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美味しいケーキ
櫂くんと横澤さんの話はあっという間に学校中に広がって、騒ぎを知った先生からみんなにこれ以上事を大きくしないようにって注意がされた。
この先を横澤さんがどうするのかは分からないけど、出来ればもう一年もない学校生活を少しでも楽しく過ごして欲しい。俺が言うのも烏滸がましいとは思うけど⋯。
それから、櫂くんは王子様モードを完全にやめた。
聞かれたらそうしてた説明していたおかげか、みんな櫂くんの気持ちに同情してくれていろいろいい方に変わってる。
たまに友達と一緒に声を上げて笑ってるのを見掛けるけど、王子様モードの時よりも素敵な笑顔で、素で過ごせるようになって本当に良かったねって思った。
俺たちの関係もほとんどの生徒は知ってて、二人で話してたりすると「仲良いねぇ」って生温かい目で見られたりして⋯ちょっと恥ずかしい。櫂くんは櫂くんで「羨ましいだろ」なんて言い返してるし。
あの時はどうなる事か不安で仕方なかったけど、みんなの優しさのおかげで丸く収まって一安心だ。
汗ばむ季節になり、夏休みまであと一ヶ月半を切った頃、櫂くんに勉強を教えて貰うべく家にお邪魔した俺はもうかれこれ三十分は櫂くんに抱き締められてた。
部屋に入るなりベッドに腰掛けた櫂くんに呼ばれて膝の上に背中を向けて座ったんだけど、それからずーっとお腹のところに手が添えられてる。
時々戯れみたいにうなじに唇が触れるからドキドキしてるしゾクゾクもしてて、俺はそろそろ限界を迎えそうだった。
「⋯っ⋯か、櫂くん⋯」
「んー?」
「あの、勉強は⋯」
「⋯⋯⋯」
「⋯櫂くん⋯?」
恋人しかしないような事をされて反応するのは仕方ないと思うし、このままだと家に来た目的が出来なくなりそうで少しだけ視線を向けて聞くと、どうしてか櫂くんは動きを止めて黙り込んだ。
あれ? と思って呼び掛けたら、今度は首筋を噛まれる。
「ん⋯っ」
「⋯二時間目、広尾と何話してた?」
「広尾くん?」
二時間目といえば、確か三組と合同で体育の授業を受けてたっけ。
広尾くんは三組で、二人一組になって柔軟をする時俺を誘ってくれたから話をしてたけど、世間話しかしなかった気がする。
「今日天気いいねとか、昨日何食べたとか、何でもない話してたよ。あ、でも、途中で櫂くんとはどうなんだって聞かれたから、仲良しだよって答えた」
「ふーん」
本当に大した話はしてないから素直に答えたのに櫂くんの反応は冷めてて、不思議に思いつつ振り向くとムスッとした顔をしてたから目を瞬く。
体勢を横向きに変え、右手で頬に触れ逸らされていた目を覗き込んだらその手が握られてベッドに押し倒された。今度は櫂くんの手が俺の頬を撫でる。
「お前が鈍いのは分かってっけど、あんま広尾を調子に乗らせんなよ」
「え?」
「あれは授業だから仕方ねぇとはいえ、なるべくなら違う奴にしろ」
前から思ってたけど、どうしてそこまで広尾くんにだけ当たりが強いんだろう。喧嘩してるとか? でも喧嘩になるほど二人が話してる様子はないし⋯⋯そういえば、櫂くんって広尾くんにだけ王子様モードが緩くなってたよね。
というより、ほぼ素に近い状態だった。
「⋯櫂くんは、広尾くんが嫌いなの?」
「嫌いっつーか⋯勝ち目のねぇ勝負をいつまでも挑んでくんのが鬱陶しいっつーか」
「勝ち目がない勝負?」
「そう。お前は俺が好きだろ?」
「うん、大好き」
「⋯⋯そういう事だ」
聞かれたから、大きく頷いて気持ちを口にしたのに櫂くんは一瞬固まって、短く息を吐くと俺の頭を少しだけ乱暴に撫でて座り直した。
結局よく分からなかったけど、二人が仲良くないっていうのは理解したから俺からはあんまり関わらない方がいいのかも。本当は友達として話はしたいけど、俺にとって大切なのは櫂くんだから、櫂くんの気持ちを優先してあげたい。
起き上がり手櫛で髪を整えてたら、櫂くんが腰を上げて俺を見下ろしてきた。
「いつもの持ってくる」
「あ、うん。ありがとう」
いつもの、というのは櫂くんの家にお邪魔すると必ず出てくるお茶とお茶請けの事だ。
最近は俺が来るからって色んなお菓子が常備されてるらしく、しかも食べる物によって飲み物も変えてくれるから、キッチンには多種類のインスタント飲料が置かれてるんだって。
しかも、直美さんやウィルさんが家にいる時に行くと「おかえり」って出迎えられるようになってて、それを聞くといつも胸の奥がムズムズしてる。
おかえりなんて、それこそお父さんが平日に休みとか早上がりの時くらいしか言われた事ないし。
ベッドから降りて勉強の準備をし、新しく作られた〝テスト対策要点集〟のノートをパラパラと捲る。これは櫂くんが同じところで躓きやすい俺の為に作ってくれたもので、物凄く丁寧に噛み砕いて書いてあるから分かりやすいんだよね。
そして字がとっても綺麗。
文字を指先でなぞってると、扉が開いて櫂くんが戻ってきた。
「奏斗、チーズケーキとショートケーキ、どっちが好き?」
「櫂くんは?」
「俺はどっちでもいい」
「じゃあショートケーキがいいな」
「あいよ」
俺の隣に腰を下ろした櫂くんが、ティーカップとケーキを前に置いてくれて、ティーポットから紅茶を注いでくれる。淹れるところを見た事ないけど、これって茶葉なのかな。ティーバッグ?
