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番外編
With you forever
櫂くんと付き合って八年が経った。
お互い大学を卒業したあと櫂くんは一流企業の商社マンに、俺はアルバイトしていた飲食店に社員として雇って貰える事になり、忙しくしながらも二人の時間は大切にしつつ日々を過ごしてた。
ちょっと擦れ違う事もあったけど、大きな喧嘩もなくて今も幸せいっぱいだ。
数日残業続きだった櫂くんから久し振りに早く帰れるって連絡を貰っていた俺は玄関で待機し、帰宅したスーツ姿の櫂くんが扉を開けて入ってくるなり飛び付いた。
「おかえりなさい!」
「ただいま。あー⋯久し振りに起きてる奏斗に会えた」
「お仕事お疲れ様」
「マジで疲れた⋯癒して」
背中に腕が回され伸し掛るように抱き締められる。
半分くらい櫂くんの体重が掛かってちょっと重いけど、癒してと言われたらしない訳にはいかない。
少し考えて、両手で櫂くんの頬を挟んだ俺はそっと口付けた。
「⋯⋯これだけ?」
触れるだけで離したら微笑んだ櫂くんにそう聞かれもう一度唇を重ねる。でもたぶんこれでも足りないと思うから、チロリと舌を出して櫂くんの唇を舐めたら後頭部が押さえられてキスが深くなった。
「ん⋯っ」
「⋯⋯甘いけど、何か食ってた?」
「⋯いちごミルク⋯飲んでた⋯」
「ああ」
納得して、櫂くんがまた俺の口の中を舐めるから身体がゾワゾワする。特に上顎を触られるとダメで、舌先でゆっくりとなぞられ膝が崩れた。
座り込みそうになるのを櫂くんがさっと支えてくれる。
「⋯っと、大丈夫か?」
「は、ぅ⋯⋯ちから⋯入んない⋯」
「キス好きなくせに、いつまで経っても弱ぇのホント可愛い」
「櫂くんが⋯上手なのが悪い⋯」
「奏斗とのキスで鍛えられたのかもな」
なら俺だって同じくらい上手になってないとおかしいのに、いつも俺の方が息が上がるし立てなくなる。俺と櫂くんとで何が違うんだろう。
震える膝を立たせたもののあそこが反応してるから真っ直ぐには立てなくて、困ったように眉尻を下げたら気付いた櫂くんに抱き上げられた。
「一緒に風呂入ろ」
「え、えっちはナシだからね?」
「勃ってんのに?」
「⋯そのうち、治まるから⋯」
「へぇ⋯?」
あ、意地悪な顔してる。
櫂くんと目を合わせたら言いくるめられるって学習した俺は視線を逸らしたんだけど、そのまま浴室に連れて行かれて服を脱がされ、頭からつま先まで丁寧に洗って貰ったものの際どく触るから俺の方が我慢出来なくなって⋯結局お風呂で致してしまった。
普段は俺に甘過ぎるくらい甘い櫂くんだけど、こういう時は聞いてくれなくていつも泣かされてしまう。
⋯まぁ、俺も本気で嫌なんて思ってないんだけどね。
お風呂から上がり、ヘロヘロな俺の代わりに用意していた夕飯を仕上げてテーブルに並べてくれた櫂くんと遅めの夜ご飯を食べる。
同棲を始めてから櫂くんは少しずつ料理を覚えて、今では俺より上手になってるから休みの日とかたまに作って貰ったりしてた。櫂くんの方が勤務時間は長いから、本当にたまになんだけど。
「そうだ、奏斗。今週土日が休みなんだけどどっか行かね?」
向かい合って食べてる時、櫂くんが不意にそんな事を言ってきた。
咀嚼していたものをごくんと飲み込み首を傾げる。
「どこかって?」
「奏斗の行きたいとこでいいよ。映画でも買い物でも街ブラでも。残業ばっかで全然傍にいてやれなかったし」
「そんなの、お仕事なんだから気にしなくていいのに」
「俺は気にする。ほら、なんかねぇ?」
「うーん⋯」
櫂くんの気持ちは嬉しいけど、急に言われてもパッとは思い付かない。
一旦考えてみようとお箸を置いた俺は、さっき上げられた例えも込みでどこがいいかと思い浮かべてみた。
