モテモテ王子の秘密をうっかり知ったら溺愛されるようになりました

ミヅハ

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父親という存在

 櫂くんのご両親へ挨拶させてくれるなら、マンションを借りる手筈を整えてくれるっていうお父さんの言葉に本当に甘えていいのか、俺と櫂くんは凄く悩んでた。
 そもそもいつかはお父さんとウィルさん直美さんを会わせたいって思ってたし、櫂くんも近いうちにはって考えてたみたいだから悪い気がして⋯お父さんの気持ちは嬉しいんだけど、これってズルにはならないのかな。
 同棲したら自分たちの力でどうにかしないといけないのに。



「だからこそ、自立前に思いっきり甘えるべきじゃないか?」

 どうしても答えが出なくて、お父さんに思ってた事を話したらあっさりとそう言われ言葉に詰まってしまった。
 俺的には育てて貰って、学校に通わせて貰って、欲しい物を買って貰ってって凄く甘えてると思うんだけど。

「でも、大学の費用だってお父さんが払ってくれてるでしょ?」
「学生であるうちは親が持つのが当然だと父さんは思ってる。社会人になれば否が応でも経験する事になるからな。それまでは、父さんに面倒を見させて欲しいんだよ」
「⋯⋯⋯」
「母さんが亡くなって、まだよちよち歩きしか出来ない時からずっと寂しい思いをさせて来たのに、奏斗はスレずに優しい子に育ってくれた。自慢の息子だよ。まぁ我儘の一つも言わない事は心配していたが、天ヶ瀬くんのおかげで素直になれているようだしそれに関しては本当に彼には感謝しているんだ」
「お父さん⋯」
「お前が幸せになってくれるならそれでいい。自立すればもう天ヶ瀬くんのパートナーだからな。どうしても気になるなら、あれが祝いだとでも思ってくれればいいよ」

 夜間保育を利用しながら、決して親族の手は借りずに寝る間さえ惜しんで男手一つで育ててくれたお父さん。
 家に一人で留守番が出来るようになってからは寂しい日もあったけど、どんな時だってそれを上回るくらいの温くて大きな愛情で包んでくれた。
 俺は、そんなお父さんが大好き。
 腰掛けていた椅子から立ち上がりお父さんの傍まで行った俺は、座っているお父さんに抱き着き頷いた。

「⋯ありがとう、お父さん」
「たまには帰っておいで。ここはずっと、奏斗の家だから」
「うん」

 本当は一人になるお父さんの事が心配だった。でも、お父さんはちゃんとそれも踏まえて話してくれてるんだよね。
 お父さんだってきっと寂しいはずなのに。
 父親の愛ってとてつもなく偉大だ。


 それから日が過ぎて卒業式三日前。今日はお父さんと櫂くんのご両親が初めて顔を合わせる日だ。
 俺は用事があったから遅れて行ったんだけど、櫂くんの家にお邪魔してリビングに入った瞬間目が点になった。

「やるじゃねぇか、ヒロ。いい飲みっぷりだ」
「そういうウィルさんこそ、まだまだいけそうですね」
「他人行儀はやめろって。ほら、もっと飲め飲め」
「いただきます」
「二人とも、ほどほどにね」

 ご機嫌なウィルさんとお父さんがグラスを傾けて何かを飲んでる。テーブルの上にはボトルや瓶が置かれてて、二本ほど空になってた。

(お父さんがお酒飲んでる⋯⋯)

 家では飲んでるところを見た事ないから元から飲めないのかと思ってたけど、ただ俺に見せなかっただけであんなに強いんだ。
 というか、まだお昼なんだけど。

「悪い、ちょっと目を離したら酒盛り始まってた」
「お父さんも楽しそうだし大丈夫だよ」

 呆れた顔の櫂くんが俺の手を引いてソファに座らせてくれる。それからいつものお茶と、今日はマカロンをお皿に乗せて運んで来てくれた。
 目の前のローテーブルに置いて隣に腰を下ろす。
 大人三人は賑やかで、壁もないのにこっちとの温度差が凄い。

「真面目な話すんのかと思ってたら、本題入る前に意気投合したみたいでさ。昔からの友人かってくらい仲良くなってんの」
「あんなお父さん、初めて見る」
「まぁ奏斗の言うように楽しんでくれてんならいいけど⋯こりゃ博正さん、うちにお泊まりコースじゃね?」
「じゃあ俺も泊まる」
「俺は願ったり叶ったりだな」

 マカロンを食べようと伸ばした手が握られ指先に口付けられる。
 目を瞬いてたら櫂くんの手がマカロンを摘んで俺の口へと寄せてくれたから、空いている手を受け皿にして半分齧るとふわりと甘い香りと味が広がった。
 マカロン、久し振りに食べたかも。

「美味い?」
「うん」
「一緒に住んだらさ、どんだけ忙しくても週一回はこうやって茶を飲む時間作りてぇな」
「そうだね。あ、外で飲むのもいいかも」
「天気がいい日とかは公園行くのもありか」
「ね」

 櫂くんと話してるとしたい事がどんどん出てくる。でも、そのどれにも櫂くんがいないと意味がないから、年を取ってもこういう風に何気ない幸せを共有出来るといいな。

「天ヶ瀬くん」
「はい」
「奏斗をよろしく頼むよ。任せられるのは君しかいないから、絶対幸せにしてやってくれ」
「もちろんです。必ず奏斗くんを幸せにします」
「本当に君はいい子だな」
「⋯⋯お父さん、酔ってるね⋯」

 聞いた事がないくらい芝居がかった口調に俺はつい苦笑してしまったけど、櫂くんは至って真面目に返してるからさすがとしか言いようがない。
 直美さんはにこにこしてるし、ウィルさんは「今夜は飲むぞー」って気合いを入れてるし、何か若干カオスになりつつある。俺にはお酒の事は分からないけど、結構度数高いんじゃないかな。特にあの瓶⋯ウィスキーだよね。

「ねぇ、櫂くん」
「ん?」
「大人は大人で盛り上がってるし、俺たちは部屋に行かない?」
「⋯⋯そうだな。酔った親父がお前に何かしねぇとも限らねぇし、上行くか」

 何かってなんだろうと思いつつ頷いて立ち上がった俺は、マカロンが乗ったお皿とティーカップを手に櫂くんとリビングを出て部屋へと向かう。
 初めてこの階段を登った時は、櫂くんとこんな関係になるなんて思わなかった。
 ほんと、世の中って何があるか分からないよね。
 中に入り、テーブルの上に持ってきたものを置くなり後ろから抱き締められて唇が塞がれる。
 いつもとは違う体勢のキスと身体を這う櫂くんの手に危うくその気になって、危うくお父さんに見られちゃうところだったけど、何とかギリギリで切り抜けられたのはここだけの話。
 イチャイチャを見られるのはまだ恥ずかしい。
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