モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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恋敵

 横澤さんとの遭遇以降、彼女に声をかけられる事が増えた。

「ゆーずりーはくん♪」

 朝、教室に向かっていると後ろから高い声が聞こえてきて、甘い香りと共に腕に抱き着かれた。俺とあまり背の変わらない横澤さんはにこにこしながら俺に「おはよう!」って言ってきて、周りの視線なんで構わずそのまま歩き出す。
 これが穂波さんや相馬さんなら気にしないんだけど、横澤さんとは関係値がゼロに等しいから正直気まずい。
 でも振り払う度胸もないから、引っ張られる形で俺は足を進める。

「楪くんって、学校外で天ヶ瀬くんに会ったりする?」
「え? う、ううん。会わないかな」
「そうなんだ。仲良いって聞いたから休みの日とか遊んでるのかと思ってた」
「俺があんまり外出たくないタイプだから⋯」
「あー、確かに。楪くん、インドアっぽいもんね」

 それは自分でも思うから頷いておく。
 本当は休みの日は櫂くんと会ってるし何ならデートだってしてるけど、それは言わなくてもいい事だから俺はそれっぽく誤魔化した。
 横澤さんが俺に声をかけてくる理由は、こうして櫂くんの事を聞く為。
 だからこそ、仲は良くても学校外は知らないって答えておかないと付き合ってる事までバレちゃう。どんな行動をするか分からないし、この間の視線の事もあるから。

「あ、教室着いちゃった。じゃあね」
「うん」
「また天ヶ瀬くんの事教えて」
「⋯⋯」

 にこっとして手を振り去って行く横澤さんに小さく息を吐き、賑やかな教室に入ると穂波さんが心配そうに傍まできてくれた。

「楪くん、大丈夫?」
「話してただけだから」
「あからさま過ぎて引くよね」

 最初に櫂くんから話を聞いた時にもしかしてって思ったけど、何度か話しているうちにそれは確信に変わった。
 横澤さんは櫂くんの事が好き。
 学校内の櫂くんは穏やかで優しくて親切で、王子様のような見た目も相俟ってそれはもうモテモテだ。
 本当の櫂くんだって口調が変わるだけで凄く優しいけど、そこは誰にも知られたくないからわざわざ言う必要もない。
 それにもし横澤さんが知ったら⋯⋯絶対やだ。

「でも天ヶ瀬くんは楪くんに夢中だし、大丈夫でしょ」
「う、うん」
「いつでも相談に乗るからね」
「ありがとう」

 穂波さん、優しいな。
 友達のところに戻る穂波さんを見送り自分の席についた俺は、もやもやする気持ちを抱きながらもきっとどうにかなるって楽観的に考える事にした。
 櫂くんの事、信じてるから。



 放課後、先生に用事を頼まれた櫂くんを教室で待ってると、遠くから話し声が聞こえて俺は思わず机と机の間にしゃがみ込んだ。
 この声、たぶん横澤さんだし、俺がここにいる理由を知ったら一緒に待つって言いかねないから⋯じっとしてやり過ごそう。

「そうなの。でも全然なびいてくれないんだよねー。⋯⋯え? まさか。私が迫って落ちない男なんていないんだから」

 す、凄い事言ってる。
 でもそれだけ自分に自信があるって事なんだよね。それには素直に感心する。

「嫌よ。あんなイケメン、この機を逃したら二度とお目にかかれないもの。絶対私の彼氏にする。⋯⋯ってか、ちょっとメンドイのがいるんだよね。私とそんな背の変わらない男の子なんだけどナヨナヨしいっていうか⋯⋯そう、その子が彼と仲良いらしいんだけど何にも教えてくれないの」

 もしかしなくても、それって俺の事?
 男らしくないのは自覚してるけど、メンドイなんて言わなくても⋯。

「彼の事、知りたくはあるけど、その為のご機嫌取りも大変だよ」

 俺にいい印象は持ってないんだろうなって思ってたけど、どっちかというと嫌われてるのかもしれない。
 次第に遠くなる声に意識して聞き耳を立て、完全に離れたのを確認してから立ち上がると、ちょうど櫂くんが教室の扉を開けて入ってきた。

「悪い、待たせた」
「あ、ううん」
「どうした?」
「何でもない」

 俺が溜め息をついたタイミングだったから、気付いた櫂くんが眉を顰めて近付いてくる。心配掛けたくなくて慌てて首を振ったけど、俺の傍にある机に腰を掛けた櫂くんに腰が抱き寄せられた。
 頬に手が添えられ親指が軽く撫でる。

「誰かに虐められたか?」
「え?    ううん、そんなんじゃないよ」
「何か失敗して落ち込んでるとか」
「失敗はよくしてるけど、落ち込んではないから大丈夫」
「じゃあ、明日嫌な授業あるとか?」

 普段通りにしてるつもりなのに違和感があるのか、心配してくれる櫂くんに思わず吹き出したら、器用に片眉を跳ね上げ俺の肩に頭を乗せてきた。

「マジで大丈夫ならいいけど⋯あんま溜め込んだりすんなよ」
「うん、ありがとう」
「言いたい事あったら我慢しなくていいから」
「うん」

 優しい言葉に笑顔のまま頷けば顔を上げた櫂くんが唇を寄せてくる。反射的に間に手を差し込んだけど、途端に眉根を寄せられて手の平が舐められた。
 びっくりして手を引いたら瞬きの間に軽く口付けられる。

「⋯ここ、教室⋯」
「もう誰もいねぇよ」
「でも⋯」
「じゃあうち来る? 部屋入ったら即行脱がすけど」
「え⋯」

 何でって言いそうになったけど、一拍置いて理解した俺は一気に顔が熱くなった。それはつまりをするって意味⋯だよね。
 どう答えたらいいか分からなくて目を泳がせてたら、櫂くんが俺の手を取り指先に唇を押し当てて上目遣いに見てきた。

「どうする?」
「⋯⋯⋯行く」
「じゃ、帰るか」

 恥ずかしいけど、まだ離れたくなくて頷けばホッとしたように笑った櫂くんが立ち上がりまたキスしてきた。いくらここに人がいないからって、先生たちはまだ校舎内にいるのに。
 でも櫂くんに触れて貰えるのは嬉しくて俺は目の前の胸に飛び込んだ。
 しっかりと抱き留めてくれるこの腕の中に、いつまでもいられたらいいな。
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