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距離の近い人
どうやらこの時期にも関わらず、櫂くんのクラスに転校生が来たらしい。
〝らしい〟って言うのは俺がまだその子を見てないからなんだけど、相馬さん曰く「可愛いけど、それを鼻にかけてる」そうで、女子からの印象はあんまり良くないみたいだ。
「マジで奏斗といると癒される」
お昼休み、いつものようにお弁当を持って屋上に来た俺は先に待っていた櫂くんに手招きされ、傍に行くなり抱き締められてそう言われた。
疲れてるような声音に目を瞬いてたら、そのまま膝に座らされお弁当が手から取り上げられる。
「何かあった?」
「んー⋯まぁあったっつーか、ある?」
「?」
俺が膝にいるにも関わらず器用にお弁当を開け手を合わせる櫂くんの言葉に首を傾げると、卵焼きを口にした櫂くんがもぐもぐしながら肩を竦めた。
「俺のクラスに転校生が来たの知ってるだろ? そいつが事ある毎に俺に寄ってきて猫撫で声で喋ってくんだよ。それがもう嫌で嫌で⋯」
「た、大変だね⋯」
「俺、ああいう女マジで無理」
この間、櫂くんのクラスの前で男子と話してる姿を見かけた子、だよね。確かに可愛い子だった。腰まである髪はサラサラだったし、全体的に小さくて細くて⋯いかにも〝女の子〟って感じの女の子。
そういえば、櫂くんの好みのタイプって聞いた事ないかも。
「奏斗」
「? ん⋯」
自分もお弁当を食べようと蓋を開けた時、名前を呼ばれたから顔を上げたら唇が塞がれた。軽く吸われながら啄まれて、下手なりに応えつつ必死に呼吸してたら、リップ音を立てて唇が離れ櫂くんが息を吐く。
「⋯駄目だな」
「⋯え⋯?」
「ずっとこうしてたくなる」
「んっ⋯ま、待って⋯おべんと⋯」
「もうちょっとだけ」
お昼休みは時間が決まってるし、バレない為にもバラバラに戻るから余裕を持たせないといけないのに、櫂くんはちょっとだけっていいながら舌を絡めてなかなか離してくれない。
だんだん息苦しくなってきて櫂くんの服を掴んだら、強めに吸われてお腹の奥がずくんって疼いた。あれ以来、こういうキスをされると変な気分になる。
「⋯っ⋯櫂く⋯」
「好きだよ、奏斗」
「⋯⋯俺も大好き」
こうして櫂くんとくっつけてるならお弁当食べられなくてもいいや。
キスの合間にお弁当を下ろして体勢を変え櫂くんに向き直った俺は、彼の首に両腕を回して深くなる口付けに身体を震わせた。
どれだけ苦しくても、こうして触れ合える時間が一番好きだったりする。
移動教室からの帰り、ずいぶんと賑やかな声が聞こえて俺は何気なく視線をそっちへと向けた。階段横にはグラウンドに出る通路があるんだけど、そこに櫂くん含む男子三人と女子が一人いてなにやら話してる。
体操服着てるし、次は体育なのかな。
あ、あの子、噂の転校生だ。確か名前は⋯⋯横澤 陽葵さん。
聞き耳立てるのは良くないけど、横澤さんの手が櫂くんの腕に触れてるから気になって少しだけ寄ったら甘えた声が櫂くんを呼ぶ。
「ねぇ天ヶ瀬くん。日曜日どっか行こうよ」
「休みの日は基本的に用事があるから、ごめんね」
「えー? じゃあ放課後は?」
「難しいかな」
「もう、いっつもそうなんだから」
いっつもって事は、そんなにしょっちゅう誘ってるのかな。
櫂くんはさりげなく距離を取ろうとしてるんだけど、横澤さんは気付いているのかいないのか、更に身を寄せて身体をくねくねさせる。
距離感とか近めな人なのかな。
「王子はハードル高いって」
「そうそう。俺とかどう?」
「いやいや、オレだろ」
「んー、どうしよっかなー」
凄い、モテモテだ。
二人から言い寄られてる横澤さんは櫂くんをチラチラ見ながら悩む素振りをするのに対し、櫂くんはすっと俺がいる方へと視線を逸らして⋯パチッと目が合って驚いた顔をする。