「ありがとう」
「ん」
ケーキなんていつぶりだろう。
さっそくフォークを手にしてイチゴに刺し一口で食べる。甘酸っぱくて美味しい。
「奏斗は好きなもんは先派? あと派?」
「んー⋯先、かな。好きな物の味から始めたいかも」
「なるほど」
「櫂くんは?」
「俺は途中派。味変したい時とかかな」
「へぇ、そういうのもあるんだ」
味を変える為に途中で食べるっていうのは初めて聞いた。
でも確かに、このショートケーキにしたって甘いのを半分食べて、間で酸味のあるイチゴ挟んでまた甘いの食べたら、気分転換出来てより美味しく感じそう。
もうイチゴは食べちゃったから真っ白なショートケーキを食べ進め、半分くらいになったところで紅茶を飲もうとフォークを置いたらその手を掴まれた。
「味変させて」
「え?」
どういう意味だろうと目を瞬いてると、櫂くんの顔が近付き唇が塞がれる。
すぐに舌が入ってきて口の中をまさぐられるけど、味変ってこういう事?
「ん、ぅ⋯」
「⋯⋯甘」
ケーキの味がなくなるくらい舐められて、今だに上手く息が出来ない俺は少し荒くなった呼吸で櫂くんを見上げる。
親指で自分の唇を拭う姿にドキドキし過ぎて何も言えなくなり、俺は思いっきり櫂くんに抱き着いた。
頭の中、勉強どころじゃなくなっちゃったよ。
この先を横澤さんがどうするのかは分からないけど、出来ればもう一年もない学校生活を少しでも楽しく過ごして欲しい。俺が言うのも烏滸がましいとは思うけど⋯。
それから、櫂くんは王子様モードを完全にやめた。
聞かれたらそうしてた説明していたおかげか、みんな櫂くんの気持ちに同情してくれていろいろいい方に変わってる。
たまに友達と一緒に声を上げて笑ってるのを見掛けるけど、王子様モードの時よりも素敵な笑顔で、素で過ごせるようになって本当に良かったねって思った。
俺たちの関係もほとんどの生徒は知ってて、二人で話してたりすると「仲良いねぇ」って生温かい目で見られたりして⋯ちょっと恥ずかしい。櫂くんは櫂くんで「羨ましいだろ」なんて言い返してるし。
あの時はどうなる事か不安で仕方なかったけど、みんなの優しさのおかげで丸く収まって一安心だ。
汗ばむ季節になり、夏休みまであと一ヶ月半を切った頃、櫂くんに勉強を教えて貰うべく家にお邪魔した俺はもうかれこれ三十分は櫂くんに抱き締められてた。
部屋に入るなりベッドに腰掛けた櫂くんに呼ばれて膝の上に背中を向けて座ったんだけど、それからずーっとお腹のところに手が添えられてる。
時々戯れみたいにうなじに唇が触れるからドキドキしてるしゾクゾクもしてて、俺はそろそろ限界を迎えそうだった。
「⋯っ⋯か、櫂くん⋯」
「んー?」
「あの、勉強は⋯」
「⋯⋯⋯」
「⋯櫂くん⋯?」
恋人しかしないような事をされて反応するのは仕方ないと思うし、このままだと家に来た目的が出来なくなりそうで少しだけ視線を向けて聞くと、どうしてか櫂くんは動きを止めて黙り込んだ。
あれ? と思って呼び掛けたら、今度は首筋を噛まれる。
「ん⋯っ」
「⋯二時間目、広尾と何話してた?」
「広尾くん?」
二時間目といえば、確か三組と合同で体育の授業を受けてたっけ。
広尾くんは三組で、二人一組になって柔軟をする時俺を誘ってくれたから話をしてたけど、世間話しかしなかった気がする。
「今日天気いいねとか、昨日何食べたとか、何でもない話してたよ。あ、でも、途中で櫂くんとはどうなんだって聞かれたから、仲良しだよって答えた」
「ふーん」
本当に大した話はしてないから素直に答えたのに櫂くんの反応は冷めてて、不思議に思いつつ振り向くとムスッとした顔をしてたから目を瞬く。
体勢を横向きに変え、右手で頬に触れ逸らされていた目を覗き込んだらその手が握られてベッドに押し倒された。今度は櫂くんの手が俺の頬を撫でる。
「お前が鈍いのは分かってっけど、あんま広尾を調子に乗らせんなよ」
「え?」
