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飲みたくない条件(櫂視点)
あと三ヶ月ほどで奏斗と付き合って一年になる。
せっかくだし何か記念になるもんをあげたいなとは思うものの、これといっていい物が見付からなくて正直悩んでた。
何なら物じゃなくて旅行とかでもいいんだけど、果たして奏斗の親父さんから泊まりの許可は出るのかどうか。
っつーか、自分が誰かとこんな長く付き合う日が来るとは思わなかった。最長でも二ヶ月だったし、告られてまぁ暇だし付き合ってみるかって感じだったから好きとかもなかったしな。
そんな俺が同性を好きになったうえに、まさかここまで惚れ込むなんて。
いや、でもマジで可愛いんだよ。
思えば同じクラスになって初めて奏斗を見た時、男にしては全体的に小さくて可愛い顔してんなとは思った。
ただ大人しいし人と関わんのも苦手みてぇだから、まぁ気にかけてやるかって軽い気持ちで話しかけてたけど、ちゃんと顔を見て返事をするあたりいい子なんだなとも感じてて⋯⋯でもアレがなけりゃそこまでの関係だったろうな。
そう考えれば、奏斗にバレたのは運命だったんじゃねぇか?
「な、奏斗」
「? うん」
俺の腕の中にいる愛しい恋人を見下ろしそう言うと、不思議そうな顔をしながらも頷いてくれる。この素直さが奏斗のいいところだよな。
強く抱き締め頬に口付ければ、数回瞬きしたあとはにかんで抱き着いてきた。
奏斗の一挙手一投足が可愛くて仕方ない。
この先もずっと、奏斗には傍にいて欲しいな。
一学期も半分を過ぎた頃、俺は放課後あの女―横澤に呼び出された。
めんどくせーと思いながらも空き教室に行くと椅子に座ってる横澤がいて、俺に気付くなり笑顔で立ち上がり駆け寄ってくる。
「呼び出しちゃってごめんね、天ヶ瀬くん」
「大丈夫だけど、改まってどうしたの?」
「ちょっと言いたい事っていうか⋯確認したい事があって」
「確認したい事?」
何だと思いつつさりげなく距離を取り続きを待つけど、横澤は何かを考えているのか視線を逸らして首を傾げる。
奏斗が待ってっから、早くして欲しいんだけど。
若干イライラしつつ黙ってたら、横澤がにこっと笑って口を開いた。
「天ヶ瀬くんって、楪くんと付き合ってるんだよね?」
予想さえしていなかった事を言われて思わず固まる。
疑問形ではあるけど言い方的には断定していて、これは下手に誤魔化すととんでもない事になると思い努めて冷静に表情を作った。
バレてもいいとは思ってるけど、奏斗にとって不本意なバレ方はしたくない。
「どういう意味? 付き合うって、俺も楪も男だけど」
「そんな当たり障りのない答えはいらない。私、知ってるから」
「⋯⋯何を?」
不穏な言葉に素の反応をしてしまいそうになるけど、なるべく抑えて聞き返せば横澤はくるりと背を向けて窓の外へと視線を移した。
何か、すげぇ嫌な予感がすんだけど。
「先週の水曜日、放課後。楪くんのクラスでキスしてたよね」
「⋯⋯⋯」
「抱き締め合ってたし、雰囲気がもう思いっきり恋人だった」
マジか⋯もう誰もいねぇって思ってたのに、よりにもよってコイツに見られてたとか最悪だ。
でも王子モードだけは崩せねぇし、どうするべきか。
「⋯だとしたら? 横澤には関係ないと思うけど」
「関係なくはないかな。だって、私は天ヶ瀬くんが好きだもん」
「君の告白は断ってるよ」
「うん。でも私は諦めないって言った」
また俺の方へ向き窓に寄り掛かった横澤がシレッとそう言ってくる。
確かに言ってたけど、恋人がいるって分かったんだからもう引くべきじゃねぇのか? そもそもどんだけ想われたって奏斗以外は選ぶ気もつもりもないのに。
横澤は長い髪に指を絡めてくるくると回しながら上目遣いに俺を見てきた。
「もし私が、他の人にバラすって言ったらどうする?」