盗み聞きしてるのバレちゃった。
「か⋯⋯楪。そんなところで何してるの?」
「あ、えっと⋯理科室からの帰りで⋯」
「え? 誰々?」
「楪じゃん」
「よ、シンデレラ」
あ、まだそれ引っ張るんだ。
何を言えばいいか分からなくて苦笑で返してたら、横澤さんが櫂くんの腕に抱き着いて俺の顔を覗き込んできた。「え?」と思ったけど櫂くんはすぐに外してくれて、それでもなお無遠慮に見られるから困惑してたら櫂くんが間に入ってくれる。
「人の顔をジロジロ見るのは失礼だよ」
「あ、ごめんね。可愛いなって思ってつい。それよりシンデレラって?」
「楪と天ヶ瀬、去年の文化祭にクラスの出し物でシンデレラと王子の役やったんだよ」
「男の子なのに?」
「男だけの劇だったからな」
あれはもう思い出の一つではあるけど女装だからあんまり蒸し返して欲しくなくて、眉尻を下げて櫂くんを見上げたら気付いてふっと微笑んでくれる。
「そういや、二人が仲良くなったのってそれからだっけ?」
「え? それより前じゃね? 王子は毎日楪に挨拶してたけど」
「あー、確かにそうかも」
「そうなんだ⋯」
櫂くんの秘密を知ってから監視の意味もあったから、手伝いとか名指しされててみんなにはいつの間にって不思議がられてた。
櫂くんが上手に言い訳してくれたけど、付き合ってからは気を付けてはいても無意識に見たりして、穂波さんに「目がハートになってる」って突っ込まれてたっけ。
でも、櫂くんは分け隔てない人だし、仲良くなっても特に怪しまれたりはなかった。
「楪、そろそろ本鈴鳴るよ」
「あ、うん。じゃあ教室戻るね」
「転ばないように気を付けて」
「ありがとう」
まるで品定めするかのように横澤さんに見られて居心地の悪さを感じてたら櫂くんが助け舟を出してくれる。
ハッとして四人に軽く頭を下げ、踵を返してその場をあとにしたんだけど、ずっと視線を感じてて何だか怖くなり小走りで逃げるように教室に向かった。
何であんなに俺を見てきてたんだろう。
〝らしい〟って言うのは俺がまだその子を見てないからなんだけど、相馬さん曰く「可愛いけど、それを鼻にかけてる」そうで、女子からの印象はあんまり良くないみたいだ。
「マジで奏斗といると癒される」
お昼休み、いつものようにお弁当を持って屋上に来た俺は先に待っていた櫂くんに手招きされ、傍に行くなり抱き締められてそう言われた。
疲れてるような声音に目を瞬いてたら、そのまま膝に座らされお弁当が手から取り上げられる。
「何かあった?」
「んー⋯まぁあったっつーか、ある?」
「?」
俺が膝にいるにも関わらず器用にお弁当を開け手を合わせる櫂くんの言葉に首を傾げると、卵焼きを口にした櫂くんがもぐもぐしながら肩を竦めた。
「俺のクラスに転校生が来たの知ってるだろ? そいつが事ある毎に俺に寄ってきて猫撫で声で喋ってくんだよ。それがもう嫌で嫌で⋯」
「た、大変だね⋯」
「俺、ああいう女マジで無理」
この間、櫂くんのクラスの前で男子と話してる姿を見かけた子、だよね。確かに可愛い子だった。腰まである髪はサラサラだったし、全体的に小さくて細くて⋯いかにも〝女の子〟って感じの女の子。
そういえば、櫂くんの好みのタイプって聞いた事ないかも。
「奏斗」
「? ん⋯」
自分もお弁当を食べようと蓋を開けた時、名前を呼ばれたから顔を上げたら唇が塞がれた。軽く吸われながら啄まれて、下手なりに応えつつ必死に呼吸してたら、リップ音を立てて唇が離れ櫂くんが息を吐く。
「⋯駄目だな」
「⋯え⋯?」
「ずっとこうしてたくなる」
「んっ⋯ま、待って⋯おべんと⋯」
「もうちょっとだけ」
お昼休みは時間が決まってるし、バレない為にもバラバラに戻るから余裕を持たせないといけないのに、櫂くんはちょっとだけっていいながら舌を絡めてなかなか離してくれない。