今は欲しい物は特にないし、食べ歩きより落ち着いて食べる方がいい。動物園とか水族館とかはいいなって思うけど、せっかくのお休みに人が多いところは櫂くんが疲れちゃうから却下。
あ、そういえば、観たいなって思ってた映画があった気がする。
「ちょっと待ってね」
「ん」
席を立ちリビングのテーブルに置いていたスマホを手にした俺は、映画の情報サイトを開き新作を調べる。
あ、あった。これだ。人と動物のほのぼのファンタジー映画。
その画面を表示させたまままた椅子に座り櫂くんに見せる。
「じゃあ、これ観に行きたい」
「これ?」
「うん」
「いいよ。じゃあ映画に決定な」
「ありがとう」
櫂くんの手が伸びて俺の頭を撫でる。
久し振りのデートが嬉しくて笑顔で言えば、櫂くんは苦笑して今度は少し乱雑にわしゃわしゃされた。
「礼を言うのはこっちだっつの」
「?」
「しばらくは残業もねぇし、やりたい事とか行きたいとことかあったら言えよ。なるべく叶えてやるから」
「うん」
最初のは小さ過ぎて聞こえなかったけど、甘やかしモードに入った櫂くんの言葉には頷いてスマホを置き食事を再開する。
やりたい事か⋯今は櫂くんとイチャイチャしたいなぁ。
片付け終わったらおねだりしてみようかな。
週末、櫂くんとのデートの日。
映画の時間が午前ラストの為、それまでは洗濯を干したり掃除をしたりして過ごし、開場一時間前には櫂くんが運転する車で映画館に向かった。
チケットは事前に買っておいたから、QRコードで発券しておき鑑賞中に摘めるポップコーンと飲み物を買う。あ、トイレも済ませておかないと。
「ちょっと、ねぇ、あの人」
「え? わぁ⋯物凄いイケメンだぁ⋯」
「ハーフかな?」
「ぽいよね」
エントランスのソファで開場を待ってると、隣のソファにいる二人組の女性が櫂くんを見てそう話し始めた。
高校の時も王子様みたいだってモテモテだったけど、大人になった櫂くんは男らしさが増してますますカッコよくなってる。だからあの人たちが頬を染めるのも分かるし、擦れ違う人が振り返るのも分かるんだけど⋯恋人としてはモヤモヤしてしまう。
仕方がないとはいえ、あんまり見ないで欲しい。
少しだけ空いていた隙間を埋めるよう櫂くんに近付き腕に抱き着く。
「どした?」
「⋯ううん」
「もうちょいで開場だから」
「うん」
空いている方の手が頬に触れあやすように撫でられる。
チラチラ見られてるけど、気にせずぎゅうっと力を込めればふっと笑われた。
「あ⋯そういう⋯」
「なるほど⋯」
俺たちの空気でさっきの人たちも察してくれたのか、そう呟いたあと気まずそうに視線を逸らしてた。
あとから考えたら見せ付けたみたいで恥ずかしいけど、櫂くんは俺のだから別にいいよね?
「あ、時間来た。入るか」
「うん」
開場のアナウンスが流れ、ポップコーンとドリンクが乗ったトレーを持った櫂くんが立ち上がり俺を振り向く。頷いて腰を上げた俺は、手が塞がった櫂くんのチケットも係の人に見せ中へと入った。
チケットには〝スクリーン5〟って書いてあって、そこの後ろ側のカップルシートが俺と櫂くんの席だ。
どうしてカップルシートなのかというと、櫂くんが俺の隣に誰かが座るのは耐えられないって言ったから。それなら端の席をと思ったけど、俺も櫂くんの隣に誰かが座るのは嫌だった。
だからカップルシートが一番良かったんだよね。
俺が奥側に、櫂くんが通路側に座って上映時間を待つ。
「カップルシートって、暗くなったら触りたい放題だよな」
「何を?」
「奏斗を」
「え? だ、ダメだよ?」
何か持って来ているのかと思ったらとんでもない事を言われて、ぎょっと目を見瞠った俺は慌てて首を振る。
そもそも触るってどこを?