「⋯⋯は?」
「天ヶ瀬くんと楪くんが付き合ってる事、誰かに言ったら」
「わざわざ言う必要はないと思うけど」
「そうかな。でも、そう答えるって事は嫌なんだよね」
突拍子もない言葉に思わず低い声が出たけど、気付いていないのか横澤はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
何だこいつ。
「バラされたくないなら、私と付き合って」
「⋯⋯意味が分からない。何でそうなるの?」
「他の人には知られたくないんでしょ? そりゃそうだよね、男同士だもん。誰が聞いたって気持ち悪いって思うよ」
「それ、差別発言だって分かってる?」
「だって事実じゃない」
こいつ、マジで話が通じねぇのかも。っつか、何でバラさない条件が付き合う事なんだよ。
何回も断られてんだから、それが叶わねえって事くらい普通なら分かるだろ。しかも気持ち悪いとか、俺の前でよく言えたな。
「とにかく、君とは付き合わない。バラしたいならバラせばいいよ」
「いいんだ。でも、楪くんはどう思うのかな」
「どうって?」
「天ヶ瀬くんはほとんどの女子に好かれてて、それこそ告白もされてるでしょ? でも誰も付き合えてないからみんなどこかホッとしてる。天ヶ瀬くんは誰のものにもならないって。なのに、そんな天ヶ瀬くんに恋人がいて、あまつ男だって分かったら⋯⋯楪くん、相当詰められるんじゃないかな」
「⋯⋯⋯」
「可哀想。楪くん、学校に来れなくなっちゃうかもね」
俺、前からこの女にいい印象はなかったけど、今心底嫌いになった。
引き合いに奏斗を出しやがって。だいたい、俺らの事を知った上で応援してくれてる奴はもういるんだよ。
俺が黙り込んだのをどう思ったか、横澤はにこにこしながら俺の横を通り過ぎて出入口の方に向かい、扉に手をかけてから振り向いた。
「あと一週間あげる。その間に答えを出して」
「⋯⋯⋯」
「じゃあね~」
扉を開け鼻歌混じりに出て行った横澤が遠くなるまで聞き耳を立て、しゃがんだ俺は項垂れて溜め息をつく。
今回は本当に迂闊だった。
奏斗に止められてたのに、どうしても触れたくて止められなかった。
その結果がこれとか、情けないを通り越して自分に怒りが湧く。
「どうすっかねぇ⋯」
どう考えても奏斗はバレて欲しくない派だ。理由はたぶん、横澤が言っていたような事でほぼ間違いないとは思う。学校での呼び方だって戻してるくらいだし。
それなら奏斗の意志を尊重してやりてぇけど、その条件があいつと付き合う事だろ? 有り得ねぇ。奏斗と別れろって言ってるようなもんじゃねぇか。
「奏斗と話してみるか」
二人で考えればいい案が出るかもしれない。
そう思い立ち上がった俺はそれでも溜め息を零しつつ、無理やり王子の皮を被って空き教室から出た。
今日ほど、これがしんどいと思った事はない。
せっかくだし何か記念になるもんをあげたいなとは思うものの、これといっていい物が見付からなくて正直悩んでた。
何なら物じゃなくて旅行とかでもいいんだけど、果たして奏斗の親父さんから泊まりの許可は出るのかどうか。
っつーか、自分が誰かとこんな長く付き合う日が来るとは思わなかった。最長でも二ヶ月だったし、告られてまぁ暇だし付き合ってみるかって感じだったから好きとかもなかったしな。
そんな俺が同性を好きになったうえに、まさかここまで惚れ込むなんて。
いや、でもマジで可愛いんだよ。
思えば同じクラスになって初めて奏斗を見た時、男にしては全体的に小さくて可愛い顔してんなとは思った。
ただ大人しいし人と関わんのも苦手みてぇだから、まぁ気にかけてやるかって軽い気持ちで話しかけてたけど、ちゃんと顔を見て返事をするあたりいい子なんだなとも感じてて⋯⋯でもアレがなけりゃそこまでの関係だったろうな。
そう考えれば、奏斗にバレたのは運命だったんじゃねぇか?