だんだん息苦しくなってきて櫂くんの服を掴んだら、強めに吸われてお腹の奥がずくんって疼いた。あれ以来、こういうキスをされると変な気分になる。
「⋯っ⋯櫂く⋯」
「好きだよ、奏斗」
「⋯⋯俺も大好き」
こうして櫂くんとくっつけてるならお弁当食べられなくてもいいや。
キスの合間にお弁当を下ろして体勢を変え櫂くんに向き直った俺は、彼の首に両腕を回して深くなる口付けに身体を震わせた。
どれだけ苦しくても、こうして触れ合える時間が一番好きだったりする。
移動教室からの帰り、ずいぶんと賑やかな声が聞こえて俺は何気なく視線をそっちへと向けた。階段横にはグラウンドに出る通路があるんだけど、そこに櫂くん含む男子三人と女子が一人いてなにやら話してる。
体操服着てるし、次は体育なのかな。
あ、あの子、噂の転校生だ。確か名前は⋯⋯横澤 陽葵さん。
聞き耳立てるのは良くないけど、横澤さんの手が櫂くんの腕に触れてるから気になって少しだけ寄ったら甘えた声が櫂くんを呼ぶ。
「ねぇ天ヶ瀬くん。日曜日どっか行こうよ」
「休みの日は基本的に用事があるから、ごめんね」
「えー? じゃあ放課後は?」
「難しいかな」
「もう、いっつもそうなんだから」
いっつもって事は、そんなにしょっちゅう誘ってるのかな。
櫂くんはさりげなく距離を取ろうとしてるんだけど、横澤さんは気付いているのかいないのか、更に身を寄せて身体をくねくねさせる。
距離感とか近めな人なのかな。
「王子はハードル高いって」
「そうそう。俺とかどう?」
「いやいや、オレだろ」
「んー、どうしよっかなー」
凄い、モテモテだ。
二人から言い寄られてる横澤さんは櫂くんをチラチラ見ながら悩む素振りをするのに対し、櫂くんはすっと俺がいる方へと視線を逸らして⋯パチッと目が合って驚いた顔をする。
盗み聞きしてるのバレちゃった。
「か⋯⋯楪。そんなところで何してるの?」
「あ、えっと⋯理科室からの帰りで⋯」
「え? 誰々?」
「楪じゃん」
「よ、シンデレラ」
あ、まだそれ引っ張るんだ。
何を言えばいいか分からなくて苦笑で返してたら、横澤さんが櫂くんの腕に抱き着いて俺の顔を覗き込んできた。「え?」と思ったけど櫂くんはすぐに外してくれて、それでもなお無遠慮に見られるから困惑してたら櫂くんが間に入ってくれる。
「人の顔をジロジロ見るのは失礼だよ」
「あ、ごめんね。可愛いなって思ってつい。それよりシンデレラって?」
「楪と天ヶ瀬、去年の文化祭にクラスの出し物でシンデレラと王子の役やったんだよ」
「男の子なのに?」
「男だけの劇だったからな」
あれはもう思い出の一つではあるけど女装だからあんまり蒸し返して欲しくなくて、眉尻を下げて櫂くんを見上げたら気付いてふっと微笑んでくれる。
「そういや、二人が仲良くなったのってそれからだっけ?」
「え? それより前じゃね? 王子は毎日楪に挨拶してたけど」
「あー、確かにそうかも」
「そうなんだ⋯」
櫂くんの秘密を知ってから監視の意味もあったから、手伝いとか名指しされててみんなにはいつの間にって不思議がられてた。
櫂くんが上手に言い訳してくれたけど、付き合ってからは気を付けてはいても無意識に見たりして、穂波さんに「目がハートになってる」って突っ込まれてたっけ。
でも、櫂くんは分け隔てない人だし、仲良くなっても特に怪しまれたりはなかった。
「楪、そろそろ本鈴鳴るよ」
「あ、うん。じゃあ教室戻るね」
「転ばないように気を付けて」
「ありがとう」
まるで品定めするかのように横澤さんに見られて居心地の悪さを感じてたら櫂くんが助け舟を出してくれる。
ハッとして四人に軽く頭を下げ、踵を返してその場をあとにしたんだけど、ずっと視線を感じてて何だか怖くなり小走りで逃げるように教室に向かった。
何であんなに俺を見てきてたんだろう。
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