「駄目? ほんとに?」
「だ⋯だめ⋯」
「ふーん。残念」
ちっとも残念そうじゃないけど。
櫂くんって、隙あらば外でもえっちな事しようとしてくるけど、俺の身体を見飽きたりとかしないのかな。八年ほぼ毎日見てるのに。
「ねぇ、櫂くん」
「ん?」
「櫂くんは、俺に飽きたりしないの?」
「はぁ?」
「あ、間違えた。〝俺の身体に〟だ」
本当に素朴な疑問だったんだけど、聞いた瞬間櫂くんは思いっきり顔を顰め、言い直したあとは大きく息を吐いて手で顔を覆う。
「どっちにしろ、俺が飽きるとか有り得ねぇな」
「そ、そうなの?」
「当たり前だ。こんなに好きだって言ってんのに、八年経ってもまだ不安か?」
「あ、そうじゃなくて⋯八年見てるからこそって⋯」
ゲームもアニメもその他いろいろ、長い期間やってるとお腹いっぱいになる時って来ると思うんだ。だから何気なく聞いたんだけど櫂くんは不服そうで、俺の頬を痛くない程度に摘むと顔を寄せて額を合わせてきた。
「八年だろうと八十年だろうと、飽きる事はねぇよ。っつか、お前の中身込みで好きなんだからな? 何年経っても一つも変わんねぇ、素直で優しくてあったかい奏斗が好きなんだよ」
「⋯そ、う⋯なんだ⋯」
櫂くんに告白されたあの日と同じくらい熱烈な言葉に俺の頬が熱くなる。
いつも気持ちをハッキリ口にしてくれる櫂くんだけど、今はちょっと恥ずかしい。
「そうだよ。ってか何、奏斗は俺に飽きんの? セックスも代わり映えしねぇって、抱かれんの嫌になんの?」
「そ、そんな訳⋯っ」
周りが聞いたらザワつきそうな事を平気で聞く櫂くんに慌てて首を振ると、「そうだろ?」って言いながらますます顔を近付けてくる。これはまずい。
あと少しで唇が触れそうで、どうしようって思ってたらふっとシアター内が暗くなり、スクリーンに新作映画の予告が流れ始める。
一瞬そっちに意識を持っていかれた俺は、唐突に唇を塞がれて肩が跳ねた。
頬を摘んでいた手は首の後ろを押さえていて、隙間から侵入してきた舌にゾクリと体を震わせる。
「ん⋯っ」
「⋯⋯好きだよ、奏斗。愛してる。この気持ちは一生変わんねぇから」
「⋯うん⋯俺も大好き。変な事聞いてごめんね」
「いいよ。でも」
「?」
大音量で予告が流れる中、櫂くんと顔を寄せ合って気持ちを伝えてるの不思議だなって思ってたら、すっと目を細めた櫂くんの親指に唇を撫でられた。
「帰ったら覚えとけ。そんな事、二度と思わねぇくらい抱いてやる」
「お、お手柔らかにお願いします⋯」
櫂くんがこう言う時は本当に容赦なく抱き潰されるから、明日は起き上がる事も出来なくなりそう。休み取っておいて良かった。
でも、きっと気持ちいい事しかされないだろうなって思うとドキドキしてきて、ちょっとだけ奥が疼いたのは櫂くんには内緒。
映画を観終わったあと、雑貨屋さんや服屋さんを覗いたりドライブしたりして夜までデートを楽しんだ俺たちは、今日はお弁当にしようとテイクアウトで購入して家に帰ってきた。
レンジで温めたお弁当を食べ、それぞれでお風呂に入り、髪を乾かして貰ったあとすぐにベッドに連れて行かれた俺は指だけで何度もイかされてもう頭の中はドロドロだ。
「か、ぃく⋯⋯」
「まだ挿れてもねぇのに⋯グズグズだな」
「ん⋯も、指やだぁ⋯」
「嫌? じゃあ何がいい?」
「⋯っ、い、じわる⋯」
