51 / 79
恋敵
横澤さんとの遭遇以降、彼女に声をかけられる事が増えた。
「ゆーずりーはくん♪」
朝、教室に向かっていると後ろから高い声が聞こえてきて、甘い香りと共に腕に抱き着かれた。俺とあまり背の変わらない横澤さんはにこにこしながら俺に「おはよう!」って言ってきて、周りの視線なんで構わずそのまま歩き出す。
これが穂波さんや相馬さんなら気にしないんだけど、横澤さんとは関係値がゼロに等しいから正直気まずい。
でも振り払う度胸もないから、引っ張られる形で俺は足を進める。
「楪くんって、学校外で天ヶ瀬くんに会ったりする?」
「え? う、ううん。会わないかな」
「そうなんだ。仲良いって聞いたから休みの日とか遊んでるのかと思ってた」
「俺があんまり外出たくないタイプだから⋯」
「あー、確かに。楪くん、インドアっぽいもんね」
それは自分でも思うから頷いておく。
本当は休みの日は櫂くんと会ってるし何ならデートだってしてるけど、それは言わなくてもいい事だから俺はそれっぽく誤魔化した。
横澤さんが俺に声をかけてくる理由は、こうして櫂くんの事を聞く為。
だからこそ、仲は良くても学校外は知らないって答えておかないと付き合ってる事までバレちゃう。どんな行動をするか分からないし、この間の視線の事もあるから。
「あ、教室着いちゃった。じゃあね」
「うん」
「また天ヶ瀬くんの事教えて」
「⋯⋯」
にこっとして手を振り去って行く横澤さんに小さく息を吐き、賑やかな教室に入ると穂波さんが心配そうに傍まできてくれた。
「楪くん、大丈夫?」
「話してただけだから」
「あからさま過ぎて引くよね」
最初に櫂くんから話を聞いた時にもしかしてって思ったけど、何度か話しているうちにそれは確信に変わった。
横澤さんは櫂くんの事が好き。
学校内の櫂くんは穏やかで優しくて親切で、王子様のような見た目も相俟ってそれはもうモテモテだ。
本当の櫂くんだって口調が変わるだけで凄く優しいけど、そこは誰にも知られたくないからわざわざ言う必要もない。
それにもし横澤さんが知ったら⋯⋯絶対やだ。
「でも天ヶ瀬くんは楪くんに夢中だし、大丈夫でしょ」
「う、うん」
「いつでも相談に乗るからね」
「ありがとう」
穂波さん、優しいな。
友達のところに戻る穂波さんを見送り自分の席についた俺は、もやもやする気持ちを抱きながらもきっとどうにかなるって楽観的に考える事にした。
櫂くんの事、信じてるから。
放課後、先生に用事を頼まれた櫂くんを教室で待ってると、遠くから話し声が聞こえて俺は思わず机と机の間にしゃがみ込んだ。
この声、たぶん横澤さんだし、俺がここにいる理由を知ったら一緒に待つって言いかねないから⋯じっとしてやり過ごそう。
「そうなの。でも全然なびいてくれないんだよねー。⋯⋯え? まさか。私が迫って落ちない男なんていないんだから」
す、凄い事言ってる。
でもそれだけ自分に自信があるって事なんだよね。それには素直に感心する。
「嫌よ。あんなイケメン、この機を逃したら二度とお目にかかれないもの。絶対私の彼氏にする。⋯⋯ってか、ちょっとメンドイのがいるんだよね。私とそんな背の変わらない男の子なんだけどナヨナヨしいっていうか⋯⋯そう、その子が彼と仲良いらしいんだけど何にも教えてくれないの」
もしかしなくても、それって俺の事?
