モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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気付けなかった想い

 誕生日はたっぷり櫂くんと過ごし、残りの夏休みは課題と受験勉強で費やして新学期。
 去年と同じですぐに文化祭があるから昼休みや放課後はその準備で大忙しになる。
 ちなみに今年は櫂くんが別クラスなのもあって、お化け屋敷かコンカフェかの二択を上げた結果動物をコンセプトにしたカフェに決定した。無事白雪姫は回避出来て一安心。
 俺はライオンとか虎とか、強い動物がいいな。
 そういえば櫂くんのクラスはフランクフルトの屋台をするそうで、委員の仕事もあるから午前中だけお店に立つらしい。出来るなら櫂くんがいる間に買いに行きたいけど、言ったら少しだけ抜けさせてくれるかな。



「ある程度の被りは仕方ないかな」
「なら女子と男子でアンケート取ってみる?」
「あー、あり」
「提案があります」
「何?」
「楪くんはぜひ狼で」

 教室の後ろの方で女子たちが話し合ってる。
 俺の名前が聞こえた気がしたから振り向くと、穂波さんと目が合って何でもないよって言うみたいに手をヒラヒラ振られた。
 よく分かんないけど、話があるなら呼んでくれるだろうし気のせいだったのかも。

「え、狼なの? ハムスターとか兎じゃないんだ?」
「もちろんそれもいいんだけど、狼の尻尾ってふわふわしてるじゃない? 絶対似合うと思うんだよね」
「あー、何か分かるかも」
「楪くん自体がふわふわしてるもんね」
「癒し系だよ、あの子は」

 うーん、やっぱり俺の名前がらちらほら聞こえるような⋯。
 でもあそこに割って入る度胸はまだないし、文化祭の事を話してるはずだからたぶん悪い内容ではないと思う。
 もしかしたら、動物を選んでくれてるのかもしれないし。

「楪、呼んでる」
「え?」
「入り口にいるぞ」

 読むともなしに見ていた本を閉じた時ちょうどクラスメイトからそう声をかけられる。
 見るとドアのところに広尾くんがいて、立ち上がった俺はその子にお礼を言ってから駆け寄ったんだけど何だか様子がおかしい。

「どうしたの?」
「⋯⋯ちょっと着いて来てくんねぇ?」
「えっと⋯」

 櫂くんから二人になるなって言われてるのもあってつい頷くのを躊躇ってしまった。本当なら断った方がいいんだろうけど、真剣な顔をしてるから言えなくて⋯口をもごもごさせてたら、気付いた広尾くんが「話がしたいだけだから」って苦笑した。
 真面目な話みたいだけど、出来れば櫂くんとの約束は破りたくない。

「⋯⋯あの⋯」
「行ってきな」

 せめて人が視界に入るところでって言おうとしたら、広尾くんの後ろから櫂くんが覗き込んできて俺の頭を撫でてきた。
 驚いて目を瞬いてたら今度は腕が引かれて抱き締められる。

「こいつなりに考えたみてぇだから、話聞いてちゃんと答えてやれ」
「答え⋯?」
「お前の素直な気持ちでいい。ここで待ってっから」
「⋯⋯うん」
「広尾、馬鹿な真似だけはすんなよ」
「分かってる」

 二人の会話はさっぱりだけど、櫂くんがそう言うなら俺は広尾くんの話を聞いて思った事を答えればいいんだよね。
 櫂くんの手が離れ、背中をポンっとされて促される。
 先に歩き出した広尾くんのあとに続こうとして、振り向いた俺は櫂くんの腕をぐいっと引きよろけたところで頬に口付けた。

「行ってくるね」
「⋯ん」

 本当は行かせたくないんだろうなっていうのは櫂くんの様子で察せるけど、二人で何かしら話したみたいだからそこはもう言わない事にしたのかな。
 だけど、それでも心配そうな顔をする櫂くんを安心させたくて微笑んだ俺は、そう言って踵を返し広尾くんを追い掛けた。


 階段を降り、渡り廊下を歩き、着いた場所は物置倉庫の前。
 人気がないからどんな話をされるのか不安で俯きがちに待ってたら、大きく息を吸って吐いた広尾くんが口を開いた。

「楪は、さ⋯俺の気持ちって気付いてる?」
「気持ち?」
「⋯本当に分かってなかったのか」
「?」

 どこかしょんぼりと肩を落とす様子に首を傾げたら、今度は真っ直ぐに俺を見て手を伸ばすと、頬に触れるギリギリで止まり拳を握り込んだ。

「広尾くん?」
「俺、楪が好きだ」
「え?」
「あん時散々意地悪な事言ったけど、シンデレラの姿に惚れてからはお前の事知るたびに好きになって、⋯今はどうしようもないくらい惹かれてる」
「⋯⋯」

 寝耳に水とはまさにこの事。
 広尾くんが俺を好きなんて⋯そんなの思いもしなかった。
 櫂くんがちゃんと答えてやれって言ってたのこれなんだ。
 でも俺は櫂くんが好きだし、どうしたって気持ちには応えられない。
 目を伏せて傷付けずに済む言葉を探してると、広尾くんがふっと笑って手を下ろした。

「お前が天ヶ瀬と付き合ってるのは知ってるし、これが片思いで終わるのも分かってる。ただ、踏ん切りを付けたかっただけなんだ」
「踏ん切り⋯?」
「前に進む為にな。なかなか諦めらんないかもしんないけど、もうよっぽどの用事がある時以外は絡んだりはしないから」
「⋯そっか⋯」

 もう友達としても話せなくなるのは悲しいけど、それが広尾くんの決めた事なら俺は何も言えない。やだなんて言う資格、俺にはないもん。
 数少ない友達が一人離れてしまう寂しさを感じつつも頷いた俺は、柔らかく笑う広尾くんを見上げて頭を下げた。

「好きって言って貰えて嬉しかった。でも、俺には大好きな恋人がいます。だからごめんなさい」
「うん、ありがとな」

 自分を想ってくれる人にごめんなさいを言わなきゃいけないのってこんなに辛い事なんだ。櫂くんは、女子に告白されるたびこんな気持ちになってたのかな。
 もし俺が櫂くんを好きにならなかったら⋯⋯うぅ⋯胸が痛い。

「まぁでも、もし天ヶ瀬に飽きたら言いな。俺が攫ってやるから」
「ないと思うけど⋯億が一にもあったらね」
「期待はしてない」

 にっと笑って俺の頭を撫で回した広尾くんは、一つ息を吐くと「じゃあな」と言って背を向け教室のある校舎へと歩いて行った。
 広尾くんとはそんなにたくさん話してた訳じゃないけど、ふとした時に気にかけてくれたり、優しくしてくれたのを覚えてる。修学旅行の時だってそうだったし。

「⋯⋯⋯」

 広尾くんの笑顔を思い浮かべてきゅっと唇を噛んだ俺は、櫂くんが待ってくれている事を思い出し足を踏み出した。
 少しの時間だけでいいから、櫂くんと二人きりになりたい。
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