「言ってくんねぇと分かんねぇだろ?」
「⋯ぅ⋯⋯かい、くんの⋯おっきいの⋯欲しい⋯」
「⋯よく出来ました」
喉を鳴らしニヤリと笑った櫂くんが、すっかり解れた場所に硬くなった先端を宛てがいぐっと入ってきた。いつもより熱く感じる。
それだけでまた達した俺はそれ以降は何も考えられなくなり、いつの間にか気を失っていて、次に意識がハッキリしたのは翌日の昼間近だった。
本当に腰も足もぷるぷるして動けなくて、食事もトイレも櫂くんにお世話されてる。
軽めにお昼を食べたあとベッドに寝たきりの俺に、端に座った櫂くんがニッと笑って髪を撫でてきた。
「俺の気持ち、思い知ったろ?」
「それはもう⋯」
「なら良かった」
本当に、これ以上ないほど思い知らされてしまった。
でも同時に、こんなに深くて重い気持ちを向けられる事が凄く嬉しい。だって、俺が同じだけの想いを返しても櫂くんは受け入れてくれるって事だから。
「櫂くん」
「ん?」
「大好きだよ。ずーっと一緒にいようね」
「当然。嫌だっつっても離してやんねぇよ」
腕が上がらないから服の裾を引くと、櫂くんが顔を近付けて微笑み頷いてくれる。
俺が嫌だなんて言うはずないのに。
じっと見てたら櫂くんの顔が近付いて軽く口付けられる。もっとってねだったらどうなるかは分かってるものの、櫂くんとのキスが好きな俺に我慢なんて無理で⋯結果としてまた盛り上がっちゃった訳だけど、櫂くんは気を遣ってくれたのかゆっくり優しくしてくれてただただ気持ち良いしかなかった。
そういうとこにも、櫂くんの愛情が感じられて嬉しい。
夕方にもなるとさすがに疲れたのか、話の途中で寝落ちてしまった櫂くんの寝顔を見て俺は小さく微笑む。
櫂くんといると、この先の不安なんて何一つ感じない。本当に、それこそおじいちゃんになっても変わらない想いで包んでくれるんだろうな。
俺も、もっとたくさん気持ちを伝えよう。
そう決めた俺は、薄く開かれた唇にキスをすると櫂くんの胸元に頬を寄せて目を閉じた。
何だかとってもいい夢が見られそうだ。
FIN.
⟡.· ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⟡.·
番外編はこのお話をもって完結となります。
最後まで読んで下さりありがとうございました🙇♀️
櫂のバカデカ愛で、奏斗はこれからも幸せいっぱいな人生を送ると思います😊
いつまでもラブラブでいて欲しいですね✨
次回作ですが、現在制作中な上に話数がまだ少ないので、今月末までに話数を増やして5月1日の朝9時には公開したいと思っております⭐
また同級生ものとなりますが、よければお読み頂けると嬉しいです🌼
それでは、また次回作でお会いしましょう🎶
お互い大学を卒業したあと櫂くんは一流企業の商社マンに、俺はアルバイトしていた飲食店に社員として雇って貰える事になり、忙しくしながらも二人の時間は大切にしつつ日々を過ごしてた。
ちょっと擦れ違う事もあったけど、大きな喧嘩もなくて今も幸せいっぱいだ。
数日残業続きだった櫂くんから久し振りに早く帰れるって連絡を貰っていた俺は玄関で待機し、帰宅したスーツ姿の櫂くんが扉を開けて入ってくるなり飛び付いた。
「おかえりなさい!」
「ただいま。あー⋯久し振りに起きてる奏斗に会えた」
「お仕事お疲れ様」
「マジで疲れた⋯癒して」