男らしくないのは自覚してるけど、メンドイなんて言わなくても⋯。
「彼の事、知りたくはあるけど、その為のご機嫌取りも大変だよ」
俺にいい印象は持ってないんだろうなって思ってたけど、どっちかというと嫌われてるのかもしれない。
次第に遠くなる声に意識して聞き耳を立て、完全に離れたのを確認してから立ち上がると、ちょうど櫂くんが教室の扉を開けて入ってきた。
「悪い、待たせた」
「あ、ううん」
「どうした?」
「何でもない」
俺が溜め息をついたタイミングだったから、気付いた櫂くんが眉を顰めて近付いてくる。心配掛けたくなくて慌てて首を振ったけど、俺の傍にある机に腰を掛けた櫂くんに腰が抱き寄せられた。
頬に手が添えられ親指が軽く撫でる。
「誰かに虐められたか?」
「え? ううん、そんなんじゃないよ」
「何か失敗して落ち込んでるとか」
「失敗はよくしてるけど、落ち込んではないから大丈夫」
「じゃあ、明日嫌な授業あるとか?」
普段通りにしてるつもりなのに違和感があるのか、心配してくれる櫂くんに思わず吹き出したら、器用に片眉を跳ね上げ俺の肩に頭を乗せてきた。
「マジで大丈夫ならいいけど⋯あんま溜め込んだりすんなよ」
「うん、ありがとう」
「言いたい事あったら我慢しなくていいから」
「うん」
優しい言葉に笑顔のまま頷けば顔を上げた櫂くんが唇を寄せてくる。反射的に間に手を差し込んだけど、途端に眉根を寄せられて手の平が舐められた。
びっくりして手を引いたら瞬きの間に軽く口付けられる。
「⋯ここ、教室⋯」
「もう誰もいねぇよ」
「でも⋯」
「じゃあうち来る? 部屋入ったら即行脱がすけど」
「え⋯」
何でって言いそうになったけど、一拍置いて理解した俺は一気に顔が熱くなった。それはつまりそういう事をするって意味⋯だよね。
どう答えたらいいか分からなくて目を泳がせてたら、櫂くんが俺の手を取り指先に唇を押し当てて上目遣いに見てきた。
「どうする?」
「⋯⋯⋯行く」
「じゃ、帰るか」
恥ずかしいけど、まだ離れたくなくて頷けばホッとしたように笑った櫂くんが立ち上がりまたキスしてきた。いくらここに人がいないからって、先生たちはまだ校舎内にいるのに。
でも櫂くんに触れて貰えるのは嬉しくて俺は目の前の胸に飛び込んだ。
しっかりと抱き留めてくれるこの腕の中に、いつまでもいられたらいいな。
「ゆーずりーはくん♪」
朝、教室に向かっていると後ろから高い声が聞こえてきて、甘い香りと共に腕に抱き着かれた。俺とあまり背の変わらない横澤さんはにこにこしながら俺に「おはよう!」って言ってきて、周りの視線なんで構わずそのまま歩き出す。
これが穂波さんや相馬さんなら気にしないんだけど、横澤さんとは関係値がゼロに等しいから正直気まずい。
でも振り払う度胸もないから、引っ張られる形で俺は足を進める。
「楪くんって、学校外で天ヶ瀬くんに会ったりする?」
「え? う、ううん。会わないかな」
「そうなんだ。仲良いって聞いたから休みの日とか遊んでるのかと思ってた」
「俺があんまり外出たくないタイプだから⋯」
「あー、確かに。楪くん、インドアっぽいもんね」
それは自分でも思うから頷いておく。
本当は休みの日は櫂くんと会ってるし何ならデートだってしてるけど、それは言わなくてもいい事だから俺はそれっぽく誤魔化した。
横澤さんが俺に声をかけてくる理由は、こうして櫂くんの事を聞く為。
だからこそ、仲は良くても学校外は知らないって答えておかないと付き合ってる事までバレちゃう。どんな行動をするか分からないし、この間の視線の事もあるから。
「あ、教室着いちゃった。じゃあね」
「うん」
「また天ヶ瀬くんの事教えて」
「⋯⋯」
にこっとして手を振り去って行く横澤さんに小さく息を吐き、賑やかな教室に入ると穂波さんが心配そうに傍まできてくれた。
「楪くん、大丈夫?」
「話してただけだから」
「あからさま過ぎて引くよね」
最初に櫂くんから話を聞いた時にもしかしてって思ったけど、何度か話しているうちにそれは確信に変わった。
横澤さんは櫂くんの事が好き。
