌で、楪の全部を知りたいっていう俺の独占欲で申し訳ない事したな。
気まずそうに顔を伏せる楪に、スマホを見た俺は黒い小さめのマグカップを指差す。
「俺、これがいい」
「⋯マグカップ?」
「持ってねぇから。こんくらいなら使い勝手良さそうだし」
悩んでたみたいだったしせめてと思ってそう言えば、楪は数回瞬きしたあとふわっと微笑んで頷いた。
「分かった。じゃあこれにするね」
「ん」
「ありがとう」
礼を言うのはこっちなのに、何でお前がそんな嬉しそうに言うんだ。
ほんと敵わねぇなと苦笑した俺は、にこにこで店舗検索を始めた楪を抱き締める。
愛しいってこういう事を言うんだろうな。
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