背中に腕が回され伸し掛るように抱き締められる。
半分くらい櫂くんの体重が掛かってちょっと重いけど、癒してと言われたらしない訳にはいかない。
少し考えて、両手で櫂くんの頬を挟んだ俺はそっと口付けた。
「⋯⋯これだけ?」
触れるだけで離したら微笑んだ櫂くんにそう聞かれもう一度唇を重ねる。でもたぶんこれでも足りないと思うから、チロリと舌を出して櫂くんの唇を舐めたら後頭部が押さえられてキスが深くなった。
「ん⋯っ」
「⋯⋯甘いけど、何か食ってた?」
「⋯いちごミルク⋯飲んでた⋯」
「ああ」
納得して、櫂くんがまた俺の口の中を舐めるから身体がゾワゾワする。特に上顎を触られるとダメで、舌先でゆっくりとなぞられ膝が崩れた。
座り込みそうになるのを櫂くんがさっと支えてくれる。
「⋯っと、大丈夫か?」
「は、ぅ⋯⋯ちから⋯入んない⋯」
「キス好きなくせに、いつまで経っても弱ぇのホント可愛い」
「櫂くんが⋯上手なのが悪い⋯」
「奏斗とのキスで鍛えられたのかもな」
なら俺だって同じくらい上手になってないとおかしいのに、いつも俺の方が息が上がるし立てなくなる。俺と櫂くんとで何が違うんだろう。
震える膝を立たせたもののあそこが反応してるから真っ直ぐには立てなくて、困ったように眉尻を下げたら気付いた櫂くんに抱き上げられた。
「一緒に風呂入ろ」
「え、えっちはナシだからね?」
「勃ってんのに?」
「⋯そのうち、治まるから⋯」
「へぇ⋯?」
あ、意地悪な顔してる。
櫂くんと目を合わせたら言いくるめられるって学習した俺は視線を逸らしたんだけど、そのまま浴室に連れて行かれて服を脱がされ、頭からつま先まで丁寧に洗って貰ったものの際どく触るから俺の方が我慢出来なくなって⋯結局お風呂で致してしまった。
普段は俺に甘過ぎるくらい甘い櫂くんだけど、こういう時は聞いてくれなくていつも泣かされてしまう。
⋯まぁ、俺も本気で嫌なんて思ってないんだけどね。
お風呂から上がり、ヘロヘロな俺の代わりに用意していた夕飯を仕上げてテーブルに並べてくれた櫂くんと遅めの夜ご飯を食べる。
同棲を始めてから櫂くんは少しずつ料理を覚えて、今では俺より上手になってるから休みの日とかたまに作って貰ったりしてた。櫂くんの方が勤務時間は長いから、本当にたまになんだけど。
「そうだ、奏斗。今週土日が休みなんだけどどっか行かね?」
向かい合って食べてる時、櫂くんが不意にそんな事を言ってきた。
咀嚼していたものをごくんと飲み込み首を傾げる。
「どこかって?」
「奏斗の行きたいとこでいいよ。映画でも買い物でも街ブラでも。残業ばっかで全然傍にいてやれなかったし」
「そんなの、お仕事なんだから気にしなくていいのに」
「俺は気にする。ほら、なんかねぇ?」
「うーん⋯」
櫂くんの気持ちは嬉しいけど、急に言われてもパッとは思い付かない。
一旦考えてみようとお箸を置いた俺は、さっき上げられた例えも込みでどこがいいかと思い浮かべてみた。
今は欲しい物は特にないし、食べ歩きより落ち着いて食べる方がいい。動物園とか水族館とかはいいなって思うけど、せっかくのお休みに人が多いところは櫂くんが疲れちゃうから却下。
あ、そういえば、観たいなって思ってた映画があった気がする。
「ちょっと待ってね」
「ん」