学校内の櫂くんは穏やかで優しくて親切で、王子様のような見た目も相俟ってそれはもうモテモテだ。
本当の櫂くんだって口調が変わるだけで凄く優しいけど、そこは誰にも知られたくないからわざわざ言う必要もない。
それにもし横澤さんが知ったら⋯⋯絶対やだ。
「でも天ヶ瀬くんは楪くんに夢中だし、大丈夫でしょ」
「う、うん」
「いつでも相談に乗るからね」
「ありがとう」
穂波さん、優しいな。
友達のところに戻る穂波さんを見送り自分の席についた俺は、もやもやする気持ちを抱きながらもきっとどうにかなるって楽観的に考える事にした。
櫂くんの事、信じてるから。
放課後、先生に用事を頼まれた櫂くんを教室で待ってると、遠くから話し声が聞こえて俺は思わず机と机の間にしゃがみ込んだ。
この声、たぶん横澤さんだし、俺がここにいる理由を知ったら一緒に待つって言いかねないから⋯じっとしてやり過ごそう。
「そうなの。でも全然なびいてくれないんだよねー。⋯⋯え? まさか。私が迫って落ちない男なんていないんだから」
す、凄い事言ってる。
でもそれだけ自分に自信があるって事なんだよね。それには素直に感心する。
「嫌よ。あんなイケメン、この機を逃したら二度とお目にかかれないもの。絶対私の彼氏にする。⋯⋯ってか、ちょっとメンドイのがいるんだよね。私とそんな背の変わらない男の子なんだけどナヨナヨしいっていうか⋯⋯そう、その子が彼と仲良いらしいんだけど何にも教えてくれないの」
もしかしなくても、それって俺の事?
男らしくないのは自覚してるけど、メンドイなんて言わなくても⋯。
「彼の事、知りたくはあるけど、その為のご機嫌取りも大変だよ」
俺にいい印象は持ってないんだろうなって思ってたけど、どっちかというと嫌われてるのかもしれない。
次第に遠くなる声に意識して聞き耳を立て、完全に離れたのを確認してから立ち上がると、ちょうど櫂くんが教室の扉を開けて入ってきた。
「悪い、待たせた」
「あ、ううん」
「どうした?」
「何でもない」
俺が溜め息をついたタイミングだったから、気付いた櫂くんが眉を顰めて近付いてくる。心配掛けたくなくて慌てて首を振ったけど、俺の傍にある机に腰を掛けた櫂くんに腰が抱き寄せられた。
頬に手が添えられ親指が軽く撫でる。
「誰かに虐められたか?」
「え? ううん、そんなんじゃないよ」
「何か失敗して落ち込んでるとか」
「失敗はよくしてるけど、落ち込んではないから大丈夫」
「じゃあ、明日嫌な授業あるとか?」
普段通りにしてるつもりなのに違和感があるのか、心配してくれる櫂くんに思わず吹き出したら、器用に片眉を跳ね上げ俺の肩に頭を乗せてきた。
「マジで大丈夫ならいいけど⋯あんま溜め込んだりすんなよ」
「うん、ありがとう」
「言いたい事あったら我慢しなくていいから」
「うん」
優しい言葉に笑顔のまま頷けば顔を上げた櫂くんが唇を寄せてくる。反射的に間に手を差し込んだけど、途端に眉根を寄せられて手の平が舐められた。
びっくりして手を引いたら瞬きの間に軽く口付けられる。
「⋯ここ、教室⋯」
「もう誰もいねぇよ」
「でも⋯」
「じゃあうち来る? 部屋入ったら即行脱がすけど」
「え⋯」
何でって言いそうになったけど、一拍置いて理解した俺は一気に顔が熱くなった。それはつまりそういう事をするって意味⋯だよね。
どう答えたらいいか分からなくて目を泳がせてたら、櫂くんが俺の手を取り指先に唇を押し当てて上目遣いに見てきた。
「どうする?」
「⋯⋯⋯行く」
「じゃ、帰るか」
恥ずかしいけど、まだ離れたくなくて頷けばホッとしたように笑った櫂くんが立ち上がりまたキスしてきた。いくらここに人がいないからって、先生たちはまだ校舎内にいるのに。
でも櫂くんに触れて貰えるのは嬉しくて俺は目の前の胸に飛び込んだ。
しっかりと抱き留めてくれるこの腕の中に、いつまでもいられたらいいな。
あなたにおすすめの小説
また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。