「あれは授業だから仕方ねぇとはいえ、なるべくなら違う奴にしろ」
前から思ってたけど、どうしてそこまで広尾くんにだけ当たりが強いんだろう。喧嘩してるとか? でも喧嘩になるほど二人が話してる様子はないし⋯⋯そういえば、櫂くんって広尾くんにだけ王子様モードが緩くなってたよね。
というより、ほぼ素に近い状態だった。
「⋯櫂くんは、広尾くんが嫌いなの?」
「嫌いっつーか⋯勝ち目のねぇ勝負をいつまでも挑んでくんのが鬱陶しいっつーか」
「勝ち目がない勝負?」
「そう。お前は俺が好きだろ?」
「うん、大好き」
「⋯⋯そういう事だ」
聞かれたから、大きく頷いて気持ちを口にしたのに櫂くんは一瞬固まって、短く息を吐くと俺の頭を少しだけ乱暴に撫でて座り直した。
結局よく分からなかったけど、二人が仲良くないっていうのは理解したから俺からはあんまり関わらない方がいいのかも。本当は友達として話はしたいけど、俺にとって大切なのは櫂くんだから、櫂くんの気持ちを優先してあげたい。
起き上がり手櫛で髪を整えてたら、櫂くんが腰を上げて俺を見下ろしてきた。
「いつもの持ってくる」
「あ、うん。ありがとう」
いつもの、というのは櫂くんの家にお邪魔すると必ず出てくるお茶とお茶請けの事だ。
最近は俺が来るからって色んなお菓子が常備されてるらしく、しかも食べる物によって飲み物も変えてくれるから、キッチンには多種類のインスタント飲料が置かれてるんだって。
しかも、直美さんやウィルさんが家にいる時に行くと「おかえり」って出迎えられるようになってて、それを聞くといつも胸の奥がムズムズしてる。
おかえりなんて、それこそお父さんが平日に休みとか早上がりの時くらいしか言われた事ないし。
ベッドから降りて勉強の準備をし、新しく作られた〝テスト対策要点集〟のノートをパラパラと捲る。これは櫂くんが同じところで躓きやすい俺の為に作ってくれたもので、物凄く丁寧に噛み砕いて書いてあるから分かりやすいんだよね。
そして字がとっても綺麗。
文字を指先でなぞってると、扉が開いて櫂くんが戻ってきた。
「奏斗、チーズケーキとショートケーキ、どっちが好き?」
「櫂くんは?」
「俺はどっちでもいい」
「じゃあショートケーキがいいな」
「あいよ」
俺の隣に腰を下ろした櫂くんが、ティーカップとケーキを前に置いてくれて、ティーポットから紅茶を注いでくれる。淹れるところを見た事ないけど、これって茶葉なのかな。ティーバッグ?
「ありがとう」
「ん」
ケーキなんていつぶりだろう。
さっそくフォークを手にしてイチゴに刺し一口で食べる。甘酸っぱくて美味しい。
「奏斗は好きなもんは先派? あと派?」
「んー⋯先、かな。好きな物の味から始めたいかも」
「なるほど」
「櫂くんは?」
「俺は途中派。味変したい時とかかな」
「へぇ、そういうのもあるんだ」
味を変える為に途中で食べるっていうのは初めて聞いた。
でも確かに、このショートケーキにしたって甘いのを半分食べて、間で酸味のあるイチゴ挟んでまた甘いの食べたら、気分転換出来てより美味しく感じそう。
もうイチゴは食べちゃったから真っ白なショートケーキを食べ進め、半分くらいになったところで紅茶を飲もうとフォークを置いたらその手を掴まれた。
「味変させて」
「え?」
どういう意味だろうと目を瞬いてると、櫂くんの顔が近付き唇が塞がれる。
すぐに舌が入ってきて口の中をまさぐられるけど、味変ってこういう事?
「ん、ぅ⋯」
「⋯⋯甘」
ケーキの味がなくなるくらい舐められて、今だに上手く息が出来ない俺は少し荒くなった呼吸で櫂くんを見上げる。
親指で自分の唇を拭う姿にドキドキし過ぎて何も言えなくなり、俺は思いっきり櫂くんに抱き着いた。
頭の中、勉強どころじゃなくなっちゃったよ。
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