席を立ちリビングのテーブルに置いていたスマホを手にした俺は、映画の情報サイトを開き新作を調べる。
あ、あった。これだ。人と動物のほのぼのファンタジー映画。
その画面を表示させたまままた椅子に座り櫂くんに見せる。
「じゃあ、これ観に行きたい」
「これ?」
「うん」
「いいよ。じゃあ映画に決定な」
「ありがとう」
櫂くんの手が伸びて俺の頭を撫でる。
久し振りのデートが嬉しくて笑顔で言えば、櫂くんは苦笑して今度は少し乱雑にわしゃわしゃされた。
「礼を言うのはこっちだっつの」
「?」
「しばらくは残業もねぇし、やりたい事とか行きたいとことかあったら言えよ。なるべく叶えてやるから」
「うん」
最初のは小さ過ぎて聞こえなかったけど、甘やかしモードに入った櫂くんの言葉には頷いてスマホを置き食事を再開する。
やりたい事か⋯今は櫂くんとイチャイチャしたいなぁ。
片付け終わったらおねだりしてみようかな。
週末、櫂くんとのデートの日。
映画の時間が午前ラストの為、それまでは洗濯を干したり掃除をしたりして過ごし、開場一時間前には櫂くんが運転する車で映画館に向かった。
チケットは事前に買っておいたから、QRコードで発券しておき鑑賞中に摘めるポップコーンと飲み物を買う。あ、トイレも済ませておかないと。
「ちょっと、ねぇ、あの人」
「え? わぁ⋯物凄いイケメンだぁ⋯」
「ハーフかな?」
「ぽいよね」
エントランスのソファで開場を待ってると、隣のソファにいる二人組の女性が櫂くんを見てそう話し始めた。
高校の時も王子様みたいだってモテモテだったけど、大人になった櫂くんは男らしさが増してますますカッコよくなってる。だからあの人たちが頬を染めるのも分かるし、擦れ違う人が振り返るのも分かるんだけど⋯恋人としてはモヤモヤしてしまう。
仕方がないとはいえ、あんまり見ないで欲しい。
少しだけ空いていた隙間を埋めるよう櫂くんに近付き腕に抱き着く。
「どした?」
「⋯ううん」
「もうちょいで開場だから」
「うん」
空いている方の手が頬に触れあやすように撫でられる。
チラチラ見られてるけど、気にせずぎゅうっと力を込めればふっと笑われた。
「あ⋯そういう⋯」
「なるほど⋯」
俺たちの空気でさっきの人たちも察してくれたのか、そう呟いたあと気まずそうに視線を逸らしてた。
あとから考えたら見せ付けたみたいで恥ずかしいけど、櫂くんは俺のだから別にいいよね?
「あ、時間来た。入るか」
「うん」
開場のアナウンスが流れ、ポップコーンとドリンクが乗ったトレーを持った櫂くんが立ち上がり俺を振り向く。頷いて腰を上げた俺は、手が塞がった櫂くんのチケットも係の人に見せ中へと入った。
チケットには〝スクリーン5〟って書いてあって、そこの後ろ側のカップルシートが俺と櫂くんの席だ。
どうしてカップルシートなのかというと、櫂くんが俺の隣に誰かが座るのは耐えられないって言ったから。それなら端の席をと思ったけど、俺も櫂くんの隣に誰かが座るのは嫌だった。
だからカップルシートが一番良かったんだよね。
俺が奥側に、櫂くんが通路側に座って上映時間を待つ。
「カップルシートって、暗くなったら触りたい放題だよな」
「何を?」
「奏斗を」
「え? だ、ダメだよ?」
何か持って来ているのかと思ったらとんでもない事を言われて、ぎょっと目を見瞠った俺は慌てて首を振る。
そもそも触るってどこを?