「な、奏斗」
「? うん」
俺の腕の中にいる愛しい恋人を見下ろしそう言うと、不思議そうな顔をしながらも頷いてくれる。この素直さが奏斗のいいところだよな。
強く抱き締め頬に口付ければ、数回瞬きしたあとはにかんで抱き着いてきた。
奏斗の一挙手一投足が可愛くて仕方ない。
この先もずっと、奏斗には傍にいて欲しいな。
一学期も半分を過ぎた頃、俺は放課後あの女―横澤に呼び出された。
めんどくせーと思いながらも空き教室に行くと椅子に座ってる横澤がいて、俺に気付くなり笑顔で立ち上がり駆け寄ってくる。
「呼び出しちゃってごめんね、天ヶ瀬くん」
「大丈夫だけど、改まってどうしたの?」
「ちょっと言いたい事っていうか⋯確認したい事があって」
「確認したい事?」
何だと思いつつさりげなく距離を取り続きを待つけど、横澤は何かを考えているのか視線を逸らして首を傾げる。
奏斗が待ってっから、早くして欲しいんだけど。
若干イライラしつつ黙ってたら、横澤がにこっと笑って口を開いた。
「天ヶ瀬くんって、楪くんと付き合ってるんだよね?」
予想さえしていなかった事を言われて思わず固まる。
疑問形ではあるけど言い方的には断定していて、これは下手に誤魔化すととんでもない事になると思い努めて冷静に表情を作った。
バレてもいいとは思ってるけど、奏斗にとって不本意なバレ方はしたくない。
「どういう意味? 付き合うって、俺も楪も男だけど」
「そんな当たり障りのない答えはいらない。私、知ってるから」
「⋯⋯何を?」
不穏な言葉に素の反応をしてしまいそうになるけど、なるべく抑えて聞き返せば横澤はくるりと背を向けて窓の外へと視線を移した。
何か、すげぇ嫌な予感がすんだけど。
「先週の水曜日、放課後。楪くんのクラスでキスしてたよね」
「⋯⋯⋯」
「抱き締め合ってたし、雰囲気がもう思いっきり恋人だった」
マジか⋯もう誰もいねぇって思ってたのに、よりにもよってコイツに見られてたとか最悪だ。
でも王子モードだけは崩せねぇし、どうするべきか。
「⋯だとしたら? 横澤には関係ないと思うけど」
「関係なくはないかな。だって、私は天ヶ瀬くんが好きだもん」
「君の告白は断ってるよ」
「うん。でも私は諦めないって言った」
また俺の方へ向き窓に寄り掛かった横澤がシレッとそう言ってくる。
確かに言ってたけど、恋人がいるって分かったんだからもう引くべきじゃねぇのか? そもそもどんだけ想われたって奏斗以外は選ぶ気もつもりもないのに。
横澤は長い髪に指を絡めてくるくると回しながら上目遣いに俺を見てきた。
「もし私が、他の人にバラすって言ったらどうする?」
「⋯⋯は?」
「天ヶ瀬くんと楪くんが付き合ってる事、誰かに言ったら」
「わざわざ言う必要はないと思うけど」
「そうかな。でも、そう答えるって事は嫌なんだよね」
突拍子もない言葉に思わず低い声が出たけど、気付いていないのか横澤はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
何だこいつ。
「バラされたくないなら、私と付き合って」
「⋯⋯意味が分からない。何でそうなるの?」
「他の人には知られたくないんでしょ? そりゃそうだよね、男同士だもん。誰が聞いたって気持ち悪いって思うよ」
「それ、差別発言だって分かってる?」
「だって事実じゃない」
こいつ、マジで話が通じねぇのかも。っつか、何でバラさない条件が付き合う事なんだよ。
何回も断られてんだから、それが叶わねえって事くらい普通なら分かるだろ。しかも気持ち悪いとか、俺の前でよく言えたな。
「とにかく、君とは付き合わない。バラしたいならバラせばいいよ」
「いいんだ。でも、楪くんはどう思うのかな」
「どうって?」
「天ヶ瀬くんはほとんどの女子に好かれてて、それこそ告白もされてるでしょ? でも誰も付き合えてないからみんなどこかホッとしてる。天ヶ瀬くんは誰のものにもならないって。なのに、そんな天ヶ瀬くんに恋人がいて、あまつ男だって分かったら⋯⋯楪くん、相当詰められるんじゃないかな」
「⋯⋯⋯」
「可哀想。楪くん、学校に来れなくなっちゃうかもね」
俺、前からこの女にいい印象はなかったけど、今心底嫌いになった。
引き合いに奏斗を出しやがって。だいたい、俺らの事を知った上で応援してくれてる奴はもういるんだよ。
俺が黙り込んだのをどう思ったか、横澤はにこにこしながら俺の横を通り過ぎて出入口の方に向かい、扉に手をかけてから振り向いた。
「あと一週間あげる。その間に答えを出して」
「⋯⋯⋯」
「じゃあね~」
扉を開け鼻歌混じりに出て行った横澤が遠くなるまで聞き耳を立て、しゃがんだ俺は項垂れて溜め息をつく。
今回は本当に迂闊だった。
奏斗に止められてたのに、どうしても触れたくて止められなかった。
その結果がこれとか、情けないを通り越して自分に怒りが湧く。
「どうすっかねぇ⋯」
どう考えても奏斗はバレて欲しくない派だ。理由はたぶん、横澤が言っていたような事でほぼ間違いないとは思う。学校での呼び方だって戻してるくらいだし。
それなら奏斗の意志を尊重してやりてぇけど、その条件があいつと付き合う事だろ? 有り得ねぇ。奏斗と別れろって言ってるようなもんじゃねぇか。
「奏斗と話してみるか」
二人で考えればいい案が出るかもしれない。
そう思い立ち上がった俺はそれでも溜め息を零しつつ、無理やり王子の皮を被って空き教室から出た。
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