「駄目? ほんとに?」
「だ⋯だめ⋯」
「ふーん。残念」
ちっとも残念そうじゃないけど。
櫂くんって、隙あらば外でもえっちな事しようとしてくるけど、俺の身体を見飽きたりとかしないのかな。八年ほぼ毎日見てるのに。
「ねぇ、櫂くん」
「ん?」
「櫂くんは、俺に飽きたりしないの?」
「はぁ?」
「あ、間違えた。〝俺の身体に〟だ」
本当に素朴な疑問だったんだけど、聞いた瞬間櫂くんは思いっきり顔を顰め、言い直したあとは大きく息を吐いて手で顔を覆う。
「どっちにしろ、俺が飽きるとか有り得ねぇな」
「そ、そうなの?」
「当たり前だ。こんなに好きだって言ってんのに、八年経ってもまだ不安か?」
「あ、そうじゃなくて⋯八年見てるからこそって⋯」
ゲームもアニメもその他いろいろ、長い期間やってるとお腹いっぱいになる時って来ると思うんだ。だから何気なく聞いたんだけど櫂くんは不服そうで、俺の頬を痛くない程度に摘むと顔を寄せて額を合わせてきた。
「八年だろうと八十年だろうと、飽きる事はねぇよ。っつか、お前の中身込みで好きなんだからな? 何年経っても一つも変わんねぇ、素直で優しくてあったかい奏斗が好きなんだよ」
「⋯そ、う⋯なんだ⋯」
櫂くんに告白されたあの日と同じくらい熱烈な言葉に俺の頬が熱くなる。
いつも気持ちをハッキリ口にしてくれる櫂くんだけど、今はちょっと恥ずかしい。
「そうだよ。ってか何、奏斗は俺に飽きんの? セックスも代わり映えしねぇって、抱かれんの嫌になんの?」
「そ、そんな訳⋯っ」
周りが聞いたらザワつきそうな事を平気で聞く櫂くんに慌てて首を振ると、「そうだろ?」って言いながらますます顔を近付けてくる。これはまずい。
あと少しで唇が触れそうで、どうしようって思ってたらふっとシアター内が暗くなり、スクリーンに新作映画の予告が流れ始める。
一瞬そっちに意識を持っていかれた俺は、唐突に唇を塞がれて肩が跳ねた。
頬を摘んでいた手は首の後ろを押さえていて、隙間から侵入してきた舌にゾクリと体を震わせる。
「ん⋯っ」
「⋯⋯好きだよ、奏斗。愛してる。この気持ちは一生変わんねぇから」
「⋯うん⋯俺も大好き。変な事聞いてごめんね」
「いいよ。でも」
「?」
大音量で予告が流れる中、櫂くんと顔を寄せ合って気持ちを伝えてるの不思議だなって思ってたら、すっと目を細めた櫂くんの親指に唇を撫でられた。
「帰ったら覚えとけ。そんな事、二度と思わねぇくらい抱いてやる」
「お、お手柔らかにお願いします⋯」
櫂くんがこう言う時は本当に容赦なく抱き潰されるから、明日は起き上がる事も出来なくなりそう。休み取っておいて良かった。
でも、きっと気持ちいい事しかされないだろうなって思うとドキドキしてきて、ちょっとだけ奥が疼いたのは櫂くんには内緒。
映画を観終わったあと、雑貨屋さんや服屋さんを覗いたりドライブしたりして夜までデートを楽しんだ俺たちは、今日はお弁当にしようとテイクアウトで購入して家に帰ってきた。
レンジで温めたお弁当を食べ、それぞれでお風呂に入り、髪を乾かして貰ったあとすぐにベッドに連れて行かれた俺は指だけで何度もイかされてもう頭の中はドロドロだ。
「か、ぃく⋯⋯」
「まだ挿れてもねぇのに⋯グズグズだな」
「ん⋯も、指やだぁ⋯」
「嫌? じゃあ何がいい?」
「⋯っ、い、じわる⋯」
「言ってくんねぇと分かんねぇだろ?」
「⋯ぅ⋯⋯かい、くんの⋯おっきいの⋯欲しい⋯」
「⋯よく出来ました」
喉を鳴らしニヤリと笑った櫂くんが、すっかり解れた場所に硬くなった先端を宛てがいぐっと入ってきた。いつもより熱く感じる。
それだけでまた達した俺はそれ以降は何も考えられなくなり、いつの間にか気を失っていて、次に意識がハッキリしたのは翌日の昼間近だった。
本当に腰も足もぷるぷるして動けなくて、食事もトイレも櫂くんにお世話されてる。
軽めにお昼を食べたあとベッドに寝たきりの俺に、端に座った櫂くんがニッと笑って髪を撫でてきた。
「俺の気持ち、思い知ったろ?」
「それはもう⋯」
「なら良かった」
本当に、これ以上ないほど思い知らされてしまった。
でも同時に、こんなに深くて重い気持ちを向けられる事が凄く嬉しい。だって、俺が同じだけの想いを返しても櫂くんは受け入れてくれるって事だから。
「櫂くん」
「ん?」
「大好きだよ。ずーっと一緒にいようね」
「当然。嫌だっつっても離してやんねぇよ」
腕が上がらないから服の裾を引くと、櫂くんが顔を近付けて微笑み頷いてくれる。
俺が嫌だなんて言うはずないのに。
じっと見てたら櫂くんの顔が近付いて軽く口付けられる。もっとってねだったらどうなるかは分かってるものの、櫂くんとのキスが好きな俺に我慢なんて無理で⋯結果としてまた盛り上がっちゃった訳だけど、櫂くんは気を遣ってくれたのかゆっくり優しくしてくれてただただ気持ち良いしかなかった。
そういうとこにも、櫂くんの愛情が感じられて嬉しい。
夕方にもなるとさすがに疲れたのか、話の途中で寝落ちてしまった櫂くんの寝顔を見て俺は小さく微笑む。
櫂くんといると、この先の不安なんて何一つ感じない。本当に、それこそおじいちゃんになっても変わらない想いで包んでくれるんだろうな。
俺も、もっとたくさん気持ちを伝えよう。
そう決めた俺は、薄く開かれた唇にキスをすると櫂くんの胸元に頬を寄せて目を閉じた。
何だかとってもいい夢が見られそうだ。
FIN.
⟡.· ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⟡.·
番外編はこのお話をもって完結となります。
最後まで読んで下さりありがとうございました🙇♀️
櫂のバカデカ愛で、奏斗はこれからも幸せいっぱいな人生を送ると思います😊
いつまでもラブラブでいて欲しいですね✨
次回作ですが、現在制作中な上に話数がまだ少ないので、今月末までに話数を増やして5月1日の朝9時には公開したいと思っております⭐
また同級生ものとなりますが、よければお読み頂けると嬉しいです🌼
それでは、また次回作でお会いしましょう🎶
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今も仲良く過ごしてるのでしょうね💕
コメントありがとうございます🙇♀️
嬉しいお言葉も感謝感激です😊
二人は大きな喧嘩もなく、ヤキモチも妬いて妬かれて、これからもラブラブして過ごすでしょう🌟
周りも羨む仲良しカップルです☺️✨
いつも楽しく読まさせて頂いております🙇
なんかほっこりして、純愛で…
どの作品も大好きです!
コメントありがとうございます🙇♀️
たくさん嬉しいお言葉を頂けて本当に幸せいっぱいです😊✨
これからも皆様に楽しんで頂けるよう精進して参りますので、新作の方もぜひ宜しくお願い致します🌟
コメントありがとうございます🙇♀️
労いのお言葉まで嬉しいです✨
周りが羨むほどのラブラブっぷりを遺憾無く発揮してますね😊
イチャイチャは私もポチポチしてて一番楽しいです!
本当は切ないシーンとかも作りたいのですが、基本が溺愛攻めなので無理でした😣
作風を広げる為にはのちのちの課題にしなくてはですね💪( 'ω')
もし奏斗が怒ったり拗ねたりしても、それさえ可愛いと思う櫂とは喧嘩にもならないんじゃないかと🤭
いつまでも仲睦まじく過ごしそうですね🎶
こちらこそ最後までお読み下さりありがとうございました!
次回作は少しお待たせしてしまいますが、公開された際にはぜひぜひ宜しくお願い致します😊